2022年は円安進行で日本株買われた

 直近1カ月(11/18~12/19)の日経平均株価(225種)は2.4%の下落となりました。米国の金融引き締めペース緩和への期待で11月24日には一時9月13日以来となる2万8,500円台にまで回復しましたが、その後は急速な円高進行なども重しとなる形で、上値が重い展開になりました。

 12月13日に公表された米国の11月のCPI(消費者物価指数)の上昇が想定以上に減速しました。米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)や、欧州のECB(欧州中央銀行)理事会も利上げ幅0.5%への縮小を決定しています。

 しかし、その後は、早期の利下げ期待を否定するような、FOMCやECBの高官によるタカ派的な発言が相次ぎ、期間後半にかけては下げ幅を広げる状況となってきています。

 また、米国では景気指標の悪化も目立ち始め、今後の景気動向に対する警戒感なども強まりつつあるようです。

 さて、2022年の株式市場も残すところ1週間余りとなっていますが、12月19日現在、日経平均の年間騰落率は5.4%の下落となっています。

 ちなみに、12月16日までのニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の騰落率は9.4%の下落、ハイテク株主体のナスダック総合指数は31.6%の下落となっています。2022年は明らかに米グロース株の下落の影響が日経平均にも強くのしかかったといえるでしょう。

 ただ、2022年3月上旬まで1ドル=115円レベルであったドル/円相場が10月には150円を超えるドル高円安水準となるなど、為替の円安効果が日本株の下支えになりました。

 2022年の年明け早々からグロース株への売り圧力が強まりました。金融引き締めに対する警戒感で米長期金利が上昇したことが背景となります。その後、2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、一段のインフレ進行に対する警戒感が強まりました。

 そのため、日経平均も3月9日にかけて年初来安値の2万4,681円にまで調整しました。一方、3月から10月にかけてドル/円相場がほぼ右肩上がりで上昇することとなり、これが日本株の底打ち要因につながりました。

 また、欧米では金融引き締めの長期化が意識される状況となった一方、日本銀行の金融政策には変化がなく、相対的な日本株の買い安心感も強まったもようです。欧米との比較で相対的に日本のインフレ進行が強まらなかったことも支援だったといえるでしょう。

 2022年に買われた銘柄ですが、ロシア産チタンからの需要シフト期待が高まった大阪チタニウムテクノロジーズ(5726)東邦チタニウム(5727)がまず挙げられます。

 このほか防衛予算拡充や原発活用政策への期待で三菱重工業(7011)なども大きく上昇しました。防衛関連では川崎重工業(7012)、原発関連では東京電力ホールディングス(9501)なども買い優勢となりました。

 円安進行で三菱自動車(7211)などの自動車株、水際対策の緩和も進んだことで高島屋(8233)や、エイチ・ツー・オーリテイリング(8242)などの百貨店株も全般買われました。

 半面、グロース株受難の年となったことで、ベネフィット・ワン(2412)メルカリ(4385)ラクス(3923)Sansan(4443)など代表的なグロース株の下げがきつく、日本電子(6951)東京エレクトロン(8035)レーザーテック(6920)新光電気工業(6967)などの半導体関連株も30%を超える下落率となっています。

為替やインフレの反転に備え、円高追い風銘柄に関心を!

 依然として欧米市場では金融引き締めの長期化などを懸念する動きが散見されていますが、少なくとも、FRB、ECBとも利上げ幅を0.75%から0.5%に縮小したように、金融引き締めペース加速化のピークは通過しています。

 米国では2023年に入ってから、FRBが2月に0.5%の利上げ、3月に0.25%の利上げを発表して、利上げは打ち止めになるとみられています。米CPIは9月の前年同月比8.2%の伸びから、10月は7.7%、11月は7.1%にとどまり、鈍化傾向が強まっています。

 今後は景気の減速局面に入ることからも、インフレの最悪期は通過したとみられ、今後利上げの見通しが一段と引き上げられる可能性は低いでしょう。市場の関心は、インフレ動向から景気動向へと強くシフトしていくと考えられます。

 その際ですが、仮に景気の悪化ペースが想定を上回るような状況となった場合、FRBの利上げ停止タイミングの前倒しにつながるとみられます。今後の株式市場の調整リスクは大きくないと考えます。

 米国株の上昇は、ストレートに国内のグロース株にも好影響を与えるとみられます。とりわけ、米国市場の底打ちによってリスク許容度が上昇すれば、先進国の中で2023年の景気の悪化度合いが低いとみられる日本が注目を浴び、海外投資家による日本株への資金シフトも顕在化していくことになりそうです。

 2023年前半は世界景気の悪化がリスク要因となるので、世界景気の影響を受けにくい、内需系のグロース株が最も好望視できると考えています。

 さて、日銀は12月19、20日に開いた金融政策決定会合で、長期金利の変動許容幅を従来のプラスマイナス0.25%程度から0.5%程度に拡大するとし、これまでの大規模緩和を実質的に修正する方針を決定しました。想定外のタイミングであり、今後の日銀総裁交代を控えて、一段の金融政策の変化も意識されるところです。

 ただ、2023年4月の日銀総裁交代によって、政策変更の可能性が高まっていたほか、インフレ抑制への必要性も大きくなっており、先行きの政策変更自体は既定路線といえるでしょう。

 米国の利上げ一巡が視野に入りつつあり、日銀の大規模緩和策の修正も想定される中、一段の円安ドル高の動きは限られ、むしろこれからは円高に進むリスクが相対的に大きくなると考えられます。一方、国内のインフレ動向ですが、足元では食料品価格の上昇ペースが速まってきています。

 また、電力料金などは2023年に入って一段と上昇ピッチが速まるものと考えられます。円安の流れが反転していることで、今後もインフレが進んで欧米並み水準まで上昇するリスクは小さいとみられますが、少なくとも2023年前半はインフレによる個人消費の動向が警戒されます。

 春闘による賃上げの度合いが目先は焦点となるでしょう。こうした為替やインフレ動向から見た物色の方向性ですが、まずは、原材料の仕入れコストの低減につながる円高メリット銘柄が挙げられます。

 電力・ガス、紙・パルプ、食品業界、輸入商社などが主な対象となります。とくに、BtoBと比較してBtoC業界は、値上げが実施しにくい一方で、一度値上げを行った場合は、価格が低下しにくいといったメリットも考えられます。

 また、国内インフレの進行による生活防衛関連銘柄なども挙げられるでしょう。こちらでは、低価格製品を扱っている小売株などが対象となります。ほか、一般家庭と比べると企業の方が、インフレコスト上昇の反動によるメリットが早く表面化すると考えられます。

 原燃料コスト増の負担が大きかった銘柄は業績回復幅が大きくなりそうです。米国金利は低下したとしても、国内の金融政策正常化が進むことで、銀行株などもポジティブな状況になると予想します。

NISA拡充・恒久化で高配当利回り銘柄にも注目!

 新年度の与党税制改正大綱がまとめられ、個人投資家の優遇制度NISA(ニーサ:小額投資非課税制度)の抜本的な拡充・恒久化などが盛り込まれました。金融庁が8月に財務省に求めた改正要望に対しての「満額回答」となる形で、とりわけ、年間投資水準を現行の計120万円から3倍となる360万円に拡大することはサプライズともなりました。

 NISA枠では配当などのインカムゲインも無課税になるため、今回のNISA枠拡充は高配当利回り銘柄への期待感を高めさせるものともいえます。

 今回取り上げた高配当利回り銘柄は、前章の最後で挙げた、為替やインフレ動向の変化によってメリットが期待できるとみられる銘柄となります。ただ、ここの部分でメリットが大きくなりそうな食品株や小売株などには、高配当利回り銘柄が少なくなっていることには留意したいところです。

(表)外部環境の改善が期待される高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り(%) 12月19日終値(円) 時価総額 (億円) 株価騰落率(%) 今期営業 増益率(%)
7337 ひろぎんHD 4.33 623.0 1,946 ▲9.6 9.1
7575 日本ライフライン 4.04 940.0 779 ▲14.2 0.4
1934 ユアテック 3.89 720.0 520 7.1 5.3
5232 住友大阪セメント 3.86 3,105.0 1,066 ▲12.2 赤字
7483 ドウシシャ 3.82 1,569.0 586 0.2 16.7
(注)株価騰落率は昨年末比
(注)ひろぎんHDは当期純利益の増益率
(注)配当利回りの高い順にランキング

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.5%以上(12月19日終値)
  2. 時価総額が500億円以上
  3. 2022年の株価上昇率が10%未満
  4. 今後の事業環境の改善が期待される銘柄

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 ひろぎんホールディングス(7337・東証プライム)

 2020年10月に地方銀行上位の広島銀行を中核とする持株会社として発足。ひろぎん証券やひろぎんリースなどもグループに抱えています。広島銀行は広島県を中心に、岡山県、山口県、愛媛県で主に事業展開、預金等残高は4県で約98%、貸出金残高は約76%を占めています(数値は2022年9月時点)。

 預金等残高、貸出金残高は中四国地方に本店を置く地域金融機関の中でトップ、全国の地域金融機関の中でも7~8位を占めています。広島銀行単体の自己資本比率は、2022年9月時点で10.01%となっています。

 2023年3月期第2四半期純利益は101億円で前年同期比9.5%減となっています。一部の保有株式の下落などによって、減損損失を計上したことが減益要因となりました。

 一方、注力中の法人ソリューション収益が大幅に増加するなど、本業の業績は順調に推移しています。年度末にかけては保有株式の回復も想定されるとして、通期の純利益予想は250億円、前期比9.1%増を据え置いています。年間配当金は前期比3円増配の27円を計画しており、仮に減損を主因とする業績下振れの場合では、同水準を確保する方針のようです。

 2023年は、欧米においては先行きの金利低下を探る局面にもなってくるため、金融関連株にとってはマイナスの状況も想定されます。ただ、日本では、日銀の黒田東彦総裁の任期が切れる2023年4月が近づいていることもあって、次期総裁の下で大規模緩和政策の修正に向けた議論が一段と活発になっていくと考えられ、長期金利の上昇が予想されます。

 とりわけ、地銀株にとってはプラス材料となってきそうです。地銀株の中でも同社は、インバウンド需要拡大に伴う地域経済の活性化が見込める点で注目されます。広島県は厳島神社や平和記念公園など海外からの関心も高い観光資源が豊富で、水際対策の段階的な緩和によるインパクトは強まっていくと考えられます。

2 日本ライフライン(7575・東証プライム)

 心臓・血管疾患、消化器疾患領域に特化した独立系の医療機器メーカーです。不整脈を治療する「リズムデバイス」、不整脈の検査や治療を行う医療機器「EP/アブレーション」、血管治療の医療機器などを扱う「外科関連」、内視鏡治療や肝癌に対する医療機器・治療機器を扱う「消化器/PI」のセグメントで展開しています。

 取扱分野における市場シェアは約20%程度とみられています。海外製品の輸入販売と自社製品の開発・製造を行うハイブリッド型のビジネスモデルで、自社製品比率は過半超にまでウエートが高まっている状況です。

 2022年3月期上半期営業利益は51億円で前年同期比9.4%増となりました。従来予想の44億円を上回り、増益での着地となっています。新型コロナ感染の沈静化で増収となったほか、自社製品比率の上昇で利益率が上昇し、前年同期に発生した治験関連費用の一巡も寄与しました。

 通期計画は100億円、前期比0.4%増を据え置いています。5期ぶりの営業増益転換となる見通しです。また、年間配当金も前期比横ばいの38円計画を変えていません。

 2022年3月期上半期の自社製品比率は53.2%で、それ以外は医療機器の輸入販売が中心になるとみられます。一方、海外販売のウエートは低いとみられることで、基本的には、円高は仕入れ価格の低下につながってポジティブ要因と考えられます。

 円安一服による今後の利益率上昇を期待したいところです。また、脳血管領域への新規参入、胆膵内視鏡分野への本格参入なども業容の拡大へとつながることになるでしょう。

3 ユアテック(1934・東証プライム)

 東北電力系列の電気工事会社です。東北電力向けのウエートは4割強の水準となっています。屋内配線工事や配電線工事が主力となっており、ほかに、空調管工事、土木建設工事なども手掛けています。

 東北各県や新潟県などを中心エリアに、国内80カ所超、海外2カ国に事業所を展開しています。風力や太陽光など再生エネルギー関連にも実績、2022年3月期は同分野で150億円程度の売上高となっています。

 2023年3月期上半期営業利益は8億円で前年同期比約2.1倍となっています。主力の屋内配線工事をけん引役に売り上げが拡大し、利益率の上昇にもつながりました。同社の場合、上期と下期で収益水準の偏重は大きいですが、上半期末の手持工事高は前年同期末比で8.0%増と順調に増加しており、下半期も堅調な推移が見込めそうです。

 会社側では通期予想100億円、前期比5.3%増を据え置いています。年間配当金は前期並みの28円を計画していますが、連結配当性向30%を目安としていることで、業績上振れならば増配につながるものとみられます。

 2022年は燃料費の上昇が電力業界を直撃し、東北電力も2023年3月期は大幅赤字見通し、ならびに、10期ぶりの無配転落を余儀なくされる見通しです。ただ、燃料費高騰の一服、さらには価格転換が見込める2024年3月期には収益の急回復が見込まれています。

 このような東北電力の収益回復は、同社への工事の発注増加、同電力向け利益率の改善にもつながっていくことが期待されます。さらに、政府が原発活用の方向に政策のかじを取りつつあることも、同社の原発関連工事の需要増加、一段の利益率向上を想定させるものとなります。

4 住友大阪セメント(5232・東証プライム)

 国内セメント業界ではシェアが22%程度、第2位を争う位置づけとなっています。太平洋セメントと比較すると国内売上の構成比が高くなっています。

 セメント事業のほか、建材事業、オプトエレクトロニクスやナノテクノロジーを生かした光電子事業、半導体製造装置用部品などの新材料事業を手掛けています。電池材料事業は前期において売却しています。政策保有株の売却に取り組んでおり、今後5年をめどに335億円の削減を想定しています。

 2023年3月期上半期営業損益は61億円の赤字で前年同期比約113億円の損益悪化となっています。期初計画は10億円の赤字でした。石炭価格や石油価格の上昇が想定以上に大きく響いたほか、為替の円安もネガティブに効いています。

 販売価格引き上げは進めていますが、想定通りの進捗(しんちょく)には至っていないようです。通期計画は57億円の黒字から一転、55億円の赤字に下方修正しています。なお、業績計画は下方修正しましたが、株式売却益などの計上を計画し、年間配当計画の120円、前期比横ばいは変更していません。

 石炭価格の上昇を中心にして、セメント業界は2022年に原燃料価格上昇の影響を最も強く受けたセクターともいえます。とりわけ、輸出比率が低い同社に関しては、円安のマイナス影響も相対的に大きかったとみられます。

 原燃料価格の上昇ペース鈍化、遅れている値上げの浸透、為替相場のモメンタム転換などを想定すると、2024年3月期の収益は急回復が予想され、割安なバリュエーション修正の流れも強まってくると考えられるでしょう。

5 ドウシシャ(7483・東証プライム)

 生活用品の卸売り企業ですが、ニッチ市場をターゲットとした商品の企画・開発・生産・販売などメーカー機能も有しています。取扱商品は、食品、ワイン、時計、バッグ、テレビ、衣料品、化粧品、ギフト関連など多岐にわたり、同様に販売先も、ホームセンター、ディスカウントストア、スーパーマーケット、ワンプライスショップ、家電量販店など多様です。

 販売先は4,800社、仕入先は2,100社に広がっています。EC事業、海外事業の強化に注力しています。

 2023年3月期上半期営業利益は38億円で前年同期比2.9%減となりました。期初計画の39億円をやや下回る着地でした。卸売型ビジネスは、有名ブランド関連やビューティ関連を中心に大幅増収増益となりましたが、開発型ビジネスは、均一ショップ向けの雑貨関連などを中心にして、原材料価格上昇などの影響が強まったようです。

 通期の業績予想では、営業利益は前期比16.7%増の83億円、配当は横ばいの60円とそれぞれ据え置いています。

 2023年前半にかけては、一般消費者にとってインフレ傾向が一段と強まり、生活防衛的な消費行動が強まると考えられます。ディスカウントストアやワンプライスショップなどに消費者の嗜好がシフトしていく可能性があり、同社にとってはこうした店舗向けPB(プライベートブランド)商品の販売拡大が期待される余地もあります。

 また、仕入商品では、海外メーカーの商品もあり、為替相場が円高反転の流れとなれば、原価率の改善も期待することができます。