中国発の不安は政治だけでない、景気失速の不安も

 中国の対外強硬姿勢が、東アジアの地政学リスク、米中対立をエスカレートさせる要因となっています。台湾海峡問題、南シナ海での実効支配拡大が、株式投資をする上で常に考えていかなければならない問題となりました。

 もう一つ、日本株への影響で懸念され始めているのが、足元の中国の景況です。中国国家統計局が発表した2022年12月のPMI(製造業購買担当者景気指数)は47.0で、好不況の節目である50を3カ月連続で下回りました。

中国の製造業購買担当者景気指数(PMI):2020年1月~2022年12月

出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成

 12月のPMIは、上海ロックダウン(都市封鎖)の不安で47.4まで低下した4月の水準を下回りました。新型コロナウイルス感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ政策」の事実上の解除を受けて、回復が見込まれていた景況感が、逆に悪化しました。ゼロコロナ政策の解除は追い風ですが、急激に感染が拡大したことによって、経済活動にマイナス影響が及びました。

 中国PMIは、ゼロコロナ政策の影響で、2021年以降、低迷が続いてきました。2022年4月には上海ロックダウンの影響で47.4まで低下しました。

 その後、上海ロックダウンが解除されると、一時50超えまで回復しましたが、回復は長続きしませんでした。上海ロックダウンは解除されても、ゼロコロナ政策による厳しい行動制限が中国全土で続いたので、景況は再び50割れとなりました。

 ゼロコロナ政策が続く限り、中国景気の回復は見込めないということが分かりました。そのゼロコロナが事実上解除されたのが、12月です。ゼロコロナ政策による行動制限に対する抗議活動が中国全土に広がった「白紙革命」の影響で、12月7日からゼロコロナ政策が急速に緩められました。そこから急速に人出が拡大しました。

 ゼロコロナ解除を受けて、中国景気は急回復するという期待も一部に出ました。ところが、注目された12月のPMIは悪化しました。ゼロコロナ解除でも景況が改善しなかったことで、不安が広がりました。

コロナ抑制に初め成功した国ほど、今になって感染拡大が深刻に

 皮肉なことですが、2020年にコロナ抑え込みに失敗した国ほど、コロナの影響が早く収束、2020年の抑え込みに成功した国ほど、遅れて感染拡大が深刻になっています。

 インドなど初期の抑え込みに失敗した国は、感染者や死者が当時、拡大しましたが、その後、自然免疫を獲得する国民が増えて、感染収束が早まりました。

 欧米先進国は、中国・東南アジア・東アジアの国々と比べると行動制約に従わない人が多かったため、2020年には感染拡大を抑え込むことができませんでした。その代わり、2021年以降には、ワクチンや自然免疫の効果で、感染は収束に向かいました。

 2020年に感染抑え込みの優等生と言われたアジアの国々は、変異型が猛威をふるった2021~2022年に遅れて感染が拡大しました。そのため、コロナによる経済へのマイナス影響が、欧米よりも長期化しています。

 中国は、その最も極端な例です。2020年に国家権力をもって強引にコロナを抑え込んだ成功体験から離れられず、極端なロックダウンを続けてきた結果、最近まで世界で1番、コロナ感染を抑え込んだ国でした。

 ところが、国家権力を背景とした行動の抑制に国民の反発が強まった影響で、2022年12月についに、ゼロコロナ政策の解除に向かいました。その影響で、世界で最も深刻な感染拡大に、主要国で最も遅く見舞われています。

中国景気は年後半に回復か

 中国景気の先行きですが、ゼロコロナ解除の混乱で1-3月は低迷が続く可能性がありますが、年後半には回復に向かうと考えられます。

 急激にコロナ感染者が拡大しているもようですが、それで自然免疫を獲得する人が増えれば、年後半にかけて、感染が縮小していく可能性もあると思います。ゼロコロナ解除の影響がプラスに出てくる年後半には、中国景気の回復が、世界景気に好影響を及ぼすようになるとみています。

 今日のリポートで伝えたかったメッセージは以上です。ここから先は、中国の経済指標の見方について解説します。

中国のGDP統計は信頼性が低い

 中国景気について議論する時、中国のGDP(国内総生産)の推移が引き合いに出されますが、見方に注意が必要です。出てくる数字から景気のイメージをつかむことはできますが、数字の信頼性は高くありません。簡単に、2007年以降の中国GDPの推移を振り返りましょう。

中国の実質GDP成長率(前年比):2007年1-3月期~2022年7-9月期

出所:ブルームバーグより作成

 中国政府の発表ベースでは、2007年から2019年6月まで、中国のGDP成長率は6%を下回ったことがありません。四半期ベースでマイナス成長になったのは、コロナ危機に見舞われた2020年1-3月期(▲6.8%)が初めてということになっています。

 そんなはずはないと思います。世界景気の影響を受けやすい中国のGDPが発表されたGDPのように安定しているはずがありません。

 私は、四半期ベースのマイナス成長は、以前から何度もあったと見ています。例えば、リーマン・ショック直後の2009年1-3月に中国のGDPも一時マイナスになったと考えています。

 ただし、リーマン・ショックで一時的に落ち込んだ中国景気は、2009年に中国政府が4兆元(約60兆円)の巨額公共投資を実施した効果で、一気に持ち直しました。中国の公共投資が、世界不況を救ったといわれました。

 ところが、後から振り返ると、この公共投資で膨らんだ非効率な投資が、その後の中国経済の構造改革を遅らせました。手っ取り早く稼げる鉄鋼・不動産・石炭開発などに投資が集中しました。

 その結果、鉄鋼業などで過剰生産能力を抱え、地方では入居者のいない高層マンション群がゴーストタウン化しました。

 4兆元の公共投資で膨らんだ非効率な投資に足を引きずられ、2010年以降、中国景気はじわじわと悪化しました。2015年10-12月には、「チャイナショック」と呼ばれた中国景気の悪化が世界景気にもマイナス影響を及ぼしました。

 ところが、中国政府の発表するGDPを見ると、2015年も7%近い成長を実現していたことになっています。そんなことは、あり得ないと思います。

 チャイナショックの影響があった2015年10-12月期と、それに続く2016年1-3月期は、中国景気だけでなく、世界中の景気が悪化しました。原油価格急落によって、ブラジル・ロシアなど資源国の景気が悪化しました。

 米景気も1-3月には、一時的に停滞色が強まりました。日本もこの時、景気が後退ぎりぎりまで悪化しました。こうした現実が、中国のGDP統計にはまったく表れていません。中国の実態を知るには、他の景気指標を見る必要があります。

李克強指数、生産者物価指数に見る中国の実態

 中国景気は、中国が発表するGDPとはまったく異なり、激しく浮沈を繰り返していると考えています。それが、李克強指数【注】の動きに表れています。

【注】李克強指数:中国の前首相、李克強氏は、首相になる前の2007年に「中国のGDP統計は信頼できない。鉄道貨物輸送量・銀行融資残高・電力消費の変化を見た方が実態がわかる」と語ったとされる。その話を受け、鉄道貨物輸送量25%、融資残高35%、電力消費40%の構成で作られた指数。中国経済の実態をよく表していると評価されている。

李克強指数の推移:2007年1月~2022年12月

出所:ブルームバーグより作成

 中国政府が発表するGDP成長率とは異なる、中国景気の実態がここから見て取れます。中国景気が以下のように推移してきたことがわかります。

【1】2008年にリーマン・ショックで悪化
【2】2009年は巨額(4兆元)の公共投資実施で急回復
【3】その後、徐々に景気が減速。2015年にチャイナショック
【4】2016年以降、景気回復
【5】2018~2019年、米中貿易戦争の影響で景気失速
【6】2020年1-3月期、コロナ危機で大きく落ち込み、ただし4-6月以降急回復
【7】2021年4月以降、景気減速。ゼロコロナ政策による上海ロックダウンでさらに悪化
【8】2022年12月、ゼロコロナ政策が事実上解除されたが、感染急拡大で景況は悪化

 足元の中国の景気実態が厳しくなっていることが、李克強指数に表れています。ただし、私は2023年を通じて中国景気が低迷するとは考えていません。年後半には、自然免疫の獲得が増えることで、欧米のように感染が収束していく局面があると考えています。

 日本株の先行きを考える上で、中国景気の先行きから、目が離せません。年初、感染拡大で一段と悪化するリスクがありますが、年後半にかけて回復するとの見方を維持します。

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