1.米国債利回りが14年ぶり水準へ急上昇

米国でのインフレ加速が利上げを加速させ、米国債利回りが14年ぶり水準に急上昇

 図表1は米10年国債利回りと米CPI(消費者物価指数、前年同月比)の推移です。昨年央ごろから米国でインフレが加速し始め、インフレ抑制のために、今年3月からFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げが始まりました。

 1回目の利上げ幅こそ0.25%と通常の幅でしたが、インフレがどんどん加速し、今年3月以降はCPIベースで前年同月比+8%以上が定着してしまっていることから、5月の2回目利上げは0.5%と通常の2倍幅、6月の3回目は0.75%と通常の3倍幅で利上げが行われ、7月の4回目、9月の5回目も0.75%と、3回連続での大幅利上げが続いています。

 このようなインフレ高進とFRBによる利上げ加速、そして、現状のような金融引き締めが長引きそうとの市場の観測を反映し、米国債利回りが急速に上昇しています。米10年国債利回りは足元で4%程度に達し、2008年以来、実に14年ぶり水準に上昇しています。

 コロナショック後の2020年央には、米10年国債利回りは0.5%程度まで低下し、期待収益が非常に低くなっていましたが、4%程度に上昇してきたことで、投資妙味が高まってきたように考えています。

[図表1] 米10年国債利回りと米CPIの推移

期間:1980年1月~2022年9月、月次
※米CPIは2022年8月まで、米10年国債利回りの2022年9月は9月27日現在
(出所)Bloombergを基に野村アセットマネジメント作成

2.家賃上昇が米インフレを押し上げている

米CPIを押し上げる主役が次々に交代、今後は家賃上昇がインフレを押し上げる

 図表2は米CPIの前年同月比の変動について寄与度分析を行ったものです。CPIの変動要因を、エネルギー(ガソリンなど)、食品、財(自動車など)、サービス(家賃や医療費など)の四つの項目別に寄与度を見ています。

 米CPIは2021年春ごろから前年同月比で急速な上昇が始まっていますが、最初のころはエネルギーと財(除く食品・エネルギー)がCPIを押し上げていました。エネルギーについては、さまざまな理由で原油の供給に支障が出る中、ポスト・コロナの経済活動正常化が進むにつれて原油需要が回復し、需給が締まって価格が急上昇した影響が出ました。

 財についても供給問題が原因で、部品不足などで自動車生産が停滞したことで、新車や中古車価格が大幅に上昇した影響が出ました。

 ただし、足元ではこの2項目は寄与度が縮小しており、年明け以降はマイナスに寄与する可能性も出てきました。エネルギーと財に代わって寄与度が大きくなってきたのが食品とサービス(除く食品・エネルギー)で、特にサービス項目の中の家賃が注目されています。

 経済活動正常化などで雇用情勢が回復、足元で賃金が上昇、コロナ禍での低金利で住宅価格が上昇した影響などで、家賃相場が上昇しています。

 インフレが落ち着けば債券利回りは低下し、インカムゲインとキャピタルゲインの両方が期待できます。したがって、エネルギーや財価格が落ち着いてきた現状では、特にサービス、つまり、家賃相場が落ち着くか否かがポイントになりそうです。住宅価格はようやくピークアウト感が見られ始めたことで、今後の注目点は賃金動向になりそうです。

 現状の金融引き締めが景気を冷やし、雇用情勢が緩まっていけば(失業率が上昇すれば)、来年のどこかでは米インフレも峠を越える期待が持てそうであり、債券投資への妙味が高まる期待が持てます。

[図表2] 米CPIと項目別寄与度の推移

期間:2017年2月~2022年8月、月次
(出所)Bloombergを基に野村アセットマネジメント作成

3.2023年は円高米ドル安に備える必要がある

インフレ格差を基に算出する購買力ベースでは、今の米ドル/円レートは異常な円安米ドル高水準

 米国債への投資を考える上で、最後に注意すべき点は為替動向、つまり、米ドル/円レートの動向です。図表3は米ドル/円レートの購買力平価の推移です。

 購買力平価とは、為替レートの決定メカニズムの仮説の一つで、ある国の通貨建ての資金の購買力が、他の国でも等しい水準となるように、為替レートが決定されるという考え方です。例えば、マクドナルドのビッグマックの価格がどの国でも同じになるように計算されたレート(ビッグマック指数)などが有名です。

 昨年来の円安米ドル高の要因は、米国のインフレ率が高いために米金利が引き上げられ、日米金利差が拡大したことが米ドル上昇につながったと見られています。しかし、購買力平価では、インフレ率が高い国の通貨は下落しなければならず、真逆の動きとなっています。

 そのため、図表3にあるように、米ドル/円相場の実勢レートは、購買力平価から大きく米ドル高方向に乖離(かいり)しています。購買力平価仮説が有効であれば、米ドル/円相場は潜在的に大きな円高ポテンシャルを抱えてしまっていることとなるため、足元の米金融引き締めが終わった後の米ドル/円相場には最大限の注意が必要でしょう。

 そのため、米金融引き締めの動向をにらみながら、来年のどこかのタイミングでは為替ヘッジ(円買い米ドル売り)を行う必要があるでしょう。

[図表3] 米ドル/円レートと購買力平価の推移

期間:1973年1月~2022年9月、月次
※米ドル/円レートは月中平均値
※購買力平価は8月まで、実勢相場は2022年9月15日まで(9月15日までの月中平均値)
(出所)国際通貨研究所を基に野村アセットマネジメント作成

<関連銘柄>
NEXT FUNDS ブルームバーグ米国国債(7-10年)インデックス(為替ヘッジなし)連動型上場投信(証券コード:2647)
NEXT FUNDS ブルームバーグ米国国債(7-10年)インデックス(為替ヘッジあり)連動型上場投信(証券コード:2648)