年末の日銀サプライズで騰落分かれる。金融株上昇も自動車、不動産は下落

 直近1カ月(昨年12月19日~今年1月23日)の日経平均株価(225種)は1.2%の下落となりました。今年最初の取引だった1月4日の大発会にかけて下落基調となり、一時は2万5,661円と昨年10月3日の安値水準2万5,621円に迫る場面がありました。

 ただ、その後は反発に転じ、1月23日時点では年初来高値圏での推移となっています。なお、2022年の日経平均は結局、前年末比9.4%の下落で終了し、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の8.8%安を下回るパフォーマンスでした。

 ここ1カ月の日経平均ですが、昨年12月中旬以降は大きく下げる展開となりました。米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の12月会合では想定通りに利上げ幅が0.5%に縮小しました。

 しかし、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長がタカ派発言をしたことで早期の利下げ期待が後退したほか、ECB(欧州中央銀行)でも同様のタカ派スタンスが確認される状況となりました。

 米景気指標の悪化なども、2023年の世界的な景気減速懸念を意識させるものとなったようです。加えて、日本株固有の下げ要因となったのは、日本銀行が昨年12月の金融政策決定会合で長期金利の許容変動幅の拡大を決定したことでした。想定外のタイミングだったことから、市場では早い段階で一段の引き締め方向への追加修正がなされるとの見方も優勢となりました。

 また、為替市場でも急速な円高が進行、対ドル円相場は昨年12月の日銀の金融政策決定会合終了前は1ドル=137円程度でしたが、今年1月13日には127円台まで円高が進みました。円高に傾いたことで、輸出関連株が振るわず、全体相場の重しとなりました。

 一方、足元では市況悪化からリバウンドする展開となってきています。年明けに公表された米国の経済指標では、昨年12月の雇用統計で賃金の伸びが鈍化したほか、物価上昇率を示す昨年12月のCPI(消費者物価指数)の前年同月比伸び率も下がりました。米国でのインフレ懸念が一段と低下しました。

 日本では、1月17~18日に開催された日銀の金融政策決定会合で昨年12月に続く追加修正が見送られ、市場では金融緩和修正への過度な警戒感が後退する形になっているようです。

 期間中に上昇したのは銀行や保険などの金融関連株でした。T&Dホールディングス(8795)三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)などは2割を超える上昇率となっています。

 日銀が昨年12月の決定会合で長期金利の許容変動幅を拡大させたことで金利上昇が買い材料となりました。今年1月17~18日の決定会合では追加修正はありませんでしたが、市場では早いタイミングで再度の引き締めが行われるとの見方に変化はなく、反動安も限定的な状況となっています。

 日本製鉄(5401)住友金属鉱山(5713)なども10%以上の上昇となるなど、素材・資源株も堅調な動きとなっています。これは、中国が新型コロナウイルス感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策を撤廃したことで、中国景気の回復が需要を押し上げるとの期待が高まったためです。

 米国の金融引き締め緩和が意識され、ベイカレント・コンサルティング(6532)ソシオネクスト(6526)マネーフォワード(3994)など中小型グロース(成長)株の一角もしっかりとなりました。

 半面、三菱自動車(7211)SUBARU(7270)などの自動車株は、円高進行がマイナス視されて売り優勢となりました。

 三井不動産(8801)などの不動産株にも国内金利の上昇懸念が強まったもようです。伊藤園(2593)サッポロホールディングス(2501)キユーピー(2809)など食品株でも弱い動きのものが目立っています。

米国利上げとポスト黒田が焦点、内需系の成長株が優位に

 目先の株式市場の注目点としては、1月31日~2月1日に開かれる米FOMCが挙げられます。現状では、利上げ幅は0.25%にとどまり、前回昨年12月会合(0.5%)からも一段と縮小することが市場のコンセンサス(共通認識)となりつつあるようです。

 今回会合の開催が近づくにつれ、市場では利上げの縮小にとどまらず打ち止めまで期待が高まるかどうかは不透明です。しかし、次の3月会合以降にあと一度利上げをすれば打ち止めになるといった見方が形成されてくる可能性は高く、株式市場にとってはポジティブなイベントになると考えます。

 今後は欧米景気の悪化懸念に関心が移っていくとみられます。米長期金利の低下や世界景気の悪化をにらんだ物色が妙味となりそうです。内需系のグロース銘柄などがこれに当たると判断します。

 国内では引き続き日銀の金融政策に関心が集まります。次回の金融政策決定会合は3月9~10日の予定です。岸田文雄首相が2月に黒田東彦氏の後任の人事案を国会に提示する意向を示していますが、それ以前に観測報道などが伝わるものとみられます。

 市場では元副総裁の中曽宏氏や現職副総裁の雨宮正佳氏の二人が有力とみられており、両氏のどちらかであれば、現状の金融政策の継続性が意識されると考えます。

 一方、新たに元副総裁の山口広秀氏が候補に浮上したとも伝わっており、この場合、金融緩和から引き締めを図る「脱アベノミクス」の流れが強まるとの警戒感が高まりそうです。株式市場やドル/円相場へのリスクシナリオとなるでしょう。

 本格化する2022年10-12月期決算発表も注目材料となりますが、全般的には、世界景気減速が想定されている中で2023年度の業績期待は高まりにくく、ポジティブなインパクトは強まりそうにありません。

 また、経済活動の正常化への本格移行、為替の急激な変動、原材料費や電力料金の大幅な上昇とそれに対応する価格転嫁の動き、賃上げプレッシャーの高まりなど収益変動要因が多い中、企業ごとに明暗が強く分かれる決算となる可能性も高いです。

 ただ、賃上げなどは中期的な成長につながる公算もあり、人件費上昇がコスト圧迫要因になっている銘柄などは、そうした調整局面を狙って買いを入れる押し目買いの候補とも言えるでしょう。

新NISAと骨太向け、子育てや防衛など岸田政権の重点政策銘柄に期待かかる

 先に述べたように、当面は世界的なインフレピークアウト、金融引き締め策の緩和が意識されるため、バリュー(割安)株よりもグロース株が優位の状況となる可能性があります。

 ただ、岸田政権の主要政策でもある「貯蓄から投資」に沿った形で、2024年からNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)が拡充されます。NISAの非課税投資枠の増加は、主要投資対象と位置付けられる高配当利回り銘柄にとって追い風になります。これまで以上に配当権利取りのタイミングでの株価上昇力は強まるものとなりそうです。

 なお、来年からのこの新NISAスタート時には話題性も高まり、NISA枠での株式購入も例年以上に増加するとみられます。先回り的に高配当利回りの大型株などを物色することも、2023年後半には妙味となってくるでしょう。

 1月23日には、岸田首相が施政方針演説で少子化対策などの重要性を訴えました。昨年末には防衛力強化策と原子力発電所を活用するエネルギー政策をまとめています。こうした政策への期待は、政府が経済財政政策の指針となる「骨太方針」を策定する6月に向けて、高まっていくと想定されます。

 今回は施政方針演説が行われた直後でもあり、岸田政権が注力する政策テーマに沿った高配当利回り銘柄を選定しています。具体的には、原子力活用の積極化、地政学リスクが高まる中での防衛力強化、子育て支援策の拡充、「ウィズコロナ」を意識した経済活動の本格化、一段の物価上昇につながる円安を抑制させる金融政策などをテーマにしています。

厳選・高配当5銘柄(あおぞら銀、新明和工業、ノエビアHD、東京エネシス、ベネッセHD)

(表)岸田政権の注力政策に関連する高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り(%) 1月23日終値(円) 時価総額 (億円) 関連テーマ
8304 あおぞら銀行 5.85 2,634.0 3,116 金融正常化
7224 新明和工業 4.07 1,033.0 723 防衛力強化
4928 ノエビアHD 3.84 5,600.0 1,913 経済正常化
1945 東京エネシス 3.73 939.0 350 原子力政策
9783 ベネッセHD 3.03 1,979.0 2,031 子育て支援
(注)株価騰落率は昨年末比
(注)配当利回りの高い順にランキング

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.0%以上(1月23日終値)
  2. 時価総額が300億円以上
  3. 岸田政権の政策メリットが期待できる銘柄

1 あおぞら銀行(8304・東証プライム)

 1998年に経営破綻して公的資金による救済を受けた日本債券信用銀行が前身です。中堅・中小企業との取引、不動産や事業再生案件といった専門性の高い融資を扱う「スペシャルティファイナンス業務」が特徴です。

 コンパクトな規模で全国・海外において事業展開を行っています。インターネット銀行ではGMOと提携しています。配当は四半期ごとに実施しており、個人投資家の保有比率が高いことも特徴になります。銀行株の中でも現状の配当利回りはトップクラスです。

 2023年3月期第2四半期累計純利益は153億円で前年同期比20.8%減となっています。顧客関連ビジネスは堅調に推移していますが、リスクをコントロールした運営を継続しているため、マーケット関連業務が減益となりました。通期計画は360億円で前期比2.8%増の計画ですが、進捗(しんちょく)率は約43%にとどまっています。

 また、有価証券評価損の処理次第では下振れ幅が大きくなる可能性もあります。年間配当金は前期比5円増の154円を計画していますが、配当性向50%からみて下振れリスクは残ります。ただ、市場でも減配リスクは織り込まれつつあり、現在の配当計画が維持されればポジティブなインパクトとなるでしょう。

 日銀では昨年12月、市場の意表を突く形で長期金利の許容限度幅を拡大させました。市場では事実上の利上げとも受け止められています。真偽は不明ですが、一段のインフレにつながる円安阻止を意図した、政府のプレッシャーだったともいわれています。

 今後も過度な物価上昇につながる円安の進行を抑制するため、政府には金融正常化の動きを強めたい意向があると考えられます。黒田日銀総裁の退任もあって、早い段階で日銀は追加修正を強いられるものとみられ、国内金利の上昇、金利上昇がメリットとなる銀行株高の流れは続くと判断されます。

2 新明和工業(7224・東証プライム)

 ダンプなどの特装車で国内トップ企業です。そのほか、立体駐車場、ポンプなどの水処理機器、主翼スパーや翼胴フェアリングなどの航空機部品、産業機器などを手掛けています。また、防衛省向けに水陸両用飛行艇「US-2」を提供しており、防衛関連の一角として位置づけられています。

 固定翼型無人航空機の実用化に向けた研究開発にも取り組んでいます。連結配当性向は40~50%を目標としています。

 2023年3月期第2四半期累計営業利益は32億円で前年同期比27.8%減となっています。産機・環境システムが拡大し、航空機の収益も改善しましたが、鋼材価格の上昇によって特装車セグメントが大幅減益になっています。

 通期計画は従来予想の90億円から70億円、前期比33.8%減益に下方修正しています。年間配当金は前期比横ばいの42円を計画しています。2024年3月期は、原材料価格上昇の影響一巡、航空機分野の拡大期待などで、順調な回復が望めるでしょう。

 新年度の政府予算では、防衛力の抜本的な強化のため、防衛費は6兆7,880億円と今年度を1兆4,192億円上回る規模となっています。また、防衛力強化資金として3兆3,806億円も別途計上しています。

 台湾有事が当面のリスク要因として位置づけられる中で、一度積み増し方向にかじを切られた防衛費は、今後も増加の方向をたどる可能性が高いと考えられます。救難飛行艇を8号機まで納入しており、防衛省の主要取引先企業に度々顔を出している同社にはインパクトが強まっていきそうです。

3 ノエビアホールディングス(4928・東証プライム)

 化粧品の販売を主力事業としています。販売代理店や直営店での対面販売、通信販売で展開し、「なめらか本舗」「ノエビア」、「エクセル」、「ノブ」などが主要ブランドとなっています。また、化粧品OEMの受託製造も手掛けています。

 化粧品のほか、医薬・食品事業も行っており、「南天のど飴」「眠眠打破」などをドラッグストア中心に販売しています。北海道の自社農場で有機栽培した植物「メドウスイート」が、真皮の老化細胞を選択的に除去することを発見しています。

 2022年9月期営業利益は101億円で実質前期比16.3%増となりました。「なめらか本舗」、「ノブ」などのセルフ化粧品の販売が好調でした。2023年9月期営業利益は107億円で前期比5.8%増の見通しです。

 経済活動の一段の正常化に伴い、対面販売を主体とするカウンセリング化粧品の販売伸長が想定されるほか、広告・宣伝費などの抑制も寄与する見通しです。年間配当金は2022年9月期が前期比5円増の215円配、2023年9月期は同水準を計画していますが、安定した増配傾向が続いていることで、上振れの可能性も十分とみられます。

 岸田首相は新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを、この春に季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げると表明しています。マスク着用の考え方や感染対策の在り方、感染者や濃厚接触者の外出自粛についても見直すとしています。

 こうした経済活動の正常化でメリットが大きいとみられるのが化粧品業界でしょう。マスクを外す機会が大幅に増加することで、これまで抑制された化粧品需要は一気に表面化する可能性があるほか、水際対策の緩和によるインバウンド需要も、化粧品に関しては大いに期待できます。

4 東京エネシス(1945・東証プライム)

 筆頭株主である東京電力関連の受注を主体とする建設工事会社です。火力発電所や原子力発電所のメンテナンスなど電力関連分野のウエートが高いとみられます。水力発電所、バイオマス発電所、コージェネレーションシステムなどへの取り組みも活発化させています。

 2020年には大型火力発電所のO&M(運転および保守点検)事業も本格的に開始しました。福島第一原発の廃炉作業支援のため、遠隔操作機器ロボットの開発も進めています。

 2023年3月期第2四半期累計営業利益は14億円で前年同期の約8倍の水準となっています。休止火力の再稼働対応を含む火力発電所の保守工事や大型建設工事の増加、公営水力のリニューアル工事、都市再開発事業における受変電設備設置工事の進捗などを背景に、売上高が大きく拡大しました。手持ち工事高も前年同期比10%増の水準にあります。

 通期計画の32億円、前期比1.3%増は据え置いていますが、上半期の利益水準からみて大幅な上振れが想定されます。5円の記念配当を実施するとして、年間配当金は前期比5円増の35円計画に引き上げています。

 岸田政権では原発政策を大転換し、原発再稼働の推進、原発の新増設、老朽化した原発の運転期間制限の撤廃とさらなる延長、新型原子炉の開発促進などを進める方向となっています。原発分野のウエートが高い同社にはメリットが大きいとみられ、とりわけ、運転期間制限の延長などはメンテナンス需要の拡大に直結すると考えられます。

 また、東京電力では電気料金の転換を申請しており、今後の収益回復も見込まれるため、設備工事への投資拡大につながっていく可能性も高いでしょう。

5 ベネッセホールディングス(9783・東証プライム)

 幼児から高校生を対象とした通信教育サービスを提供、「進研ゼミ」が主軸です。子どもの発達段階に合わせた独自の教育サービス「こどもちゃれんじ」は国内のほか、中国・台湾で展開しています。

 また、介護・保育サービスも提供、都市部の住宅地を中心に343拠点(2022年3月末現在)の高齢者向け住宅、首都圏中心に保育園65拠点と学童施設34拠点(同)も運営しています。2022年2月に、英会話教室を運営するベルリッツの全株式を譲渡しました。

 2023年3月期第2四半期累計営業利益は106億円で前年同期比18.1%減となりました。国内教育事業が堅調であったほか、ベルリッツの売却も収益改善に寄与しましたが、幼児向け事業や介護・保育事業が新型コロナウイルスの影響で減益となりました。

 通期計画は215億円で前期比6.6%増の見通し、従来計画の250億円からは下方修正しています。ロックダウン(都市封鎖)政策による中国の「こどもちゃれんじ」減少が主因です。なお、年間配当金は前期比10円増の60円計画を据え置いています。

 岸田首相は子ども・子育て政策を「最重要政策」と位置付けており、6月の骨太方針策定までに子ども・子育て予算の倍増に向けた大枠を提示することを明らかにしています。

 出産育児一時金の増額や児童手当の拡充などが検討されており、今後の出産意欲の拡大につながるものとみられます。保育園や学童施設の運営面でメリットが期待されるほか、子どもの教育費支出の回復も想定されることで、「こどもちゃれんじ」、さらには「進研ゼミ」の需要増表面化にもつながっていきそうです。