過去3カ月の推移と今回の予想値
11月雇用統計の予想
BLS(米労働省労働統計局)が12月2日に発表する11月の雇用統計の市場予想では、NFP(非農業部門雇用者数)は20.0万人の増加となっています。これは2021年1月以降で最も低い増加数です。
失業率は3.7%で横ばいの予想。平均労働賃金の前月比は+0.3%。前年比は+4.6%で、2022年3月の5.6%をピークに緩やかに下降を続けています。
FRB(米連邦準備制度理事会)は、大幅な前倒し利上げを半年以上続けてきましたが、ここにきて、ようやくその効果が表れはじめたようです。
FRBは今後も利上げを続けるにしても、0.75%という攻撃的な利上げはもはや必要ないとの考えを強めることになりそうです。
10月雇用統計のレビュー
BLSが11月4日に発表した10月の雇用統計では、NFPはヘルスケア部門や製造業の雇用が堅調で、事前予想(19.0万人増)を超える26.1万人増となりました。
2022年の1月から10月までの平均雇用増は42.9万人。2021年の54.8万人と比較すると、雇用の伸びは鈍化しました。また失業率は3.5%から3.7%に上昇。
19歳以上の米国人口のうち、働く意欲がある人の割合を示す「労働参加率」の10月は62.2%で、前回の62.3%からわずかに低下しています。
労働参加率の低さは、労働力リソースの枯渇という構造的な問題であるとの指摘があります。
一方で、米国では毎日のようにスタートアップ企業(まだ世に出ていない新たなビジネスモデルを開発する企業)が生まれ、そこで働く人も増えています。
しかしこの人数はまだ正確に反映されていない。労働市場の急な構造変化に雇用統計が追いついていないのです。
雇用拡大、終わりの始まり? 巨大IT企業の大リストラ始まる
昨年の米雇用市場は、消費増大を見込んで求人が1,000万件以上に膨れ上がりました。
米アマゾン・ドット・コムは毎年秋になると、クリスマス商戦に向けて大型採用を行うのが恒例ですが、1年前の2021年10月には、物流網強化のために日本の小売大手の総従業員数に匹敵する12.5万人の新規採用計画を発表しています。
それでも一時は人手が足りず、出所間近の受刑者までリクルートしたことが話題にもなりました。
ワクチンの普及によって新型コロナ禍をやり過ごした米国経済は本格的に活動を再開し、企業が一斉に新規採用に乗り出したことが背景にあります。
ところが、それから2年がたとうとする今、雇用市場にある変化が起きています。
新型コロナによる行動制限が解除され、消費傾向は「モノ」から「コト」へ移ったといわれます。消費者は家電や家具よりもサービスにお金を使うようになったのです。
レストランやホテルなどの人手不足は相変わらずで、客室清掃や配膳係など比較的低賃金の雇用は今も伸び続けています。ところがその一方で、高賃金のハイテク企業では採用凍結やリストラが増えているのです。
今年のアマゾンは、例年秋の大型採用を中止しただけではなく、1万人の人員削減に着手、来年も追加で実施すると発表しました。
Facebookを運営するメタ・プラットフォームズも従業員の13%にあたる1万1,000人をカット。
米グーグルの持株会社である米アルファベットは、株主からリストラと自動運転車部門の損失縮小を求められています。ツイッターを買収したイーロン・マスク氏は瞬く間に従業員の50%を解雇してしまいました。
「米国のインフレ率を目標値の2%まで引き下げるためには、雇用市場を冷やす必要がある。」これがパウエルFRB議長の考えです。ただしパウエルFRB議長が期待していたのは「良い失業」。
すなわち、労働力人口の増加による失業率上昇です。新型コロナ禍の間仕事を辞めていた人たちも、いずれ雇用市場に戻ってくる。働く人が増えたなら賃金も自然に下がる。FRBはそんな状況を描いていました。
ところが、コロナ禍から世界経済がようやく立ち直ろうかというときにロシアがウクライナに戦争を仕掛けたのです。
ロシアは天然資源を戦略兵器として公然と使用したことで、エネルギー価格が急騰しインフレが暴走してしまった。
FRBは大幅利上げでインフレを制御しようとしていますが、「劇薬」の大量投与によって米経済の健康は損なわれ、企業はリセッションに備えて人員削減に走っています。
その結果、米国の労働市場で起きつつあるのは「悪い失業」。
景気後退のリストラによる人員カットです。「仕事はあるけど、働く人がいない」から、「働きたい人はいるけど、仕事がない」という、真の雇用喪失が発生しつつあるのです。
米国のハイテク企業に起きているリストラ・ラッシュがそれを示しています。
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