米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。

 米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合株価指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種指数」があります。

 これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。

 そこで2023年2月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します。

▼参照データ
・株価…楽天証券のHPを採用
・時価総額…楽天証券のHPを採用
・配当情報、決算情報…Investing.comのHPを参照
 ※上記3点は2023年1月16日(日本時間)の数値を採用
・為替:1ドル =128円で計算
※上記日付のデータで数値を抽出・算出しております。記事公開後の市況変動で数値が異なる場合がございますので、ご了承いただきますようお願いいたします。

 その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な三つの違いについて、お伝えします。

(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。

※米国に上場していても米国籍企業以外の場合、配当金にかかる源泉税率は日本との租税条約によって異なり10%ではありません。

(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。

(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。

 そして、2024年から改正された新NISAが始まる予定です。つみたて投資枠と成長投資枠とわかれていますが、米国株も投資できる成長投資枠では年間240万円を運用期間無期限かつ最大1,200万円まで投資が可能となり、制度期間も恒久化されました。

 これまで1年間の枠を気にしたり、ロールオーバーで手間暇がかかりましたが、それもなくなり、非常に使いやすい制度になります。とはいえ、米国株でNISAを必ず枠全部まで利用しなければいけないわけではありません。

 運用期間が無期限になったことにより、自分のペースで投資をすることができますので、無理のない範囲で長期投資の手段として有効活用していきましょう。

【2024年からの新NISA制度について、詳しい説明はこちら

米国高配当株1:サウスウェスト・ガス・HD(SWX)

 傘下のSouthwest Gas CorporationやMountainWest Pipelines Holding Company、Centuri Group, Incなどを通してネバダ州ラスベガスを拠点にアリゾナ州、カリフォルニア州、ユタ州、ワイオミング州、コロラド州などでエネルギーインフラサービスを提供しています。

 時価総額は44億7,000ドルで、日本円で約5,700億円となっています(1USD=128円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「天然ガス配給事業(natural gas distribution)」で、続いて「公共インフラ事業(Utility Infrastructure Services)」、「パイプライン&貯蔵事業(Pipeline and Storage)」となります。

「天然ガス配給事業」ではSouthwest Gas Corporationを通じて天然ガスの購入、配給、輸送を行っており、「公共インフラ事業」ではガス会社および電気事業者に対し、エネルギー・ネットワークの設置、交換、修理および保守を行う事業を行っています。

競合他社

 競合他社として、規制された天然ガスの配給、パイプラインおよび貯蔵事業を行うアトモス・エナジー(ATO)、主に天然ガスの生産、収集、輸送、貯蔵、流通を行う総合エネルギー会社であるナショナル・フューエル・ガス(NFG)、ニュージャージー州南部の天然ガスの配給を行うサウス・ジャージー・インダストリーズ(SJI)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は1年前と同程度での水準で推移しており、配当は2007年以降毎年増配をしています。

 インフレによる業績悪化やハリケーン復旧作業の減少などが影響し昨年90ドル台まで上昇していた株価も60ドル台まで下落しました。

 現在は、Centuri Group, Incをスピンオフし、MountainWest Pipelines Holding CompanyをWilliams Companies Incに売却する一方で、「天然ガス配給事業」での天然ガスにクリーンな水素を注入し、二酸化炭素排出量を削減する水素ブレンディングプロジェクトの推進など選択と集中を進めており、今後の業績回復と株価回復が期待されます。

業績動向

 2022年11月9日開示の四半期決算では、売上は市場予想を上回りましたが、1株利益は市場予想を下回りました。

 インフレによる燃料費の増加、Centuri Group, Inc 傘下のRiggs Distler買収にともなう支払利息の増加や、ハリケーン復旧作業の減少により1株利益が2四半期連続で市場予想を下回りました。

 しかし、インフレの鎮静化が期待されることや主要事業である「天然ガス配給事業」で今後も顧客拡大、システム改善、パイプ交換プログラムを進めていくことで効率化を図っていくことを計画しており、今後の業績拡大が期待されます。

 次回2023年2月28日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。

注意点

 インフレの影響が長引いた際に、業績の回復が遅くなる可能性には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.48ドル
配当利回り:3.75%
株価:65.99ドル(約8,400円)

 この銘柄、権利落ち日は2月14日(権利実施は3月1日)です。

 配当利回りは1月16日時点で3.75%、株価は65.99ドルでおよそ8,400円から購入できます(1USD=128円計算)。

 2020年からの最高値は94.14ドル、最安値は52.27ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株2:アーチロック(AROC)

 天然ガス圧縮によるエネルギー中流サービスを手掛ける米国のエネルギーインフラ企業です。

 米国のエネルギー企業に天然ガス圧縮サービスを提供するトップ企業であり、圧縮装置を既に所有する企業にはメンテナンスサービスを提供する事業を展開しています。

 時価総額は15億ドルで、日本円で約1,900億円となっています(1USD=128円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「契約業務事業(Contract operations)」で、続いて「アフターマーケットサービス事業(Aftermarket services)」となります。

※直近の四半期決算(企業HPより)、筆者作成

「契約業務事業」では、顧客ニーズに応じた天然ガス圧縮サービスを提供しており、「アフターマーケットサービス事業」では圧縮機を保有している顧客向けに細かい部品からサポートできる体制を整え顧客からのニーズに対応しています。

競合他社

 競合他社として、北米の非在来型石油や天然ガス資源の探査・生産を行い、上流の石油およびガス会社に水圧破砕と他の補完的なサービスを提供するプロペトロ・ホールディング(PUMP)、主に独立系および油田会社に対して、さまざまな油田サービスおよび機器を提供するRPC(RES)、多様な海洋サービス船隊を通じて、世界のオフショアエネルギー産業にオフショア海洋サポートおよび輸送サービスを提供するタイドウォーター(TDW)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年9月以降、上昇して推移しており、配当は2019年以降横ばいで推移しています。

 中心事業である「契約業務事業」の業績が拡大していることから売上が拡大し、それに伴って株価も上昇しています。

 会社側は、2022年にインフレ削減法(Inflation Reduction Act)が成立したことで、今後さらに排出量管理のニーズが高まると想定し、アーチロックの提供するメタン排出管理ソリューションが今後さらに業績を拡大させると予想しています。これに伴い今後さらに株価が上昇することが期待されます。

業績動向

 2022年11月2日開示の四半期決算では、1株利益は市場予想を上回ったものの売上は市場予想を下回りました。決算発表以降、株価は大きく上昇し現在まで20%近く上がって推移しています。

 天然ガス圧縮設備が高稼働で推移しており、2022年10月末で90%の稼働率ですが今後さらに稼働率が高まると会社側も想定しています。今後もクリーンエネルギーである天然ガスの需要は続くと見立て、好調な業績を背景に株主還元を拡大することも検討しています。

 次回は2023年2月23日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 米国が極端な景気悪化に陥った際に、天然ガスの需要が大きく落ち込む可能性があり、その際にアーチロックの業績に大きく影響を与える可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:0.58ドル
配当利回り:6.08%
株価:9.525ドル(約1,200円)

 この銘柄、権利落ち日は2月上旬の予定(権利実施は2月中旬の予定)です。

 配当利回りは1月16日時点で6.08%、株価は9.525ドルでおよそ1,200円から購入できます(1USD=128円計算)。

 2020年3月からの最高値は10.70ドル、最安値は2.10ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株3:シティグループ(C)

 世界160以上の国と地域において、個人、法人、政府機関などのお客さまに、幅広い金融商品とサービスを提供している世界的な大手金融機関です。

 グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)の一行で、200年以上の間、世界中で金融サービスを提供し続けており、日本でも1902年に横浜に最初の支店を開設して以来、現在に至るまで事業を展開しています。

 時価総額は950億ドルで、日本円で約12兆1,600億円となっています(1USD=128円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「機関投資家事業(Institutional Clients Group)」で、続いて「個人金融資産管理事業(Personal Banking and Wealth Management)」、「レガシーフランチャイズ事業(Legacy Franchises)」となります。

※直近の四半期決算(企業HPより)、筆者作成

「機関投資家事業」では、投資銀行業務・プライベートバンク・証券サービスなどのサービスを提供し、「個人金融資産管理事業」では国内リテールサービスや、海外プライベートバンキングサービスを提供しています。 

競合他社

 競合他社として、投資銀行および投資顧問会社であるエバーコア(EVR)、米国の独立系ファイナンシャルアドバイザーや金融機関のファイナンシャルアドバイザーを対象に、ブローカレッジおよび投資顧問サービスのプラットフォームを提供するブローカー・ディーラー企業であるLPLインベストメント・ホールディングス(LPLA)、テクノロジー対応のマーケットメーカーおよび実行サービスを提供する持株会社であるヴァーチュ・フィナンシャル(VIRT)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年初に下落し、4月以降は横ばいで推移しており、配当も2019年以降横ばいで推移しています。

 ロシアのウクライナ侵攻以降、シティの株価は下降し、現在低位で推移しています。ロシアでの事業リスクや、外部環境悪化による業績の低下などさまざまな要因により株価が下落しました。

 しかし、配当は横ばいを維持していることから、4%近い利回りとなった今の水準は魅力的な水準ではないでしょうか。

業績動向

 2023年1月13日開示の四半期決算では、売上は市場予想を上回りましたが、1株利益は市場予想を下回りました。

 先行きの経済悪化に備えるため6億4,000万ドルの引当金を積み増したほか、取引件数の急減により投資銀行部門の収入が減少したことが影響しました。

 会社側は「基本シナリオでは、依然として2023年後半の小幅な景気後退を見込んでいる」としながらも、消費者と企業のバランスシートは健全で、コアインフレは高止まりするとの見通しを示しており、当面は人員抑制などで外部環境の悪化に対応していく方針です。    

 次回は2023年4月14日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 マクロ環境の悪化が業績に影響を及ぼしており、今後の世界経済の悪化次第で業績回復の時期が後ずれする可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.04ドル
配当利回り:4.08%
株価:49.91ドル(約6,400円)

 この銘柄、権利落ち日は2月3日です(権利実施は2月24日の予定)。

 配当利回りは1月16日時点で4.08%、株価は49.91ドルでおよそ6,400円から購入できます(1USD=128円計算)。

 2020年からの最高値は81.91ドル、最安値は35.39ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株4:シェル(SHEL)

 エクソンモービルやBPなどと同様に、かつて世界の石油を独占していたセブンシスターズを起源とする、欧州石油メジャーです。

 2005年にロイヤル・ダッチとシェルが合併し「ロイヤル・ダッチ・シェル」が誕生し、その後社名を変更し現在の「シェル」となりました。

 時価総額は2,063億ドルで、日本円で約26兆4,000億円となっています(1USD=128円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「アップストリーム事業(Upstream)」、「統合ガス事業(Integrated Gas)」、「マーケティング事業(Marketing)」、「化成品事業(Chemicals and Products)」、「再生可能エネルギーソリューション事業(Renewables and Energy Solutions)」となります。

※直近の四半期決算(企業HPより)、筆者作成

「アップストリーム事業」では原油の探鉱・開発・生産までの原油の開発段階を行っており、「統合ガス事業」では、LNGやGTL燃料(Gas to Liquids、液化天然ガス)を取り扱っています。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値近辺で推移しており、配当は変動があるものの増配が予定されています。

 昨年、資源価格下落などの影響から夏場に株価が下落しましたが、業績は好調であったことや、自社株買い、海外での企業買収などを行うことで世界全体の株価がさえない中でもシェルの株価は回復し、現在は昨年の高値近辺の水準まで戻っています。

 今後も、業績は堅調に推移する予想であり、それに伴って安定的な株価で推移することが期待されます。 

業績動向

 2022年10月27日開示の四半期決算では、1株利益・売上ともに市場予想を上回りました。

 前四半期と比較すると主要事業の業績は悪化したものの、それでもコロナ発生前の業績を上回る水準を維持しています。現在、事業の選択と集中をすすめると同時に、脱炭素の動きも加速させており、環境に配慮しつつ業績を拡大させることが期待されます。

 次回2023年2月2日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。  

注意点

 株価は堅調に推移していますが、今後世界的な景気後退による資源需要低迷の際は業績が大きく悪化し、株価下落につながる恐れがあることには注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.0ドル
配当利回り:3.35%
株価:59.60ドル(約7,600円)

 この銘柄、権利落ち日は2月中旬の予定(権利実施は3月下旬の予定)です。

 配当利回りは1月16日時点で3.35%、株価は59.60ドルでおよそ7,600円から購入できます(1USD=128円計算)。

 2020年からの最高値は61.55ドル、最安値は21.62ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株5:オイル・ドリ・コーポレーション・オブ・アメリカ(ODC)

 吸着剤製品の開発、製造、販売におけるリーディングカンパニーです。

 吸着剤を用いた農産物・園芸用品や漂白粘土・浄化補助製品、キャットリター製品、スポーツ用品などさまざまな製品を手掛けています。

 時価総額は2.5億ドルで、日本円で約320億円となっています(1USD=128円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「小売および卸売事業(Retail and Wholesale)」で、続いて「企業間取引事業(Business to Business)」となります。 

※直近の四半期決算(企業HPより)、筆者作成

「小売および卸売事業」ではキャットリター製品や、産業用製品・スポーツ用製品などを取り扱っており、「企業間取引事業」では流体浄化製品や、粗飼料製品などを取り扱っています。

競合他社

 競合他社として、動物と食品の生産、化学薬品、クリーナーに焦点を当てた、各種の家庭用およびパーソナルケア製品と特殊製品の開発・製造・販売を行うチャーチ・アンド・ドワイト(CHD)、米国において葬儀・墓地に関するサービスおよび商品を提供するキャリエージ・サービス(CSV)、持株会社であり、化粧品やスキンケア製品の製造と販売を行うヤッセン・ホールディングス(YSG)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値近辺で推移しており、配当は19年連続で増配しています。

 インフレによるコストの増加を製品に転嫁することで、4四半期連続で利益率が改善しており、そのような好調な業績を背景に株価は昨年10月以降上昇しています。

 今後も業績は好調に推移する見通しでありそれに伴って株価も堅調に推移することが期待されます。

業績動向

 2022年12月6日開示の四半期決算では、市場予想の発表はありませんが連結売上高は過去最高を記録し、主要製品全てで前年同期比2桁の伸びを示しました。

 キャットリター製品・農産物・園芸用品が特に業績をけん引しており、製品需要の増加に対応するため製造インフラに大規模な投資を予定しています。また、製品価格引き上げの価格改定を実施する予定で、それに伴い今後も堅調な業績が期待されています。

 次回2023年3月9日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。

注意点

 製品価格引き上げによって、安価な代替製品を利用することも想定されておりその動きが加速した際に業績への影響懸念がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.12ドル
配当利回り:3.18%
株価:35.11ドル(約4,500円)

 この銘柄、権利落ち日は2月9日(権利実施は2月24日)です。

 配当利回りは1月16日時点で3.18%、株価は35.11ドルでおよそ4,500円から購入できます(1USD=128円計算)。

 2020年からの最高値は38.45ドル、最安値は22.49ドルとなっています(終値ベース)。

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