実は、世界は民主的ではない!?

 今回は、あらゆる市場を内包する社会情勢をできるだけ広い視点で観察し、今後のコモディティ(国際商品)価格の動向を考えるヒントを探します。以下は、スウェーデンのヨーテボリ大学のV-Dem研究所が公表する、自由民主主義指数の状況です。

図:自由民主主義指数(2021年)

出所:V-Dem研究所のデータおよびMapChartをもとに筆者作成

 青が濃いほど自由で民主的であり、赤が濃いほどそうでないことを示しています。行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由・民主主義的な傾向を示す複数の側面から、このデータは計算されています。

「今、世界は民主的か?」と問われたとき、どう答えればよいでしょうか。上の図を参考にすれば、「どちらかといえば非民主的」と答えてしまいそうになります。民主的ではない国の数、その国にすむ人口という、数の面でいえば、民主的ではない国が優位だからです。

 以下より、この指数の推移を確認します。

近年、民主的な国は減少傾向に

 実は近年、民主的な傾向が強い国(指数が0.6以上の国)の数は減少傾向にあります。逆に民主的でない国(同0.4以下の国)の数は増加傾向にあります。以下がそれらの推移です。

図:自由民主主義指数0.4以下および0.6以上の国の数(1945~2021年)

出所:V-Dem研究所のデータをもとに筆者作成

 民主的な国の減少、民主的でない国の増加がはじまったのは、2016年ごろからでした。2016年というと、英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票で離脱派が勝利したり、トランプ氏が米大統領選挙で勝利したりした年、他よりも個を重視するムードが高まった年です。

 第二次世界大戦直後、民主的でない国は徐々に減少し、それと同時に民主的な国が増え始めました。戦後体制が整う中で、国際的な枠組みやルール整備が進み、社会が民主的であることが良いとされるムードが高まっていた時代です(民主的であることが平和を呼び込むきっかけでもあった)。

 しかし、ベルリンの壁崩壊(1989年)、EU発足(1993年)などが実現した1990年あたりから、民主的な国は増加しなくなります。民主的でない国の減少はまだ続いていたため、民主的であることが否定される時代に入ったわけではなかったものの、民主的であることが推奨されにくくなったことがうかがえます。なぜ、民主的であることが推奨されにくくなったのでしょうか。

「ルール乱立」は「不自由の温床」

 1990年ごろから、民主主義を良しとする国で、ある変化が生まれていました。「ルールの乱立」です。以下は、日本における法令と条約の数です。

図:日本における現行法令・条約の数

出所:e-Govポータルのデータをもとに筆者作成

 1990年代に法律の制定や条約の締結が加速したことが分かります。

 立法体制が充実している民主主義国家では、何か問題ごとが起きたとき、ルールを作り、以後、同様の問題が起きないようにします。また、新しいことを始めようとしたり、新しいことが起きたりしたときも、ルールを作り、そうしたことが社会に害を与えないようにします。民衆の意見を反映させ、ルールを作ることもあります。

 民主的であればあるほど、そして時間がたてばたつほど、ルールは増えるわけです(廃止されるルールの数よりも制定されるルールの数の方が多い)。グラフのとおり、法律だけではなく、他国と結ぶ条約も、民主的であればあるほど、そして時間がたてばたつほど、増える傾向があります。

 ルールが乱立すると何が起きるのでしょうか。できないことが増えます。できないことが増えると、窮屈さや不自由さが強まります。「純粋化すればするほど、不安定化する」と述べたのは、日本の著名な経済学者である岩井克人氏です。これは同氏が資本主義の本質について語った際に用いたフレーズです。

 民主主義体制下ではルール作りが絶えず行われています。主な目的は、社会の中の問題を解決するためですが、その果てに到達する「純粋な社会」はどのような社会なのでしょうか。岩井氏の言葉を借りれば、「不安定な社会」となるのではないでしょうか。

危機勃発後、民主主義と距離をおく国が増加

 民主的な国の数が減少し始めている中、新型コロナがパンデミック化したり、ウクライナ危機が勃発したりしました。特にウクライナ危機勃発は、民主的な国の数の減少傾向が強まる要因になっていると考えられます。

 同危機勃発後11月14日までに、国連総会で行われたウクライナ危機関連の4回の決議で一度も賛成しなかった国が多いことがわかります(賛成しない=ロシアを否定しない)。

図:ウクライナ危機関連の4回の国連決議(2022年)で賛成していない国

出所:国際連合などのデータをもとに筆者作成

 世界全体で見て、「ロシアを否定しない」国々の数はおよそ五つに一つ、その国に住む人口はおよそ2人に1人です。「数」の面で見て、ロシアへの否定はそれほど強いものではないように、感じます。

 また、自由民主主義指数に注目すると、対象となる41カ国平均で「0.22」と、「民主的ではない」ことが強くにじみ出ています。ざっくり言えば、「民主的でない多くの人々がロシアを否定していない」ことになります。

 民主的であることの対極にある「権威主義的であること」の象徴であるロシアが、民主的でない国を先導している構図が出来上がっているといえそうです。危機勃発がロシアへの求心力を強め、そうした国々が吸い寄せられているように見えます。

旧ソ連、産油国、アフリカ資源国はロシア寄り?

 具体的な、ロシアに吸い寄せられているとみられる国々を確認します。以下は、11月14日に行われた「ロシアに対してウクライナ侵攻による損害の賠償を要求」する決議の結果です。193カ国中99カ国が、反対・棄権・未投票などの行動をとり、ロシアを否定しませんでした(賛成94よりも多い)。

図:国連決議(11月14日)「ロシアに対してウクライナ侵攻による損害の賠償を要求」

出所:国際連合などのデータをもとに筆者作成

 カザフスタン、タジキスタン、キルギスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンなどの旧ソ連諸国が名を連ねています。また、サウジアラビア、UAE、アルジェリア、マレーシア、リビアなどのOPECプラスの国々の名前を確認することもできます。その他、南アフリカ、ウガンダ、中央アフリカ、ジンバブエなどのアフリカの資源国もいます。

 旧ソ連、産油国、アフリカ資源国。これらは「ロシアに反対しない」国々が属する主なグループだといえるでしょう。もともとロシアに従属的だった歴史を持っていた、危機勃発がきっかけで起きた原油高で恩恵を受けている、水面下で資源関連の投資が加速している(と報じられている)など、こうしたグループの国々は、ロシアを否定する動機が薄い国々といえるでしょう。

 ロシアを「否定しない」国々の多くは、民主的の度合いを示す数値が低く出ています。こうした国々はロシアの強い求心力に吸い寄せられて一つの塊となり、反民主主義・反西側体制を構築しているように、見えます。

「分断」は今後もインフレを加速させる要因に

 以下の図のとおり、今、私たちが直面しているコスト・プッシュ型インフレ(原材料価格高による物価高。需要がけん引して起きるデマンド・プル型の物価高ではない)には、ロシアを否定しない国々の思惑が絡んでいると考えられます。

図:世界的なコスト・プッシュ型インフレ加速の経緯(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 図の中央で示した、「出さないロシア」「産油国による口先介入」などが、それにあたります。「出さないロシア」は、制裁目的で「買わない」運動を繰り広げている西側(資本主義陣営)に対抗するためのもの、「産油国による口先介入」は、「脱炭素」を推進する西側の運動に対抗する価格維持策として実施されている節があります。

 そう考えれば、仮に「先に手をだした(事態が悪化するきっかけをつくった)のは、西側(資本主義陣営)とロシア、どちらか?」という問いに答える機会があったとすると、「西側(資本主義陣営)」と答えても間違いにはならない気がします。プーチン大統領は演説で「西側」を批判しますが、根底にはこのような考え方が、あるのかもしれません。

 ウクライナ危機は、民主主義陣営と非民主主義陣営の間の溝を深くしています。同危機は、数年単位の民主主義陣営の国数減少に拍車をかけるきっかけになる可能性もあります。こうした相いれない「考え方」の相違は、第3者が介入することで折り合いが付くケースがありますが、世界を巻き込んだ「分断」ゆえ、第3者を探すことすら困難な状況にあるといえます。

 それは、危機が長期化すること、引いてはコスト・プッシュ型のインフレが長期化する可能性があることを、示唆していると筆者は考えています。

 今回は民主主義を否定的に見つつ(逆さから見つつ)コモディティ価格の動向を考察しました。

[参考]コモディティ(全般)関連の具体的な銘柄

投資信託

iシェアーズ コモディティ インデックス・ファンド
ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)
eMAXISプラス コモディティ インデックス
SMTAMコモディティ・オープン

ETF

iPathピュア・ベータ・ブロード・コモディティETN(BCM)
インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド(DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(GSG)