必ず、ではないがバブルは起こる

今回は図を中心に考えてもらおう。まず、図1を見て欲しい。

<図1> “バブル”のサイクル

過去25年くらいの経済を観ていると、資産市場がバブル化して、バブルであるからにはこれが崩壊し、金融緩和から景気が回復する、そしてまた、何らかのきっかけがあって再びバブルが形成される、といったプロセスが繰り返されてきた。

この場合、バブルとは、合理的に正当化できないくらい高く、長期的に継続できないような資産価格の高騰、としておこう。その対象は株式であったり、不動産であったりするし、それ以外のものになる可能性もある。

循環プロセスとして考えると、不況→景気回復→ブーム→不況、あるいは不況→景気回復→不況といった、図1の左下側を中心に小さく循環する可能性もあるが、何らかのバブルに行き着く場合が多い。

ちなみに、景気回復の段階で早々に金融の引き締めに入ると、再び不況に戻る小さな循環で終わる可能性が大きい。現在の日本銀行には「引き締めバイアス」があると言われているが、それが本当だとすると、日本経済及び株式市場は、図の左下側の低い位置で冴えない循環を繰り返す公算が大きい。

この循環構造には、金融政策が明らかに関わっている。特に、前FRB議長のグリーンスパン氏のように、中央銀行が「バブルは、後になってみないと、それとは分からない」といった立場を取って、インフレが起こらない限り金融緩和政策を継続し、あるいは民間のレバレッジ拡大を放置すると、ブームの後にはかなり大きな公算でバブルが続いて、このサイクルにフルに当てはまる状況を作ってくれる。

経済政策の割り当てを考えると、物価と資産価格という二つの目的に対して、金融の緩急(主に政策金利の操作)という一つの手段では不都合が発生する可能性があり、たとえば、資産価格に対しては、資産市場を規制したり(信用取引の担保掛け目の上下などが考えられる)、あるいはレバレッジの質を見て必要があればこれを規制したり(たとえば住宅ローンの審査基準を厳しくする)、といった別の政策を割り当てることを考えなければならない。しかし、現実問題としては、こうしたきめ細かな対策には手が回らないので、バブルを育てるレバレッジを十分後押しする金融状態が続きがちだ。

先般の金融危機もあって、この図1には、バブルの崩壊の前後、特に崩壊後の対策過程を詳しく書いている。また、時間的な長さを考えると、典型的には、バブル崩壊の過程は長々と続くものであることは珍しい。図1は、もっと左半分の過程を長く、右半分を短く(バブルから不況まで短期間で落ちるイメージで)書くべきかも知れないが、もちろん、これらはケースによって異なるので、一応、左右ほぼ対称の大きさで描いてみた。

バブルの種とプロセス

以前に、この連載でも書いたが、バブルの形成には、金融的なイノベーションや規制の緩和が絡んでいることが多い。たいていのバブルには「種」があり(オランダのチューリップは「球根」だったが……)、その種は、リスクを過小評価させるような仕掛けか、レバレッジを後押しするような仕掛けであることが多い。

ネット株の成長神話や、格付け会社までグルにした社会的な大規模詐欺だと考えることもできるサブプライムの証券化は前者、日本の株式バブルを育てたファンド・トラストや特定金銭信託は「簿価分離」によって企業に財テク運用をやりやすくさせ、それと共にバック・ファイナンスによるレバレッジを誘発したので後者だったと見ることができようか。

もっとも、このファンド・トラスト、特定金銭信託の運用にしばしば付随した「握り」(利回り保証の隠語。当時も違法ではあった)の慣行は、リスクの過小評価に役立っていた。

たいていの場合、バブルに意図的なデザイナーがいるわけではないが、何らかの「うまい話」を作り上げて、融資を拡大したり、顧客にリスクを取らせたりしようという、金融業者が絡んでいる。バブルを興して、その間に、他人のリスクで商売やトレードして、自分が成功欧州をせしめようという「金融マンの欲望」が絡んでいる。リスクを取らせる対象は、顧客のリスクの場合もあれば、金融機関の資本の場合もある(たとえばリーマン・ブラザーズの株主資本はリーマンのトレーダーに「利用」されていた)。今や、労働者だけではなく、資本家も搾取され、カモになる時代なのだ。

バブルのプロセスは図2に、近年のバブルの種のリストを表1にまとめてみたので、ご覧頂きたい。

<図2> バブルの形成から崩壊の過程

<表1> “バブル”の「種」一覧

表 バブルと新しい金融技術

バブルあるいはその崩壊(通称) 新しい金融技術あるいは制度
ブラックマンデー(1987年) ポートフォリオ・インシュランス
日本の株式バブル(1980年代後半) 特定金銭信託、ファンドトラスト、「握り」
LTCMショック(1998年) ヘッジファンド(レバレッジ)
米ネット株バブル(1999年~2000年) ネット企業の株式
日本の新興市場バブル(~2006年) M&Aブーム、IPO神話
米国不動産バブル(2000年代~現在) 住宅ローン証券化商品
日本の不動産ミニバブル(~2007年) 投資ファンド、REIT(不動産投資信託)
商品バブル(~2008年夏) 商品指数連動ファンド
次は? 「エコ・バブル」かな (排出権取引市場・デリバティブ)

チャンスはどこだ?

例えば、株式で見た場合、投資のチャンスはどこにあるか。

図の左側は、基本的にチャンスであるが、バブルの頂点に近づくと危ない。問題は、バブルの頂点がどこにあるのかが、バブルが終わってみないと分からないことだ。時計の短針でいうと、まだ11時のつもりが、すでに12時になっていたりする場合があるのだ。

バブルを事後的に見ると、11時から12時の間が「美味しい!」(短期間に大きな値幅を取ることができるから)のだが、10時くらいで半分降りるような心掛けが無難かも知れない。

また、左半分だけではなく、右側の、時間で言うと5時半くらいの辺りに、資産価格の過剰な下落が、価格に関係ない投げ売り、のような「非情報トレード」が原因で起こることによって、かなりの確率で「リバウンド」を取ることが出来るチャンスが生じるので、右半分にいる場合でも、「今、何時?」と常に問うことは有益だ。

現代の金融政策は、事態が不況に戻ると、再び緩和を続ける、あるいは強化せざるを得ない。基本的に、時計の針が右半分に回るのは、金融が引き締められたときだ。不況と金融緩和が続く間は、左回りに上昇する力が残っていると考えていいので、現在のように、6時から8時くらいでもたついている場合は、なるべく6時台で買って、結果を気長に待つというアプローチがいいと考えられる。

なお、不動産は、場所や物件にもよるが、株式ほど頻繁且つスピーディーに取引できないので、株式に少し遅れて上昇・下落することが多いように思う。典型的には、首都圏の都心が郊外や地方よりも早く、オフィス物件の方が住宅よりも早く、価格が動く、と考えて置いていいだろう。

経済も相場も簡単にパターン化できるものではないから、「絵に描いたように」上手く行かないものではあるが、ご参考になれば幸いだ。