12月の中小型株ハイライト
<マザーズ指数(左軸)とマザーズ売買代金(右軸)>
今年も12月は厳しかった…地合い悪化と節税売りの協奏曲
高インフレによる利上げ加速に翻弄(ほんろう)された2022年のグロース株市場。
注目された13日発表の年内ラスト米CPI(消費者物価指数)は、前年同月比+7.1%と市場予想の+7.3%を下回り、5カ月連続で伸び率は鈍化。インフレピークアウトの意識につながり「米金利低下/ドル売り/株上昇」と初動は教科書通りでした。
また、翌日結果公表のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、コンセンサス通りに利上げ幅が0.5%へ縮小されましたが、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見は「インフレ低下を確信するには、まだ多くの証拠が必要」とタカ派寄り。
ひとまず、この二つの最重要イベント自体は波乱無く通過しました。
これで、12月は相場も安定するか?と思われたものの、金利にメドが立ったからか、米国株市場は再び「景気減速懸念」に神経質になります。経済指標の悪化をネガティブに捉えながら、年末に向けた節税目的の損出し売りも加速。
この流れは日本でも引き継ぎ、個人投資家主体の中小型グロース市場も損出し売りに押される展開へ。
また、ノーマークだった20日の日本銀行金融政策決定会合で、長期金利の変動幅上限を0.25%→0.50%に引き上げると発表。
このサプライズ決定を受けて、日本株市場では「日経平均先物売り/YCC(イールドカーブ・コントロール)修正ポジティブ株(銀行や円高メリット業種など)買い」のロングショートが急速に構築されました。
YCC修正がポジティブとなる銀行株など皆無のグロース市場は、金利上昇を単なる売り材料とし、なおさら損出し売りを促す展開に。
年内の受渡最終売買日(28日)を通過した翌日から地合いが改善したことも、この12月の損出し売り要因の大きさを表していたように思います。
東証マザーズ指数の12月の月間騰落率は▲8.0%で、5年連続で12月はマイナスに。年間の騰落率は▲26.1%と、2年連続のマイナスでした。
ロックアップ解除でここまで下がる?エニカラ急落の衝撃
12月の中小型グロース株が軟調だった理由については、米グロース株の下落や12月特有の損出し売りもありますが、想定外だったセンチメント悪化要因もありました。
それが、東証グロース市場の人気銘柄で、Vチューバー事務所を運営するANYCOLOR(5032)の急落でした。
5日は、同社がIPO(株式の新規公開)して180日が経過した日でした。同社株については、上場前から保有する大株主の全てに「180日間は売却しません」と約束する「ロックアップ条項」がかかっていました。
その条項が180日経過して解除されるわけで、「株価が大きく上昇しているし、ベンチャーキャピタルは売るんじゃないか?」という懸念は生まれます。
今回の場合、その懸念を、確信に変える動きの存在が急落の引き金となりました。
それが、ロックアップ解除と同時に、一部証券会社を通じて行われた100万株の立会外トレード(立会外分売と同じ意味)でした。100万株といえば、発行済み株数の3%以上と明らかに大株主の誰かの持ち玉。
これを、前日終値の5%ディスカウントで個人に分売したいという意向ですので、「すぐに売りたい大株主が確実にいる」と解釈できます。
ロックアップ解除前日1万520円だった株価が、5日の17%安、翌6日の11%安で2営業日後に7,700円まで急落する異常事態に。
信用買い残が多かったこともあって、同社株を通じて大きな損失を被った投資家が他の銘柄も売却する明らかな負の連鎖が発生しました。
毎年毎年…なんでこんな集中するの?12月IPO
エニカラショック、地合い悪化、そして損出し売り…ここに、毎年恒例のIPOラッシュが13日から開幕。13~29日の約2週間で、24社(そのうちグロース上場が17社)がやってくる過密スケジュールでした。
同日3社上場が4日もあり、初値買い資金が分散することで、初値の上昇率も抑えられる傾向も見られました。
【12月IPO】初値騰落率上位(株価データは2022年末終値)
銘柄名 | コード | 市場 | 初値 騰落率 |
現値対初値 騰落率 |
公開規模(億円) |
---|---|---|---|---|---|
スマサポ | 9342 | グロース | 181% | 22% | 3 |
アイズ | 5242 | グロース | 135% | ▲37% | 10 |
Rebase | 5138 | グロース | 130% | ▲47% | 9 |
INFORICH | 9338 | グロース | 128% | 9% | 3 |
ELEMENTS | 5246 | グロース | 95% | 51% | 8 |
monoAI technology | 5240 | グロース | 94% | ▲16% | 11 |
トリドリ | 9337 | グロース | 82% | ▲29% | 7 |
初値上昇率が抑えられた銘柄の中で、大型のスカイマークやプライム上場の大栄環境などセカンダリー好調銘柄もありましたが…、東証グロース上場の小型IPOは、需給ギャップで初値こそ上がっても、初値形成後に大きく値下がりする銘柄が大半。
また、日本人は新台(IPO)好きな傾向がありますので、デイトレ資金がIPOに向かうことで、IPO以外の銘柄にとっては流動性低下要因になります。
今年も12月のIPO詰め込み過ぎ日程が全体地合いのマイナス要因になったのは間違いありません。
【12月IPO】初値後パフォーマンス上位(株価データは2022年末終値)
銘柄名 | コード | 市場 | 初値 騰落率 |
現値対初値 騰落率 |
公開規模(億円) |
---|---|---|---|---|---|
ELEMENTS | 5246 | グロース | 95% | 51% | 8 |
サンクゼール | 2937 | グロース | 22% | 33% | 54 |
スマサポ | 9342 | グロース | 181% | 22% | 3 |
オープンワーク | 5139 | グロース | 11% | 20% | 41 |
スカイマーク | 9204 | グロース | 9% | 13% | 374 |
大栄環境 | 9336 | プライム | 27% | 11% | 498 |
フーディソン | 7114 | グロース | 0% | 9% | 28 |
1月の中小型!今月のキーワードは…決算ストレス軽減
コロナバブルの反動で2021年に東証マザーズ指数は17%下落し、金利上昇に伴うバリュエーション調整で2022年も26%下落。
マザーズ指数の創設来、3年連続の値下がりは2006~2008年の1回だけ。今年はリバウンドもあるんじゃないの?ですが、前月(12月)の大幅安でムードの悪い年明けに。
ひとまず、昨年12月のFOMCで利上げペースは鈍化し、今年後半には「利下げ」を視野に入れて動くプレーヤーも増えると見られます。
逆流の逆流(アンワインドのアンワインド)で、グロース株の逆襲が見られる可能性は十分ありそうです。
が…それは先の話。1月の中小型グロース株市場の展開を予想する上での重要事項を、いつも通り点検していきましょう。まず、少なくとも需給面は「改善」が見込めます。
前月の下落理由のうち、IPOラッシュの弊害と節税目的の損出し売りの二大季節要因は通過しました。前者は買い手側の事情(IPOに買い資金が向かう)、後者は売り手側の事情(含み損の株を年内に売ってしまう)。
とくに大きいのは、後者の売り手側の事情が一巡したことで、需給環境は「12月よりマシ」といえます。
一方で、米国株の不調(地合いが悪い)に伴うセンチメント面は「悪いまま」。これに関しては、その背景にある不安要素は消えていません。
米国株が年末にかけて軟調化した理由にあるのが、複数の景気指標の悪化を「景気減速懸念」として株式市場がネガティブな反応を見せていることに。
そして、中国のゼロコロナ政策が見直されたことを当初は歓迎したものの、中国でのコロナ感染急拡大で、中国人渡航者の入国制限を逆に強める事態に変化してしまっています。
売り手側の事情こそ改善しても、買い手側が萎縮したままでは上値を買い上げるパワーは期待できません。
そんな中での1月相場。序盤は米国株の復調を待ちつつ、デイトレ勢の日替わり物色がメインになりそう。1月26日までIPOが空白ということによる直近IPO狙いとか、新聞材料などを手掛かりにしたテーマ株狙いなど…。
ただ、1月第2週以降、霞ヶ関キャピタル(3498)やFPパートナー(7388)のほか、直近IPOのELEMENTS(5246)、note(5243)など中小型グロース株の決算発表が増えてきます。
個別の業績にも目が向かう時期に入るため、決算リスクの大小も株価パフォーマンス差になりやすい時期と考えられます。
景気減速懸念に負けるな!来期も独自要因で成長期待高い中小型10銘柄
スクリーニング条件(1)来期コンセンサス増収率5%以上、(2)来期コンセンサス営業増益率10%以上(3)信用買い残比率5%未満、※時価総額が大きい順に列挙
市場 | コード | 銘柄名 | 来期コンセンサス 増収率 |
来期コンセンサス 営業増益率 |
信用買い残 比率 |
時価総額 (億円) |
---|---|---|---|---|---|---|
グロース | 9552 | M&A総合 | 8% | 19% | 4% | 1,203 |
グロース | 6030 | アドベンチャー | 29% | 61% | 3% | 697 |
グロース | 4371 | CCT | 5% | 11% | 2% | 436 |
スタンダード | 8920 | 東祥 | 10% | 51% | 1% | 431 |
グロース | 9246 | プロジェクトC | 6% | 10% | 3% | 344 |
スタンダード | 2585 | ライフドリンク | 7% | 13% | 0% | 337 |
グロース | 6562 | ジーニー | 5% | 25% | 3% | 214 |
グロース | 6086 | シンメンテHD | 9% | 12% | 1% | 150 |
グロース | 6069 | トレンダーズ | 23% | 23% | 4% | 140 |
スタンダード | 7228 | デイトナ | 8% | 10% | 1% | 127 |
そこで今回は、アナリストによる業績予想が存在する銘柄の中で、来期のコンセンサスが増収(前期比5%以上)、営業増益(前期比10%以上)の銘柄のみ抽出。
その中で、個人投資家の期待値の高さを示す「信用買い残」が、発行済み株数の5%未満(=大株主と呼べるほど多くない)の銘柄を残しました。
「景気減速懸念」という名の重しがある中で、「この会社は独自要因で伸びるんだから関係なくない?」と割り切れる中小型株。
外部環境面で心配事だらけの2023年ですが、全ての銘柄が抱える決算ストレスくらいは軽くしたいところです。
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