じりじりと進む円安局面、「過度な変動」にはならない?
先週7日に発表された9月米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)は前月比+26.3万人と前月31.5万人より鈍化したものの予想(25万人)を上回り、失業率は3.5%と前月の3.7%から改善し予想も下回りました。
平均時給は前月比+0.3%と横ばいとなり、前年比は前月も予想も下回る+5.0%となりましたが、依然高水準との見方から総じて良好な結果と受け止められました。
発表直後、ドル/円は144円台半ばまで売られたものの、その後は11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.75%利上げ期待が高まったことから145.80円近辺へと前回高値に迫る円安となりましたが、介入警戒感から146円手前で足踏みしている状況となっています。
今週13日発表の米9月CPI(消費者物価指数)を受けて高値更新となるのか、ピークアウト感から弱含みとなるのでしょうか。予想では前月8月の8.3%から鈍化予想となっていますが、素直に反応するのかどうかにも注目です。
9月22日の介入時の水準に近づくにつれて介入警戒感が高まってきています。
介入については、一度きりとは思えません。過去の介入が一度だけで終わったことはなかったことや、政府のスタンスとして介入規模は実需の円売りや円買いを相殺する金額が目安となっていることが想定されるため、まだ貿易赤字が続いている段階では介入第2弾の可能性は高いと考えられます。
ちなみに9月22日の円買い介入金額2兆8,382億円は、8月の日本の貿易赤字2兆8,173億円という実需の円売りを相殺する規模となっています。
また、介入原資については限界があると市場では囁かれていますが、財務省の松本千城為替市場課長は、5日、為替介入の資金に限界はなく、今後も過度な変動に対して必要な対応が可能だとの認識を示しています。松本課長は、8月末時点の外貨準備180兆円台に対して今回の介入額は2.8兆円であり、「特段、介入資金に限界があるとは認識していない」と発言しています。
9月のドル売り・円買い介入の原資は、限界があるとして注目されていた外貨預金の取り崩しではなく、米国債を売却したものであり、米国財務省も「日本の行動を理解している」として、容認する姿勢を示しています。
今週は、介入第2弾はどの水準で、どのタイミングで出るのかを見極める週になるかもしれません。
146円前後という水準を意識して実施するのか、水準ではなく、神田財務官の発言通り「過度な変動になれば必要な対応を取る」との方針が試される週となるかもしれません。
日本銀行の黒田東彦総裁も「一日に2、3円動くのは急激な変化」と発言しているように、1週間で4、5円、一日で2、3円動くような「過度な変動」でないと介入を実施しないかもしれません。「過度な変動」でないと、米国に納得してもらうためにも次の一手は打ちづらいかもしれません。
今の相場のようにじりじりと進む円安局面では、高値を更新しても「過度な変動」ではないことから、介入はレートチェックやけん制発言による口先介入のみになるかもしれません。これら口先介入で円高に動いても、実弾が伴わないと判断されれば元の水準に戻ってくることが予想されます。
ただ、11月のファンドの決算や12月の金融機関や機関投資家の決算を控えているため、ここからさらに円安を狙うよりもこれまでのポジションの手じまいが多くなることが予想されることや、ドル独歩高の弊害も議論され始めていることから、円安の進行スピードも鈍ることが予想されます。そうなれば、ますます実弾の介入をしづらい局面になるかもしれません。
関心強まるドル高懸念
ドル独歩高の弊害について、ジャネット・イエレン財務長官は、6日、「市場で決まる為替レート」を支持すると発言しながらも、「為替変動がもたらす潜在的な影響に留意している」と新興国からの資金流出につながる過度のドル高への懸念を示唆する発言をしています。
今週12~13日にワシントンで**G20財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されます。米国の利上げとドル高によって、新興国のドル建て債務が膨張し金融危機の可能性が高まってきます。新興国からのドル高是正の声が反映され、G20でドル高が議論されるかどうか注目です。
**G20…G7の7カ国にアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合・欧州中央銀行を加えた20カ国・地域
また、ドル高は米国多国籍企業の収益にも悪影響を与えることも予想されます。あと1カ月で迎える米国の中間選挙に向けて、世界的な景気後退の中で多国籍企業からのドル高懸念の声が強まるかどうかも注目です。
もたつく円よりも欧州通貨に注目
ここから年末までのドル/円は、介入警戒感と年末に向けたポジションの手じまいから円安の進行スピードが鈍ることが予想されます。
一方、ウクライナ情勢の激化や冬の到来に伴うエネルギー供給懸念などから、もたつく円よりもユーロやポンドなどの欧州通貨により注目が集まるかもしれません。ユーロもポンドも下落一服状態ですが、再び動き出すかもしれないため要注目です。
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