「コスト」のことを話しておこう

 今日も具体的な投信知識の話を続けようと思う。前回見せた絵を覚えているだろうか。基準価額はその日の投信が持っている資産の時価÷持っている人の口数合計という割り算の結果だ、という話をしたね。

 今日のこの絵には、前回にはなかった「信託報酬の1日分」というものが加わっている。

 信託報酬とは何か? すごく簡単に言えば、運用会社の社員である僕の給料はここから出ている。これで僕は娘2人を育ててきました。運用会社はもちろん、証券会社や銀行などの販売会社と、それから資産を預かって管理してくれている信託銀行の計3社が、この信託報酬を分け合っているんだ。

 この絵でわかるように、「割り算の前に引き算する」かたちでいただいている。大事なことなので少し丁寧に説明しようかな。まず信託報酬の料率は投信ごとに1つに決まっている。

 もうひとつの手数料に「申込手数料(販売手数料)」というのがあって、それは買うときに販売会社に支払うもの。3%以内くらいのことが多いんだけど、販売会社が決めるものなので、たとえば同じ運用会社の投信でも、A銀行では3%なのがB証券では1%だったりする。運用会社には一銭も入って来ず、販売会社に対して「アドバイス料」や「事務手続き料」として支払う意味合いのものと言える。

 ちなみにネット証券では、そうした対面アドバイスなどがないので申込手数料をゼロにしていることがほとんど。手数料のことを英語で「ロード」と言うので、申込手数料がゼロの投信を「ノーロードファンド」って言ったりする。

 改めて、信託報酬の話をすると、これは投信ごとに1つの料率が決まっていて、というか運用会社が決めていて、どの販売会社で買ってもいっしょ。1%台から安いものでは0.1%というものもある。この数字は年率。

 さっきの絵を見て欲しいんだけど、たとえば年率1%の信託報酬率の投信だとしたら、その1日分、つまり1/365%を毎日の純資産に掛け算して少~しずつ頂戴している。総口数との「割り算をする前に引き算する」と言ったのはそういうこと。

コスパは「パ」があってこそ

 2人もそうかもしれないが、最近はとにかくコスト意識が高まっている。投信の手数料も低いに越したことはないだろうと。ところで、結構誤解されているのが信託報酬の「取られ方」で、別途どこかで取られている、あるいは証券会社に支払う口座管理料みたいに思っているようなネットの書き込みをたまに目にする。

 でもそうではない。さっきの絵の通り信託報酬は基準価額の算出過程で毎日少しずつ引かれている。その日の時価である資産総額を出した後、それに「信託報酬分の1日分」を掛け算した金額を先に投信の外に出してしまう。そしてその後に総口数で割り算して基準価額を算出してるんだからね。

 つまり毎日発表される基準価額は、すでにその日1日分の信託報酬が引かれた後なわけだ。基準価額を見れば保有投信のその日の評価損益がわかるわけだけど、それはすでに「コスト控除後」の損益ってことだね。

 別の言い方をすれば、毎日の基準価額というのは、信託報酬の1日分だけ毎日ちょっとずつ下げられて発表されているわけだ。信託報酬率が低いということは、その「下げられ方」が小さいということだから確かにいいよね。でも「投資成果の大勢」を決めるのは、そっちではない。

 当たり前だけど、投資の成果というのは「基準価額そのものがどれだけ上がるかによってこそ」決まる。コストが低ければ低いほど、自動的に良い結果が導かれるわけではないのが難しいところだ。

 いくら信託報酬率が業界最安でも、基準価額そのものの上がる力が結果的に乏しかった場合、その低さが意味を持てない。上がってくれてはじめてコスト差が意味を持つ。AとBという投信があって、その上がる力がまったく同じだった時に、Aの信託報酬率がBより低ければその差分だけAが少し得だったね――という話でしかない。このリターンとコストの主従関係を理解していないと、投信選びを間違えることになると思う。

 僕が勤めている運用会社では数年前から、「コストより、リターンから考える投信選び」っていう考え方を提唱してる。コストコストと目を三角にして、肝心のリターンのこと、つまり投資対象選びをおざなりにしては主客転倒だよと。投信を選ぶ際の順序として間違えないで欲しい大事なポイントだと思っているんだ。

コストの低下は主に「インデックスファンド界」で進んできた

 前回から結構難しいことを話してるよね。でももう少しだけ、さらに難しい話になってしまうんだけど付き合ってほしい。今日話してる信託報酬の多寡、高いか低いかについては、シンプルに言えば「仮に投資対象がまったく同じなら、信託報酬は低い方がその分だけお得」っていうのが結論になる。

 でも「投資対象がまったく同じなら」ってことはあまりなくて、あるとすればインデックスファンドの間でくらい。インデックスファンドというのは、日経平均や米国のS&P500など、世の中にある株価指数などと日々同じ動きをするように設計・運用されたタイプの投信のカテゴリー名です。

 例えば日経平均のインデックスファンドなら、どの運用会社のも目的はいっしょ、つまり今日の日経平均と同じ率だけ動くように運用することなので、さっき言った「投資対象が同じなら」に該当するわけだ。ということは「引き算」される信託報酬率が低いインデックスファンドを選ぶのが賢いよね。

 ところが、インデックスファンドの世界では既に信託報酬の低下がかなり進んでいて、信託報酬が低いほどリターンが高いといった単純な話にならないほど。信託報酬の差よりも、対象指数に連動させる技術で差がついてしまう方が可能性としては大きいくらい。

 つまりインデックスファンド、とりわけつみたてNISAで選べるようなインデックスファンドのコストはみんな合格点なので、神経質にならないでいいと思う。しつこいけどそれより何倍も大事なのが、自分は何にどんなリターンを期待して投資しようとしているのか――。リターンのことを考えるエネルギーの方だ。

コストで「乗り換え」はアリ?

 前に、僕の20年の実績、あの時に「日本株でなければ・・・」なんて後悔話をしたと思うけど、同じこと。僕はあの時、一番身近な自社ファンドの、一番売れているものにしてしまった。お世辞にも将来に思いをはせて深く考えたとは言えない。

 僕が君たちに今、避けてほしいと思うのは、「よっしゃ。最初はインデックスファンドがいいって聞くし、これが人気みたいだから〇〇インデックスファンドで決まりだな!」と安易に決めたり、「コストが大事なんだから信託報酬の最安ファンドを探さなきゃ」とそこだけに血道をあげたり、結果としてそのうち「あ、もっと低い信託報酬のが出てきたぞ!乗り換えなきゃ」なんてなったりすること。

「乗り換え」っていうのは、持っているものを売って、そのお金で次のものを買うことなんだけど、結構落とし穴がある。売ったものに利益が出ていたら、その約2割に税金がかかるとか、売ったものが現金になるまでに4日も5日もかかったりする。そして次のものを買うにも、申込日の翌日の基準価額になるのも多い。

 つまり、乗り換え作業の間には結構なラグが生じる。そうした数日の間にも当然株式市場は動いているから、新しいものを買う前に収益機会を逃してしまうかもしれない。僕が20年以上前に読んだ本の有名な言葉に、「稲妻が光る瞬間に市場にいないのは長期投資家にとっての極めて大きなリスクだ」というのがあるんだけど、うちの会社も以前から「THINK BIG, Stay Invested」って言い続けてるんだ。「細かいこと考えず大きく考え、投資をずっと続けていようね」って意味かな。

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