感染拡大:中国における新型コロナの「今」。W杯観戦は不確定要素
立冬入りし(11月7日)、中国で新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化しています。
直近の新規感染者数を見てみると、11月16日2万3,276人、17日2万5,353人、18日2万4,473人、19日2万4,435人、20日2万7,095人、21日2万8,127人と高止まりしており、感染者数ゼロという政治目標を掲げてきた中国政府としては、看過できない状況が続いています。
地域的には広東省における感染者数が最大ですが(21日時点で全国新規感染者数全体の約3分の1を占める)、首都・北京でも予断を許さない状況です。北京の新規感染者は20日時点で962人と、前日の621人から増加。2人の死亡者も確認されました。市内の主要地域における一部の学校で対面形式での授業が停止されたり、居住区が封鎖されたり、商業施設が営業停止に追い込まれたりしています。
この期間、コロナ抑制という意味で一つの不確定要素になり得るのが20日に開幕したワールドカップ(W杯)です。私も北京で生活をしていたとき経験をしたことがありますが、中国の多くの人々は自国が出場していない状況下ではあるものの、W杯の観戦に熱狂的で、スポーツバーやレストランでは多くの市民が集まって観戦します。
また、私の周りでもいましたが、企業のトップがサッカーファンだったりすると、W杯期間中は会社を休みにして観戦に集中、しかも往々にして知人や同僚同士でお金を賭けます。今でもよく覚えていますが、2010年の南アフリカW杯で、スペイン優勝に賭けた私の知人は、30万元(今のレートで約600万円)を現金で手にしていました。
W杯開催期間中、しかも自国が開催しているわけでも出場しているわけでもない中で、市民の公共の場における熱狂的観戦が原因で新型コロナが感染拡大する状況を、当局は生じさせたくないでしょう。先日、動画配信サイトの運営業者などを対象に、W杯中継に関し、「観客のマスク未着用や集団でお祭り騒ぎしている場面を突出させ、国内の新型コロナ状況や政策と結び付けてはならない」と指示する緊急通達を出したのもうなずけます。
緩和の兆し:中国における「ゼロコロナ」策の今
11月9日に「党大会後の中国『ゼロコロナ』策はいずこへ」と題したレポートを配信しました。「ゼロコロナ」という看板は下ろさずに方針は貫くけれども、中央政府は地方政府への監視と指導を強化することで、非合理的で科学性に欠ける抑制措置を容認しなくなる。これまで以上に柔軟かつ機動的な政策をとることで、経済活動や国民生活への影響を最小限に抑えるべく動いていくという見込みを示しました。
2日後の11日、担当当局である国家衛生健康管理委員会が、「新型コロナウイルス感染拡大の予防抑制措置をより一層最適化し、科学的で精密な防疫を着実に実行する通知」を発表。通知の核心的内容・メッセージは、従来の方針を調整しようとする20から成る措置(以下「20か条」)です。「20か条」には、以下のような措置が含まれます。
・濃厚接触者、および中国への入国者に対する隔離措置に関して、従来の「7日間の集中隔離+3日間の自宅健康観察」から「5日間の集中隔離+3日間の自宅隔離」に調整
・これまで「濃厚接触者の濃厚接触者」に対して7日間の自宅隔離を求めていたのを、「濃厚接触者の濃厚接触者」の判定を行わないと調整
・リスク等級に関して、従来低・中・高の3段階に設定していたのを低・高の2段階に調整
・高リスク地域からの来訪者に対する隔離措置に関して、従来の「7日間の集中隔離」から「7日間の自宅隔離」に調整
・中国渡航前のPCR検査に関して、従来、搭乗前2日前に1回、出発24時間以内に1回だったのを、48時間以内の1回の検査で陰性証明を取得すればよいと調整
・安易、身勝手に学校封鎖、学級停止、工場生産停止をしたり、批准を経ずに交通の流れを遮断したり、都市封鎖をしたり、長時間封鎖を解除しなかったりという行為を厳しく禁止
中央政府として、「ゼロコロナ」という看板を下ろせない中で、それなりに踏み込んだ緩和策を打ち出したという印象を私は抱きました。調整前後の措置も、抽象論ではなく、具体的な数字を示したということで、当局の本気度、裏を返せば、危機感が伝わってきます。
危機感の対象は主に三つあると見ています。
(1)市民の不満がまん延し、社会不安の形成につながること
(2)経済活動への悪影響が継続し、景気が上向かないこと
(3)国際社会、特に市場関係者が、中国という国家、市場への自信と期待値を一層失うこと
故に、中国当局としてもできる範囲で思い切った措置を打ち出したということでしょう。
今後の見通し:「ゼロコロナ」策は解除されるのか?
今後の見通しですが、私は三つの点に注目しています。この3点は同時に、「マーケットのヒント」にもつながるでしょう。
一つ目が、足元の感染拡大がどう推移するかです。前述の北京を含め、中国の冬は全国的に寒く、ウイルスの感染拡大は他の季節に比べて容易に起こるでしょう。「20か条」で具体的な緩和措置は打ち出されたものの、例えば、今年4月の上海市のように、一つの地域で1日の感染者数が2万人を超えるような状況になれば、地方政府はロックダウン(都市封鎖)措置に踏み切るでしょう。その意味で、北京や広東という主要地域で感染が広がっているのは要注意です。
二つ目が、足元若干緩和された「ゼロコロナ」策が今後一層緩和する、あるいは解除の方向に向かうかどうかです。「20か条」は、中央政府としてそれ相応の準備と覚悟を持って打ち出したものであり、党大会後というタイミングでのメルクマール(指標)にしたかったと言えます。緩和と規制双方の強化を含め、感染拡大状況に伴い微調整は続けるでしょうし、国家衛生健康委員会の担当者が強調するように、「ゼロコロナ」策を「ウィズコロナ」にシフトするわけでは決してありません。時期として次の節目になるのは、来年3月の全人代でしょう。方向性としては、現状の政策を一層緩和するというものになると想定されます。
三つ目が、経済への影響がどうなるかです。2022年7-9月期のGDP(国内総生産)実質成長率は3.9%増と、4-6月期の0.4%増からは上向きましたが、年間目標の5.5%を達成するのは「ほぼ不可能」というのが大方の予測です。昨今の感染拡大も影響し、10-12月期も明白な景気回復は期待できそうにありません。2022年の中国経済は3%台に落ち着くのが現実的で、場合によってはそれを下回るかもしれません。
中央政府による具体的な緩和策を受けて、米ウォール街が中国市場、中国株への期待値を上方修正しているという情報も聞こえてきますが、引き続き、「中国はどうなるのか」に関して、予断を許さない状況が続くと思われます。
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