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10月の中小型株ハイライト

1. 利上げ縮小期待浮上でリバーサル炸裂、NYダウは歴史的な上昇率に!

 9月の最終日までお先真っ暗ムードが強まるばかりで、金利上昇や景気減速への懸念にとどまらず、スイスの金融大手クレディスイスが膨大な財務不安を抱えているとした信用リスクの話まで浮上。

 気が滅入るような雰囲気で始まった10月相場でしたが…月が変わった途端に地合いが豹変(ひょうへん)(今年はこれが本当に多い)。10月初日の東京時間から急伸に転じ、激弱だった米国株も10月月初から大幅反発となりました。

 その後の投資家動向のデータからは、外国人による先物買い(戻し)が目立っていましたので、典型的な「リターンリバーサル」。売られてきた(空売りされてきた)銘柄ほど買戻し要素が働きます。

 東証プライムの銘柄でいえば、レーザーテックとソフトバンクGの「なんでこんな上がるの?」な圧巻パフォーマンスがその象徴だったといえます(それだけ空売りがたまっていたということ)。

 10月13日には最重要ハイボライベントと化している米9月CPI(消費者物価指数)の発表もありました。9月は前年同月比8.2%上昇と、8月(同8.3%上昇)より少し伸び率が鈍化。ただ、市場予想をわずかに上振れたことで、インフレ高進→金利引き締め継続の連想から、直後は10年債利回りが4%台に上昇して株も下落。

 ただ、一味違ったのがその後の動きで、ダウ工業株30種平均(NYダウ)でいえば安値から1,500ドル超急反発する大波乱の展開に。この辺りの動きからも、米金利上昇に対する株式市場の織り込みが一巡していた(株が上がりたがっていた?)ことを示唆していたのかもしれません。

 月後半は、WSJ(ウォールストリートジャーナル)の報道や、その後のFRB(米連邦準備制度理事会)高官発言から「利上げ幅縮小を12月FOMC(米連邦公開市場委員会)会合から議論し始める」という期待感が浮上。

 この間発表された米IT企業(とくにGAFAMと呼ばれるメガテック株)の決算内容・株価反応はひどいものでしたが、その他の銘柄のリバーサルの動きで吸収できたことも驚きでした。

 10月の日経平均株価の月間騰落率は+6.4%と今年最大、NYダウにいたっては+14.0%と46年9カ月ぶりという驚異の上昇率に。GAFAMの多くが急落したことでナスダック総合指数は+3.9%でしたが、GAFAMなど含まない東証マザーズ指数は+7.2%と大健闘した1カ月となりました。

2. 夢を乗せて…最速上げで誕生したテンバガー株

 レーザーテックやソフトバンクGなどショート銘柄の強烈買戻しのほか、水際対策の緩和でリオープニング株の人気化などが目立ちましたが、個別銘柄選び自体は非常に難しかったといえる10月相場でした。

 米金利の上昇が加速しても、個人に人気の「銀行株」はさっぱり上がりませんし、1ドル150円台への円安加速でも輸出関連の「自動車株」も無反応。理屈が通じない理由としては、これら景気敏感業種にとって「景気減速懸念」が重しだったからでしょう。

 そんな中、東証グロース上場の中小型株で超新星が現れました。その名は…バンク・オブ・イノベーション(4393)。

 スマホゲームの開発会社としては小型で知名度も低かった同社ですが、にわかに期待が高まっていたのが、5年ぶりの新作ゲームとしてリリース予定としていた『メメントモリ』でした。

 スマホ、PC向けの新作大型RPGゲームとして、ついに配信開始となったのが10月18日。そして配信開始後には、AppStoreの無料ゲーム、トップセールスの両ランキングで上位を維持していたことで、期待感を株価に練り込まれる展開へ。

 ぶっ壊れ状態で上がったのが、10月26日(この日の上昇率は+45%!)。前日まで2日続けてストップ高買い気配を続けていたこともあり、この日は値幅制限の上限が通常の4倍に拡大していました。

 最も過熱するだろう日の昼休み、同社が『メメントモリ』の課金高の速報値を発表。開始6日間の課金高が18億円になったとのことでした。

 同社はこれまで、年間売上20億円前後のゲーム会社でした。その会社が「たった6日でほぼ年間売上分を稼いだ」わけで、強烈な業績インパクト。さらには「1日3億ペースだから、単純に年換算したら1,000億円超える」とも言えなくはないわけで…。

 短期マネーが大量に集まったことで、1日の売買代金が600億円超(東証グロース市場全体の4割水準)に達する日まで発生しました。今年の安値から高値までで、10倍株(テンバガー)を達成。ガンホー(パズドラ)、ミクシィ(モンスト)の興奮をほうふつとさせるひさびさのソシャゲ株フィーバーが沸き起こりました。

3. 月IPOもセカンダリー苦戦ながら…

 10月のIPO(新規公開株)は全部で9銘柄、そのうち東証グロース上場は7銘柄でした。ひと頃に比べ、予想PER(株価収益率)など株価指標面で公開価格が「超割高」という案件は無くなっています。類似会社の予想PERを意識した、それほど割高ではない設定が目立ってきたのは良い傾向。初値も9銘柄全て公開価格を上回ってます。

 ただし…初値を付けてからの値動きで大苦戦する銘柄が続出。それほど割高ではない公開価格、そして初値を付けているように見える一方で、「割安と言えるほどでもない」…そんな印象。

 そうした小型IPOのセカンダリーに長期保有を前提とした機関投資家が関与するとは考えにくく、信用で買った個人投資家による需給戦になります。一度株価が崩れ始めると、簡単に手放す(ロスカットする)展開になり、ここまで下げるか?という直近IPO株も続出しました。

 10月にIPO(株式の新規公開)した9銘柄のうち、初値を上回って推移しているのは4銘柄。その中でプライムに上場したソシオネクスト、グロース上場のSBIリーシングの値動きは際立って良好でした。

 この2銘柄の共通点は(1)サイズ感(ソシオネクストは今年最大の公開規模768億円、SBIリーシングはグロースで今年2番目の公開規模75億円)、(2)割安感(公開価格の予想PERはソシオネクストが約10倍、SBIリーシングが約9倍)。「機関投資家も入っていそう」という安心感の有無が重要視され始めているように見えます。

11月の中小型!今月のキーワードは…中小型株は「需給」が命!

 世界が見守る重要イベント、11月最初は2日のFOMCでしたが…通過したとはいえ、株式市場は毎度の激しい動きになりました。FOMCでは0.75%の利上げが決定(これは織り込み完璧)。声明で利上げペースの緩和も示唆され、NYダウでいえば一時418ドル上昇しました。

 ただ、パウエルFRB議長が記者会見で、次回会合での利上げペース見直しを「まだ何も決まってない」とし、「利上げ停止の検討は非常に時期尚早だ」とも発言。市場が期待(勝手に想像?)していたよりは…という程度ですが、タカ派姿勢との認識になってNYダウは高値から最大932ドルも墜落しました。

 最初の重要イベントFOMCは「金利上昇/株価下落」で通過しています。

 初動は株安(とくにグロース株下落)で反応しましたが、ここからは次回12月FOMCに向けた「コンセンサス探し」が短期的な変動リスクにつながるという認識で見守るほかありません。

 これまでも、次回会合での利上げ幅に対するコンセンサスが固まる過程では株のボラティリティが低下(株価は上昇)してきました。12月会合では0.75%から引き下げられる可能性はあり、それが0.5%なのか、それとも0.25%なのか…コンセンサスが固まるタイミングまでは、積極的に株を買っていこうというムードは広がりにくいかもしれません。

 インフレ指標が政策判断で重視されますので、11月10日発表の米10月CPIは波乱要因として身構えられるでしょう。

 とはいえ、中小型のグロース株にとっては「最悪期を脱した」状況が11月も続くように考えられます。やはり、(これは米国株市場の懐の深さなのかもしれませんが)GAFAMと呼ばれるメガテック株が決算後に急落が相次いだ中、それ自体がグロース株全体に飛び火しなかったことは特筆すべきと思います。

 GAFAMのうち、アップルを除く4銘柄が決算失望で急落した中、中型株指数のラッセル2000や、高バリュエーション株満載のアークイノベーションETFなどが連れ安しなかった…マクロ景気やドル高影響を受けやすい多国籍企業のGAFAMとは「ビジネスモデルが異なる」と片付けたような反応を見せました。

 時価総額が巨大なGAFAMなどメガテック株は保有している投資家が多いため、大幅な値下がりは投資家心理に当然マイナスです。ただ、その分の影響を、この時期浮上した金融引き締め緩和期待で打ち消せたのは収穫でした。米金利のピークアウトが見えること…これこそ売られてきたグロース株には強材料だし、空売りが多かった銘柄には強い買戻し圧力がかかったわけです。

 米金利のピークアウト意識が保たれるなら、日本の中小型グロース株にとっても環境は悪くありません。

 日本の場合、中小型グロース株の決算発表が11月11日に集中します。決算の明暗は当然大きく影響しますが、通過すれば決算の消化は早い段階で進みます。その後は、強い決算銘柄なのか、これまで売り込まれた銘柄なのか、それとも直近IPOなのか…目移り激しく物色は散らばりそうとはいえ、投資家の触手は中小型グロース株に伸びやすいのではないでしょうか。

 その中で今回は、残り2カ月を切った年末にかけた銘柄選びの重要ポイントを紹介します。

 ここから年末まで、個人投資家中心に売買している中小型株に避けて通れないのが、節税目的の売り(タックスロスセリング)です。年末に近付くと意識されますが、損益通算することを目的として含み損の株をロスカットすることを指します。

 この対象として意識すべきは、「含み損の株」に限られます。例えば、信用買い残が多い上に、年初来安値に近いような銘柄になります。

【需給悪い】東証グロース市場 信用買い残多量の塩漬け銘柄

コード 銘柄名 11月2日
終値
年初来
高値
高値乖離 信用買い残の
出来高比率
7779 サイバーダイン 323 463 ▲30% 1,058%
7806 MTG 1,128 1,645 ▲31% 610%
2158 FRONTEO 813 3,420 ▲76% 591%
4477 BASE 280 648 ▲57% 558%
4053 サンアスタリスク 835 2,149 ▲61% 447%
4436 ミンカブ 2,020 3,245 ▲38% 412%
4051 GMO-FG 13,900 28,900 ▲52% 387%
4259 エクサウィザーズ 518 961 ▲46% 373%
4371 CCT 3,295 5,000 ▲34% 339%
7342 ウェルスナビ 1,385 2,859 ▲52% 325%
※基準:11月2日時点で年初来高値比で30%以上下落、時価総額300億円以上

 とくに注意すべきは、普段の出来高(25日移動平均出来高)に対する信用買い残の比率が高く、年初来高値からの下落率が大きい銘柄になります。昨年の急騰銘柄FRONTEO(2158)などの塩漬け株は、売りたい人が多い株として避けるほうが無難といえそう。

 さらに、12月はIPOが30社強ペースでなだれ込んできます。とくに年末に近付くと過密スケジュールになる傾向があり、そっちに短期の資金が向かうことは容易に想像できます。そうしたお決まり事を考慮した上で…今回は、信用買い残が普段の出来高に対して多くなく、かつ高値圏に位置している銘柄(節税売り対象外とみられる銘柄)をスクリーニングしました。

売りたい人が少ない?年末特有の需給不安ストレス軽い「好需給」中小型
スクリーニング条件(1)年初来高値との乖離率が10%未満、(2)時価総額300億円以上
(3)売買代金25MAが3億円以上、※信用買い残の25MA出来高比率が低い順に列挙

市場 コード 銘柄名 11月2日
終値
年初来
高値
高値乖離 信用買い残の
出来高比率
スタンダード 2702 マクドナルド 5,130 5,210 ▲2% 35%
グロース 9270 バリュエンスH 2,879 3,120 ▲8% 37%
グロース 7388 FPパートナー 3,760 4,050 ▲7% 39%
スタンダード 7716 ナカニシ 2,657 2,896 ▲8% 49%
グロース 3479 TKP 3,030 3,100 ▲2% 55%
グロース 4194 ビジョナル 10,350 11,090 ▲7% 62%
スタンダード 4816 東映アニメ 15,800 16,000 ▲1% 68%
グロース 7373 アイドマHD 4,275 4,640 ▲8% 87%
グロース 9552 M&A総合 7,360 7,790 ▲6% 89%
スタンダード 7071 アンビス 2,920 2,965 ▲2% 128%

 個人投資家主体の東証グロース、東証スタンダード銘柄は信用買い残がたまっている場合が多いのですが、1日程度の出来高で吸い上げられるレベルの流動性があるなら何の問題もありません。

 それでいて、年初来高値に近い株の場合、焦ってロスカットする投資家も少ない好需給環境にあるといえます。定量的に抽出しても、経済再開の恩恵を受ける業績好調銘柄ばかりが出てきました。

 株は買いたい人が多いか、売りたい人が多いか、需給分析も大事ですよね。後者の「売りたい人が多いか?」は事前に警戒できます。これを意識した銘柄選びをしてみてください!