利上げペース鈍化で円高か、金利水準が上がり続け円安か

 11月1~2日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FRB(米連邦準備制度理事会)は0.75%の利上げを決定しました。0.75%は通常の利上げ幅0.25%の3倍の利上げ幅で、しかも4会合連続の利上げとなります(6、7、9、11月)。

 4会合合計で3%の利上げ幅は、通常であれば、年8回のFOMCで各0.25%の利上げによって1年半かけるところを約4カ月で利上げしたことになります。利上げ期間は4倍速となります。

 これだけの急速な利上げを行ったため、利上げの副作用やそろそろ利上げペースを減速させるのではないかとマーケットでは警戒心や関心が高まってきています。

 そして11月のFOMCでは、ついにFRBの姿勢の変化がみられました。声明文で利上げペースについて、「金融政策が経済活動や物価に影響を及ぼすのに時間差がある点を考慮する」と新しい文言が加えられました。急ピッチの利上げが時間をおいて景気後退を招く「引き締めすぎ」のリスクを意識した表現と思われます。

 パウエルFRB議長は記者会見で利上げペースの減速を示唆しましたが、減速させる時期についてはまだ決定していないとして、次回12月のFOMCで議論する考えを明らかにしました。

 また、利上げ終了時に到達する金利水準については、前回会合以降のデータはこれまでの予想よりも高くなることを示唆していると述べました。パウエル議長は利上げをどこまで進め、その水準をいつまで維持するかという問題の方が重要になっていると指摘しました。

 この指摘はマーケットにとって新たな材料となりました。利上げのペース鈍化という材料に加えて、利上げはいつまで続き、どの水準まで高くなるのかという材料です。パウエル議長が「より高くなる」と言及したことから、少なくとも2023年の金利見通しを4.6%とした前回9月の見通しよりも高くなる可能性があるということになります。

 11月FOMC終了から12月のFOMCまでに、インフレ指標として重要な米経済指標は雇用統計が2回(11/4 、12/2)、CPI(消費者物価指数)(11/10 、12/13)が2回発表されます。これらの指標によって、12月の利上げペースは鈍化するのかどうか、あるいは2023年の金利水準がどの程度高くなるのか期待と思惑が市場を駆け巡ります。

 11月4日の米雇用統計では、失業率は悪化しましたが賃金は上昇という強弱入り混じった内容だったため、ドル/円の上値を試す材料にはなりませんでした。今週10日のCPIでどのような反応になるのか注目です。

 声明文はハト派、記者会見はタカ派となったことによって、ドル/円は声明文で1ドル=145円台後半まで円高に行き、パウエル議長が利上げ終了時の金利水準が高くなることに言及すると148円台に反発しました。

 しかし、米長期金利も上昇しましたが、長期金利の水準に比べてドル/円の伸びが鈍ってきている状況となっています。その後も145円台から148円台の間で動き、円安水準ながらも方向感のない動きとなっています。

 今後、ドル/円は利上げペースの鈍化という材料によって円高の方向に動くのか、ペースは鈍化しても金利水準が上がり続けるという材料によって、円安のスピードは遅くなっても緩やかに円安が続くのかどうかという点が注目されます。今のところ、利上げペース鈍化の材料の方を気にかけて動いているように感じられます。

 さらに、金融政策の影響に時間差があると声明文に加えられましたが、その影響が前倒しになる可能性についてもリスクとして留意しておいた方がよいかもしれません。

 景気後退の見方については来年前半との見方もありますが、年内との見方も浮上してきています。年内にその兆候がみられれば、12月のFOMCでの決定や見通しも変わってくることが予想されます。

 また、「時間差」が縮まった場合、パウエル議長が柔軟に対応できるのかどうかも注目点になります。

 米国中間選挙が終われば、不透明要因がなくなることから、年内最後の材料として12月のFOMCに一層注目が集まることが予想されます。

G7声明文を反映した日米欧中銀の姿勢変化

 金融スタンスの変化はFRBだけではありません。ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁も11月に入って重要な発言をしています。ラガルド総裁は「FRBと互いに影響し合うことを注意しなければならない。我々は(FRBと)似て非なるものであり、同じペースで進めることはできない」と発言しました。

 そして、黒田東彦総裁も11月2日の衆議院財務金融委員会で、「2%の物価目標が見通せれば、前段階でイールドカーブコントロール(YCC:長短金利操作)を柔軟化していくことは一つのオプションとしてあり得る」と答弁しています。現時点での修正変更は否定していますが、これまでにない柔軟姿勢をちらつかせました。

 これら各国の中央銀行の姿勢に変化が出始めたのには伏線があったようです。10月12日の*G7財務相・中央銀行総裁会議後の声明文で金融政策について、「各国中銀は他国への影響を抑えることに留意しつつ、金融引き締めのペースを適切に調整する」と明記されました。

*G7…カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7カ国

 この声明文が反映されたかのような日米欧中銀の発言でした。G7の声明文に明記されたことによって、この内容は今後もG7各国で共有されるという点には留意しておく必要がありそうです。