今日は、日本株を「誰が買い、誰が売っているか」という需給面から分析します。

外国人が買えば上がり、売れば下がる日本株

 過去30年以上、日本株の動きを支配しているのは外国人投資家です。外国人投資家が買えば上がり、売れば下がる傾向が鮮明です。外国人は、買う時は上値を追って買い、売る時は下値をたたいて売る傾向があるので、短期的な動きは外国人次第です。

 その外国人ですが、2021年以降、売買動向が定まらず、売り買いがめまぐるしく入れ替わっています。すごい勢いで買い始めたと思っても、すぐ売りに転じています。逆に、すごい勢いで売り始めたと思っても、すぐに買いに転じます。相場にトレンドが出ません。

 外国人が3カ月続けて買い越せば、日経平均株価は大きく上昇して高値を取っていくことになります。3カ月連続で売り越せば、大きく下落して安値をつけていくことになります。今のように売り買いが定まらない時は、日経平均も狭い範囲で行ったり来たりとなっています。

日経平均と外国人売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物・TOPIX先物の合計):2021年1月4日~2023年2月27日(外国人売買動向は2023年2月17日まで)

出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成
注:外国人売買で、棒グラフが上(プラス方向)に伸びているのは買越、下(マイナス方向)に伸びているのは売越を示す

 外国人が売ったり買ったりを繰り返している結果、2021年の日経平均はトレンドが出ず、狭いレンジの上げ下げを繰り返してきました。2022年に入ってから、3月まで外国人の売りで大きく下がりましたが、その後は、狭いレンジの上げ下げを繰り返しています。2023年になっても、その傾向は変わりません。

 一方、その前の2020年の日経平均は大荒れでした。コロナショックで暴落した後、急上昇しています。この年の暴落も急反発も、以下の通り、外国人が主導しています。

日経平均と外国人の売買動向(買い越しまたは売り越し額、株式現物と日経平均先物の合計):2020年1月6日~2020年12月31日

出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成

2023年主体別売買、外国人の買いで日経平均上昇

 それでは、ここから年別・主体別の売買動向(買い越しまたは売り越し額)を見ていきましょう。東京証券取引所、名古屋証券取引所の株式現物売買金額合計です。

 まずは2023年です。外国人の買い越しによって、日経平均が上昇しています。

日本株主体別売買動向:買い越し上位2主体・売り越し上位3主体

出所:東京証券取引所

2021~2022年主体別売買、事業法人の自社株買いが最大の買い手

 以下、2021年と2022年の、主体別の動きを詳しく見てみましょう。

2021年・2022年の日本株主体別売買動向:買い越し・売り越し上位3主体

出所:日本銀行のETF(上場投資信託)買付額は日本銀行、日本銀行以外の売買データは東京証券取引所
注:証券自己は含めず。日本銀行は直接日本株を買っているわけではない。上記は日本銀行が公表しているETF買付額。日本銀行が買い付けるETFを組成するために、証券自己部門や信託銀行などが日本株を買い越す。プラスは買い越し、▲は売り越しを示す

【1】最大の買い手は「事業法人」の自社株買い

 2021年も2022年も、最大の買い手は事業法人です。事業法人の買いは、そのほとんどが自社株買いです(TOB・株式公開買い付けの買いは含まれません)。

 株主への利益還元のため、また、配当負担を減らす財務戦略のため、近年日本企業は、積極的に自社株買いを実施しています。事業法人は、毎年、継続的に大口の買い主体となっています。

【2】個人投資家は、株が上がると売り、下がると買う傾向が鮮明

 外国人と反対の売買をする傾向が鮮明なのが、個人投資家です。個人投資家は、株が上がると売り、下がると売る傾向が鮮明な「逆バリ」投資家だからです。結果的に、外国人の動きと逆になることが多いといえます。

【3】日本銀行のETF買いは減少

 ETF(上場投資信託)は、2020年まで日本銀行が最大の買い手でした。2021年以降は、買いが減りました。

【4】金融法人は継続的な売り主体

 金融法人は、持ち合い株の売却を毎年続けているので、継続的に大口の売り手となっています。ただし、上場している大手銀行・生損保は、自社株買いもやっています。

 自社株買いは毎年、継続的な買い要因です。ただし、持ち合い解消売りの方が金額が大きいので、ネットで見ると、金融法人は大口の売り主体です。

【5】年金基金の売買は信託銀行の売買として現れる

 信託銀行の売買として出ているのは、信託勘定で売買する投資主体の動きです。近年は、そのほとんどが年金基金の売買です。

 年金基金は、個人投資家と同じく、株が上がると売り、下がると売る傾向が鮮明な「逆バリ」投資家です。したがって、外国人が買い時に売り、売る時に買う傾向が鮮明です。

 年金基金が逆バリ投資家になるのは、ポートフォリオのリバランス・ルールによります。ポートフォリオに組み入れる株の組入比率のターゲットを決めて運用しています。

 しかし、株が上昇して株の組入比率が時価ベースで大きくなり、基準を超えてくると、株を売る必要が生じます。逆に株が下落して株の組入比率が時価ベースで小さくなると、買う必要が生じます。

 日本最大の公的年金で、運用資産約200兆円を有するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の売買も、信託銀行の取引状況に現れます。ただし、年金基金は、市場外取引なども使うので、全ての売買が信託銀行の取引状況に現れるわけではありません。

 また、信託銀行の売買が、全て年金基金の売買というわけでもありません。日本銀行のETF買いは、信託銀行経由で出ることもあれば、証券自己の買いとして出ることもあります。

2017~2020年の主体別売買、日本銀行が最大の買い手

 2017~2020年に年間を通じて、日本株を買い続けている、最大の買い手は日銀(日本銀行)です。以下、2017・2018・2019・2020年の主体別売買動向を、参照ください。

主体別の日本株売買動向(買越・売越が大きい上位3主体):2017~2020年

出所:日本銀行のETF買付額は日本銀行、日本銀行以外の売買データは東京証券取引所
注:日本銀行は直接日本株を買っているわけではない。上記は日本銀行のETF買付額。日本銀行が買い付けるETFを組成するために、証券自己部門や信託銀行などが日本株を買い越す。2020年の買い越し第2位に信託銀行が入っているがほとんど日本銀行のETF買いに伴うものと推定されるのでランキングに含めていない

 2017年から2020年まで、毎年、最大の買い手は、日銀(ETF買い付け)です。次が、事業法人です。事業法人の買いは、主に自社株買いです。

 毎年、巨額の売りを出しているのが個人投資家【注】です。

【注】個人投資家の売り越し額

 実際の売り越し額は、ここまで大きくはありません。個人投資家が、新規公開株を引き受けて、上場後に売却した場合、統計上買いはカウントされず、売りだけがカウントされます。上の表に出ている売り越し額から、個人投資家が新規公開株を引き受けた金額を差し引いたものが、本当の売り越し額となります。

 投資信託は、日経平均が下がった2018年は買い越しですが、それ以外の日経平均が上昇した年は売り越しとなっています。主に個人投資家の解約売りです。

 銀行・生損保も毎年、日本株を売り続けています。これは、法人間の株式持ち合いを解消するための売りで、相場動向にかかわらず、毎年、計画的に売りを続けています。

需給面でもっとも注目される主体は、外国人で変わらず

 短期的な日経平均の動きを決めているのは、外国人です。これからも外国人の売買動向を、しっかり見ていく必要があります。

 自社株買いも大きな存在ですが、株が下がる時に買うことが多く、上値を追って買っていく主体ではないので、短期的な株式市場の動きを決める主体ではありません。

 引き続き、外国人の日本株売買動向をウオッチしていくことが大切です。外国人の動きで気づいたことがあれば、本コラムで報告します。

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