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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「「円」どこまで売られる 政府・日銀が買っても買っても売られるのはなぜ?」
日米金利差に反応して、円高・円安に大きくふれるドル/円
1ドル150円をめぐって政府・日本銀行と投機筋の激しい攻防が続いています。政府・日銀は21日23時ごろ、1ドル151円台後半まで円安が進んだところで、過去最大の5.5兆円規模と推測される、円買い・ドル売りの為替介入を実施しました。
ドル/円為替レートの動き:10月21日7:00(日本時間)~10月25日9:40
介入直後に一気に5円以上、円高が急進し、1ドル146円台に入りました。ところが、円高はそこで止まりました。そこからまた、ドルを買う(円を売る)動きが強まり、24日には一時150円に近付く円安が進みました。
24日には再び、政府・日銀による円買い介入と見られる動きがありました。一気に4円近く円高が進み、1ドル145円台に入りました。ただし、円高はそこで止まり、すぐにドルを買う(円を売る)動きが強まり、また、1ドル149円台まで円安に戻しました。
政府・日銀は21日の円買い介入を公表しましたが、24日の介入は明らかにしていません。市場に情報を出さずに実施する「覆面介入」だった可能性が高いと思われます。
介入で円安を止められないので、口先での介入を強めている?
円買い介入で円高に動く時間はだんだん短くなってきています。円買い介入のタイミングをねらって、ドルを買う(円を売る)投機筋が増えているからです。介入で円安を止められないことを投機筋に見透かされている感もあります。また、円安に苦しむ、国内の輸入業者も円買い介入でドルが安くなるタイミングで、ドルを買ってくる傾向があります。
こうした動きを受けて、政府・日銀は、口先介入も強めていると思われます。為替介入について、政府筋は「24時間365日、適切な対応をとる」「介入資金は無限にある」「市場を通じて投機筋と厳しく対峙(たいじ)する」などと円安をけん制する発言をしています。
介入は「北風」、日米金利差の縮小が「太陽」に
介入効果もなく、いつまでも際限なく円安が進むのでしょうか? そんなことはあり得ないと思います。いずれ、行き過ぎた円安に歯止めがかかるタイミングが来ると思っています。なぜならば、今の円安を引き起こしている主因が「日米金利差の拡大」だからです。
金利差が拡大し続ける限り、ドル高(円安)が続きますが、金利差の拡大が止まる、あるいは金利差が縮小する局面になれば、逆にドル安(円高)が急伸する可能性もあると考えています。
介入で円安は止められませんが、ファンダメンタルズ(日米金利差)が変われば、円安は止まります。イソップ童話「北風と太陽」のたとえで言うと、介入は「北風」、金利差の変化(縮小)が「太陽」の役割を果たすと思います。
ドル/円の動きを決める「日米金利差」
改めて問います。何が、ドル/円為替を動かしているのでしょう。為替を動かす要因は無数にあって説明が難しいのですが、もっとも重要な要因二つだけに絞れば、極めてシンプルです。以下二つの要因で動いています。
【1】日米金利差、現在の値
【2】日米金利差、先行きの思惑
日米金利差の、現在の値・先行きの思惑が、どのように為替を動かしているか説明すると以下の通りです。
【1】日米金利差、現在の値
金利差が拡大するとドル高(円安)が進む。金利差が縮小するとドル安(円高)が進む。
【2】日米金利差、先行きの思惑
先行き、さらに金利差が拡大する思惑が広がるとドル高(円安)が進み、先行き金利差が縮小する思惑が広がるとドル安(円高)が進みます。
先行きの思惑に影響するもっとも重要な要因は、日米金融当局の政策スタンスの差です。つまり、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言と、黒田東彦日銀総裁の発言が影響します。現時点で、パウエルFRB議長の超タカ派発言と、黒田総裁の超ハト派発言が際だっていて、ドル買い(円売り)を進める投機筋を勢いづかせています。
日米2年金利差が、ドル/円の動きをもっとも良く説明
私は、日米2年金利の差が、ドル/円の動きをもっとも良く表していると考えています。2年金利差というのは、米国と日本の2年国債利回りの差です。日本の金利は近年ほぼゼロ近辺で固定されていますので、米国の2年金利の動きだけ見れば、日米金利差の変化がわかります。
日米2年金利と2年金利差の月次推移:2008年1月~2022年10月(24日)
ドル/円為替レートと日米2年金利差の月次推移:2008年1月~2022年10月(24日)
2008年以降の動きを見ると、おおむね日米2年金利差の変化に、ドル/円は連動していることがわかります。ただし、よく見ると、金利差の拡大縮小と、ドル/円の動きがあっていないところもあります。金利差の実際の動きで説明できないところは、ほとんど、金利差の先行きに対する思惑の変化で説明できます。
【1】2008~2012年
日米金利差の縮小にしたがって、円高(ドル安)が進みました。
【2】2013~2014年
日米金利差が少ししか拡大していないのに、大幅な円安(ドル高)が進みました。2年金利の差では説明できない程の円安となりました。日銀が異次元緩和を実施する中、FRBが金融引き締めに動いていたことが、急な円安を招きました。今と似た環境です。今も、FRBが引き締めを急いでいる時に、日銀は頑として緩和維持を表明しています。
【3】2015~2018年
日米金利差が拡大する中で、円高が進みました。2013~2014年の行き過ぎた円安に修正が起こったと見ることができます。2016年に、米大統領選キャンペーンで共和党候補だったドナルド・トランプ氏(前大統領)と民主党候補だったヒラリー・クリントン氏が、ともに円安を批判したことも円高材料となりました。トランプ前大統領が当選した後も、日本の対米黒字を問題視し続けたため、潜在的な円高圧力が続きました。
【4】2019~2020年
日米金利差が縮小するにしたがって、円高が進みました。
【5】2021~2022年
日米金利差拡大にしたがって、円安が進んでいます。
円安が終わるための条件
いったい円安はどこまで進むのでしょうか? 投機筋がどこまで円売りで勝負し続けるか、私にはわかりません。「いくらまで」と予想を述べても、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」です。
ただ、円安が終わるための条件を述べることはできます。ファンダメンタルズ(日米金利差の拡大)が終われば、円安も終わると思います。改めて、円安を終わるための条件を述べると以下の通りです。
【1】日米金利差が拡大し続ける思惑が消えること
【2】実際に日米金利差の拡大が止まり、縮小し始めること
先に実現するとしたら、【1】思惑の変化です。今は、あらゆる材料が、日米金利差が開き続ける思惑を生んでいます。そのうち一部でも変化すれば、日米金利差の拡大が続く思惑は低下するかもしれません。
(1)パウエルFRB議長のタカ派姿勢が緩和すること。ほんのわずかでも金融引き締めを緩めるニュアンスの発言をすると、市場のパウエル像は変わる可能性があります。
(2) 黒田日銀総裁のハト派姿勢に変化が出ること。ほんのわずかでも、日本の長期金利上昇を容認する姿勢を見せると、市場のイメージは変わる可能性があります。ただ、私は、黒田総裁がそのように変化する可能性は、ほとんど無いと予想しています。
(3)米国のインフレ率が大きく低下すること
(4)米国の株価が一段と下落すること
(5)米国の景気が目に見えて悪化してくること
上記にあげるいずれかが起こると、日米金利差が開き続ける思惑は消える可能性があります。そうなると、円安は止まり、円高に転じる可能性が生じます。
今のところ、上記のいずれも起こっていません。したがって、現時点ではまだ円安(ドル高)がいつ終わるか見通せません。
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