資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。
お悩み
インデックス投資がおすすめと聞いたが何がいいの?
菅原健太さん(仮名)会社員・35歳(既婚、共働き、子ども1人)
菅原さんはこれまで仕事に熱心に取り組んでいて資産運用にはまったく興味がありませんでした。しかし、会社で昇進して給与が上がるにつれて手取りよりも所得税や住民税、社会保険などの負担が大きくなることが気になっていました。
そんな時にNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を使えば利益が出ても非課税で運用できることや、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)なら利益が非課税になるだけでなく所得控除も期待できることを知って、これまで興味のなかった資産運用をやってみようという気持ちになりました。
共働きで徐々に貯蓄も増えており、子どもや住宅ローンのことを考えても余裕資金で運用はできそうです。
ネットで投資初心者むけの運用を調べてみると「積立投資」「インデックス投資」というワードが目につきました。いろいろと調べてみても、資産形成をするにはインデックス投資の積立が良さそうだと感じましたが、同時に誰もが同じような話ばかりしていて逆に違う投資の方がいいのではと疑問も感じています。
結局菅原さんはインデックス投資の積立投資から運用を始めるべきなのでしょうか?
インデックス投資が初心者におすすめされる理由とは?
初心者が投資を始めるとき、まずおすすめされることが多いのが低コストなインデックス投資を利用した積立投資ではないでしょうか? インデックス投資とは、投資資産の市場平均の運用を示す指数(=インデックス)の値動きに連動する成果をめざす投資手法のことです。
こうした積立投資は、株式投資に比べて銘柄研究をする手間暇もかからず、投資金額も少額から始めることができる上にNISAやiDeCoの普及により、これから資産形成をしようとする個人にとってだいぶ身近な投資になってきていると思います。
ここまでインデックス投信の積立投資が広まったのはなぜでしょうか? ネット証券の台頭や、YouTubeやTwitterなど個人が情報発信をしやすいメディアが広がった点も理由に挙げられると思います。ほかにも金融商品の目線で考えると以下のような理由が想定できます。
- 過去の実績(運用実績が長期間にわたって上昇していることが目にみえる)
- 商品性のわかりやすさ(市場平均というわかりやすい指標で分散投資している)
- コストが安い(多くの商品が買付時や運用中の手数料が安い)
理論的な話をすると、ノーベル経済学賞を受賞したユージン・ファーマ(Eugene Fama)氏が提唱する「効率的市場仮説(Efficient-market hypothesis)」をもとに、将来の株価の値動きは予測することは不可能なため市場平均であるインデックスに勝つのは困難である、という説からインデックス投資が支持されています。
もちろんこれには反論もあり、「効率的市場仮説」が科学的に証明されていないことや、市場に参加する投資家は人であるからこそ非効率な行動をするという「行動ファイナンス」の点から見ても、実際には違うという考え方も正しいと思います。
ただほとんどの個人が投資をするときにプロのように時間をかけて資産形成に力を入れることはできないことを考慮すると、わかりやすくて低コストで運用できて、平均を狙うインデックス投信が広まったことが必然だったのではないでしょうか?
「インデックス投資=最良の選択肢」とは限らない
インデックス投資は資産形成にはつきものといっていいほど、多くの投資家が利用しています。ただ相談にのっていると、「内容はよくわからないがおすすめされているので」という声もよく聞きます。
インデックス投資は私も投資初心者におすすめの投資手法だと思いますが、投資の理由やリスクリターンなどは知っておくことが必要です。それにインデックス投資が常に最良の選択肢とは限りません。
しかし、よく比較対象とされるアクティブ投資(目安となる指数(インデックスなど)を上回る成績を目指す投資方法)ではコストがインデックス投資に比べて高いこと、運用成績が必ずしも良いとは言えないことから批判されがちです。
たしかに、アクティブ投資の運用者は常にコストを超える自分たちの運用価値を示さなければ個人投資家を納得させることは難しいのが現状です。
そうした背景からも、初心者が資産形成をするにあたって、インデックス投資をおすすめしていますが、ただ何となくで投資をしても運用成果以外に得るものはなく、ただ運が良かった(悪かった)となってしまいます。
では何を知った上で、資産形成を手掛けるべきなのかをお伝えしていきます。
やってはいけないインデックス投資1:強みと弱みを理解せずに投資してはダメ
インデックス投資はどのようなときでも最良の結果を目指すものではなく、どのようなときでも平均的な運用を目指す投資手法です。そのため、大規模な金融緩和などで投資家が投資しやすく相場全体が上昇するようなときは、銘柄分析や選定にコストや時間のかかるアクティブ投資は報われないことが多く、平均値を狙うインデックス投資が優位性を発揮しやすいといえます。
しかし、金融引き締めなどが行われると、投資家がより銘柄選びに慎重となり、相場全体の上昇を狙うのではなく、個別企業の分析に重点をおく傾向があります。こうした場面では、銘柄選びを行った上で投資をするアクティブ投資の方がインデックス投資よりも優位性を発揮しやすくなると考えられます。
2008年に起きたリーマンショック以降から2021年まではさまざまなイベントが起こりつつも、大規模な金融緩和が続いた時期でもあり、インデックス投資が優位に立ちやすい状況がずっと続いていました。2022年から米国を中心に先進各国が金融引き締めをしだして流れも変わってきています。
ただ単純に過去の成績や運用コストの工程で運用を判断するのは正しいとはいえません。運用の前提となる相場の背景(世界の金融政策や経済情勢など)が変わっていくのなら、それにそった運用も検討することが重要です。
ただし、平均的な運用が悪いわけではありません。むしろ投資初心者が最初に手掛けるべき投資だと私は思いますが、そこで立ち止まらずにその投資の強みと弱みを理解して、投資への知見を増やす癖を身につけましょう。
やってはいけないインデックス投資2:投資先や分散方法を考えていなければダメ
インデックス投資といっても実にさまざまな投資先があります。積立投資では株式指標に連動するインデックス投信が人気ですが、債券の指標に連動するインデックス、REIT(不動産投資信託)の指標へ連動するインデックス、金や原油などの商品の指標に連動するインデックスなどさまざまです。
さらに株式投資では米国株が人気ですが、その中でもS&P500種指数に投資するものやナスダック総合指数に投資するもの、米国株全体に投資するものなどもあります。もちろん米国株だけではなく、全世界株式へ分散投資するもの(株式インデックスの地域分散投資)や投資先資産別のインデックスを組み合わせて分散投資するものもあります。
分散投資も資産の分散だけではありません。まだそれほど投資原資がないから資産形成のために積立投資を数千〜数万円で行っているという人もいれば、まとまった資金はあるがいっぺんに買いたくないと考えて、数カ月以上かけて時期を分散して投資している人もいます。
その一方で、分散して買わないといけないというわけではありませんので、相場が大きく調整している時期にまとまって投資しておくという手法もあります。つまり、インデックス投資といっても商品の選び方や投資のやり方はさまざまだということです。
とはいっても投資初心者で資産形成目的の方には、株式へのインデックス投資で積立投資をおすすめすることが多いです。それは、投資原資が少なく、投資経験や知識もまだこれからで、長期投資を前提としているなら「少額から投資可能で、低コストで高いリターンも期待でき、機械的に積立をする」インデックス投資が良い登竜門だと考えているからです。
大切なことは「その根拠」を理解しようとすることだと私は思います。
やってはいけないインデックス投資3:損失がでることも想定しておかないとダメ
資産形成というワードが浸透するにつれて、余裕資金があるなら運用しないともったいないという人も相談者に増えているように感じています。そしてそのまま何となく資産形成のために積立投資を始めている人も増えているようです。
まずは行動から始めるのは個人的にはとても好ましいのですが、投資ですから運用中に投資した金額よりも評価が下回ることもあります。売却するまでは損失は確定しておらず、評価損という扱いですが、目にみえる数字が下がっているのは気持ちのいいものではありません。
投資では利益をうまく確定するのも難しいといわれますが、何よりも大切なのは損失(もしくは評価損)が出ているときでしょう。特に株式インデックスへの積立投資では、「継続すること」「途中で余計なことをしないこと」がポイントだとよく言われます。私の経験則からもこれが一番重要だと思います。
ただし、この成果を出すためのポイントを実践するには何よりも「運用途中で損失がでる可能性」もしっかり想定して、その上で長期投資が前提だと理解しておく必要があります。あらかじめ悪いイメージを持っておくことで、精神的なストレスに対応できるように身構えておくことです。
インデックス投資は使い方次第で最良の投資になる
自分にとっての投資を考え続けることが、最長の投資へ続く道
「インデックス投資で積立投資をして資産形成を始める」というのは、今では王道といって良いほど投資初心者向け(だけではありませんが)の運用手法として広がっているでしょう。そして、これからもNISAやiDeCoを利用して、このような運用がますます増えていくでしょう。
これだけ世の中に広まっていると、その流行にのって投資を始める人もどんどん増えています。ただはやりにのるのでははなく、投資経験や知識を増やすことが大切です。それに、投資をはやいうちから経験しておき、知識や教養として身につけるということは、単に自分で資産を増やすための運用を知るということだけではありません。
投資をきちんと理屈から理解することは、お金や投資の話題で損をしない、場合によってはだまされないための理論武装にもつながると思います。何となく投資するのではなく、「なんで?」と疑問を持ち続けることが投資には最も大切なルーティンです。
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