今回のテーマは、信用取引とテクニカル分析についてです。

 信用取引はこれまで解説してきたように、レバレッジが効いている(株価の値動き以上に損益が変動しやすい)ことや、金利などのコスト面も考慮すると、比較的短期間の売買に向いています。そのため、「いつ取引するか?」に注目するテクニカル分析との相性は良いと言えます。

 それでは、テクニカル分析とうまく付き合い、信用取引にも生かしていくには、どのようなポイントがあるのでしょうか?

テクニカル分析のポイント【1】 「分析手法をいくつ知っていれば良いか?」

 テクニカル分析には無数の手法や指標が存在し、現在も新たな分析が次々と生み出されています。また、ネット証券などの投資情報ツールのチャート画面を開いても、さまざまなテクニカル指標を表示させることができます。

 ただし、これらを可能な限り知ろうとする必要はありません。確かに、ツールの画面にいろいろと指標を表示させて分析できるとカッコいいのですが、知っている指標の数に比例して勝率が上がるわけではないですし、実際の取引でも、「うろ覚えの何十個」の手法や指標よりも「使い慣れたいくつか」に絞った方が強力な武器となります。

 古くからある有名な手法や分析については、テクニカル分析を扱った書籍や、WEBサイトなどでも紹介され、それぞれの見方や売買サインなどについて解説されていますので、このハードルは簡単にクリアが可能です。

テクニカル分析のポイント【2】 「注目度の高い手法や指標を優先」

 続いてのポイントは、押さえるべきテクニカル分析の優先度です。「多くの投資家が注目している」ものほど高くなるのですが、それには理由があります。

 例えば、注目度の高いテクニカル指標として、移動平均線が挙げられます。移動平均線は、一定期間の価格(株価ならば終値)を平均化したものを日々更新していくものですが、「一定期間の値動きの中心線」、「トレンドの向きや強さ」、「株価との乖離(かいり)」、「異なる期間の移動平均線や株価とのクロス(交差)」といった意味を捉えて分析します。

 移動平均線は、チャートの画面を開くと、ローソク足とともに、当たり前のように表示されるぐらいの存在です。

 仮に、足元で株価が移動平均線を下から上へと抜けるクロスが発生し、チャートを過去にさかのぼって調べてみると、「ここ数年の傾向として、同じケースでその後の株価が上昇し続けた割合が75%」だったことが判明したとします。

 確率的には株価上昇の可能性が高く、多くの投資家は「今回も株価が上昇しそうだ」と判断することが考えられ、結果的に75%以上の確率で株価が上がっていくという状況になります。こうした動きは「予測の自己実現性」と呼ばれ、多くの人がチェックしている指標ほどその傾向は強くなります。

 また、「ダウ工業株30種平均3万ドル」とか、「株価100ドル」といった、「キリの良い」株価水準が値動きの目安になりやすいのも、多くの投資家に注目されやすいからという面があります。

 そのため、先ほどのポイント【1】とも重なりますが、「マニアックな指標も含めて幅広く」押さえるよりも、まずは「メジャーな指標を深く」理解する方に注力するのが良いと言えます。

テクニカル分析のポイント【3】 「必ずトレンドをチェックする」

 そして、いちばん大切なのがこの最後のポイントです。

 下にある図の相場のトレンドサイクルは、前回のコラムでも紹介しましたが、取引で大きな利益がねらえるのは、上昇局面(第2ステージ)もしくは下落局面(第4ステージ)の「トレンドが発生している時」です。

<図>トレンドのサイクル

 つまり、トレンドの状況をうまく捉えて投資成績を上げることがテクニカル分析の本質的な目的であると言えます。

 そのため、テクニカル分析を行うにあたり、売買サインの確認とともに、トレンドの発生や転換、継続を常に念頭に置いて考えることが重要になります。

 そこで、その具体的な例として「移動平均線乖離率」について紹介します。

 移動平均線乖離率とは、株価と移動平均線の位置関係(%表示)の推移を示したもので、株価が値動きの中心線である移動平均線から大きく離れている(乖離している)状況は、「相場が行き過ぎている」と考えられ、まもなく修正されるのではないか?という相場展開を推察することができます。

<図>アドバンスト・マイクロ・デバイス(日足)と移動平均線乖離率(50日)(2022年11月1日取引終了時点)

出所:MARKETSPEEDⅡを元に筆者作成

 上の図は、米半導体大手のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の日足チャートと、下段に移動平均線乖離率(50日)を示したものです。ちなみに、米国株では50日移動平均がよく使われます。

 上の図において、株価が下落している場面を見てみると、移動平均線乖離率のマイナス20%あたりが、乖離の「行き過ぎ」の目安として意識され、その後の乖離の修正とともに株価が反発する動きが何度か繰り返されていることが分かります。

 このように、移動平均線乖離率の売買サインは、乖離の「行き過ぎと修正」が目安となり、実際の信用取引でも売買を手掛けるポイントとして使えそうです。

 その一方で、乖離の修正については0%を超える場面が少ないことも分かります。これは、トレンドを意識してチャート全体を眺めて、長い期間にわたって下落トレンドが継続中であることを確認できていれば、「あくまでも、株価の戻り(修正)はトレンド発生中での小反発にとどまる可能性が高そう」ということで、0%あたりで短期に手じまいをする売買判断が容易になります。

 さらに、これまでの乖離修正の場面がいずれもトレンドの転換につながる兆しになっていないため、「トレンドの終了や転換を移動平均線乖離率だけで確認するのは難しい」として、別のテクニカル指標で確認する必要があるほか、移動平均線との乖離と修正の動き自体も短いトレンドとして見ることもできますので、時間軸を変えて複数のトレンドで相場を捉える視点も必要になってきます。

 そこで、次回は信用取引で使えそうな、トレンドを捉えるテクニカル分析について見ていきたいと思います。