米国の金融政策への思惑で一喜一憂、ドル/円相場は150円突破し32年ぶりの円安水準に

 直近1カ月(9/16~10/21)の日経平均株価は2.5%の下落となりました。期間中の高値は9月20日の2万7,907円で、その後は調整が進み、10月3日には2万5,621円まで下落しています。

 ただ、6月20日の直近安値2万5,520円は割り込まずにその後下げ渋り、8月17日高値2万9,222円から10月3日安値までのほぼ半値戻し水準にまで切り返す展開になりました。なお、期間中のダウ工業株30種平均は0.8%の上昇、ナスダック総合指数は5.1%の下落となっています。

 期間中前半の株安ですが、9月21日のFOMC(米連邦公開市場委員会)において、予想通り3会合連続での0.75%利上げが決定されたほか、先行きの政策金利見通しが大幅に引き上げられたため、金融引き締めの長期化が懸念されることになったようです。

 また、このタイミングで、英国政府が大規模減税策を発表したこともあり、英国の財政懸念の高まり、一段のインフレ進行に対する警戒感も強まりました。米アップルのiPhone14増産計画撤回の報道、米主要企業の業績悪化なども加わり、中間期末にかけての配当権利落ち再投資の先物買い期待なども下支え要因となりませんでした。

 ただ、新たな四半期となる10月に入ると、機関投資家の需給動向にも変化が見られ、押し目買いの動きが優勢となりました。想定以上に悪化する米経済指標も散見されたことで、今後の金融引き締め緩和につながるとの思惑も強まったようです。なお、この期間にはドル高円安が一段と進行し、一時150円台にまで上昇、32年ぶりの円安水準となっています。

 日本郵船(9101)商船三井(9104)川崎汽船(9107)など大手海運株はそろって10%以上の下落となりました。コンテナ船運賃指数の下落基調が続く中、中間配当権利落ちを迎えたことで手じまい売り圧力が強まりました。マツダ(7261)三菱自動車(7211)日産(7201)など自動車株も下落率上位になりました。

 トヨタの生産正常化の遅れ長期化のほか、米カーマックスの決算悪化が連想売りを誘ったようです。日本電産(6594)は「自社株買いに永守重信会長が関与」との一部報道を受けて警戒感が強まりました。決算発表が注目された安川電機(6506)も、通期予想の下方修正を発表して売られました。

 半面、レーザーテック(6920)が10%超の上昇となるなど、半導体関連の中で異彩高となりました。業績への影響が大きい蘭ASMLが好決算、ならびに好調な受注動向を発表したことが買い安心感につながりました。

 H2Oリテイリング(8242)高島屋(8233)三越伊勢丹(3099)などの大手百貨店株も10%以上の上昇率となりました。水際対策の緩和で外国人旅行客の訪日が始まったことで、円安効果も加わったインバウンド需要への期待が高まったようです。

米金融引き締め緩和観測も高まる方向へ、日本株への資金シフトも引き続き期待

 先週末の米紙では、FRB(米連邦準備制度理事会)は11月のFOMCにおいて、12月会合で利上げ幅を縮小するかどうかを協議しそうだと報じられています。足元では、11月に0.75%、12月にも0.75%の利上げが続くとの見方が大勢であったため、ポジティブな印象は強いと考えられます。

 11月1~2日のFOMCに向けて期待感が高まりやすくなるほか、少なくとも利上げのピークアウトが意識されるステージには入ったと捉えられます。

「米長期金利の上昇→米ハイテク株安→国内グロース株安」の流れは目先落ち着くものとみられ、2022年に大きく売り込まれた国内グロース株の戻りに今後は関心が向かいそうです。また、10月21日には、政府・日本銀行が2度目の為替介入を実施し、ドル/円が大きく伸び悩みました。

 米金融引き締め緩和の見方が強まっていることもあり、今回は急激な円安の歯止めにつながっていく可能性もあるでしょう。

 円安が一服する場合、自動車関連株やインバウンド関連株に一時的なマイナス材料となってくる可能性があります。ただし、自動車株には今後、サプライチェーンの本格回復による生産の正常化が期待材料となるほか、インバウンド関連株にも、今後は中国の渡航制限緩和が期待材料として残ります。押し目買いのチャンスとなる可能性もあります。

 10月11日にはIMF(国際通貨基金)が世界経済見通しを発表しています。2023年の世界経済成長率は2022年の3.2%から2.7%に低下する予想です。とりわけ、米国は1.6%から1.0%に低下、ユーロ圏は3.1%から0.5%に低下、英国は3.6%から0.3%に低下となっております。こうした中、日本は1.7%から1.6%の低下にとどまる予想です。

 2年連続で日本の成長率が米国を上回るのはバブル期以来ともされており、今後、日本への資金シフトにつながっていく公算は大きいとみられます。特に為替が円安から円高に向かう際は、海外投資家の為替差益が見込まれるので、現在の超円安水準は、海外投資家にとっての日本株買いの好機とも考えられます。

 中では、グローバル経済の影響を受ける輸出関連株よりも、内需株に妙味が強いと判断できます。

 10月24日の週からは国内で7-9月期の決算発表が本格化します。また、同週は米国主要企業の決算発表のピークにも当たるため、当面は決算発表が最大の関心事となります。全般的に、米国の金融引き締めピークアウトが意識される中では、決算発表がそのまま不透明要因の解消として捉えられてくる可能性が高いでしょう。

 とりわけ、グローバルの景気動向に左右されにくい、情報通信やサービス株など内需系のグロース銘柄は決算発表後の展開に期待が持てます。一方、欧米での今後の景気鈍化懸念が強まっていくようだと、輸出関連株は好決算を発表しても、下期から来期以降の業績鈍化懸念が拭えない状況も想定されます。

 好決算を受けて大きく上昇する場面は、利食いや戻り売りも考慮したいところです。個人消費関連に関しては、製品値上げ後の販売数量の状況次第で選別が進むとみられます。

内需の出遅れ銘柄に注目したい局面

 高配当利回りの代表格である日本郵船(9101)ですが、下期は収益の大幅な鈍化を見込んでおり、期末配当金は145円に減少する(上期は333円)予想です。ただ、期末配当金を年換算すると配当金は290円になりますが、これでも配当利回りは優に10%を超える水準です。

 現在の株価は売られ過ぎと考えますので、高配当利回り銘柄のリード役として今後も注目したいところです。

 こうした中、今後はインフレ懸念から景気減速懸念に焦点が変化していくとみられます。欧米の景気悪化を考慮すると、輸出関連株よりも内需株を選好したい場面といえます。また、今後はインフレ懸念で売り込まれた銘柄の株価が反発に転じるなど、リターンリバーサルの流れが強まる可能性もあり、より出遅れ銘柄に買い安心感が生じやすいでしょう。

 下表は、配当利回りが4.0%以上ある銘柄の中で、内需セクターに属し、時価総額1,000億円以上、今期が営業増益予想のもののリストになっています。また、リターンリバーサルの流れも考慮して、2022年に入ってからの株価がマイナスパフォーマンスの銘柄としています。

(表)リバウンド余地が大きい内需系の高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り 10月21日終値 時価総額 株価騰落率 今期営業増益率
2427 アウトソーシング 4.02 1,119.0 1,409 ▲27.81 33.8
1861 熊谷組 5.16 2,520.0 1,144 ▲12.23 2.0
7337 ひろぎんHD 4.35 621.0 1,940 ▲9.87 9.1
8795 T&DHD 4.52 1,373.0 8,087 ▲6.73 19.9
1941 中電工 5.00 2,081.0 1,210 ▲2.12 0.7
1928 積水ハウス 4.29 2,423.0 16,590 ▲1.86 13.0
9434 ソフトバンク 5.93 1,450.0 69,414 ▲0.31 1.4
注:配当利回り、株価騰落率、今期営業増益率の単位は%。時価総額の単位は億円。
注:ひろぎんHD、T&DHDの増益率は純利益。
注:株価騰落率は昨年末比。株価騰落率の低い順にランキング

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(10月21日終値)
  2. 年初来の株価騰落率がマイナス(10月21日終値)
  3. 時価総額が1,000億円以上
  4. 今期営業利益が増益予想(営業利益計画未公表銘柄は純利益が増益予想)
  5. 内需系業種(水産・農林、建設、食品、その他製品、電力・ガス、陸運、倉庫・運輸、情報・通信、小売り、銀行、証券、保険、その他金融、不動産、サービス)

1 アウトソーシング(2427・東証プライム)

 工場など製造ラインへの人材派遣を主力としています。形態は派遣のほかに請負や受託も行い、技術系やサービス系分野にも展開しています。海外事業も5割超のウエートを占めており、主に、豪州、欧州、南米が展開地域となっています。

 積極的な人材採用やM&Aで事業を拡大させており、2021年1月にはアイルランド最大の人材ビジネス企業 CPLグループ を買収し、その後も7社の連結子会社化を発表しています。2021年11月には不適切な会計処理が明らかになり、現在は再発防止策を進めています。

 2022年12月期上半期営業利益は109億円で前年同期比5.4%減益となっています。国内・海外の技術系が順調な成長を遂げたものの、雇用調整助成金の剥落、英国社ののれんなどの減損損失を計上したことで減益となりました。

 通期予想は320億円で前期比33.8%増を据え置いています。自動車関連でのリカバリー生産の本格化などで、下期にかけて増益幅は広がっていくとみられます。米軍施設向け事業の受注残も高水準にあります。年間配当金は前期比14円増の45円を計画しています。

 不適切会計の発覚、グロース株安の流れなどを背景にここ1年間の株価は停滞、昨年11月高値2,225円からはほぼ半値の水準となっています。PER(株価収益率)水準は10倍を大きく割り込み、割安感が意識される状況でもあります。

 自動車生産正常化の際には関心が高まりやすい銘柄であるほか、足元の円安進行で海外子会社の連結寄与も大きくなるとみられます。さらに、水際対策の緩和によって、停滞していた外国人関連ビジネスの本格化も今後は期待されるでしょう。

2 熊谷組(1861・東証プライム)

 準大手ゼネコンの一角です。民間建築の割合が約6割となっていますが、トンネルなどの土木工事でも高い実績があります。アジアを中心に海外でも事業展開。筆頭株主は住友林業となっており、中大規模木造建築ブランド「with TREE」を立ち上げるなど順調に協業を推進中です。

 自己資本比率は45%超、流動比率も170%超の水準で、比較的財務安全性は高い状況にもあります。

 2022年3月期第1四半期営業利益は5.1億円で前期比82.1%減益となりました。建設資材価格の上昇、土木工事事業における複数の工事の中断や進捗(しんちょく)鈍化、建築事業における採算悪化工事の複数発生などで利益率が低下しました。

 一方、通期予想は232億円で前期比2.0%増を据え置いています。中断工事や進捗鈍化工事の本格再稼働、好採算工事の新規稼働などによる収益力の向上を見込んでいます。また、年間配当金は前期比10円増配の130円を計画しています。

 5%を超える配当利回り水準は、高利回り銘柄が多い建設セクターの中でもトップクラスの水準にあります。一方、株価は年初来安値圏にあるなど、大手・準大手ゼネコンの中では極めて株価パフォーマンスが低い状況にあります。採算性の向上などで、第2四半期で業績進捗率の回復が確認されれば、株価の水準訂正余地は大きなものが見込めるでしょう。

3 ひろぎんHD(7337・東証プライム)

 2020年10月に持ち株会社化。地銀上位行の広島銀行が中核で、ひろぎん証券やひろぎんリースなどをグループに抱えています。広島銀行は広島県を中心に、岡山県、山口県、愛媛県で主に事業展開、預金等残高は4県で約98%、貸出金残高は約63%を占めています。

 預金等残高、貸出金残高は中四国地方に本店を置く地域金融機関の中でトップ、全国の地域金融機関の中でも7~8位を占めています(数値は全て2021年9月時点)。広島銀行単体の自己資本比率は、2022年6月時点で9.82%となっています。

 2023年3月期第1四半期純損益は89.6億円で前年同期比26.0%増益となっています。広島銀行の増益がけん引役となりました。有価証券利息配当金と法人ソリューション収益の増加に加えて、経費や与信費用などの減少も増益要因となっています。

 通期予想は250億円、前期比9.1%増を据え置いていますが、第1四半期の進捗率は36%に達しています。年間配当金は前期比3円増配の27円を計画しています。

 米国長期金利の低下は一般的に銀行株にとってはマイナス材料となりますが、地銀にとっては、緩和状態が長期化している日本の金融正常化がプラスとなってくるでしょう。厳島神社や平和記念公園など広島県は観光資源も豊富であり、今後は水際対策緩和によるインバウンド需要も地域経済活性化につながるとみられます。

 広島銀行は、2020年度のメインバンク社の増加数が全国で第2位にもなったようです。0.1倍台のPBR(株価純資産倍率)水準には割安感が顕著であるともいえそうです。

4 T&DHD(8795・東証プライム)

 大同生命、太陽生命、T&Dフィナンシャル生命の生保3社を中核とする生命保険グループです。ペット&ファミリー損保なども抱えるほか、T&Dアセットマネジメントで資産運用関連事業も手掛けています。保有契約高の市場シェアは7.0%で業界第6位となっています。

 太陽生命は家庭市場をターゲットに大都市圏・地方中核都市に集中展開し、大同生命は中小企業市場に特化して強力な代理店網を築いています。T&Dフィナンシャル生命は多くの提携代理店を抱え、そこを通して、貯蓄性商品や保障性商品を家庭市場に提供しています。

 2023年3月期第1四半期純損益は593億円の赤字で、前年同期比274億円の損益悪化となりました。フォーティテュード社の再保険資産にかかる評価性損失の発生が966億円の損益悪化要因になりました。一方、経営実態を表す指標であるグループ修正利益は386億円で同60.2%増益となっています。

 2019年7月にグループ化したT&Dユナイテッドキャピタルがけん引する形になっています。2023年3月期通期のグループ修正利益は1,060億円で前期比2.7倍、純利益は170億円で同19.9%増益見通しとしています。前期に発生した特殊費用の一巡が大幅増益の背景になります。年間配当金は前期比6円増の62円を計画しています。

 生命保険株は銀行株と同様に金利の上昇局面で買われやすくなります。逆に、米国の金融引き締め緩和が強く意識されるようだと、株価には買い手控えムードが強まる可能性もあります。

 ただ、会社側では現状の株価に対する不満も強いとみられており、早い段階での自己株式取得発表が期待されます。とりわけ、株価下落場面は買い場と捉えたいところです。なお、円安は外債利息の増加など業績上振れ要因につながるとみられます。

5 中電工(1941・東証プライム)

 中国電力系の電気工事会社です。中国電力を主要顧客とする配電線工事、送変電工事のほか、ゼネコンや製造業、ホテルなどに向けた屋内電気工事、空調管工事、情報通信工事を手掛けています。

 地域別では中国地域が9割弱を占め、残りは都市圏で、マレーシアやシンガポールなど東南アジアに子会社を設置と海外にも事業拡大を図っています。都市圏・海外の売上構成比が年々高まっています。電力系設備工事会社の中では、相対的に自己資本比率が高い状況にあります。

 2023年3月期第1四半期営業利益は1.2億円で前年同期比57.8%減益となりました。屋内電気工事分野における一部工事の立ち上げ遅れなどが響いたようです。同様の理由によって、上半期予想は従来の30億円から25億円に下方修正していますが、下半期以降は遅れの解消が見込めるとして、通期予想は86億円から91億円、前期比4.1%増に上方修正しています。

 屋内電気工事の受注高は第1四半期も2割超の増加となっています。年間配当金は前期並みの104円を計画しています。

 配当政策はDOE(株主資本配当率)2.7%をメドとしており、結果、配当性向や配当利回りは業界内でも高い水準となっています。業績変動による減配リスクが小さい点は妙味になるでしょう。

 また、原発再稼働などによって中国電力の収益向上が図れれば、同社にとっても追い風となるでしょう。また、総資産に占める投資有価証券は39%を占めており、保有有価証券の売却益を原資とした自社株買いの余地なども大きいとみられます。