「米景気減速懸念」強まる公算大!
米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は11月1~2日に開かれたFOMC(連邦公開市場委員会)で、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利を誘導目標3.00~3.25%から0.75ポイント引き上げ、3.75~4.00%とすることを決定しました。
FOMC参加者12人の全会一致によるもので、0.75ポイントの大幅引き上げは4会合連続です。
FOMCの声明文では「利上げペースを決定する上で、金融引き締めの累積効果や、経済活動やインフレに影響を与えるまでのタイムラグ、経済・金融の状況を考慮する」との新たな文言が追加されました。
深読みしすぎると(都合よく理解することにつながり)誤った判断に傾くことも否定できません。まずは文言をそのまま受け取るのが賢明です。
文意は「ここまでの利上げの効果を見極めている」ということであり、4回もの大幅利上げ実施後としては当然のことでしょう。
FRBのパウエル議長はFOMC後の記者会見でこの文言を追加した理由について、「金融引き締めの効果が完全に発揮されるまで、特にインフレに対しては時間がかかる」ためと明らかにしています。
半面、パウエル氏は「利上げペースの減速時期がどこかの時点で来る。その時が近づいており、早ければ次回、もしくは次々回かもしれない。次回の会合でこれを議論するだろう」と言葉を慎重に選びながら、利上げペースの減速を示唆しています。
「ならば米国株の反発局面が到来するのでは」…このように考える、考えたい投資家が増えるのも当然ですし、それこそ期待されていることでもあります。ただ、利上げペース減速が示唆されたことと同時に、「米景気減速」の気配が強まっていることも注視しなければなりません。
米巨大IT企業が10月に発表した2022年7-9月期決算は振るいませんでした。
Google(グーグル)の持ち株会社Alphabet(アルファベット)は25日、7-9月期決算を発表しました。売上高は前年同期比6%増の690億9,200万ドルとなったものの、YouTube広告の売上高は2%減の70億7,100万ドルとなりました。2019年にYouTubeの広告売上高を開示して以来、初めての減収です。米景気の先行き懸念が広がり、企業がSNS(交流サイト)への広告出稿を抑えていると分析されています。
Facebookを運営するMeta Platforms(メタ・プラットフォームズ)の7-9月期決算も広告収入が低迷し、売上高が4%減の277億1,400万ドル、純利益は半減となる52%減の43億9,500万ドルでした。同社は売上高の大半を広告収入で稼いでおり、減収は2四半期連続です。
さらに、Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)の7-9月期決算も、売上高は15%増の1,271億100万ドルとなったものの、本業のもうけを示す営業利益は48%減の25億2,500万ドルと、大幅減益でした。10-12月期の業績見通しも市場想定より弱いものでした。
米巨大IT企業の株価は決算発表直後に波乱となり、「米景気減速懸念イメージ」を市場に植え付けることになりました。これらを払しょくするほどのポジティブ材料は今のところ見当たりません。
日本の自動車株、円安メリット期待かかる
一方、日本企業の決算発表では、自動車銘柄の今後の業績にやや期待が持てそうな内容となりました。トヨタ自動車は11月1日の東京株式市場の取引時間中に、2023年3月期の通期業績予想の上方修正を発表しました。売上高を従来予想より1兆5,000億円引き上げ、36兆円(前期実績比14.7%増)としました。上方修正の主因はサプライチェーン(供給網)混乱の収束を受けた生産持ち直しです。
ただ、この日の株式市場ではトヨタ株は売られ、終値は前日比約2%下落しました。業績予想と同時に発表した2022年9月中間連結決算で、売上高は前年同期比14.4%増の17兆7,093億円と増収を確保したものの、営業利益は34.7%減の1兆1,414億円、純利益は23.2%減の1兆1,710億円といずれも減益となったことから、ネガティブ反応が出ました。
それに先立つ10月28日、トヨタグループの主要部品メーカー7社(アイシン、トヨタ紡織、デンソー、豊田合成、愛知製鋼、豊田自動織機、ジェイテクト)は2022年9月中間連結決算を発表し、営業利益についてはジェイテクト以外の6社が減益となりました。
一様に原材料費の高騰に加え、物流費や人件費の増加が収益を押し下げたと説明しています。ただ、折からの円安が、売上高を(円換算した場合に)膨らませることとなり、全7社が増収となりました。
さらに、デンソー、アイシン、ジェイテクト、豊田合成の4社は2023年3月期通期の売上高予想を上方修正しました。
こうしたトヨタとグループ各社の決算発表から確認できるポイントは、
・ここまではサプライチェーン問題で厳しかった。
・「円安」が売上高増加に貢献した。
・(完成車メーカー生産持ち直しを受け)通期業績はやや明るい展望、ということになるのではないでしょうか。
11月10日時点では、時価総額が大きいトヨタ(約32兆円)や、デンソー(約6兆円)、アイシン(約1兆1,000億円)の株価の動きはもみ合いの域を出ないものの、時価総額が小さいジェイテクト(約3,500億円)や豊田合成(約3,000億円)の株価は決算発表以降、反発を示しています。
同じ自動車関連でも手がけている事業がそれぞれ異なるため、株価を単純に比較するのは難しいものの、「それなりに見直し買いは入っている」という見方が可能な現状です。
こうしたやや明るい展望が見えてきたことから判断すると、この先、トヨタグループをはじめとした自動車株の見直しが進み、時価総額が大きい銘柄も動意を見せるかもしれない、ということになります。
特に、「円安メリット」はここまでほとんど市場の評価対象になっていません。円安になると、輸出競争力が高まり、海外事業で稼いだ利益が円換算で膨らみます。こうした円安メリットに目が向き始めると、自動車銘柄の株価上昇への期待がさらに高まると思われます。
まだ多くの投資家が「持ち直すのか?」、「様子を見たい…」と逡巡(しゅんじゅん)しがちですが、株式市場は実態に先駆けて動くものでもあります。自動車・自動車部品銘柄については、株価の動きを今年度、最も注視する時が来ているのかもしれません。
自動車・自動車部品銘柄の株価
コード | 銘柄名 | 株価(円) | |||
---|---|---|---|---|---|
6902 | デンソー | 7,247 | |||
6473 | ジェイテクト | 1,006 | |||
7282 | 豊田合成 | 2,329 | |||
6923 | スタンレー電気 | 2,671 | |||
7270 | SUBARU | 2,432 | |||
7269 | スズキ | 5,140 | |||
※株価データは2022年11月10日終値ベース |
デンソー(6902・プライム)
トヨタ系自動車部品で国内最大、世界2位企業です。
・6カ月日足チャート
ジェイテクト(6473・プライム)
トヨタ系軸受けメーカーで、工作機械なども手掛けています。
・6カ月日足チャート
豊田合成(7282・プライム)
トヨタ系合成樹脂、ゴム部品メーカーです。
・6カ月日足チャート
スタンレー電気(6923・プライム)
自動車ランプ大手企業、ホンダ向けが約4割を占めています。
・6カ月日足チャート
SUBARU(7270・プライム)
中堅完成車メーカーで円安メリットが大きいとされています。
・6カ月日足チャート
スズキ(7269・プライム)
国内軽自動車大手企業です。インド事業が好調です。
・6カ月日足チャート
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