「COP27」とは?

「COP27」は、第27回目の締約国会議(Conference of Parties)のことです。1997年の「COP3(第3回目の会議)」では、2020年までの温室効果ガスの排出削減目標を定めた「京都議定書」が採択され、2015年の「COP21」では、2020年以降の取り組みを決めた「パリ協定」が採択されました。

 COPは、気候変動に関する問題を議論する、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の締約国会議として定着しています。

「COP27」は、2022年11月6日から11月18日まで、190を超える国と地域が参加し、エジプト東部の都市シャルム・エル・シェイクで開催されます。

「パリ協定」の考え方(緩和 下図参照)にのっとり、2030年までの温室効果ガスの削減をどう加速させるか(適応)、気候変動による被害を軽減するための資金や技術支援をどう行うか(資金)、などが話し合われます。

「パリ協定」の土台は、1992年にニューヨークで採択された「気候変動に関する国際連合枠組み条約」です。(京都議定書も同様)

 同協定の前文には、気候変動が「人類共通の関心事」であること、気候変動に対処するための行動をとる際に、人権、健康、移民、児童、障害者や、影響を受けやすい状況にある人々、男女間の平等、女性の自律的な力の育成および世代間の均衡など、さまざまなことを尊重して、促進するべきであると書かれています。

 単に化石燃料(石炭、原油、天然ガス)を使用しないようにすればよいのではなく、その促進においては、多岐にわたる配慮が必要です。

 第2条を分類する際に用いられる「適応」が温室効果ガスの排出削減プロセスですが、それ以外に「資金」が挙げられる点に、改めて留意する必要があります。

図:「パリ協定」の前文および第2条(目的)

出所:IGESおよび地球産業文化研究所の資料をもとに筆者作成

1年前の「COP26」での涙

 1年前、英国のグラスゴーで開催された「COP26」では、開催期間が1日延長され、「グラスゴー気候合意」が採択されました。それにより、抑えるべき気温の上昇幅を「2度未満」としたパリ協定よりも踏み込んだ「1.5度未満」が、事実上の共通目標になりました。

「1.5度未満」が明記された内容で合意できたことは「歴史的」とされた一方、「妥協の産物」ともされました。合意直前で文言が修正されたためです。議長が想定した「石炭使用の段階的な廃止の加速を呼びかけ」という文言に待ったがかかったのです。

 屈指の化石燃料生産国であるサウジアラビアの代表は、「特定のエネルギー資源に偏見を持つべきではない」、屈指の火力発電向け石炭消費国であるインドの代表は、「途上国には化石燃料の使用を続ける権利がある」などと、当初の議長の想定に待ったをかけました。

 これを受け、議長は文言を、「石炭使用の段階的な廃止の加速を呼びかけ」→「排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的な廃止」→「(同)段階的な廃止のための努力を加速する」→「(同)段階的な削減」と、表現を大幅に弱め、ようやく合意に至りました。

 会の最後、議長は涙ぐみました。化石燃料の中でも燃焼時の温室効果ガス排出量は比較的多い「石炭」の「廃止」を、合意文書に盛り込みことができなかったためです。

「パリ協定」が気候変動を「人類の共通の関心事」として、対策を進める上で人権や世代間の均衡など、多岐にわたる配慮をする必要があることを前提としているため、容易に合意にこぎつけることはできません。

図:英国グラスゴーで開催された「COP26」(2021年)

出所:筆者作成

アフリカが舞台でも「適応」の話は進まない?

 パリ協定における「適応」を前進させることが、いかに難しいかを痛感されられたのが「COP26」でした。現在、「石炭」はウクライナ危機をきっかけに欧州で発生している玉突き的なエネルギー供給不安の影響を受けています。

「欧州がロシア産の天然ガス・原油を制裁のために買わない姿勢を示していることで域内のエネルギーの需給がひっ迫」→「発電向けの石炭需要増加観測浮上」→「天然ガス・原油とともに、石炭の供給不安が世界に拡大」という具合です。

 とはいえ、今回の「COP27」はアフリカが舞台です。異常気象の影響で食糧生産の減少が目立っているアフリカは、パリ協定の前文にある「影響を受けやすい状況にある人々」と考えられます。その意味では、「COP27」では、「資金」の面で大きな合意ができるかもしれません。

 アフリカという舞台であるため、支援をする側も支援を受ける側も、歩み寄りやすいと考えられます。

 しかし、気候変動問題の根本の根本である、どれだけ化石燃料を使用しないようにするかが問われる「適応」では、気候変動対策において、引き続き世界に「溝」が存在することを、改めて確認することになる可能性があります。

 ウクライナ危機下ゆえ、世界から石炭、原油、天然ガスを段階的に取り上げる議論を行うことは、先進国にとって都合が悪く、さらにはインドなどの新興国では石炭消費の重要性を、化石燃料の生産国では化石燃料そのものの重要性を訴えやすい状況にあるため、今回のCOP27でも、気候変動問題の根本の根本に踏み込んだ合意はできない可能性があります。

「資金」面の大きな成果が「適応」面の成果のなさを覆い、問題が先送りされてしまうことに気が付きにくくなる事態すら、発生するかもしれません(支援する側も受ける側も「資金」面の合意に満足するものの、エネルギー問題をめぐる「溝」は一向に埋まらない)。

図:「COP27」で予想される「適応」と「資金」の展開

出所:筆者作成

気候変動問題の「溝」当事者たちのホンネは?

 気候変動問題における「溝」は、「先進国かつ消費国」、「新興国かつ消費国」、「化石燃料生産国」、「異常気象により危機に直面している経済規模が小さい国」などの当事者が存在し、それらの思惑が異なっていることで生じていると考えられます。

・先進国かつ消費国:リーダーシップを発揮したい。技術革新の場(ビジネスチャンス)でもあるため、気候変動問題に積極的に取り組みたい(経済発展はあきらめない)。

・新興国かつ消費国:目先の国の維持・発展が最優先。石炭火力の利用は欠かせない(現在の先進国もそうして発展したではないか。われわれにもその権利はあるだろう)。

・化石燃料生産国:化石燃料の消費を急に削減されては困る。何らかの経済的・政治的なメリットを要求したい(先進国も早急な化石燃料の消費削減はできないのではないか。消費減少懸念で化石燃料の国際価格が下がったら、減産を示唆して高値を維持しよう)。

・異常気象により危機に直面している経済規模が小さい国:海水面が上昇したり、農産物の生産量が減少したりしている。これはわれわれのせいではない(化石燃料を使わない時代に戻ればよいではないか。なぜそんなにぜいたくな暮らしがしたいのだ。この問題は人類共通の問題ではない)。

 いずれの主張ももっともであり、もっともであることは、それだけ歩み寄りが難しい(「溝」が埋まりにくい)と言えます。

 まだ、気候変動問題が「人類共通の課題」になりきれていないと言えそうです。

 そうした事態を、気候変動問題が人類共通の問題であることを確認した上で、できるだけ化石燃料を使わないようにしながら(適応)、「資金」や技術で補い合おう、そしてそれに時間的な期限を設けて実行しよう、こうしたプロセスを進めていく上で、少しずつ歩み寄ろう、というのが「パリ協定」の本質なのだと、考えます。

そもそも「溝」は埋まらない?

 そもそも「溝」がある状態とは、どのような状態なのでしょうか。

 筆者は以下のように考えています。「異なる考えを持つ2者以上が存在している状態」であり「当たり前の状態」だと考えます。

 有史以来、世界全体が統一されたことがないという事実を考えれば、「溝」は絶えず、世界のどこかに存在していたことになります。つまり、「溝」がある状態は、当たり前の状態なのです。

 気候変動問題に限らず、もう少し広く「溝がある状態」について考えると以下のようになります。

・消費国と生産国、お互いの譲歩の度合いが低下している状態
 →生産国が生産物を出し渋りして「武器利用」するなど。

・政治・経済など諸分野で、誰かが誰かを、意図的に強くおとしめようとしている状態
 →選挙戦、経済制裁、人権侵害発生時などに顕在化しやすい。

・歴史上の禍根(かこん)が表面化している状態
 →過去の大戦などで生じた禍根をもとに論陣を張る。

・本音をさらけ出す著名人に迎合する一部の大衆がいる状態
 →過激な発言に迎合する人とそうでない人で差が生じる。

 上記に限らず、世界には絶えず、誰かと誰か、何かと何かの間に、無数の「溝」が存在しています。私たちの身近にも「必ず」あります。

 有史以来、「溝」がなくなったことがないのは、経済発展に(特に資本主義国家において)、「溝(余地)」が欠かせない存在だったことが大きいと考えます。

 できない自分と理想とする自分の間にある「溝(余地)」を埋める(0→1の創造)。持っていない自分と持っている相手の間の「溝(余地)」を埋める(シェア争奪)。

 シンプルに言えば、「溝(余地)」を埋めることで資本主義は発展してきたと言えます。逆に言えば、資本主義の発展には「溝」は必要なのです。

 これには、「人が人であること」が強く関わっていると、筆者は考えています。不安なことがあれば安心できるように行動する、自分よりも上のスペックを持つ人をみるとうらやましがる(羨望or嫉妬)、興奮するものを見たら関心を寄せる。

 人はこうした特徴を持つ、単純で感情的な生き物です。

 何かが起きれば、感情の変化をきっかけに何らかの行動を起こすわけですので、行動前と行動後には「溝」があります。

 人は日常的に、大なり小なり「溝埋め」を行っているのです。人の欲望が尽きないのも(溝の先にある次の欲望を満たしたがるのも)、溝埋めの連続の一つと言えるでしょう。先述のとおり、「溝」があるのは、当たり前なのです。

「溝」を作った人・組織が、主導権を握るケースがあることも事実です。一方的に強い人・組織、一方的に弱い人・組織、資源を持っている国、核兵器を持っている国、新しいモノ・コトを生む出す人・組織。

 こうした誰かや何かが計らえば、「溝」を作ることは可能です。「溝」を作るということは、環境や前提などの「ルール」を変え、その分野で主導権を握ることができます(ゲームチェンジャーによる溝の逆利用)。

 上記のように考えれば、「溝」はあって当たり前、必要(時には必要悪)であり、その存在を否定することは、われわれが人である以上、難しいと言えます。気候変動問題に関する「溝」は、存在するものの「それはゼロにはならない」という前提で議論を進めることが必要でしょう。

「全廃」「全停止」「全面禁止」など、化石燃料の消費、化石燃料を燃焼させる車や発電施設の稼働を、「全」が付く言葉で封じる、「溝」をゼロにする議論はそもそも正しくないのかもしれません。

 その意味では、グラスゴーでの石炭使用の「廃止」は、熟考の余地があったのかもしれません。

「溝」がコモディティ投資を面白くする?

「溝」が与える、コモディティ市場への影響を考えます。「溝」が存在することは、少なくとも二つの異なる存在があることを意味します。

 コモディティ市場における二つの異なる存在は、売り手(生産国)と買い手(消費国)です。

 この2者は、基本的に平等の立場にあります。「上昇」が多数の正義となる、株式市場と大きく異なる点です。

 短期視点では、生産国の思惑が市場を支配する場面もありますが、長期視点では、価格が上がりすぎれば買ってもらえなくなるリスクが高くなるため、一定の水準で価格上昇に歯止めをかける力が働きやすくなります。

 価格が下がりすぎれば、売ってもらえなくなる(生産できなくなる)リスクがあるため、一定の水準で価格下落に歯止めをかける力が働きやすくなります。

 長期視点で、多くのコモディティ銘柄の値動きの源泉は、「売り手」と「買い手」、双方でつくる「溝」にあると言えます。

 こうした考えをもとにすれば、例えば、過去の「記録的な高値(≒一定水準の行き過ぎた高値)」と「記録的な安値(≒一定水準の行き過ぎた安値」は、相場トレンドの転換点と考えることができるでしょう。

 現在のプラチナは、長期視点のこうした高値と安値を意識した見通しを立てやすい環境にあると、考えます。

 気候変動問題への世界的な取り組みは、数十年単位で進む可能性があるため、今回のCOP27で全てがうまく前進するわけではありません。

 とはいえ、長期視点で、人類はそれを共通の課題であると認識し、対策(脱炭素)が進む可能性があります。

 これにより、新しいプラチナの需要が生まれ、価格が長期視点で上昇する可能性があると、考えます。

図:プラチナ価格の推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:世界銀行のデータをもとに筆者作成

 今回は、「COP27」を起点に、「気候変動問題」「溝」「プラチナ積立」について書きました。個人投資家の皆さまの長期投資の一助になれば幸いです。

[参考]積立ができる貴金属関連の投資商品例

純金積立・スポット取引:金(プラチナ、銀)

投資信託(一例):

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)

ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)

三菱UFJ 純金ファンド

海外ETF(一例):

SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)

iシェアーズ・ゴールド・トラスト(IAU)

米国株(一例):

バリック・ゴールド(GOLD)

アングロゴールド・アシャンティ(AU)

アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)