中国は大量にプラチナを輸入しているが、その影響で他の国が供給の不足分を埋めるための地上在庫に制限が生じており、過去の例からもプラチナ価格が大幅に上昇しなければ、たとえ国内市場といえども、中国の在庫は表には出ない可能性が高い。

 関税局の大まかなデータを見ると、中国は実需を超えた過大な量のプラチナを過去数年間にわたって輸入し続けている。関税局のデータは精密性に欠けるので注意する必要があるが、2020年5月以降の輸入量を見ると、この流れに明らかな変化が生じていることがわかる。

 購入のタイミングは価格下落時(下の図参照)であることから、輸入の背景に投機的な意図があるという推測ができる。しかし同時に、2021年初めよりも輸入量の水準が一段階上がり、過大な輸入の陰に実需が背景にあることも考えられる。

 つまり中国の自動車、宝飾、工業分野(水素燃料を含む)のエンドユーザーのプラチナ需要は公表されているデータよりも実際は多い、あるいは供給不足を予期して彼らが在庫を増やしているのではないかということだ。

 2013年以来、中国のプラチナ需要は約31.1トン減っているが(図5)、これは主に宝飾品産業の需要の減少分で、自動車と工業分野のプラチナ需要はコンスタントに増えている。ということは、一体中国のどこの誰がこれだけの量のプラチナを買っているのだろうか。

中国の実需以上の輸入は地上在庫が中国に蓄積していることを意味し他国が使えるプラチナに限度が生まれる 

資料: メタルズフォーカス、ブルームバーグ、WPIC リサーチ

価格下落時の買いは、プラチナ価格が大幅に上昇しない限り中国国内市場への放出がないことを示している

資料:ブルームバーグ、WPIC リサーチ

 中国の輸入にはガラスメーカーなどの製造業者が自ら行う直接輸入と、消費税控除が必要なトレーダーや製造業者などが上海黄金交易所(SGE)を通して行う取引とがあり、この製造業者とは、低迷が続く宝飾品業者ではなく、予想よりも多い需要がある自動車メーカーである可能性が高い。

 直接輸入は投機筋あるいは余剰在庫確保が目的だが、中国の輸出規制により、この在庫が2023年の供給不足を補完するために西側諸国の市場に出回ることはない。2010年代に同様の状況がパラジウム市場で起こった時には、中国の投機筋はパラジウム価格が2倍以上になって初めて在庫を放出したという経緯がある。

 2019年以降のプラチナの過大な輸入は西側諸国の保管庫から中国へプラチナが流れたことになり(上の図)、その2020年と2021年の量は、プラチナ市場の2021年と2022年の予測余剰量に匹敵する。(図4) 

 地上在庫が中国に集中しているということは、他の国が市場の不均衡是正のために利用できるプラチナ(例えば2023年は9.4トンのプラチナが不足する予測)に限界があることになる。さらに中国国内市場への在庫放出には大幅な価格上昇が起こらなければあり得ないことからも、この状況はプラチナの価格決定に大きな影響を与えるだろう。 

投資資産としてのプラチナの魅力

- 新たな鉱山投資にもかかわらず、供給にはさまざまな障害
- 自動車のPGM需要は、ガソリンエンジンにおける代替の動きにより今後も成長
- プラチナ価格は依然として過小評価されており、金とパラジウムと比較しても大幅に低い。 
- 中国の需要を超える大量輸入で現物の不足とリースレートの上昇
- WPICのリサーチではプラチナ市場は2023年から供給不足となり、その後も不足は拡大

図1: 税関データをうのみにはできないが、中国のプラチナ輸入は数年間にわたって実需を超えている

資料:ブルームバーグ、WPIC リサーチ

図2: 価格下落時の買いは半投機的な買い戦略を意味するが、2021年初めから一段と増えたのは、実需が想定より多い可能性も(45%高い可能性もありうる)

資料:ブルームバーグ、WPIC リサーチ

図3: 税金控除のためにSGEを使う取引は、自動車と宝飾品業者、それ以外の輸入は工業のエンドユーザーと考えられる

資料: 2019年から現在はメタルズフォーカス、2013年から2018年はSFA(オックスフォード)、2013年以前はジョンソン・マッセイ、ブルームバーグ、WPIC リサーチ

図4: 2021年と2022年の中国のプラチナ輸入は74.6トンを超え、その年の余剰を吸収したが、国内外の動きはなく、公表済みの需要データには含まれない

資料: メタルズフォーカス、ブルームバーグ、WPIC リサーチ

図5: 中国のプラチナの実需: 自動車と工業需要は近年の伸びが顕著だが、宝飾品需要は減り続けている

資料:2019年から現在はメタルズフォーカス、2013年から2018年はSFA(オックスフォード) 、ブルームバーグ、WPIC リサーチ

図6: 中国の過大なプラチナ輸入は西側諸国の保管庫から中国へプラチナが動いたことになり、他国が供給不足(2023年は9.4トンの供給不足予測)を埋めるために使える地上在庫に制限が生じる

資料: メタルズフォーカス、ブルームバーグ、WPIC リサーチ

免責条項:当出版物は一般的なもので、唯一の目的は知識を提供することである。当出版物の発行者、ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルは、世界の主要なプラチナ生産会社によってプラチナ投資需要発展のために設立されたものである。その使命は、それによって行動を起こすことができるような見識と投資家向けの商品開発を通じて現物プラチナに対する投資需要を喚起すること、プラチナ投資家の判断材料となりうる信頼性の高い情報を提供すること、そして金融機関と市場参加者らと協力して投資家が必要とする商品や情報ルートを提供することである。

 当出版物は有価証券の売買を提案または勧誘するものではなく、またそのような提案または勧誘とみなされるべきものでもない。当出版物によって、出版者はそれが明示されているか示唆されているかにかかわらず、有価証券あるいは商品取引の注文を発注、手配、助言、仲介、奨励する意図はない。当出版物は税務、法務、投資に関する助言を提案する意図はなく、当出版物のいかなる部分も投資商品及び有価証券の購入及び売却、投資戦略あるいは取引を推薦するものとみなされるべきでない。発行者はブローカー・ディーラーでも、また2000年金融サービス市場法、Senior Managers and Certification Regime及び金融行動監視機構を含むアメリカ合衆国及びイギリス連邦の法律に登録された投資アドバイザーでもなく、及びそのようなものと称していることもない。

 当出版物は特定の投資家を対象とした、あるいは特定の投資家のための専有的な投資アドバイスではなく、またそのようなものとみなされるべきではない。どのような投資も専門の投資アドバイザーに助言を求めた上でなされるべきである。いかなる投資、投資戦略、あるいは関連した取引もそれが適切であるかどうかの判断は個人の投資目的、経済的環境、及びリスク許容度に基づいて個々人の責任でなされるべきである。具体的なビジネス、法務、税務上の状況に関してはビジネス、法務、税務及び会計アドバイザーに助言を求めるべきである。

 当出版物は信頼できる情報に基づいているが、出版者が情報の正確性及び完全性を保証するものではない。当出版物は業界の継続的な成長予測に関する供述を含む、将来の予測に言及している。出版者は当出版物に含まれる、過去の情報以外の全ての予測は、実際の結果に影響を与えうるリスクと不確定要素を伴うことを認識しているが、出版者は、当出版物の情報に起因して生じるいかなる損失あるいは損害に関して、一切の責任を負わないものとする。ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルのロゴ、商標、及びトレードマークは全てワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルに帰属する。当出版物に掲載されているその他の商標はそれぞれの商標登録者に帰属する。発行者は明記されていない限り商標登録者とは一切提携、連結、関連しておらず、また明記されていない限り商標登録者から支援や承認を受けていることはなく、また商標登録者によって設立されたものではない発行者によって非当事者商標に対するいかなる権利の請求も行われない。

WPICのリサーチと第2次金融商品市場指令(MiFID II)

 ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(以下WPIC)は第2次金融商品市場指令に対応するために出版物と提供するサービスに関して内部及び外部による再調査を行った。その結果として、我々のリサーチサービスの利用者とそのコンプライアンス部及び法務部に対して以下の報告を行う。

 WPICのリサーチは明確にMinor Non-Monetary Benefit Categoryに分類され、全ての資産運用マネジャーに、引き続き無料で提供することができる。またWPICリサーチは全ての投資組織で共有することができる。

1.WPICはいかなる金融商品取引をも行わない。WPICはマーケットメイク取引、セールストレード、トレーディング、有価証券に関わるディーリングを一切行わない。(勧誘することもない。)

2.WPIC出版物の内容は様々な手段を通じてあらゆる個人・団体に広く配布される。したがって第2次金融商品市場指令(欧州証券市場監督機構・金融行動監視機構・金融市場庁)において、Minor Non-Monetary Benefit Categoryに分類される。WPICのリサーチはWPIC のウェブサイトより無料で取得することができる。WPICのリサーチを掲載する環境へのアクセスにはいかなる承認取得も必要ない。

3.WPICは、我々のリサーチサービスの利用者からいかなる金銭的報酬も受けることはなく、要求することもない。WPICは機関投資家に対して、我々の無償のコンテンツを使うことに対していかなる金銭的報酬をも要求しないことを明確にしている。

 さらに詳細な情報は WPICのウェブサイトを参照。

 当和訳は英語原文を翻訳したもので、和訳はあくまでも便宜的なものとして提供されている。英語原文と和訳に矛盾がある場合、英語原文が優先する。