▼お話を伺った方

GAIA株式会社
ファイナンシャルアドバイザー
 新屋真摘(しんや・まつみ)さん

大手生命保険を経て、女性が気軽にお金の相談ができる場所をつくりたいという思いでFPオフィスを設立。2014年から現職。ファイナンシャルアドバイザーとして資産運用の提案を、ファイナンシャルプランナーとして保険、住宅ローン、相続など総合的な視点でのアドバイスを行う。

 老後資金、住宅資金と合わせて人生の三大資金といわれるのが教育費。総額では大きな支出になるため、子どもを持つ家庭やこれから子どもが欲しい人にとって、教育費をどう準備するかは頭の痛い問題です。そこで今回は、今どきの教育費事情と投信積立を使った準備の秘訣(ひけつ)について解説します。

教育費にまつわる三つの傾向

 一般に、子供一人あたりの教育費は300万~500万円を大学進学までに貯めると良いとされています。わたしもこれまでの相談では、教育費として最低でも300万円程度を準備するようアドバイスしてきました。

 特に中学受験をする家庭では、10歳くらいまでの間に貯めるようにお勧めしてきたのですが、最近の教育費事情を鑑みて、より早めに多めに準備した方が良いと感じています。なぜなら以下の三つの傾向が挙げられるからです。

◆第一に小学生の学校外教育費の増加です。

 共働き家庭の子育てを支えるサービスとして定着してきたのが、主に小学生を対象とした民間の学童サービスです。

 夕食を出してくれたり宿題を見てくれたり、習い事ができたり、子育てと仕事の両立に悩む親にとって、とてもありがたいサービスであることに間違いはないのですが、利用の回数が増えるとその分費用がかさみます。費用の目安は週1回2万円程度、平日毎日利用すると年間100万円を超える支出になることもあります。

 中学受験のための進学塾は入塾年齢の低学年化が進んでいます。今の親世代が小学生の頃は、中学受験のための塾通いは小学校4年生にあがる春休みくらいから検討する家庭が一般的でした。最近は小学2年生くらいから入塾する傾向があり、塾通いが始まると低学年でも年間50万円程度の塾代がかかります。

◆第二に留学希望者の増加です。

 この数年はコロナの影響で海外留学する人は激減しているものの、コロナ以前は、日本から海外の学校に留学する人が年々増加の一途をたどっていました。「語学を身に付けたい」「海外で学びたい」「若いうちに海外で見聞を広めたい」「就活に有利」など留学を志す理由はそれぞれですが、コロナが収束すれば、留学希望者数も復活することが予想されます。

 留学費用は留学先や留学期間によってさまざまで為替による影響も受けますが、1カ月までの短期なら50万円程度、1年なら300万~500万円が目安です。提示された条件をクリアし大学が用意したプログラムで留学すると、学費が援助されたり海外で取った単位を卒業に必要な単位に振り替えてもらえたりする場合があります。

 その枠に囚われず自由にカリキュラムや留学先を決めると、留学期間によっては卒業が遅れることになります。

◆第三に晩婚晩産化の影響です。

 2019年の平均初婚年齢は、夫 31.2歳、妻 29.6歳、同年の第1子出生時の母の平均年齢は30.7歳ですが、東京で相談を受けている私の肌感覚としては、35歳で結婚、40歳以降に出産も珍しくないと感じます。

 晩婚化、出産の高年齢化に伴い、50代後半や60歳を過ぎてから教育費のピークがくるケースが増えています。個人差はあるものの、会社員の場合50代後半から60代にかけては、役職定年や再雇用などで収入が減少する家庭が少なくありません。

 子どもを遅く授かった場合、祖父母の高齢化もすすむため、ちょうど子どもにお金がかかるときに介護のため仕事をやめたり、ペースを落とさざるを得なくなるケースもでてきます。

 祖父母が認知症になってしまって、当てにしていた実家からの贈与が受けられなくなったといったといったお話をお聞きすることも。晩婚化で住宅購入時の年齢も上がっており、50代では住宅ローンの残債がまだまだ残っている家庭も多く、老後のための貯蓄まで手が回らないのが現状です。

 相談の現場を通じて、子どもの教育費に関しては、親の計画通りにいかないことを痛感しています。先日も「子どもが大学4年生になりいよいよ卒業、就職も決まってようやく教育費負担から開放されると思っていたら、単位が足りなくて卒業できなかった」といったお話を聞くことがありました。

 よくある浪人や留年、大学院への進学以外にも、子どもの進路では

・薬剤師などの国家試験や公務員試験に不合格になったため、翌年再受験となった
・希望の業界や企業への就活が失敗したので、あえて留年して再チャレンジする
・いったん入学したものの、どうしても医師や法律家を目指したいので、もう一度受験からやり直したい

など、想定外が起きることが多いのです。

 ただでさえ、50代後半に教育費のピークがくると家計は厳しくなるのに、そこに想定外の教育費の増加が重なるとリカバーがきかなくなり、60代での資金計画の行き詰まりを招いてしまうこともあるのです。

 こういった理由から今まで以上に、子どもが小さいうちから、教育費を多めに貯めておくことをお勧めしています。幸いにも保育園の無償化が始まり、未就学児にかかる教育費の負担が軽くなっています。小学校にあがる前にしっかりと貯蓄に回せるかどうかであとの余裕度が変わってくるはずです。

投信積立を使った教育費準備。三つの秘訣とは?

 では、教育費を有効に準備するにはどのような金融商品を使うと良いのでしょうか。

 教育費づくりの王道と言われた学資保険ですが、長引く低金利で返戻率が落ち、残念ながらその魅力度は低下しています。学資保険を使わずに教育費を貯めるなら、投信積立で準備するのも一つの方法でしょう。

 子どもが産まれてから教育費のピークを迎えるまで、10~20年の時間を味方につけて、長期で時間分散をしながらコツコツと積み立てれば、しっかりと増やせる可能性があります。

 そもそも、学資保険が子どもの教育費づくりに向いているとされていた理由には

・満期時の受取額が決まっている
・保障機能があるため親に「万が一」が起きても、決まった金額が準備できる
・「学資」の名前がついているので、住宅や車の購入費用など他の支出と切り離して貯蓄ができる

といった特徴があるからでした。

 こうした特徴と照らし合わせて、投信積立を使う場合は以下の3点に気をつけるとよいでしょう。

【1】投信積立のみで準備するのではなく、必ず現金の預金を持っておく

 何年後にいくらかが決まっている学資保険と違い、投資信託の評価額には値上がりや値下がりがつきものです。子どもの教育費はお金が必要になる時期がおおむね決まっているので、投信積立のように値動きのあるもので学費を準備する場合は、下がったときに売らずに価格の回復を待てるように、一時的に立て替えられる現金を持っておくことが必要です。

 教育費づくりのために行う投信積立では、特定の国やテーマに偏ったものではなく、世界に広く分散投資をしている投資信託が向いています。

「増やす」を考えるならば、全世界株式型のインデックスタイプの投資信託を使ってコツコツ積み立てるのがお勧めです。ただし、株式100%の運用では、場合によっては30%以上の下落や、価格の回復に時間がかかるケースもあります。2020年3月、コロナが世界中に広がって一時的にマーケットが大きく下げたことが記憶にある人もいるのではないでしょうか。

 子どもの進学時期などお金が必要なタイミングを考えながら、その2~3年前から、株式100%の運用から債券も組み入れたバランス型の運用にポートフォリオを見直す、徐々に利益確定をするなどリスクを少しずつ落としていくとよいでしょう。

 自己流では不安という人は、IFA(独立系金融アドバイザー)や運用に詳しいFP(ファイナンシャルプランナー)などのアドバイザーに相談すると安心です。

【2】万が一に備えて保障を見直す

「万が一」の言葉のとおり、働き盛りで死亡したり重い病気にかかったりする確率はとても小さいとしても、決してゼロになることはありません。将来の健康状態はだれにもわからないのです。

 子どもが独立するまでに親にもしものことが起きれば、教育費の積み立てどころではなくなります。学資保険を使わないなら、万が一のときでも十分な教育費が確保できるのか、加入中の保険の保障金額や内容の確認が必要です。

【3】学費は子ども一人ずつ、他の資金と分けて積み立てる

 学費用に投信積立を使う場合でも、他の資金と区別することは必要です。兄弟姉妹がいる場合は、上の子に想定以上のお金がかかって下の子の進学プランに影響が出ないよう、一人ずつ準備することもお勧めしています。

 子ども名義の証券口座を開設する、夫婦それぞれの証券口座で子ども一人分ずつ積み立てる、銘柄を子どもの人数分わけて積み立てる、などのやり方がわかりやすいでしょう。

「本当は地方に行きたい大学があったけれど、兄の進学にお金がかかったので親に言い出せなかった。かけてもらった教育費が違うのに、親の相続では均等に遺産を分けると聞いてモヤモヤした」といった心情をお聞きしたことがあります。

 想定外の教育費支出で他の兄弟姉妹にしわ寄せがいくと、当時はなんとかつじつまが合ったようにみえてもあとあとトラブルの種になりかねないのです。

 将来子どもがどんな選択をしても、できる限りは応援してあげたいと思うのが親心です。

 早い段階からお金を貯めてしっかり増やせれば、その後想定外の進路変更が起きたとしても、お金にも気持ちにもゆとりを持って対応できるのではないでしょうか。