米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。

 米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合株価指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種指数」があります。

 これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。

 そこで2022年11月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2022年10月13日現在、為替は1ドル=146円で計算)。

 その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な三つの違いについて、お伝えします。

(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。

※米国に上場していても米国籍企業以外の場合、配当金にかかる源泉税率は日本との租税条約によって異なり10%ではありません。

(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。

(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。

米国高配当株1:インターナショナル・ゲーム・テクノロジー(IGT)

 宝くじ管理サービス、オンラインおよびインスタント宝くじシステム、ゲーミングシステム、電子ゲーム機、デジタルゲームなど、革新的なゲーム技術製品およびサービスを運営・提供しています。世界100カ国以上で現地法人を設立し、政府および規制当局と良好な関係を築き事業展開しています。

 時価総額は35億ドルで、日本円で約5,110億円となっています(USD=146円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「グローバルロッタリー(宝くじ)事業(Global Lottery)」で、続いて「グローバルゲーミング事業(Global Gaming)」、「デジタル&ベッティング事業(Digital&Betting)」となります。

※直近の四半期決算(企業HPより)、筆者作成

「グローバルロッタリー(宝くじ)事業」では全米版宝くじであるPowerballにおいて、管理サービスを提供するとともに世界約80カ国でも同様のサービス提供をしています。また、「グローバルゲーミング事業」では、440 以上のゲーミングライセンスを保有し、カジノ事業者や政府機関と取引を行っています。

競合他社

 競合他社として、ラスベガス地元、ラスベガスのダウンタウン、中西部・南部の三つの事業セグメントで事業を展開する複数管轄のゲーム会社であるボイド・ゲーミング(BYD)、デジタルスポーツエンターテインメントおよびゲーミングの会社であるドラフト・キングス(DKNG)、居酒屋のゲーム、カジノ、リゾートの運営を含む分散型ゲームに焦点を当てるゲーム会社のグループであるゴールデン・エンターテインメント(GDEN)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は年初から下落して推移していますが、配当は今年に入って四半期配当を復活しました。

 業績は比較的好調であり、自社株買いを行うなどの株主還元を行っています。しかし、世界的な株価調整の影響を受けて、現在株価はコロナ発生前の水準まで下落しています。

 そのため、株価下落前の利回りは3%台でしたが、現在は5%近辺で推移しています。長期的な投資で、利回り5%の水準であれば配当目的の投資対象としては選択肢の一つではないでしょうか。

業績動向

 2022年8月2日開示の四半期決算では、1株利益は市場予想を上回りましたが、売上は市場予想通りの結果となりました。

 イタリアのゲーミングホール閉鎖の影響もあり、売り上げは前年同期比を下回りましたが、「Global Gaming」において米国とカナダでの業績が好調なこともあり、利益率は改善しています。会社側は、景気後退期における宝くじの売上高の変動の少なさは強みであるとしており、今後世界的な不況が起きたとしても影響は少なくなると予想しています。

 また、ゲームもリーマンショックのときにあまり売上が落ちなかったことから、不況に強い事業であると会社側は予想しています。

 次回2022年11月16日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。

注意点

 不況時に売り上げはあまり落ち込んでいないものの、新型コロナウイルスの流行が発生してからゲームの売り上げが著しく落ち込んだ時期があり、パンデミックなどのケースでは従来とは異なる株価の動きをすることがあるので注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:0.8ドル
配当利回り:4.62%
株価:17.31ドル(約146円)

 この銘柄、権利落ち日は11月下旬予定(権利実施は12月上旬予定)です。

 配当利回りは10月13日時点で4.62%、株価は17.31ドルでおよそ2,500円から購入できます(1USD=146円計算)。

 2019年からの最高値は32.26ドル、最安値は3.79ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株2:アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)

 カナダを中心に金鉱山を保有し、金の採掘などの事業を展開しています。

 カナダ以外でも、オーストラリア、フィンランド、メキシコ、米国、コロンビアで事業を展開しており、世界第三位の金の生産量を誇る企業です。

 時価総額は191億ドルで、日本円で約2兆8,000億円となっています(USD=146円換算)。

事業の注目ポイント

 事業は「金鉱山開発事業(exploration and production of gold)」の単一事業です。

 その事業では、LaRonde mine、Goldex mine、Meliadine mine、Hope Bay mineなど世界各国の鉱山にて金の探鉱と生産をおこなっています。

競合他社

 競合他社として、カナダを拠点とする金と銅の生産者であるバリック・ゴールド(GOLD)、貴金属のストリームとロイヤルティ会社であるロイヤル・ゴールド(RGLD)、米州にある貴金属資源事業の運営・取得・探鉱・開発に従事するカナダの資源会社であるSSRマイニング(SSRM)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は年初から下落して推移していますが、配当は1983年以降一貫して出し続けており、今年に入ってから増配を行っています。

 アグニコ・イーグル・マインズは、今年の2月8日にKirkland Lake Gold Ltdとの合併が完了し、それに伴い業績が拡大しています。しかし、それ以上にインフレによる業績への懸念から株価が下落しています。そのため、ここ数年1~2%台で推移していた配当利回りが3%台まで上昇しています。

 配当利回りが3%台となるのも約10年ぶりで、業績の変動が比較的少ない銘柄であり、このタイミングで配当を目的として保有するのもよいのではないでしょうか。

業績動向

 2022年7月27日開示の四半期決算では、1株利益・売上ともに市場予想を上回りました。

 インフレによるコスト増がありながらも、為替が業績にプラスに働いたことやインフレのヘッジプログラムを用いたことでコスト増を相殺することができました。

 会社は今後もインフレが続くと予想していますが、コストダウンとヘッジプログラムを有効活用することでインフレに対応していくとしており、次回以降の決算でも堅調な業績が期待されます。

 次回は2022年10月26日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 露天掘りなどによる採掘は環境への影響が懸念されており、環境への配慮から各国が何らかの対策を取ったときに、その内容によってはアグニコ・イーグル・マインズの事業に影響を及ぼす可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.6ドル
配当利回り:3.81%
株価:41.97ドル(約146円)

 この銘柄、権利落ち日は11月30日(権利実施は12月15日)です。

 配当利回りは10月13日時点で3.81%、株価は41.97ドルでおよそ6,100円から購入できます(1USD=146円計算)。

 2019年3月からの最高値は86.47ドル、最安値は36.36ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株3:エヴァジー(EVRG)

 ミズーリ州・カンザス州において電力の発電、送電、配電、販売を行う電力会社を保有する持ち株会社です。

 傘下のEvergy Kansas Central、Evergy Metro、Evergy Missouri West、Evergy Transmission Companyなどを通じて事業展開をしており、個人・商業施設・工場などにサービス提供しています。

 時価総額は126億ドルで、日本円で約1兆8,500億円となっています(USD=146円換算)。

事業の注目ポイント

 事業は、「エヴァジー(Evergy)」が提供する発電・送配電サービスの単一事業となります。

 その中で、顧客別売上高の中心は「居住者用事業(Residential)」で、続いて「商業用事業(Commercial)」、「産業用事業(Industrial)」、「送電事業(Transmission)」、「卸売事業(Wholesale)」、「その他事業(Other)」となります。

※直近の四半期決算(企業HPより)、筆者作成

 顧客別売上高において、全ての項目で前年同期比の水準を上回って推移しており、かつ2020年・2019年の同時期と比較しても上回っており着実に業績を拡大させています。

競合他社

 競合他社として、電力生産および小売配電事業を行う総合エネルギー持株会社であるエンタージ(ETR)、消費者サービス企業であり、米国およびカナダ全土でエネルギーおよび関連製品・サービスの生産・販売に従事するNRGエナジー(NRG)、顧客、商業、地域社会に不可欠な資源を提供する電力と発電の総合小売事業を行う企業であるビストラ・コープ(VST)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は年初の水準を下回って推移していますが、配当は2018年から毎年増配しています。株価は年初の水準を下回っているものの、営んでいる事業柄、株価の変動は比較的少なくなっています。

 パナソニックがリチウムイオン電池製造工場をカンザス州に設立する予定であったり、EVバッテリー製造地域として地位を確立させつつあったりすることから、エヴァジーが事業を行う地域の経済動向は引き続き堅調であると会社側も発表しており、それに伴って株価も堅調に推移することが予想されます。

業績動向

 2022年8月4日開示の四半期決算では、1株利益・売上ともに市場予想を上回りました。

 好天による電力需要の増加や、送電利ザヤの改善などにより好調な業績となりました。

 2022年から2026年にかけて設備投資を計画しており、同時に年6~8%のEPS(1株当たり利益)上昇を目指すとエヴァジーは発表しています。また、EPSの上昇とともに増配も目指していくとしており、今後も業績が堅調に推移するだろうと予想するが故のエヴァジーの計画だと考えられます。

 次回は2022年11月2日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 石炭での発電から風力発電への移行を試みていますが、そうした再生可能エネルギーへの移行をスムーズに進めていくことができるかどうかで、ESGマネーの流入に影響を及ぼす可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.29ドル
配当利回り:4.15%
株価:55.1ドル(約146円)

 この銘柄、権利落ち日は11月中旬の予定(権利実施は12月下旬の予定)です。

 配当利回りは10月13日時点で4.15%、株価は55.1ドルでおよそ8,000円から購入できます(1USD=146円計算)。

 2019年からの最高値は73.91ドル、最安値は44.92ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株4:ファイザー(PFE)

 研究開発型の世界的なバイオ医薬品企業です。

 バイオ医薬品の開発、製造、マーケティング、販売、流通を通して、先進国および新興国市場において、ウェルネス、予防、治療、治癒を中心に事業展開しています。また、最近ではバイオヘイブン・ファーマシューティカルズ・ホールディングを買収するなど積極的に事業拡大を行っています。

 時価総額は2,400億ドルで、日本円で約35兆400億円となっています(USD=146円換算)。

事業の注目ポイント

 事業は「バイオ医薬品事業(Biopharma)」の単一事業となります。

 その中で売上の中心は、「ワクチン(Vaccines)」で、続いて「医療用医薬品(Hospital)」、「がん治療薬(Oncology)」、「内科治療薬(Internal Medicine)」、「希少疾患薬(Rare Disease)」、「免疫炎症性疾患薬(Inflammation&Immunology)」となります。

※直近の四半期決算(企業HPより)、筆者作成

「ワクチン」では、肺炎球菌、髄膜炎菌、ダニ媒介性脳炎、COVID-19など、全ての年齢層に対応したワクチンを提供しており、「医療用医薬品」では無菌注射剤、抗感染症薬、経口剤COVID-19などを取り扱っています。

競合他社

 競合他社として、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウイルス性肝炎、がんなどの疾患を予防および治療するための医薬品の発見、開発、および商品化に注力するバイオ医薬品会社であるギリアド・サイエンシズ(GILD)、処方薬、ワクチン、生物療法、アニマルヘルス製品を通じて健康ソリューションを提供する世界的なヘルスケア企業メルク(MRK)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年12月以降下落して推移していますが、配当は今年に入ってから増配をしています。

 ロシアのウクライナ侵攻以降も株価は堅調に推移してきましたが、8月以降マーケット全体の地合いの悪さもあって株価は年初から3割近く下落して推移しています。ただ、株価が下落したため7月28日時点で3.08%だった利回りが3%台後半まで上昇しています。

 値動きもそれほど大きい銘柄ではなく、会社側も継続して増配と自社株買いをすすめていくとしており、この下落局面で配当を目的として保有されるのには良いのではないでしょうか。

業績動向

 2022年7月28日開示の四半期決算では、1株利益・売上ともに市場予想を上回りました。

 また、2019、2020、2021年の同第二四半期の決算内容と比較しても1株利益・売上ともに全て上回っており、売上は第二四半期史上最大となりました。

 COVID-19 ワクチンのComirnatyやCOVID-19経口治療薬Paxlovidの売上が拡大したことが好調な業績につながったようです。また、EliquisやVyndaqel/Vyndamaxなどの自社製品も順調に売り上げを伸ばしており、今後も堅調な業績が期待されます。

 次回2022年11月1日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。

注意点

 現在続いているドル高は、ファイザーにとって業績のマイナス要因となります。

 今後、さらにドル高が進んだ際には業績悪化の可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.6ドル
配当利回り:3.80%
株価:42.03ドル(約146円)

 この銘柄、権利落ち日は11月3日(権利実施は12月5日)です。

 配当利回りは10月13日時点で3.80%、株価は42.03ドルでおよそ6,100円から購入できます(1USD=146円計算)。

 2019年からの最高値は61.25ドル、最安値は27.01ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株5:ユニティル (UTL)

 ニューイングランドと呼ばれる地域の、メイン州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州の顧客に電力とガスを供給する公益事業持株会社です。

 2030年までに50%、2050年までに温室効果ガス排出量ゼロを達成するために、クリーンエネルギーでの発電にも積極的に取り組んでいます。

 時価総額は7億4,000万ドルで、日本円で約1,100億円となっています(USD=146円換算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「電力事業(Electric)」で、続いて「天然ガス事業(Gas)」になります。「再生可能エネルギー事業(Non-Regulated)」にも取り組んでいますが、まだ利益はあがっていません。

※直近の四半期決算(企業HPより)、筆者作成

「電力事業」では、傘下のUnitil Energy、Fitchburg、Northern Utilitiesを通じて配電事業を展開しており、「天然ガス事業」では傘下のGranite Stateを通じて全長86マイルの地下ガス輸送パイプラインを運営しています。

競合他社

 競合他社として、主にミシガン州において事業を展開するエネルギー会社であるCMSエナジー(CMS)、子会社を通じ、送電・配電・発電設備および天然ガス配電設備を所有・運営し、エネルギー性能契約および持続可能なインフラサービスを提供するセンターポイント・エナジー(CNP)、顧客志向で成長志向の公益事業会社であるブラック・ヒルズ(BKH)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は年始付近の水準で推移しており、配当は2015年から毎年増配しています。

 メイン州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州の好調な経済発展と、寒い地域であるがゆえに熱源の確保として電気・ガスの安定した需要が見込まれることなどで業績は変動が少なく堅調に推移し、それに伴い株価も一定の範囲内で推移しています。

業績動向

 2022年8月2日開示の四半期決算では、1株利益・売上ともに市場予想を上回りました。

 前年同期比と比較して、電気・ガスそれぞれの売り上げが増えたことで好調な業績となりました。また、営業費用およびメンテナンス費用が増加していますが、他の事業費の減少により相殺できています。

 事業を営むニューハンプシャー州が全米で住みたい州第二位になるなど人口の流入もあり、今後もユニティルの堅調な業績が予想されます。

 次回は2022年10月27日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 2026年まで積極的に投資を進めていく計画を立てており、今後も業績の拡大が期待されますが、人件費が継続して上昇しており、その点は業績のマイナス要因となる点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.56ドル
配当利回り:3.37%
株価:46.23ドル(約146円)

 この銘柄、権利落ち日は11月中旬の予定(権利実施は11月下旬予定)です。

 配当利回りは10月13日時点で3.37%、株価は46.23ドルでおよそ6,700円から購入できます(1USD=146円計算)。

 2019年からの最高値は64.81ドル、最安値は32.89ドルとなっています(終値ベース)。 

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