今回のサマリー

●米株式相場は10月に失地回復へ漸進
●6~8月のサマーラリーのような、相場の手前勝手な好解釈もまたチラホラ
●利上げ停止に伴う中間反騰へつながる幸運シナリオもなくはないステージ
●しかし、サイクル上、インフレや金利について楽観するのは時期尚早と判断
●先行きを決め打ちする「進取派」も現れやすい場面、自身の投資スタイルを再確認

10月株価のアヤ戻し

 米国株は10月以降、徐々にですが、失地回復に向かっています(図1)。金利の先行きを警戒しながらなので、回復率は「景気・バリュー株>グロース株」の優劣が確認されます。何にしても、相場が上がると、なぜ上がったのかという目線で、経済指標や決算について上げ相場を追認するポジティブな見立ての市況解説がなされるのが相場の常。この展開が好循環で高じてしまったのが、6月半ばから8月にかけてのサマーラリーでした。

 今回も既に、10月半ばからの決算は予想より良い、FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げペースを落とす検討をする見込みなど、好都合な解釈が目立ち始めています。今回の米株式相場の持ち直しが首尾良く持続し、逆金融相場の次の中間反騰局面に至るか、条件を考えてみましょう。

 今般の米株式相場の反発は、8月までのサマーラリーが、FRBのタカ派傾斜と積極利上げ、CPI(消費者物価指数)などインフレ指標の悪化によって打ちのめされた9月総悲観の揺り返しと言えます。相場は2022年初来の下落トレンドで6月半ばに付けた下値を、9月には割り込むまで売られました。しかし、この悲観相場の中で、ひどく売り込まれないという地合いが目を引きました。相場底割れからの一段安を狙うショート(売り持ち)勢が報われず、すぐに買い戻しを余儀なくされ、下値不安が強いにもかかわらず、下げ渋る日が多くなったのです。

 その背景は、8月までのサマーラリーで積み上がったロング(買い持ち)の投げ売りが一巡したことです。6月の下値を下回ると、売り逃げ候補になり得る、コスト水準が相場実勢に近いポジションが2020年に形成されたものまでありません。したがって、今さら焦って売り逃げなければという敏感さが減退していると判断されました。この下げ渋りが続くと、売られないから買ってみようという機運もフツフツと出てきます。

 9月の節税絡みの株売り場面も過ぎ、まずはヘッジのためのショート勢の買い戻しが相場を底上げします。これに便乗しようという新規ロング勢はなかなか腰が据わらず、相場は一進一退を繰り返しました。それでも、売られないから買う、買うから相場が上がり、相場が上がるから市況解説はポジティブに傾く…と、先のサマーラリーをほうふつとさせる空気感が醸成されてきました。

図1:米株式主要3指数(2022年初~)

出所:Bloomberg

ファンダメンタルズの評価

 売られないから買ってみて、勝手に楽観に走るだけの相場なら、早晩勢いを失うでしょう。この相場が持続し得る条件は、やはりファンダメンタルズの後押しがあるかどうか、ということに尽きます。株式サイクルの視点から考えてみましょう。図2は、コロナ禍以降の株式相場のサイクル局面を筆者が分類したものです。現在は、高すぎる金利、さらにその上昇継続を嫌う逆金融相場の終盤かもしれないというところにいます。

 市場では、FRBが政策金利を11月2日に0.75%、12月14日に0.5%ないし0.75%、2023年2月に0.25%引き上げて、そこで利上げ打ち止めかという見通しがコンセンサスです(図3)。この通りの展開になれば、利上げ打ち止め感が出ると、中長期金利が低下し、金融引き締めのピークが過ぎたという安堵(あんど)とともに中間反騰と呼ばれる株高局面があり得ます。現在はまだ、中間反騰まで少し時間的距離があると判断していますが、9月後半の金利上昇懸念が強烈すぎた反動で、11月FOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げのペースダウンが検討されるかという観測だけでも、中長期金利が軟化すれば、中間反騰に片足入ったかの相場上昇が、可能性としてなくはないといったところでしょう。

 FOMCメンバーが政策関連発言を禁止されるブラックアウトを前に、FRBの一部幹部から、速すぎる利上げがもたらすリスクを考慮し、今後の利上げペースを検討する必要がある旨のコメントが出ています。実は彼らは、既に7月、9月のFOMCでも、急速利上げのリスクへの配慮を検討しています。しかしFRBは、8~9月には市場の楽観を戒め、インフレとの対決姿勢のみを強調せざるを得ないところに追い込まれていました。11月まで4回連続0.75%利上げで、金利水準を景気中立想定の2.5%を凌駕(りょうが)する4%まで引き上げるという段階に至って、改めてこのリスクを問うのは当然のこと。ただ地合いの良くなった株式相場は、こうしたサポート材料に対して過度に素直な喜びを示しがちです。

 他方、10月に公表されたCPIやミシガン大学消費者調査の期待インフレ率は失望的に高まりました。現時点でFOMCがハト派に転じるにも限界があります。株式市場が期待するFOMCの利上げペース再検討があっても、それはせいぜい11月0.75%の後、12月0.5%、2023年に0.25%という9月FOMCドットチャート(メンバーの政策金利見通し)中央値にいったん落ち着くまででしょう(図4)。新味ある買い材料としても限界があると言えます。

 まして、11月公表の雇用統計、CPIなどインフレ指標が失望的なら、12月0.5%利上げ見通しの細引き上げも容易に起こるでしょう。逆に、これら指標が弱めなら、株価の失地回復をさらに促す可能性はあります。ただしその場合も、単月の経済指標でもう大丈夫と結論づけられるほど、生易しいインフレではないはずです。手放しに楽観に走ることはできません。

図2:コロナ禍以降の米株式サイクル

出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

図3:米主要金利(+FF金利予想)とナスダック指数

出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

図4:FOMCメンバー政策金利見通しの推移

出所:FRB、田中泰輔リサーチ

基本・楽観・悲観の3シナリオ

 以上、10月のテクニカルな買い動意と、これからまだまだ警戒的なファンダメンタルズの評価を踏まえて、基本・楽観・悲観の3シナリオを考えます。筆者は、この段階で、これら3シナリオを決め打ちするようなズバリ予想は「根拠レス」と考えます。FRB当局者にとっても、投資家にとっても、インフレと金利の高止まり具合、それによる景気の落ち込み具合について、誰も確信を持てない段階でしょう。筆者が考える無理なく適切なアプローチは、サイクルの各局面がどうつながっていくかを、指標や政策を確認しながら進むというものです。

基本シナリオ

 12月の0.5%利上げの確からしさが増し、2023年初頭にかけて、利上げ打ち止め感が醸成され、中長期金利が軟化すれば、株式相場は中間反騰に。しかし、2023年の半ばにかけて景気後退に伴う逆業績相場を経て、早ければ同年後半のどこか、順当には2024年にインフレ率が年率3%台を低下していく中で、金融緩和観測が浮上して金融相場の様相に。

楽観シナリオ

 10月からの「売られないから買う」地合いのまま、決算期、11月FOMCを過ぎ、雇用統計やCPIが幸い弱めで12月0.5%利上げへ進む流れの中、早期に中長期金利が3%台を低下し、中間反騰の様相が前倒しで進行。2023年もインフレ低下が思いのほか早く、景気悪化も底浅で、逆業績相場も2022年の底値を割れずに経過。政策金利の引き下げが観測される中、金融相場に移行。

悲観シナリオ

 インフレ沈静のメドが立たず、政策金利は一段高めた後も高止まったままで、景気後退も深いものになる重度のスタグフレーション。投資ファンド、金融機関、企業、新興国の破綻などクレジット・イベントもダメ押し。1970年代後半の「株式の死」のように、何年も株価は高値更新に至らない事態に。
 

 経済も株式市場も、インフレ沈静のメドはまだ見えず、景気悪化もこれからというところで、下降トレンドからの反転をメイン・シナリオにするだけの材料が出てくる段階ではありません。決算の中身も、株高にかまけて、予想より良かった、良いところもあるという視点より、この先の景気後退につながり得る兆しを見いだすことが肝要と心しています。

 一方で、相場の正念場ステージでは、いち早く強気を主張する「進取派」、相場が上がるところに追随する「焦燥派」が相まって、思わぬラリーになる6~8月のような展開も可能性としては「あり」です。その勇気が報われるような展開であれば良いとは願いますが、ファンダメンタルズの追い風を確認してから参入する筆者はまだまだ慎重です。

 リスク投資に果敢に挑む「進取派」もいれば、筆者のような「慎重派」もいて、それぞれに投資の仕方があります。重要なことは、焦燥など感情をいたずらにぶらすことなく、ご自身の投資スタイルに沿ったロジックをきちんと踏まえて取り組むこと、これが一貫して変わることのない筆者の推奨です。

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