日経平均は上値重いが底堅く推移、日銀新総裁人事案伝わる

 直近1カ月(1月23日~2月17日)の日経平均株価(225種)は終値で2.3%の上昇となりました。期間中の株価の動きとして、まずは窓を開けての上昇でスタート、その後、2万7,500円水準を手前に伸び悩む局面が続きましたが、2月に入って上げ幅を広げ、6日の取引時間中には2万7,821円の高値を付けました。

 それ以降は再度上値が重くなり、17日にかけて、2万7,500円を挟んだもみ合いとなっています。上値の重さが意識される一方で、下値の堅さも目立つ状況が続いている格好です。

 ここ1カ月の日経平均ですが、1月23日、24日と続けて大きく上昇しました。米国の経済指標の悪化に伴い米利上げ幅が縮小するとの見方が広がったことや、新型コロナウイルス禍からの中国経済再開による世界景気の持ち直し期待が高まったことが背景にあります。

 ただ、その後は、本格化する国内外の主要企業の決算発表、ならびに、1月31日、2月1日の米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の結果を見極めたいとの動きが強まり、全体相場は方向感に欠ける状況となりました。

 FOMCでは想定通りに政策金利の利上げ幅が0.25%に縮小されました。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長がFOMC後に開いた会見もタカ派色を弱める内容となりました。

 また、6日には日本銀行の新総裁人事を巡って、日本政府がこれまでの異次元緩和を支えてきた雨宮正佳副総裁に打診したと報じられ、金融緩和策が長く維持されるとの期待が高まりました。日経平均は再び上放れの兆しを見せる格好となりました。

 10日には、日本政府が次期日銀総裁に元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事を固めたと伝わりました。直後は雨宮氏が候補から外れたショックから株価は売りで反応しましたが、ただちに金融政策の大きな変更はないとの見方が支配的になり、売りが一巡した後は落ち着いた動きとなっています。

 ただ、14日に公表された米国の1月のCPI(消費者物価指数)は、前年同月と比べた上昇率が市場予想より上振れしました。インフレの高止まりから米利上げが長期化するとの観測が強まり、その後の上値は重くなっています。
 

10-12月期決算は業績や配当、優待で騰落分かれる

 期間中は10-12月期決算発表の本格化タイミングであったため、決算を受けて大きく上昇、下落する銘柄が多くなっています。円谷フィールズホールディングス(HD)(2767)大日本印刷(7912)ルネサスエレクトロニクス(6723)などは30%以上の上昇となりました。

 円谷フィールズHDは中国でのウルトラマン人気を背景にライセンス収入が伸びたほか、株主優待としてウルトラマンをモチーフとした記念品の贈呈を発表しました。大日本印刷は資本効率の改善のため過去最大規模の自己株式の取得を行う方針を公表しました。

 ルネサスは自動車向け半導体事業が好調でした。大規模な自社株買いを発表し、今後の需給改善期待が高まったシチズン時計(7762)も急伸しています。

 業種別では、日本製鉄(5401)の決算発表をきっかけに鉄鋼株が強い動きとなりました。高配当利回り銘柄として、3月の配当権利取りの動きなども支援になったようです。増配を発表した川崎汽船(9107)の上昇も目立ちました。

 半面、受注計画の大幅下方修正を発表したレーザーテック(6920)はきつい下げとなりました。日本M&Aセンターホールディングス(2127)M&Aキャピタルパートナーズ(6080)などのM&A関連銘柄は業績下落が悪材料視されました。

 大阪チタニウムテクノロジーズ(5726)東邦チタニウム(5727)などのチタン株では、ロシア製の代替需要を取り込み、業績は好調を維持しているものの、一段の上振れ期待が後退し、株価は下落しました。

 高配当利回り銘柄の一角である西松建設(1820)も減配発表で売られました。期間中後半にかけての米国長期金利上昇を受け、総じて中小型グロース株が下落率の上位に名を連ねてもいます。

日銀新体制の金融政策が目先の焦点、緩やかな長期金利上昇と円高を想定

 政府は日銀の新たな総裁人事で経済学者の植田氏を起用する案を国会に提示し、2月24日には衆議院の議院運営委員会で所信聴取が行われる予定です。参議院での手続きを含め、現時点では正式に決定される公算が大きいとみられます。3月19日に現職の副総裁の任期が切れることに合わせて、20日には新体制がスタートする可能性がありそうです。

 今回の正副総裁候補に関しては、比較的バランスの取れた人事であるとの評価が多いようです。また、植田氏は、報道陣の取材に対し現在の緩和政策が適切であると述べているほか、2000年8月のゼロ金利政策解除に反対した2人の審議委員のうちの一人でもあり、決してタカ派とは位置付けられないでしょう。

 政策金利の引き上げに関しては、すみやかに行われる可能性は低いとみます。

 しかし、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)に関しては、長期金利の一段の変動幅拡大、対象国債の年限変更、あるいは撤廃など、現段階で方向性は見いだしにくい状況です。少なからず金融引き締めにはつながるものであるため、米国の金融政策が利下げを探る局面では、こうした変更は行いにくいでしょう。

 そのため、3月下旬に発表される春闘の賃上げ結果を見てからの判断になると考えられますが、年央ごろまでにはアクション(長期金利の上昇につながるもの)が起きる可能性はあります。

 しかも、日銀が昨年12月に突如長期金利の変動幅の拡大を公表し、市場の混乱を招いた反省を生かし、市場との対話を進めながらのかじ取りになるとみられます。比較的早い段階でこうした可能性が示唆されることになるかもしれません。なお、新体制下での初めての金融政策決定会合は4月27、28日となります。

 米国では、利上げ長期化、利下げ局面の後ずれを警戒する動きが強まってきています。ただ、これは、2023年の世界景気が想定ほど悪化しないとの見方が強まってきた裏返しでもあります。

 全体相場に対する過度な懸念は不要と考えますが、ややグロース株から景気敏感株へと関心を移す場面とも判断されます。日銀におけるイールドカーブ・コントロール政策の変更は一時的にショックとなる可能性はあります。

 ただ、こちらも一方では、賃上げが進んだ結果でもあることから、個人消費関連の環境好転などは意識されます。自動車株に関しては、半導体供給不足の影響が一巡したことで生産の一段の正常化が望めるほか、米国景気の過度な悪化懸念が後退することも追い風となります。しかし、日銀の緩やかな政策変更による円高進行懸念は強まることになります。

 長期金利の上昇メリットが大きい金融関連株とデメリットが想定される不動産・住宅株の間では、明暗が分かれそうです。なお、配当権利取りのポジティブな影響が強まるのは2月であり、3月に入ると来年度の配当水準が低下する可能性の高い海運などの高配当利回り銘柄には、手じまい売りの動きが速まるでしょう。

日銀、緩やかに緩和修正、金利高、円高に備えた物色を

 先に述べたように、日銀新体制後はイールドカーブ・コントロール政策の修正に関心が向かう可能性は高いでしょう。ただ、これは植田氏が候補となったからではなく、誰が新総裁になっても同様の状況になった可能性は高いとみられます。

 当面は、政策変更による国内長期金利の上昇、為替相場での円高進行を想定した物色が有効と考えます。また、賃上げの本格化でメリットが期待できる小売株なども期待セクターといえるでしょう。

 今回は国内長期金利の上昇、為替円高、個人消費の拡大などが一般的にメリットとされるセクター(食品、紙パルプ、小売り、銀行、電気・ガス)を選定し、時価総額1,000億円以上で、各セクター内において最も配当利回りが高い銘柄をピックアップしています。

厳選・高配当5銘柄(あおぞら銀、電源開発、ケーズHD、コカ・コーラボトラーズジャパンHD、王子HD)

(表)円高メリット業種における高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り(%) 2月17日終値(円) 時価総額 (億円) 業種
8304 あおぞら銀行 5.85 2,632.0 3,113 銀行
9513 電源開発 3.76 2,127.0 3,893 電気・ガス
8282 ケーズHD 3.75 1,174.0 2,642 小売り
2579 コカ・コーラ ボトラーズ 3.57 1,399.0 2,886 食品
3861 王子HD 3.04 527.0 5,346 紙・パルプ

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.0%以上(2月17日終値)
  2. 時価総額が1,000億円以上
  3. 金利高や円高がメリットとなるセクター内で最も高利回りの銘柄(円高メリットセクター内でも明らかに円高がデメリットとなる銘柄は除外)

1 あおぞら銀行(8304・東証プライム)

 経営破綻して公的資金による救済を受けた日本債券信用銀行が前身です。中堅・中小企業との取引、不動産や事業再生案件といった専門性の高い融資を扱う「スペシャルティファイナンス業務」が特徴です。コンパクトな規模で全国・海外において事業展開を行っています。

 インターネット銀行ではGMOインターネットグループと提携しています。配当は四半期ごとに実施しており、個人投資家の保有比率が高いことも特徴になります。銀行株の中でも現状の配当利回りはトップクラスとなっています。2022年12月末の自己資本比率は9%台後半となるようです。

 2023年3月期第3四半期累計純利益は157億円で前年同期比45.0%減となっています。リスクをコントロールした運営の継続によって、マーケット関連業務の収益が大きく減少しています。仕組債販売抑制でリテール業務も減益となっています。

 通期計画は100億円で前期比71.4%減の見通しで、第3四半期決算時に従来予想の360億円から下方修正しました。外国債券の評価損を一括処理することで損失が膨らむもようです。なお、年間配当計画は前期比5円増の154円を据え置いています。

 あおぞら銀行は配当性向を原則50%としていますが、一時的に配当性向が高くなることも選択肢であるとしています。2024年3月期の減配懸念も後退する方向と考えられます。四半期配当を実施していることで、権利落ち分が分散されることから、権利落ちによる短期的な株価下落リスクが低いことも安心感につながります。

 目先は日銀のイールドカーブ・コントロールの変更に伴い、長期金利は上昇する方向にあると思われるため、銀行株への関心は高まる方向にあると判断されます。

2 電源開発(9513・東証プライム)

 全国に約100カ所の発電所を保有、運営して、国内電力会社などに販売しています。2004年に完全民営化を果たした企業となります。総発電設備の持分出力は2,662万kw(海外862万kW)とされており、石炭火力が39%を占めますが、再生可能エネルギー比率も37%あります(2022年9月時点)。

 水力発電、風力発電では国内シェア第2位を占めています。大間原子力発電所の建設工事本格再開も目指しています。なお、2021年度実績での販売電力量は858億kWhとなっています。

 2022年3月期第3四半期累計営業利益は1,615億円で前年同期の約2.5倍の水準となっています。国内外で電力販売価格が上昇したほか、石炭価格上昇によって豪州での炭鉱権益保有子会社が大幅増益となったことも寄与しました。

 上記の要因が想定以上に寄与していることで、通期予想は従来の1,620億円から1,710億円に上方修正し、前期の約2倍の水準を見込んでいます。年間配当金は前期比5円増となる80円を計画しています。

 石炭価格の反動安が想定されることで、2024年3月期は2ケタの減益に転じる可能性が高いとみられます。ただし、配当性向は30%を目安にしていることで、2024年3月期の減配の可能性は低いとみられます。

 ちなみに、2023年3月期の配当性向は、石炭価格の上昇寄与分は一過性とみていることで、14%程度の水準です。電力業界の中では現状で数少ない有配銘柄でもあり、電力・ガスセクター内でみてもトップクラスの利回り水準にあります。政府の原発推進への方向転換は大間原発の先行きに対する期待材料とも考えられます。

3 ケーズホールディングス(8282・東証プライム)

 家電量販店大手の一角です。デンコードー、ギガスなどを子会社にも抱えています。北関東を地盤に2023年1月末で546店舗を全国で展開しています。家電の取り扱いに特化していること、小さな本社などローコスト経営を行っていることから、家電量販店業界内においては、収益性の高さが特徴となります。

「がんばらない経営」を事業コンセプトとしています。自社株買いを積極的に実施しており、足元では2023年3月期まで5期連続で実施しています。

 2023年3月期第3四半期累計営業利益は221億円で前年同期比29.3%減となっています。東京五輪でのテレビの買い替え需要の一巡、夏季商戦最盛期の気温低下によるエアコン販売の伸び悩みなどが影響しました。水道光熱費などの販売管理費の増加も響いたようです。

 2023年3月期通期では340億円、前期比18.6%減の見通しとなっています。電気代の値上げなどにより、水道光熱費の増加見通しなどを引き上げているようです。なお、年間配当金は前期比1円増の44円を計画しています。

 第3四半期決算と同時に発表した自社株買いの実施発表がサプライズとなりました。発行済み株式数の5.24%に当たる1,000万株、100億円を上限とする自己株式取得を実施、取得期間は2月2日~4月30日と短期間であり、需給インパクトへの期待が高まっています。

 配当額と自社株買いの合計額が純利益に占める割合を表す総還元性向は、2023年3月期は58.6%になる予想です。今期予想も含めた最近5年は50%超の高水準で推移し、その内100%超の年もあるなど、株主還元姿勢には好感が持てます。また、今年の賃上げ幅が大きくなれば、個人消費の拡大につながるとみられることで、2024年3月期業績の下支え材料になるでしょう。

4 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス(2579・東証プライム)

 2017年4月1日、コカ・コーラウエストとコカ・コーライーストジャパンの経営統合により発足しました。日本のコカ・コーラシステムの約9割の販売量を担っている国内最大のコカ・コーラボトラーです。日本国内1都2府35県が営業地域です。

 コカ・コーラボトラーは世界に225以上ありますが、売上高はアジア最大級で、世界でも有数の規模を誇っています。販売カテゴリーは、炭酸系のほか、茶系やコーヒーが主力となっています。

 2022年12月期営業損益は115億円の赤字で、前期(209億円の赤字)から約95億円の損益改善となりました。ペットボトルやアルミ缶などの原材料価格の上昇、円安などが重しとなっていますが、販売数量が3%程度伸びたほか、価格改定などによって収益性は改善に向かっています。

 2023年12月期は53億円の赤字見通しとしており、引き続き赤字幅は縮小の方向です。材料費上昇のマイナス影響は続く見込みですが、価格改定を軸とした収益基盤の改善を見込んでいます。なお、前期実績、今期計画ともに年間配当金は50円を計画しています。

 ペットボトルやアルミなどの原材料はドル建てで輸入されており、一方で国内販売主体であるため、為替の円高反転は収益の追い風となります。2023年はコロナ禍からの経済正常化が一段と進むため、とりわけ、シーズンとなる夏場にかけて需要の盛り上がりも期待されるところです。

 5月1日からは25年ぶりとなるコーラなどの缶製品の値上げを計画していますが、需要増が見込める中で値上げ後も順調な販売が期待できるでしょう。

5 王子ホールディングス(3861・東証プライム)

 製紙業界における国内トップ企業です。段ボール、紙器、紙袋などの包装資材を製造販売する産業資材・生活消費財ビジネス、感熱記録媒体や食品・飲料ラベルなどを手掛ける機能材ビジネス、パルプや再生可能エネルギーなどを手掛ける資源環境ビジネス、新聞用紙や情報用紙などの印刷情報メディアビジネスと、四つのセグメントで事業展開しています。

 2025年3月期の経営数値目標として、営業利益1,500億円以上などを掲げています。

 2023年3月期第3四半期累計営業利益は595億円で前年同期比37.5%減益となりました。需要の回復やパルプ市況の上昇などはプラス要因となりましたが、原燃料価格高騰の影響が収益に響く形になりました。生活産業資材、印刷情報メディアの事業が大きく悪化しています。

 一方、2023年3月期通期営業利益は1,050億円で前期比12.6%減の見通しです。先の2セグメントの国内事業が足を引っ張る見通しとなっています。なお、年間配当金は前期比2円増の16円を計画しています。

 原料の木材チップや石炭などをドル建てで輸入していることから、紙パルプセクターは代表的な円高メリット銘柄と位置付けられています。また、急騰した石炭価格の反動安なども想定されるため、2024年3月期の収益回復期待は高いと考えられます。

 森林資源を活用した素材やエネルギー関連ビジネス、植林の拡大による二酸化炭素(CO2)吸収量の増加など、サスティナビリティへの取り組みにも今後は評価が高まっていくとみられます。市場でのテーマ性が強い植物由来の新素材セルロースナノファイバーの展開力なども注目されます。