ウォーレン・バフェットが半導体のTSMCに大規模投資!7-9月期は石油株の保有を積み増し

 米著名投資家バフェット率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)が14日、SEC(米証券取引委員会)に2022年9月末時点のフォーム13Fを提出した。

 以下は前回8月15日に発表された2022年6月末時点とのポジションを比較したものである。

バークシャー・ハサウェイの保有する米上場株式(緑:新規ポジション 赤:売却)

出所:フォーム13Fより石原順作成

 7-9月期の株式への投資は約90億ドルで、その多くは石油大手オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)シェブロン(CVX)など、エネルギー企業に振り向けられた。バークシャーは9月末時点でシェブロンを約240億ドル保有しており、第3位の大株主に躍り出た。

オクシデンタル・ペトロリアム(日足)

(緑↑:買いシグナル・赤↓:売りシグナル)
出所:石原順

シェブロン(日足)

(緑↑:買いシグナル・赤↓:売りシグナル)
出所:石原順

 今回のフォーム13Fでの大きなサプライズは、台湾の半導体製造大手TSMC(TSM)の株式を新たに取得したことだろう。株数にして6,010万株、額にして約41億ドルの大きな投資である。

TSMC(米国市場ADR日足)

(緑↑:買いシグナル・赤↓:売りシグナル)
出所:石原順

 その他には米国の建材メーカーであるルイジアナ・パシフィック(LPX)を2億9,700万ドル(580万株)、ジェフリーズ・ファイナンシャル(JEF)を1,300万ドル(43万3,558株)取得した。一方、9月に非公開化で合意した不動産会社不動産投資信託ストアキャピタル(STOR)を手放した。

バークシャーが持つ上場株式の保有割合(6月末時点のフォーム13Fより)

出所:フォーム13Fより石原順作成

 バークシャーの9月末時点の保有株トップ5は、アップル(AAPL)バンクオブアメリカ(BAC)コカ・コーラ(KO)シェブロン(CVX)アメリカン・エキスプレス(AXP)と前回から変わっていない。

 アップルは引き続きバークシャーの株式ポートフォリオの約40%を占めている。シェブロンとオクシデンタルの保有を合わせると割合は12%となり、石油株がアップルに次ぐウエートを占めている。また、今回新たに投資したTSMC(TSM)については10位に入った。

アップル(日足) 

(緑↑:買いシグナル・赤↓:売りシグナル)
出所:石原順

世界の分断が深まる中、TSMCは岐路に立たされている?

 そのTSMCが先月13日に発表した2022年7-9月期の決算は、売上高と純利益がともに四半期として過去最高を記録した。売上高は前年同期比47.9%増の6,131億台湾ドル、営業利益は81.5%増の3,103億台湾ドルと、大幅な増収増益となった。

TSMCの売上高・営業利益・営業利益率の推移

出所:決算資料より石原順作成

 年初から進めた受託生産の値上げが浸透していること、また為替の米ドル高・台湾ドル安も押し上げ要因となり、営業利益率は50%台に達した。

TSMCの用途別売上高の割合と前四半期からの変化率(2022年第3四半期時点)

出所:決算資料より石原順作成

 スマートフォンやパソコン向けの需要が落ち込んでいることから、半導体市場は在庫調整に直面している。WSTS(世界半導体市場統計)によると、半導体の世界売上高は7月に2%減と、32カ月ぶりに前年同月を割り込み、8月には4%減と減少率が拡大した。

 こうした逆風にさらされているにもかかわらず、なぜ、TSMCはここまで高い利益を上げることができるのか。その秘密はTSMCが1987年の設立以来、35年間にわたって半導体の受託製造という「一つの井戸」を掘って競争力とサービス水準を高めてきたことにある。

 韓国の経済紙である「THE KOREA ECONOMIC DAILY」は先月11日、今年7-9月期の半導体売上世界1位は台湾のTSMCだったと報じた。

 これまでの直近4四半期は、韓国のサムスン電子がトップの座をキープしていたが、今回初めてファウンドリー、つまり半導体の受託製造を請け負うTSMCが1位に躍り出た。今やファウンドリー市場は1,300億ドルと巨大なマーケットに成長している。

 日本経済新聞の先月13日の記事「台湾TSMC、設備投資1割減 業界先行きに不透明感」によると、半導体市場は主に、演算を担う「ロジック」と記憶を担う「メモリー」に分けられる。

 メモリーは一般的に汎用性が高く、需給の影響を受けやすいため、販売価格が変動する傾向にある。一方、TSMCは価格変動が緩やかなロジック半導体を主力としているため、市況に振り回されにくい特徴を持っている。サムスン電子が首位を明け渡した要因は主力製品であるメモリー市場が悪化していることによるところが大きい。

 また、技術力で先行するTSMCは、半導体や電子機器のメーカーにとって最優先の生産委託先となっている。一部のデバイスメーカーからの受注が減ったとしても、次々と他のメーカーからの受注で補われると言う。このため、工場稼働率は極端には落ちず、顧客との価格交渉も有利に進められる。従って、高い利益率を達成することが可能なのである。

 ただし、懸念材料がないわけではない。TSMCの工場稼働率はフル稼働だった過去3年間と比べると、それほど高い水準ではない。市況の変化に対応する形で、2022年12月期通期の設備投資額を引き下げた。期初時点の予想は400億~440億ドル、7月時点で「下限(400億米ドル)に近くなる」と説明、今回はそこから1割削減の360億ドルになりそうだとしている。

 TSMCを取り巻くリスクは他にもある。米国政府による半導体関連の先端技術を対象とした中国への輸出規制の強化である。バイデン政権は7日、国家安全保障上の懸念を理由に、一定水準以上の高性能半導体をつくる製造装置などについて、中国向けの輸出を制限する内容を示した。

 今回の措置は、中国に先端半導体を販売したり、中国企業に対し独自の先端半導体の製造が可能な装置を提供したりすることを防ぐのを目的としており、同盟国の企業も対象としている。米国はさらなる制限を求めていく方向で、今後、中国向けの輸出が厳しく制限される可能性がありそうだ。

 米中対立が深まり、世界の分断が色濃くなる中、グローバルに事業を最適化して成長してきた半導体市場が踊り場を迎えている。米国政府による規制は中長期的にはTSMCにとっても事業の足枷になる可能性がある。

第4四半期からバークシャーの業績にオクシデンタル・ペトロリアムの収益が計上される

 最後にバークシャー・ハサウェイの業績も確認しておこう。5日に発表した第3四半期(2022年7-9月)の決算によると、最終損益は26億8,800万ドルの赤字に転落した。(前年同期は103億4,400万ドルの黒字)

 FRB(米連邦準備制度理事会)が異例のペースでの利上げが継続する中、市場が混乱したのに伴い、保有している上場株の評価損益が悪化した。最終損益には保有する上場株の評価損益を反映する必要がある。上場株を多く保有するバークシャーの最終損益はブレが大きくなる。このため、バフェットは「最終損益には意味がない」と語っている。

 なお、事業の収益力を映す営業利益は前年同期比20%増の77億6,100万ドルだった。保有する株式のパフォーマンスばかりが注目される傾向にあるが、バークシャーは傘下に鉄道、保険、公益事業などを持つコングロマリットである。

 こうした事業から得られる利益が増えており2割の増益となった。今回はとりわけ、金属の精密加工事業が航空宇宙分野の需要増により好調だったという。

 自社株買いについては継続しており、7-9月期には10億5,000万ドルの自社株買いを行った。9カ月間の自社株買いの累計は52億5,000万ドルとなった。一方、9月末の現金ポジションは約1,090億ドルと、6月末の1,054億ドルに対し、若干増加した。

 今後、バークシャーの収益に貢献すると期待されるのが、買い増しを続けてきたオクシデンタル・ペトロリアムの業績だ。バークシャーは保有するオクシデンタル・ペトロリアムについて持分法を採用した。これによりバークシャーは第4四半期から、オクシデンタル・ペトロリアムの業績を1四半期遅れで自社の業績の中に含んで公表することになる。

 ロイターの記事「Berkshire Hathaway could boost earnings after Occidental accounting change(バークシャー・ハサウェイは、オクシデンタルの会計変更後に収益を押し上げる可能性がある)」によると、アナリストは平均してオクシデンタル・ペトロリアムが今年100億ドル以上の利益を計上すると予想しているとのこと。

 オクシデンタル・ペトロリアムによる利益貢献がどの程度になるか、このことが確認できる第4四半期からの業績にも注目したい。

ショートスクイーズが発生:ドルの暴落に伴い、株式、債券、金が急騰

 CPI(消費者物価指数)の予想より低い数値を受けて、ウォール街で弱気派として特に有名な米モルガン・スタンレーのウィルソンは、「最近の米国株の上昇はまだ終わっておらず、今後数週間は続くはずだ」と繰り返し述べている。同時にウィルソンは、「これは最終的には、弱気相場のラリーであると考える」と指摘している。

S&P500のシーズナルチャート(1950年~2021年)

出所:ゼロヘッジ

 ウィルシャー5000インデックスに採用されている米国株の時価総額は37兆9,600億ドルである。これは、第3四半期末の米国内総生産額25.7兆ドルの148%に相当する(いわゆるバフェット指標)。

バフェット指標

出所:ゼロヘッジ

 ウォーレン・バフェットは決して株を積極的に買っているわけではない。バリュー投資家であるバフェットは、今年のS&P500種指数の20%の下落にもかかわらず、依然として米国株の購入をためらっている。バフェットが積極的に買っているのは、石油株だけである。

 イージーマネーの時代は終わったのだ。それはビジネスライフと個人の財政の全てに影響を与える。財務上の決定を劇的に変え、文化にも影響を与えるだろう。株式投資においては、昔ながらの方法で利益を上げなければならない企業への回帰が起こるだろう。

 株価の低迷が叫ばれているが、S&P500の株価純資産倍率は3.8倍、ナスダック100は5.8倍と、まだまだ厳しい水準にある。2年物国債の利回りが4.50%を大きく上回る環境下で、S&P500やナスダック総合指数の配当利回りは2%を下回る低さであり、リスクをとって株を買う理由は乏しい。

 シーズナルサイクルは株買いの循環に入っているが、やはりここでの反騰は、「ベアマーケットラリー(大きな下げ相場)の中の一時的反騰」ととらえるべきだ。簡単なことである。バフェット指標が150では株式市場は大底を打たないだろう。したがって、長期タームの買い場はまだまだ先であろう。

 さて、ご案内の通り、株式市場のシーズナルサイクルは強気の位相にある。一方で、2008年と2022年のS&P500のアナログチャートは、12月からの急落を示唆している。

2008年と2022年のS&P500のアナログチャート

出所:ゼロヘッジ

 コアCPIが予想よりわずかに軟化し、FRB関係者の発言もタカ派的でなかったことから、2020年4月以降で最大の株高と、2020年3月以降で最大の債券利回りの下落が起こった。

S&P500CFD(日足) 

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 今はぬか喜び(あてがはずれて、あとでがっかりするような一時的な喜び)の時期で、FRBが積極的に利下げを行う事態というのは、米国経済が景気後退に陥っている場合であり、それは株式にとってほとんどプラスではないことに注意する必要がある。

FFレートとNYダウの推移(1998~2019年)

出所:石原順

11月16日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 11月16日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、荒地潤さん(楽天証券FXアナリスト)をゲストにお招きして、「ドル相場の見通し」・「分裂した米金融当局」・「トレードの結果を損小利大(そんしょうりだい)にするには、予測や思い込みを排除して、相場についていくという順張りの手法が最適である」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

11月16日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube