資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。
お悩み
投資信託を積み立てし続けてきたけど、ずっとこのままでいいのか悩んでいる
木下大介さん(仮名)会社員・40歳(既婚、子ども1人)
2年前に積立投資を始めた木下さん。貯金とは別に米国株式に投資するインデックス・ファンドを毎月2万円ずつ購入していました。
当初は順調に値上がりして評価益が増えて喜んでいましたが、株式相場の下落によって投資金額よりも値下がりしてしまいました。評価損が気になっていましたが、ここ最近円安が進行したことで、また評価益がでるようになって安心しました。
最初は初めての投資ということで、よくおすすめされている積立投資を始めてみましたが、年数がたったことでだんだんと株式や為替の値動きや相場情報などにも慣れてきました。
インデックス投資しかしてこなかったので、個別企業の株式や他の投資はまだまだよくわからないことも多いですが、それでも少しずつ知識も広がってきています。
特に大きな不満があるわけではないですが、ずっと同じことだけをしてきたので、他にも何かやった方がいいことがあるのではと考えるようになりました。
木下さんが今後積立投資を続けていく中で、何をどのようにしていったらいいのでしょうか?
投資知識や経験が増えることで、悩みが生まれてくる
投資を始めると案外何も知らないときの方が、投資のやり方がシンプルで理にかなっていることが多いです。投資の知識が増えて、相場にも慣れてくるともっと良い方法があるのではないかと考えるようになる方が多くいます。
それ自体は決して悪いことではなく、運用の見直しや状況確認をしているわけですから、むしろしっかり資産運用を考えて行動しているといえます。
しかし、積立投資は毎月貯蓄をしながら同時に運用をすることで効率的に資産を増やそうとする資産形成のための投資です。従来の株式投資などとは違い、まだまだ現役世代で将来の家計支出も未確定で、投資原資が少ない人が主に行っています。
そのため、成果を上げるには「機械的に継続」することが望ましいのですが、実際には投資で評価損が出ることに耐えられずに1年未満でやめてしまう方も多いのが実情です。
相場環境によって投資対象を見直したり、資産の配分を変えたりなど、その時々によって最善の行動をとりながら資産を増やしていくものだと考える方もいます。投資のやり方は人それぞれですが、ただそれは積立投資のやり方ではありません。
積立投資家は投資をしはじめた後、どうしているのか?
私たちは常日頃から、お客さまである個人投資家のお金や投資の悩み相談にのっています。仕事だからといえば当然なのですが、ふつうはなかなか他の人がどんな投資をしているのか、金額や投資先などを聞く機会はないでしょうし、聞きづらい話でもあります。
とはいえ、最近は雑誌などアナログな媒体だけでなく、YouTubeやブログ、ツイッターなどのSNSなどを通じて、気軽に情報を得ることができるようになっています。それらを見るだけでも参考にはなると思います。
というのも資産形成が目的の積立投資は、他の方と自分がやっていることが似通っている可能性が高いためです。株式投資では企業の銘柄研究だけでなく、投資手法というのは千差万別です。参考にならないわけではありませんが、他の人のやり方を学ぼうとするとキリがありません。
その点、積立投資は長期間にわたって、投資信託を毎月投資する投資手法なのでやり方はみなさん同じです。そして銘柄選定も大切ですが、それよりも継続できるかどうかが重要なので、「ライフプラン」や「家計設計」が投資成果に反映してきます。
そこで、実際に私たちがお客さまから積立投資についてよく受けるご相談をお伝えしたいと思います。
積立投資をしはじめてからのこと1:まとまった資金の追加投資を検討する
積立投資をしている方から最もよくある相談の一つが追加投資の相談です。「とりあえず無理のない金額で始めたのでもう少し余裕がある」「賞与がはいったので一部投資に回したい」「相場が下落しているので今のうちに増額しておきたい」など理由はさまざまです。
もし、家計設計をした上で月の余裕資金で追加投資(例:月2万円を3万円にするなど)をするという判断であれば、「継続できるなら」おすすめしています。
しかし、「まとまった資金」を追加するとなると話はかわります。もちろん駄目な投資というわけではないのですが、積立投資は毎月一定額を投資することで、運用当初は「ドルコスト平均法」の効果で買付単価を分散することができています。
個人が投資で失敗することで多いのが高値つかみです。買うタイミングを探っているうちに結果的に買いやすいときが、高値付近のことが多い傾向にあります。
積立投資にはこれを回避する目的もありますが、途中でまとまった資金を追加投資すると、投資金額が大きければ大きいほど、そのタイミングの購入単価に成果が左右されてしまいます。
積立投資は一定額を機械的に投資することで心理的・時間的な負担も減ります。追加投資は別の投資として行うか、積立投資の金額を増やす形での投資がおすすめです。
ただし、運用期間が長くなればなるほど、積み立てしている投資金額が大きくなるので、その際には追加投資したとしても、購入平均単価への影響は少なくなります。
積立投資をしはじめてからのこと2:相場の変動で投資を継続するかどうか悩む
積立投資をしているときに、相場が上昇し続けていてある程度評価益が出ているときやあまり動きがなくて投資損益があまりない状況ほど、心理的な負担が少なくて継続しやすいものです。
逆に相場が大きく変動しているときにはいったん投資をやめるか検討する方が増えます。例えば、相場が下落していると投資をせずに毎月貯金した方がいいのではと考えてしまって投資そのものをやめる人が増えます。
そして、相場が大きく上がっているときには、予想以上に利益が出ているのでいったん利益確定したり、大きく上昇しているときに積立しなくてもと考えたりすることで、投資をやめるわけではないのですが、いったん売却して様子をみようと判断する方が出てきます。
投資に慣れていないと、こうした相場の上げ下げへの対応で悩む方が多く、本来の積立投資のやり方から外れてしまう方が出てきます。積立投資に限らずですが、投資を始めるときに、状況によってどんな対応をするか想定しておくことが大切です。その場しのぎの対応にならないように計画的に積み立てをしていきましょう。
積立投資をしはじめてからのこと3:他の商品にも手を広げるか考える
投資をしはじめると投資をする前よりも情報を調べる機会も増え、より良い成績を出している商品に目がいくことがあります。特に、年末年始などに年間成績上位の投資信託や株式が特集されることも多く、隣の芝生は青いとはよく言ったものでつい気になってしまうものです。
しかし、積立投資で毎年の成績を比較することにあまり意味はありません。むしろしない方が良いとさえ言えるでしょう。というのも、毎年どの投資資産、商品が上昇したなんて全て結果論です。年間の成績上位ということは、それだけ値動きが大きい(=リスクが高い)ともいえます。
積立投資する商品を増やす場合は、類似商品も避けるようにしましょう。特にインデックス投資や同じような分散投資をしている投資信託を複数保有しても、管理が面倒になるだけであまり意味はありません。
積立投資では、金額を増やすのではなく投資商品を増やす場合は、投資対象が違う商品を選ぶことで、分散効果も期待できるので有効な選択肢の一つです。ただし、「積立投資」に適した商品でなければやめた方が良いので注意しておきましょう。
積立投資をきっかけに投資の視野を広げよう!
定期的な見直しや状況確認で、投資知識と経験が深まる
繰り返しになりますが、積立投資は「機械的に継続する」ことで資産形成を実現することを目的とした投資です。積立投資は手段であって、それ自体が目的ではありませんので、もし他に良い方法が見つかったというのであれば、投資方法を変更することも選択肢の一つです。
結果が出ていないからと安易に投資方法を変更することは、知識や経験が深まらないのでおすすめできません。とはいえ、投資をして放置しておけば良いというわけでもありません。
「ほったらかし」にできる状況にしつつ、定期的な状況確認や必要に応じて見直しをすることが重要です。その上で結果的に何もしないことと、何も見ないで放置しているのでは全く意味が違います。
積立投資をするためには、自身のライフプランや家計設計を考えるべきですし、将来的にうまく資産形成ができたなら、まとまった資産の運用や管理などを知る必要も出てきます。
いま積立投資をする人が年々増えている分、その情報もたくさん溢れており、調べやすくもなっています。これをきっかけに投資の知識や経験をぜひ深めていってください。
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