11月の中小型株ハイライト

<マザーズ指数(左軸)とマザーズ売買代金(右軸)>

金利のピーク確認で買いやすくなった中小型グロース株

 11月最初の目玉イベントは2日のFOMC(米連邦公開市場委員会)。

 0.75%利上げは完璧に織り込み済みでしたが、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が「利上げ停止の検討は非常に時期尚早だ」とタカ派的な発言をしたことで株価は急落。

 利上げのあんばいにナーバスな雰囲気で月がスタートしましたが、その後は12月FOMCに向けた「コンセンサス探し」にシフトします(今年1年ずっとこれやりましたね)。

 10日に発表された最重要イベントの10月CPI(消費者物価指数)が市場予想を下振れたことで、12月FOMCで「利上げ幅縮小できる!」と市場は確信を持ち、米金利急低下、ドル安、そして株買い加速!

 この日のナスダック総合指数の上昇率は7%超と、どれだけ警戒していたんだ?(ショートをため込んでいたんだ?)な反応に。

 その後もFOMC議事要旨やパウエル議長の講演などでハト派色を確認すると、「金利低下/ドル安/株高」の基調に。

 日本株も連れ高となり、11月の月間騰落率は日経平均株価+1.4%、中小型グロース株の集合体である東証マザーズ指数は+6.4%とマザーズの高パフォーマンスが目立ちました。

 なお、東証マザーズ指数は4月8日以来ひさびさの800ポイント台を回復しています。

投機マネーが最も集まった中小型グロース株は…意外なアノ株

 10月はバンク・オブ・イノベーション(4393)の急騰が話題化しましたが、11月は別の銘柄がフィーバー状態に。

 ちょうど日経平均株価が2万8,000円台到達で値動き緩慢となる中、日経レバETF(1570)を売買するような短期マネーが、よりハイボラな個別株に目を向けていたように感じます。

 そのシンボルがプライムのレーザーテック(6920)でした。

 連日で大商いとなり、16日には1日の売買代金が6,121億円という天文学的な商いを記録。

 他にもトレードする銘柄はたくさんあるでしょう?という話ですが、投機勢は一点集中的にレーザーテックのデイトレにご執心。

 プライム全体の17%もの売買占有率を記録するなど、「指数よりレーザーテック」といった雰囲気に。そんな投機マネーがグロース市場でロックオンしたのが、材料も多かったマイクロ波化学(9227)でした。

 今年6月に上場した大阪大学発のマイクロ波技術ベンチャー。大手化学メーカーなどを顧客とし、革新的な省エネ技術を有する実力派。

 とはいえ、業態的にもここまで人気化するとは驚くばかりで…。株価の上昇と売買代金ランキングの上位常態化による視聴率アップで、投機マネーが流入。

 21日の売買代金773億円が最大でしたが、この日は東証グロース市場全体の34%の売買占有率というトンデモナイ傾倒ぶり…他にも銘柄はたくさんあるでしょう、と言いたくなる事例が多くなっています。

決算通過でスターダムへ駆け上がった銘柄も

 11月末時点で498銘柄ある東証グロース上場銘柄のうち、11月以降に年初来高値を取った銘柄は92銘柄。

 足元で盛り返しているとはいえ、東証マザーズ指数は年初来で約2割下がる軟調地合いの中、全体の2割弱ですが、新高値を更新する強い株も出ていたわけです。

 中でも、11月の上昇率が高いところでは、イーディーピー(7794)、ビリングシステム(3623)、アクリート(4395)、グローバルセキュリティエキスパート(4417)、バルテス(4442)、アズーム(3496)、INTLOOP(9556)など。

 好決算で新高値をブレイクし、株価上昇に勢いが付いたと見られる銘柄が多く、「業績での銘柄ピックアップは報われる」そう感じさせる見せ場もしっかりつくってくれました。

12月の中小型!今月のキーワードは、IPO疲れの輪の外で…

 マザーズ指数がひさびさの800ポイント台に乗せ、投資家のセンチメントも上向いて12月に突入。

 さらには、11月30日の講演でパウエルFRB議長が「(利上げ幅の縮小について)早ければ12月の会合になるかもしれない」と発言したことを受け、先月の「逆CPIショック」後の動きに似た「米金利低下/ドル安/米グロース株高」の強めな反応が示現。

「金利はどこまで上がるんだ?」の懸念後退により、年末にかけてリスクテイクの広がりによる株高基調は続きそうだ! そんな機運が広がりました。

 が…12月はそんな楽勝モードでしたっけ、日本の新興株って?ということで、過去10年の12月の月間騰落率をまとめてみました。

 日経平均株価と東証マザーズ指数を並べて棒グラフ化しています。

 過去の12月の値動きでいえば、過去4年連続でマザーズ指数の月間騰落率はマイナス。とくに、過去3年は日経平均が上昇しながら、逆行安でマザーズ指数は下落。大丈夫なの? そんな不安を覚えるトラックレコードです。

 12月にマザーズ指数が軟調化する理由として、「IPO(新規公開株)の数が多い」ことが挙げられます。

 IPOの公募株を取得するため、手持ち株を売却するという投資家も一部存在するため、IPO株取得のための換金売りが既存銘柄の売り圧力と言えます。

 ただ、それ以上に大きいのは、初値突撃買いやセカンダリー売買のため、投機マネーがIPOに向かってしまうことが挙げられます。

 IPOがいくら盛り上がっても、マザーズ指数に含まれていないためマザーズ指数へのプラス影響はゼロ。

 また、IPO銘柄にお金が向かうことで、マザーズ指数に含まれる既存銘柄に向かうお金が減ります。

 これは早速、12月2日の東証グロース市場で垣間見えました。この日の東証グロース市場の売買代金ランキングの1~3位を直近IPO(サイフューズ、ウェルプレイド・ライゼスト、ティムス)の3銘柄が独占。

 この日の東証グロース市場の売買代金(1,630億円)のうち25%(400億円)をこの直近IPO3銘柄が占めました。

 投機マネーが「新台」に向かうことで、既存の人気銘柄でいえばマイクロ波化学やプレイドの売買代金が減少し、株価も大きく値下がりしました。

 限りある投機勢の視線、投機マネーが直近IPOに向かうことで、古い銘柄は割りを食う…これこそ、12月が低パフォーマンス化しやすい理由と考えられます。

 とくに、昨年はIPO数が32社と多く、そのうち25社が東証マザーズ(現グロース)上場だったことで悲惨な結果に。

 初値買いへ資金が向かうことで非IPO銘柄(既存のマザーズ指数構成銘柄)の買いが減り、さらにはIPO銘柄も初値買い資金の分散で初値騰落率が抑えられた上、セカンダリーでも軟調という散々な展開に…。

 今年も12月2日時点でIPO予定社数は26と多く、そのうち19銘柄が東証グロース市場に上場を予定しています。同日3社のIPOが予定されている日もあり、年の瀬にかけてIPO密集の傾向は例年通りです。

 また、年の瀬にかけて…ということでは、前回コラムでも書きましたが、個人投資家による節税目的の売りが出るシーズン。

 信用買い残が多く(個人に人気がある)、株価位置が低い(=含み損の投資家が多い)銘柄に関しては、年内に損失を確定させようとする売りが予想されます。

 ただし、ここまで挙げた需給の話でいえば、(1)投機マネーが向かわない(流動性が低い)銘柄にはそもそも関係ない、(2)節税売り対象ではない(信用買い残が少なく、株価も年初来の高値圏)銘柄には全く関係ない、と言えます。

 グロース、スタンダード市場の中で、(1)と(2)に合致する銘柄にスクリーニングをかけてみました。

投機マネーがどこに向かおうが関係ナシ!IPOラッシュ不問の中小型好需給株

スクリーニング条件(1)年初来高値との乖離率が10%未満、(2)売買代金25日MAの時価総額比率2%未満(3)信用買い残の売買高25日MAに対する比率が100%未満、※売買代金25日MAが高い順に列挙

市場 コード 銘柄名 年初来高値
乖離率
売買代金25日MA
/時価総額
信用買い残
/売買高25日MA
スタンダード 8303 新生銀 9.7% 0.4% 38%
グロース 4194 ビジョナル 4.5% 0.6% 91%
スタンダード 2702 マクドナルド 3.4% 0.3% 44%
スタンダード 7716 ナカニシ 5.8% 0.2% 49%
スタンダード 5807 東特線 0.2% 0.8% 15%
スタンダード 4966 上村工業 7.2% 0.2% 64%
グロース 9270 バリュエンスH 8.5% 0.5% 95%
グロース 4933 INE 4.3% 0.4% 80%
スタンダード 3222 U.S.M.H 5.8% 0.1% 15%
スタンダード 4771 エフアンドエム 6.0% 0.4% 51%

 投機マネーが近寄りそうな要素を排除していくと、残ったのは、業績安定感のある中小型株ばかりでした。

 東証グロースの株より地味で堅実なスタンダード銘柄のほうが多く条件に合致しています。

 今年もIPO疲れが広がる時期が来るはずですので、IPOを舞台とした投機勢の戦いは外野で観戦、それくらいのスタンスで良いかとも思われます。