香港ハンセン指数、上海総合指数ともにリバウンド

 この1カ月間の株価の動きをみると、香港ハンセン指数、上海総合指数ともに10月31日をボトムとして、リバウンドしています。第20回党大会、一中全会を経て、習近平(シー・ジンピン)一極体制、共産党の社会主義への傾倒が意識されて、10月下旬に下げた両指数ですが、ゼロコロナ政策の精緻化を好感し、戻しています。

注:2021年12月最終取引日の値=100。
出所:各取引所統計データから筆者作成(直近データは2022年11月25日)

 規制が少なく、自由度の高い香港市場では、先物、信用取引が活発で、サプライズ発生時点でのボラティリティは大きくなりがちです。しかし、その後の戻りも早く、それが両指数の値動きの差となって表れています。

 株価はファンダメンタルズの見通しと資金流動性に大きく左右されますが、前者について、中国ではマクロコントロールの影響が大きく、現在は新型コロナウイルスへの対応が第一で、それによって景気が悪化するのを政策によって支えるといった局面が続いています。

 米国による対中強硬策も中国株市場に影響を与える一つの要因ですが、11月14日に米中首脳会談が行われ、米国の対中基本政策に変わりがないことが再確認されました。中間選挙も終わり、有権者を意識して性急に対中強硬策を打ち出すような必要はなくなり、米中関係はしばらくの間、均衡状態が続くだろうとみています。

相場見通しのポイントは、新型コロナと景気対策

 そうであれば当面、相場見通しのポイントは、「新型コロナ」、「景気対策」の二つに絞られます。

 直近の新型コロナウイルスの患者数(海外からの流入者を除く)をみると25日現在、症状のある感染者数は3,405人、無症状の感染者数は3万1,504人でした。この一週間(18日と比較)で、順に1,350人、9,296人増えています。他国と比べれば、決して大きな数ではありませんが、中国は政治的な理由でゼロコロナ政策を緩めようとはしません。

 感染者の出ている地域では、24時間以内に1回のPCR検査が義務付けられるほか、政府機関、食品を扱う小売店を除き、休業を余儀なくされます。中国の都市部の住民はそのほとんどがマンションで生活しています。

 もし、陽性となればそれがわかった時点で同居者全員が直ちに病院などの隔離施設に転送されます。その世帯が暮らす部屋に属する棟は丸ごと閉鎖され、一定期間外出が禁止されます。現在でもこうした厳格なゼロコロナ政策が実施されています。

 美団(03690)の産地直送野菜販売が浸透するなど、新たなビジネスが急成長するといった経済にポジティブな面もありますが、やはり人流の制限は消費に大きな悪影響を与えてしまいます。

 とはいえ、ゼロコロナ政策のシステムとしての完成度が高まれば、「例えば」の話ですが、対応するワクチンの開発を終えた他国が、新型コロナウイルスよりも強力な毒性を持つ「生物兵器」をひそかに中国に持ち込んだとしても、それに対する防御システムとして現在の「ゼロコロナ」システムを利用することができます。

 最新の遺伝子組み換え技術を含むワクチン開発技術で欧米諸国に後れを取っている中国では、国防上、精度の高い防疫システムの構築は必須です。

 中国共産党中央政治局常務委員会は11月10日、新型コロナの予防、コントロール業務をさらに一歩進んで優れたものとするために、二十カ条の措置を取ると発表、翌日にはその具体的な内容を含む通知が国務院から発表されています。

 株式市場では、「濃厚接触者に関する隔離期間について集中隔離7日間、自宅での観察3日間といった規定を集中隔離5日間、自宅での隔離3日間に緩和、変更する」、あるいは「入国者に対して同様に緩和、変更する」、「入国者に対する入国前48時間以内に2回必要なPCR検査を1回とする」といった内容が注目されましたが、他にも、検査を精緻化、合理化、簡素化したり、医療体制を整えたり、経済停滞を引き起こす各組織に対する規制をより柔軟なものとしたりするといった内容も含まれていました。

 今回の通知は、ゼロコロナ政策を一部緩和するという点よりも、ゼロコロナ政策をより完全なものとし、景気への副作用を小さくしようとしている点の方に意義があると考えています。

 直接景気を刺激するための政策も打ち出されています。

 中国人民銀行、銀行保険監督管理委員会は11月12日、「不動産市場が穏やかで健全な発展を遂げるよう金融機関が支持するための足元の業務をしっかりと行うための通知」を発表しました。

 不動産市場に対して金融面から支援するための十六条からなる政策で、不動産会社向け融資、資金繰りに窮した不動産会社に対する救済から個人の住宅ローンまで網羅する、総合的な金融支援策です。

 決して以前のように爆発的に資金供給が行われるといった内容ではありませんが、少なくとも、低迷する不動産市場をしっかりと支え、回復させる効果は期待できそうです。

 11月22日に行われた国務院常務会議では、5月に発表された経済ワンパッケージ政策とそれに続く政策の効果について各地方政府に監督管理グループから人を送ってチェックした上で、十分でなければ実施を促しつつ、経済回復の基礎を固める政策を打ち出すと発表しました。

 これまで、財政金融政策によって重大プロジェクトの建設や、設備の更新、改造を支持してきました。投資を促進させ、消費を喚起するなど、経済を安定させ構造調整するための重要な政策を打ち出してきましたが、その効果は明らかではあるが、まだ大きな潜在能力があると強調しています。

 一方で各地方の実施状況には差があり、いろいろな原因でうまくいっていないところがあり、引き続きしっかりと実施しなければならないと説明しています。

 これまでの政策をブラッシュアップした上で、重大プロジェクトの建設を加速させること、設備更新改造を加速させること、消費を安定させ、拡大させること、引き続きスムーズな物流を確保すること、金融の実体経済への支持力を強化すること、基本的な民生をしっかりと保証することの6点を改めて重要なポイントとして挙げています。

 中国人民銀行は11月25日、預金準備率を0.25%ポイント引き下げると発表しました(実施は12月5日より)。最大で5,000億元程度の長期資金が市場に供給される見通しで、国務院常務会議での決定が早速、実行に移されています。実体経済、特に不動産市場への効果はもちろんですが、本土株式市場においては資金流動性を高めるといった効果も望めます。

 景気に焦点を当てれば、中国はゼロコロナ政策によって景気にブレーキをかけてしまうといった副作用を、総合的な景気刺激策で補おうとしています。

 中国株投資を考える投資家からすれば、香港ハンセン指数が11月16日の場中高値1万8,414ポイント辺りまで上昇した時点でエントリーするのか、それとも10月31日の場中安値1万4,597ポイントまで待つのか、あるいはもっと悲観的に見て、この間の戻り分だけさらに下げた1万781ポイントまで下げるのを待つのか、いろいろと迷うかもしれません。

 しかし、政府のマクロコントロール力が確かだと仮定するならば、ゼロコロナ政策による景気への悪影響が大きければ大きいほど、景気刺激策の規模、強度は上がり、結局景気は持ち直すと予想されます。

香港ハンセン指数が歴史的な安値!リバウンドは大きくなると予想

 現在の香港ハンセン指数が歴史的な安値である以上、ここからのリバウンドは大きくなると予想されるので、ぜひともこのチャンスは逃したくないところです。

 今回の注目銘柄は以下の通りです。リバウンド過程で注目すべき銘柄をピックアップしました。

注1.市場コンセンサスは11月25日現在
注2.テンセント、SMICの直近の業績動向については、足元の状況が知りたいため、四半期ベース(7-9月期)のデータを示した

注目株1:香港証券取引所(00388)

 香港証券取引所、決済機関を運営する組織です。2012年にはLME(ロンドン金属取引所)を買収しており、決済を含め、そちらの経営も行っています。

 収益構造(営業収益の内訳、2022年1-9月期)をみると、取引やシステム利用から得られる収入が39%、決済サービスなどから得られる収入が25%、上場サービスによって得られる収入が11%、保管、委託管理、代理サービスなどによって得られる収入が8%、市場データの提供によって得られる収入が6%、その他が11%です。

 市場別ではLMEでの商品取引による収入は営業収益全体の8%にとどまっており、業績は香港証券取引所の運営に大きく依存する形となっています。

 2022年1-9月期業績は18%減収、28%減益となりました。香港証券取引所の1日当たりの平均株式売買代金は33%減、派生商品の売買代金は19%減となるなど、商いの低迷により大幅減益となりました。

 2022年12月期業績の市場コンセンサスは8%減収、22%減益、2023年12月期は16%増収、23%増収です。

 同社の業績は香港市場の相場付きに大きく依存します。この1-9月期の株式売買代金が過去最悪の伸び率(減少率)となった反動は大きいと予想します。また、長期的な成長要因として、本土とのストックコネクトの規制緩和や、ETF(上場投資信託)商品をはじめとした新商品の開発などに注目しています。

香港証券取引所の月足

期間:過去5年(2017年11月25日~2022年11月25日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株2:中信証券(06030)

 1979年の設立以来、改革開放、現代化建設において大きな役割を果たしてきた中央系国有企業である中国中信集団傘下の証券会社です。総資産、純資産といった規模においても、売上高、純利益といった収益においても、中国最大の証券会社です(2021年12月期決算データで比較、中国証券業協会資料より)。

 もう少し細かいデータを示しておくと、顧客預かり資産、委託管理資産、ブローカレッジ収入、投資銀行業務収入、引受業務収入でもトップです。

 2022年1-9月期は14%減収、6%減益でした。投資銀行業務は前年同期比11%増と健闘したのですが、相場低迷の影響は大きく、主力のブローカレッジ、資産管理業務がそれぞれ前年割れとなり、収益を圧迫しました。

 2022年12月期業績の市場コンセンサスは22%減収、利益は横ばい、2023年12月期は15%増収、19%増益です。

 名実ともに国内トップの証券会社で、本土市場の相場好転で恩恵を受ける銘柄の代表格です。

中信証券の月足

期間:過去5年(2017年11月25日~2022年11月25日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株3:テンセント(00700)

 中国を代表するインターネット・メディア・サービス企業です。ネットゲームのほか、コミュニケーションアプリ(微信、QQ)や、音楽、映像、ニュースなどを提供するSNSなどをプラットフォームとして各種サービスを展開しています。

 部門別売上高(2022年7-9月期)では海外ネットゲームが8%、国内ネットゲームが22%、ネット映像、ライブ配信、音楽などのデジタルコンテンツ、ゲーム用AR機器が21%、オンライン広告が15%、コード支払(微信支付)による決済、金融サービス、クラウド業務などが32%、その他が2%です。

 粗利益ベースではゲーム、デジタルコンテンツなどが61%、オンライン広告が16%、決済、金融、クラウドなどが24%、その他が▲1%です。

 2022年7-9月期業績は2%減収、1%増益でした。微信(海外向けWeChatを含む)の月ベースの平均アクティブユーザー数は3.7%増の13億890万人で増勢を維持しています。決済、金融、クラウドなどは4%増収と堅調でしたが、国内ネットゲームが7%減収、オンライン広告が5%減収と不振でした。なお、2022年1-9月期業績は2%減収、37%減益でした。

 2022年12月期業績の市場コンセンサスは売上高は横ばい、49%減益、2023年12月期は11%増収、19%増益です。

 香港市場は欧米機関投資家の売買ウエートの高い市場です。流動性が高まる局面では香港市場を代表するテンセントのような銘柄に資金が流入すると予想します。本業については、ゲームの成長力が落ちている点が気がかりですが、13億人ものアクティブユーザーを獲得している国民的アプリ「微信」の持つ強みは健在です。

テンセントの月足

期間:過去5年(2017年11月25日~2022年11月25日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株4:SMIC(00981)

 中国最大、世界有数の半導体ファウンドリで、台湾系経営者が中国側の要請を受けて設立した民営企業です。

 地域別(2022年7-9月期)では北米が20%、中国、香港が70%、欧州・その他アジアが10%。半導体ウエハーの売上高は93%で、その用途別内訳はスマートフォンが26%、デジタルテレビ、ルーター、Wi-Fiを必要とするスマート家電、コンシューマーエレクトロニクス製品などが38%、その他が36%です。

 2022年7-9月期業績は35%増収、47%増益でした。表面上は好業績ですが、この1年で設備の増強を進めている点、4-6月期との比較では売上高は横ばい、利益面では9%ほど減益となっている点などを考慮すると、必ずしも好業績と評価するわけにはいきません。また、7-9月期の設備稼働率は92.1%で、前年同期の100.3%、4-6月期の97.1%と比べると落ちています。

 2022年12月期業績の市場コンセンサスは35%増収、10%増益、2023年12月期売上高は横ばい、25%減益です。

 欧米を中心にグローバル経済の見通しの悪さ、足元でのスマホやスマート家電類の需要の弱含みに加え、対中国企業を対象とした米国による半導体輸出規制の影響がどの程度になるのか不透明であることなど、懸念材料があります。

 しかし、株価はそれを織り込んで低位な水準にとどまっています。評価したい点は、米国による対中強硬策が加速すればするほど、当局による半導体産業への支持は強化されるだろうという点です。また、テンセントと同様、流動性が高まる局面では資金が流入しやすいと予想します。

SMICの月足

期間:過去5年(2017年11月25日~2022年11月25日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株5:iシェアーズ・FTSE・チャイナ・A50(02823)

 ブラックロック社が運用するFTSE中国A50指数に連動することを目的としたETFです。

 FTSE中国A50指数は上海、深セン証券取引所に上場する時価総額上位50社から構成される指数で、貴州茅台酒(600519)中国工商銀行(01398)中国農業銀行(01288)ペトロチャイナ(601857)中国人寿保険(601628)といった中国本土A株の中でも大型株の株価の動きに連動する指数です。

 本土A株市場が現在、底値水準にあるとの予想を前提にすれば、比較的リスクを抑えて本土A株への投資ができる点に注目しています。

iシェアーズ・FTSE・チャイナ・A50の月足

期間:過去5年(2017年11月25日~2022年11月25日)
出所:楽天証券ウェブサイト