イオンの投資判断は「買い」

 イオンは13日、第3四半期(2022年9-11月期)決算を発表しました。決算内容を分析して、コロナ禍(新型コロナウイルス感染拡大)の収益回復が進むとともに、総合小売業の勝ち組として成長していくための構造改革も着実に進展していると判断できました。

 したがって、投資判断「買い」を継続します。株主優待を楽しみながら長期投資するのに良い銘柄と考えます。

 ただし、第3四半期は、コロナ禍からの利益回復が鈍化しており、新たな課題も見えた決算でした。決算内容について後段で詳しく解説します。

第3四半期決算では、コロナ禍からの利益回復が鈍化

 イオン(8267)が13日発表した、2023年2月期の第3四半期(2022年3月-11月の9カ月)決算は、営業利益が前年同期比26.3%増の1,126億円と過去最高を更新しました。

 ただし、第3四半期だけ(2022年9-11月の3カ月)で見ると、利益回復が鈍化しています。以下、四半期別の営業利益推移をご覧ください。

イオン連結営業利益:2023年2月期第1四半期~第3四半期

出所:同社決算資料より著者作成

 コロナ禍でダメージを受けたGMS(総合スーパー)、国際事業(海外小売事業)、サービス・専門店事業などの利益回復が進み、第1~3四半期の営業利益は過去最高でした。営業利益の通期予想2,100~2,200億円に対して、会社側は「ほぼ計画通り」【注1】とコメントしています。

【注1】イオンの四半期業績の季節性
 イオンは例年、年末年始セールを含む第4四半期(12~2月の売上が季節的に大きく、利益も第4四半期が特に大きくなります。2023年2月期営業利益は、第3四半期までの9カ月で1,126億円稼ぎ、残り3カ月(第4四半期)で974億~1,074億円稼ぐ計画です。売上・利益の季節性を考慮すれば、第3四半期までの営業利益は、通期予想に対して「計画通り」といえます。

 ただし、第1・第2・第3四半期と、回復は鈍化してきています。GMS事業の利益回復が鈍化しているためです。原材料費や電気代の上昇に、コストカットや構造改革の効果が十分に追いついていないためと考えられます。

 また、SM(その他スーパー)事業の収益低下も足を引っ張っています。食品スーパー中心のSM事業にはコロナ禍で内食特需【注2】がありましたが、リオープン(経済再開)で特需が消えた影響が出ています。

【注2】内食特需
 コロナ禍の2020年、人々が外出をやめたことにより、外食業の売上が激減しました。一方、内食(家庭内での食事)が増えたことにより、食品スーパーには特需が発生しました。

 イオンは、これまで構造改革によりGMS・SMの収益改善を進めてきましたが、コスト増(原材料費・電気代・人件費上昇)によって、収益改善のピッチが遅れる可能性が出たことが、第3四半期の決算を見た上で、課題として浮かび上がりました。

リオープンへの期待で上昇してきた株価は、足元の回復鈍化を嫌気して反落

 それでは、イオンの株価推移を見てみましょう。2022年は第1四半期(3-5月期)の業績急回復を好感して7月に株価が急反発しましたが、その後の利益回復の鈍化を嫌気して、年後半には株価が下がってきています。

イオン株週足チャート:2020年1月2日~2023年1月16日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 ここで、イオンの2020年以降の株価の動きを振り返ります。イオンは2020年に大きく上昇しましたが、2021年以降、大きく下がりました。

 2020年に株価が急騰したのは、2020年9-11月期の営業利益が最高益となり、コロナ禍からの本格的な回復が始まったと思われたからです。ただし、その判断は今振り返ると早計でした。  

 2021年に入り、コロナ感染が再び急拡大すると、再び行動制限が広がり、イオンの業績も低下しました。2021年のイオン株は、オミクロンの感染拡大による業績低迷を嫌気して大きく下落しました。

 過去2年、日本の消費は、コロナ禍に振り回されてきました。コロナ禍で落ち込み(2020年前半)→感染縮小で回復期待高まる(2020年後半)→感染再拡大で落ち込み(2021年)→回復期待高まる(2022年)と推移してきました。それが、イオンの株価と四半期業績に表れています。

イオンの四半期別営業利益:2021年2月期第1四半期~2023年2月期第3四半期

出所:同社決算資料より著者作成

【1】2020年9-11月期に営業最高益

 2020年は、3-5月(2021年2月期の第1四半期)に▲125億円の営業赤字に陥りました。コロナ禍による営業停止が影響しました。ところが、この年の9-11月(同第3四半期)には営業利益が急回復し、9-11月期として過去最高の342億円をあげました。営業再開で利益が急激に戻りました。

 この時、GoToEat、GoToトラベル・キャンペーンが実施され、イベントの制限も緩和され、全国的に人の移動が活発化しました。いよいよコロナ後の回復が始まったと期待が盛り上がった時です。映画「鬼滅の刃」が大ヒットし、イオンの「専門店」部門の利益を押し上げました。

【2】2021年は内外でコロナ禍が再び猛威をふるい業績回復遅れる

 2021年は3-5月(2021年2月期第1四半期)に営業利益が過去最高の391億円となり、いよいよ本格的な回復が始まると期待されました。ところが、その後の展開が、期待通りになりませんでした。日本およびアジアでコロナ禍が再び猛威をふるいました。国内外の営業規制・外出自粛の影響で営業利益の回復が遅れました。

 2021年9-11月の営業利益は前年同期比で▲67%の115億円まで落ち込みました。9月まで国内では4度目の緊急事態宣言が発令されていたこと、アジアでもコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)が行われていた影響が出ました。回復機運が盛り上がった2020年9-11月と明暗が分かれ、失望が広がりました。

【3】2022年度は営業最高益を回復する可能性も

 2022年に入り、コロナ変異株の感染が拡大し、まん防(まん延防止等重点措置)が導入され、回復は一時鈍化しました。ただし、まん防は2022年3月22日に全面解除され、その後消費回復の期待が高まりました。

 実際に2022年3-5月期のイオン営業利益は最高益でした。前段で説明した通り、その後利益回復はやや鈍化しましたが、それでも2023年2月期にコロナ前の営業最高益を抜く可能性は残っています。

 会社が公表している今期(2023年2月期)業績予想では、営業利益が2,100~2,200億円と、2020年2月期に計上した営業最高益(2,155億円)の更新を視野に入れています。

 第4四半期(2022年12月-2023年2月)の売上収益がどれくらい伸びるかが鍵を握ります。2023年の年始は、3年ぶりに行動制限のない年始となり、人の移動が活発化しました。

 会社側の説明によると、そのおかげで年末年始のセールは好調に推移しました。原材料や電気代の上昇といったマイナスをカバーして、第4四半期も好調を維持できれば、通期最高益の可能性はあります。

 ただ、第8波感染が拡大しており、予断を許しません。重症化リスクが低いことからウィズコロナの経済再開が進むと私は予想していますが、感染拡大が再び内需回復に足かせとなる可能性もないとはいえません。

 大切なことは、短期的な回復時期の予測ではありません。いつになるかわかりませんが、遅かれ早かれ人類はいつかコロナを克服すると考えています。いつかわかりませんが、コロナから回復し、リベンジ消費が盛り上がる時には、業績・株価とも上昇すると予想しています。

総合小売業の勝ち組としてコロナ後の成長が見えてきたと判断する理由

 7~8年前まで、イオンは「優待は人気でも業績はイマイチ」というイメージを持たれていました。大手スーパーや百貨店などの総合小売業は、長らく、ユニクロ、ニトリ、無印良品などの専門店や、セブン-イレブン、ローソンなどのコンビニに売り上げを奪われて、衰退していくと考えられていました。

 百貨店の衰退は今でも続いていますが、大手スーパーは変わりました。特に、イオンは、はっきりビジネスモデルを変えて、小売業の勝ち組に返り咲いたと考えています。過去5期の業績推移と、今期の業績(会社予想)をご覧ください。コロナ前は以下の通り、営業最高益が続いていました。

イオンの連結売上高・営業利益・純利益の推移:2018年2月期~2023年2月期(会社予想)

出所:同社決算資料より作成

 イオンは、構造改革の成果で、2018年2月期に連結営業利益で最高益をあげると、2020年2月まで3期連続で営業最高益を更新しました。その間、人手不足・人件費上昇・天候不順・消費増税(2019年10月)と悪材料が続きましたが、イオンは金融・不動産・ドラッグストア・海外の利益を伸ばすことで、営業最高益を続けました。

 ただし、グループ各社の再編にコスト(特別損失)が出るので、連結純利益は低水準で、まだ最高益に届いていません。

 前々期(2021年2月期)は、コロナ禍で一時営業停止があった影響で、最終損益は710億円の赤字に転落しました。前期(2022年2月期)は回復が鈍いことを嫌気して株価が下がりました。それでも、今後、経済再開が進めば、再び営業最高益を更新していくビジネスモデルができあがっていると私は考えています。

イオンは魅力的な空間を作って「小売+金融+不動産」で稼ぐビジネスモデルを確立

 ここからイオンが勝ち組小売業に返り咲くのに寄与した構造改革について解説します。まだ構造改革が完了したわけではありませんが、既に大きな効果が出ています。それが近年、営業利益で最高益を更新する原動力となりました。

 不採算店舗の整理など構造改革を終えるのにまだ時間がかかるので、連結純利益が最高益に達するのは3~4年先と考えられますが、営業利益では来期以降、最高益の更新が続くと予想しています。

 総合小売業である百貨店や大手スーパーが衰退し、ユニクロ・ニトリなどの専門店(カテゴリー・キラー:特定分野の勝者)が成長する時代がずっと続くイメージがありましたが、イオンだけは、総合小売業として生き残るビジネスモデルを確立して、復活しました。

 イオンの復活の背景に何があるのでしょうか? それは、イオンのセグメント情報を見るとよくわかります。今期第3四半期までの営業利益1,743億円をセグメント別に分けたのが以下の表です。

イオン2023年2月期第1~第3四半期の事業セグメント別営業利益

出所:同社決算資料より作成

 イオンの連結営業利益に大きく貢献しているのは、GMSやSMなどの小売業ではありません。GMSやSMの収益性改善の構造改革は道半ばで、まだ利益水準は低いままです。

 ヘルス&ウエルネス(ドラッグストア「ウエルシア」など)、総合金融(クレジットカードや銀行業など)、デベロッパー(イオンが運営するショッピングセンターに入居している専門店から入るテナント収入など)の3部門で、全体の営業利益の95%を稼ぎ出しています。総合小売業なのに、小売業以外の部門で高い利益をあげています。

 昔のイオンは、有力な専門店と競合する存在でした。ところが、今のイオンは、有力専門店と競合するのではなく、その競争力を取り込む戦略に転じています。最先端のGMSでは、人気の専門店を積極的に取り込み、親子連れで楽しめるようにエンターテインメントの要素も取り入れ、ショッピングセンター全体の魅力を高める戦略を取っています。

 自前の売り場は、競争力のある生鮮食品や、競争力のあるプライベートブランド(トップバリュ)に限定し、イオンは、専門店と競合せず共存して成長を目指す戦略となっています。

 外部テナントを取り込むと、そこからは賃貸収入が入ります。今やショッピングセンターは小売業(自前の売り場)と、デベロッパー業(テナント管理)・金融業(クレジットカードなど)のミックスとなっています。魅力的なGMSを全国に展開することで、デベロッパー業と金融業で高い利益をあげ、成長が見込まれるようになってきています。

 自前の売り場にこだわらず、魅力的な空間を作ることで稼ぐ戦略は、サービス業の発想です。イオンは小売業そのものに固執せず、幅広いサービス業の発想で、総合スーパー事業を衰退ビジネスから再び成長するビジネスに変えたと思います。

 今、イオンの成長を担っているのは、金融・デベロッパー業に加え、ヘルス&ウエルネス事業(ドラッグストア)もあります。上場子会社のウエルシアホールディングスの成長が取り込まれています。ここは総合スーパーとは異なるビジネスです。

 ドラッグストアという成長分野をとらえて、専門店として成長しています。調剤部門を強化していることが、ウエルシアの成長につながっています。

国内だけでは成長は頭打ちに、海外事業の利益拡大に期待

 国内で高い競争力を有する小売業に返り咲いたイオンですが、国内だけのビジネスでは、いずれ頭打ちになります。人口が成長するアジアで、利益を拡大していかなければ、中長期の成長は見込めません。

 イオンは、ASEAN(東南アジア)、中国に進出し、アジアで収益を拡大しています。初期コストの回収も終え、海外事業が黒字化しつつあります。コロナの影響で前期まで収益が悪化していましたが、今期はベトナム・マレーシアなどASEAN急回復によって、海外利益が改善しています。

 中国だけは、まだ不振が続いていますが、中国がゼロコロナ政策を解除した効果で、足元、中国も収益が回復してきているもようです。

 コロナが完全に収束すれば、海外事業が、イオンの利益成長をけん引していくことになると考えています。それが、以下の所在地別営業利益でわかります。

イオン2023年2月期第1~第3四半期の所在地別営業利益

出所:同社決算資料より作成

 アセアン・中国その他を加えた海外事業の営業利益468億円で全体の約42%を占めます。将来的にはこの比率がさらに高まっていくと予想しています。

 海外でも、小売業ではあまり稼げていません。それが、事業別のセグメント情報でわかります。事業別セグメントの「国際」部門の営業利益は89億円(構成比8%)しかありません。これが海外小売業の利益です。それに、海外の金融・デベロッパー事業の利益を加えたものが、上記の所在地別セグメント情報に示された、海外事業全体の営業利益です。

 私は、イオンは総合小売業の勝ち組で、コロナが収束した後、国内外で最高益を更新していく企業と見ています。短期的な利益回復期待だけでなく、長期的な最高益更新を見据えて、長期投資していくのに、良い買い場を迎えていると判断しています。

コンビニとの戦いは続く

 総合スーパーにはまだ天敵がいます。セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートなどのコンビニエンスストアです。コンビニの販売のおおむね8割以上は食料品と飲料です。ここは大手スーパーが自前で収益を稼げる部門として、最後まで残してきたところです。

 過去10年で、コンビニは大手スーパーの顧客にどんどん食い込んできました。10年以上前、コンビニの顧客の中心は若年層で、品ぞろえも若年層が外で食べる手軽な食べ物が中心でした。この時は、大手スーパーと直接競合することはありませんでした。

 ところが、コンビニはその後、顧客ターゲットを変えていきました。家庭食をターゲットとして、40~50代の女性顧客を増やすことに成功してきました。家庭食がターゲットとなったことで、コンビニは大手スーパーと直接競合するようになりました。コンビニは次々と魅力的な総菜や食材を開発し、大手スーパーの客を奪っていきました。

 これに対し、イオンはコンビニと対抗するビジネスモデルを徐々に作りつつあります。小型スーパーやドラッグ・ファーマシーです。セブン-イレブンを凌駕(りょうが)するビジネスになったとはいえませんが、コンビニより面積が広く品ぞろえが異なるドラッグストアや、小型の食品スーパーの一部は、コンビニと戦える存在になりつつあります。

イオンは2月・8月の優待人気トップ

 イオンは「株主優待」人気銘柄として有名です。楽天証券「株主優待検索」で長年、2月・8月の優待銘柄で人気トップ【注】の座を維持しています。優待内容は、以下からご覧いただけます。

「イオンの株主優待内容:買物返金カードなど」

【注】2月・8月優待で人気トップ
2月・8月に株主優待を得る権利が確定する銘柄は166あります。楽天証券のお客様で保有している株主の数が多いほど「人気が高い」と判断し、保有株主数の上位銘柄をランキングしています。2月・8月優待とも、人気トップはイオン、第2位はビックカメラ(3048)、第3位は吉野家HD(9861)、第4位はイオンモール(8905)です(1月16日時点)。

 最近、「株主平等の原則」を意識して、優待を廃止する企業が増えていますが、イオンの優待は廃止されるリスクが低いと私は考えています。その理由は、このレポートの過去記事「株主優待」のトリセツ。長期投資にふさわしいと考える優待銘柄4選」に記載しています。ご参照ください。

イオングループ各社の投資魅力は、いずれも高いと判断

 イオンは、中核事業を担う子会社を多数上場させています。典型的な、親子上場企業です。イオンの成長を担う上場子会社は、いずれも、投資価値が高いと判断しています。

【1】イオンフィナンシャルサービス(8570)

 イオングループの金融事業を担います。今期(2023年2月期)の経常利益(会社予想)は550億円と、最高益だった3期前(2019年3月期・この時は3月期決算企業)の経常利益701億円から大きく減少したままです。

 今期は、国内のキャッシュング減少によって前期比で減益となる見込みですが、アジア事業での収益拡大が続いていることから、いずれまた最高益を更新していく力があると予想しています。

 予想配当利回りは1月16日時点で3.9%(1株当たり配当金・今期会社予想50円を1月16日株価1,271円で割って算出)と魅力的な水準です。

【2】イオンモール(8905)

 イオングループのデベロッパー(不動産)事業を担います。今期(2023年2月期)の経常利益(会社予想)は455億円と、コロナ前の2020年2月期にあげた最高益561億円に届きません。ただし、コロナが完全に収束すれば、再び最高益を更新していくと予想しています。

【3】ウエルシアHD(3141)

 イオングループのドラッグ・ファーマシー事業を担います。今期(2023年2月期)の経常利益(会社予想)は前期比8.4%増の516億円と25期連続の最高益を見込みます。

 調剤部門の売上成長が続いています。2018年2月期1,148億円→2019年2月期1,298億円→2020年2月期1,554億円→2021年2月期1,741億円→2022年2月期1,992億円と成長をけん引しています。

 調剤薬局はかつて門前薬局(大病院のすぐ近くにある調剤薬局)優位が続きましたが、その傾向が変わってきています。ウエルシアは、門前でなくても調剤部門の収益が伸びるようになりました。患者が病院の近くではなく、自宅の近くの調剤薬局を利用するようになったためです。

 今期は、抗原検査キット・風邪薬・解熱剤の販売も好調です。また、リオープンが進み、外出する人が増えたことによって、化粧品の販売も好調です。

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2023年1月12日:「株主優待」のトリセツ。長期投資にふさわしいと考える優待銘柄4選