過去3カ月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

12月雇用統計の予想

 BLS(米労働省労働統計局)が1月6日に発表する12月の雇用統計は、市場予想によると、NFP(非農業部門雇用者数)は20.0万人増加。過去3カ月平均の28.7万人増加と比較しても伸びは鈍化傾向にあります。

 失業率は3.7%で横ばいの予想。平均労働賃金は、前月比+0.4%(前月+0.6%)。前年比は+5.0%で、2022年3月の5.6%をピークに緩やかに下降を続けています。

 インフレ対策に全集中のFRB(米連邦準備制度理事会)は、インフレ率を下げるには「雇用市場の熱を冷ます必要がある」と考えていますが、ここにきてようやく、FRBの積極果敢な利上げの効果が表れはじめたようです。

 マーケットでは2023年前半にFRBは「利上げ終了」、そして来年は「利下げ」の予想が増えています。しかし、前回11月の雇用統計では、予想より強い結果だったため、利上げ期待が急速に後退しました。果たして、今回の雇用統計はどうなるか、注目です。

11月雇用統計のレビュー

 11月の米雇用統計には、FRBが期待していたような労働市場のクールダウンを示すような証拠はどこにも見当たりませんでした。

 11月の雇用統計では、NFPは、ヘルスケア部門やサービス業の雇用が堅調で、事前予想(20.0万人増)を超える26.3万人増となりました。2022年の1月から11月までの平均雇用増は45.8万人。2021年の52.0万人と比較すると、雇用の伸びは鈍化しています。また失業率は3.7%で、前月比横ばいでした。

 平均労働賃金は、前月比0.6%上昇、前年比では5.1%上昇。パウエルFRB議長は、インフレ上昇の大きな原因に労働賃金の高騰を指摘していますが、賃金上昇率はFRBのインフレ目標に見合う水準を少なくとも1.5%上回っています。

 労働市場の調整は、従来予想されていた供給サイドからではなく、需要サイドから来る必要があるとFRBは考えています。つまり、需要後退による企業のリストラが増えることによって、インフレが低下するのを待つしかないということです。

FRBの予想は「楽観的」すぎる?

 2023年のマーケットは、「ボラティリティのボラティリティ」が高くなるでしょう。市場や経済のシナリオは、これまで以上に急激に変化する可能性があります。また、そうすべきです。

 市場の方向を固定(バイアス・アンカリング)することは、相場分析をしたり投資をしたりする上で、これまで以上に害となります。不確実性が高まるマーケットでは、常に変化するシナリオに備えなくてはいけません。

 この数年マーケットを動かしてきたのは、新型コロナであり、ウクライナ戦争であり、米国の金融政策でした。しかし、新型コロナで世界経済が停止している間にNY株式市場が史上最高値まで上昇したことや、エネルギーの安全保障が脅かされる中で原油価格が下落したことを正確に言い当てたエコノミストがいたでしょうか。

 これまでの経験では対処できない事象がマーケットで起きている時代では、エコノミストと一般投資家の間に知識の差はありません。「新春相場予想」を信じるよりも、自分で考え、柔軟(フレキシブル)に対応することの方が重要です。今日のシナリオに固執すれば、明日の損失につながります。

 世界経済の見通しはより不確実になっています。この不確実な時代の中で、もし確実なことがあるとすれば、日本の物価と税金がこれからどんどん上がることと、FRBの予測が間違っているということくらいでしょう。

 FRBが、失業率を過去最低水準の4.0%前後に維持しながら、同時にインフレ率を2%まで下げることができると信じているとすれば、それはあまりに「楽観的」です。

 インフレ率を2年間という短期間で2.0%まで押し下げるような「劇薬」を使い続けるならば、失業率が4.0%程度の上昇で済むことはなく、7.0%を超えて悪化する覚悟が必要との見方が多数です。

 1年半前のFRBは、インフレは「一過性」だと楽観していました。失業率についてもFRBは、たとえ一時的に上昇するとしても、「すぐに元通りに下がる」という想定ですが、これも疑問です。現在と2年前とでは金利水準が全く違っているし、世界的リセッションなど環境はネガティブな方向に変わっているのです。

 パウエルFRB議長が期待する「インフレ制御に成功して、失業率も悪化しない」の実現性はかなり低い。現実的には「インフレ制御に成功するが、失業率は悪化する」確率が高いのです。最悪なのは「インフレ制御に失敗して、失業率も悪化する」ことで、この可能性もゼロではありません。

 しかし「ボラティリティのボラティリティ」の高いマーケットでは、シナリオが急激に変化する可能性します。相場見通しを頻繁に変更することは恥ずかしいことではなく、むしろそうするべきです。方向を固定することなく、柔軟(フレキシブル)に対応することが重要です。