市場はパウエルのピボット(転換=・利下げ・QE)について再び空想し始めた…

 ウルフストリートは、このベアマーケットラリー(弱気相場の中での反発)はドットコム時代をほうふつとさせると指摘している。2000年5月27日から7月17日までの同様の2カ月間のラリーで、ナスダック総合指数は33%上昇し、以前の最高値に戻ることはなかった。最終的にナスダックは78%下落した。

 2000年の夏のあの弱気相場の反発は、株式が再び月に行くだろうと考え、多くの人々を市場に吸い込み、彼らは押しつぶされた。

ナスダック総合指数(1998年〜2003年)

出所:DATATRECK「ドットコムバブル崩壊の軌跡」

 今年の7月のベアマーケットラリー(弱気相場の中での反発)は、市場がFRB(米連邦準備制度理事会)のピボット(転換)と利下げについて、そしてQE(量的緩和)について空想し始めたことから起きた。今、また、同じことが起きている。資産価格は急騰し始め、利回りは低下し始めた。

S&P500CFD(日足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 10月3日に発表された9月の米ISM(米サプライマネジメント協会)製造業総合景況指数が50.9に低下したことで、市場は「景気後退が来た!」と大喜びした。「これで、ジェローム・パウエルが利上げ幅を縮小してくれるだろう」との思惑から株が急騰したのである。中央銀行におんぶに抱っこの緩和中毒らしい市場の反応である。

 英国の中銀はQT(量的引き締め)を止めQEを再開した。固定金利をもらい変動金利を払うという金利スワップを行っていた年金が追証に追い込まれ、<リーマンモーメント>に陥ったからである。この年金問題は英国に限ったことではない。

 世界中の年金制度は、米国を含め、同じ問題に直面しているという。市場はパウエルのFRBもインフレファイトに挫折し、イングランド銀行と同じ路線(QT中止およびQE再開)になると期待しているらしい。

 性懲りもなく市場はFRBのピボット(転換)に期待しているのである。トレーダーはFRBの引き締めに対する期待を後退させ、2023年5月にも予定されている利下げに再び賭けている状況だ。

 ベアマーケットラリーの中での上昇局面は、人々やアルゴがその中で遊んでいることを意味する。ここ数日の株式市場の爆発的な上昇は、「米国の債券・株式が売られ過ぎの状態にあると考えると、10月はいったん底入れするとみている。もちろん、長期的な底値はまだ先の話だ」とマーク・ファーバーが述べているように、期間限定での上昇だろう。

 リアルインベストメントアドバイスによると、最近の実質利回りの上昇は2008年10月の急激な上昇に似ているという。当時、金融システムは破綻し、FRBは量的緩和を導入した。 わずか数カ月で、インフレ期待は+2.70%から▲2.40%に、そしてゼロ%に戻った。この期間、名目利回りは急激に低下した。

 実質利回りは、投資家がインフレ後に受け取ると予想する利回りである。債券保有者が獲得または失うと予想される購買力の量と考えていただきたい。計算中のインフレ率は、TIP利回りと名目利回りの差の副産物であるインフレ期待に基づいている。

米国の実質利回り

出所:リアルインベストメントアドバイス

 リアルインベストメントアドバイスは、「今年の実質利回りの上昇は、主に名目利回りの上昇によるものであり、インフレ期待の低下によるものだ。したがって、実質利回りの上昇は、前回の実質利回りが同様の水準にあったときよりもはるかに経済にダメージを与える」と、述べている。

米国の実質利回りとS&P500の推移

出所:リアルインベストメントアドバイス

相場で生き残るための投資ルールとトレードアイデア

 ストップロス注文を置かなくても助かってしまうということを繰り返していると、レバレッジのかかった取引では<3年から10年に1回の大きな下げ局面>で証拠金の多くを失うことになる。現物取引の場合でもポジションが塩漬けになる。いずれにせよ、「何もできず見ているだけ」という塩漬けの状態になり、<投資効率>が死んでしまうのだ。

 グローバルマクロのトレーダーとして大成功を収めた伝説の投資家ポール・チューダー・ジョーンズは、「どのリスクポイントで自分は撤退するのかを把握しておかなければならない」と述べている。

 ポール・チューダー・ジョーンズの投資ルールを改めて確認しておこう。

ルールその1:敗者から早めに手を引き、勝者を走らせる。

 市場をうまくナビゲートするには、とてつもない謙虚さが必要だ。投資が思うように進まないときに、傲慢になることはない。大きなエゴに悩まされている投資家は、間違いを認めることができないか、自分たちがこれまでに生きてきた中で最も重要な株式投資家だと信じている。市場を生き抜くためには、自信過剰にならないようにしなければならない。

ルールその2:具体的な最終目標を持たずに投資するのは大きな間違いである。

 投資をする前に、以下の2つの質問の答えを知っておく必要がある。

1 自分の考えが正しければ、どのくらいの価格で売るか、利益を取るか?
2 間違っていたらどこで売るのか?

 希望と欲は投資のプロセスではない。

ルールその3:感情的・認知的バイアスはプロセスの一部ではない。

 投資(と財務)を以下に基づいて意思決定をスタートさせると悪い経験をするために自分自身を設定している。

ルールその4:トレンドに従う。

 ポートフォリオのパフォーマンスの80%は根本的なトレンドによって決定される。

ルールその5:利益を損失に変えてはいけない。

 投資とは、時間をかけてリターンを生み出すことだ。

ルールその6:テクニカル分析がファンダメンタルズ分析をサポートすると、成功する確率が大幅に向上する。

 市場は長い間ファンダメンタルズを無視することができる。投資すべき「いつ」を決定するためにテクニカルを適用することで、リターンを大幅に改善し、資本リスクをコントロールすることができる。

ルールその7:負けているポジションを追加しないようにしよう。

「アベレージングダウン(株価の低い時に買って平均取得価格を下げる:ナンピン買い)」のジレンマは、より収益性の高い投資に資本を再配置するよりも損失を回復しようとし、投資資本のリターンを減少させる。敗者(値下がり株)をショートにすることで、長期的にはより大きな成長を可能にする。

ルールその8:強気市場では「ロング」であるべき。ベアマーケットでは「ニュートラル」または「ショート」。

 市場の主要な「トレンド」に逆らって投資することは、一般的に実りのない、もどかしい努力だ。世俗的な強気市場の間 - 株式のようなリスク資産に投資したままにするか、勝者を切り捨てる継続的なプロセスを開始する。弱気相場の間は、投資家は、目標とする資産配分に戻って、全体的なリスク資産の保有を減らし、現金を構築することを検討することができる。底打ちしたと信じて押し目を買おうとする試みや株式はこれ以上下落しないと思って購入することは一般的にうまくいかない。

ルールその9:リターンではなく、リスクを第一に考えて投資する。

 リスクを第一に考える投資家は、強欲の餌食になる可能性が低い。私たちは、投資の潜在的なリターンを重視し、それを達成するために取ったリスクを余計なものとして扱う傾向がある。責任あるポートフォリオ管理の目的は、長期的にお金を成長させて特定の財務上のマイルストーンに到達し、それらの目標を達成するために取られるリスクを考慮することだ。ポートフォリオの大幅なドローダウンを防ぐための管理とは、ダウンサイドの大部分を捕捉することを防ぐために、アップサイドの一部を放棄することを意味する。ポートフォリオが壊滅的な損失を被っても、ポートフォリオはいつか元の状態に戻るかもしれないが、その間に失った貴重な時間は決して取り戻すことはできない。

ルールその10:ポートフォリオ管理の目標は70%の成功率。

 メジャーリーグの打者は40%の成功率で「殿堂入り」する。

「リスクを第一に考える投資家は、強欲の餌食になる可能性が低い。私たちは、投資の潜在的なリターンを重視し、それを達成するために取ったリスクを余計なものとして扱う傾向がある。大幅なドローダウンを防ぐための管理とは、ダウンサイドの大部分を捕捉することを防ぐために、アップサイドの一部を放棄することを意味する。ポートフォリオはいつか元の状態に戻るかもしれないが、その間に失った貴重な時間は決して取り戻すことはできない」

(ポール・チューダー・ジョーンズ)

 われわれは2008年のリーマンショック以降、国家管理相場(中央銀行主導のエブリシングバブル)というかつてない非常に長い強気の市場サイクルにどっぷり浸かってきた。したがって、本質的なリスクに対してあえて盲目的になる傾向がある。

 こうした市場の高揚感は市場のボラティリティーが抑えられている中で育まれる。つまり、市場のボラティリティーが極めて低い時期があると、それが自信過剰や投機的欲求を生む結果につながるのだ。しかし、この例外的な低ボラティリティーの期間中に問題の火種が生まれる。

 VIX(恐怖指数)の30レベルなど、パニックでもなんでもない。だから、総悲観相場など、今年の相場で一度もないのである。

VIX指数(日足)

(低ボラティリティーの期間中に問題の火種が生まれる)
出所:石原順

 相場で一番大切なのは防御で、具体的にはストップロス注文を置くことである。あとに残された課題は利益をいかに伸ばすかだが、損失の最小化と利益の最大化を両立させる注文方法は<トレール注文>であろう。

*注:トレール注文とは?
逆指値(ストップロス)注文を、より効率的に用いるための注文方法でトレーリングストップ注文とも呼ばれます。ストップロスのための逆指値注文を置いておくだけではなく、実勢の取引レートとほぼ同じ値幅間隔で、ストップ注文の指定レートを徐々に有利な方向へ自動的に追尾してくれます。買いポジションの場合は、相場の上昇に合わせてストップロス注文の指定レートを切り上げてくれます。逆に売りポジションの場合は、相場の下落に合わせてストップロス注文の指定レートを切り下げてくれます。このように損失の最小化と利益の最大化をはかる注文方法がトレール注文です。

 筆者のメインの売買手法は「メガトレンドフォロー」や「ボラティリティシグナル」という順張り手法だが、「ATRストップ」という売買シグナルとトレーディング手法を組み合わせた順張り手法も多用している。

 売買シグナルとトレーリングストップラインが合っていないところがあるが、これは筆者の売買手法の根幹にかかわる企業秘密なので詳細を明らかにすることはできない。「ATRストップ」の売買手法は以下のチャートで確認していただきたい。

 どのリスクポイントで自分は撤退するのかという問題を解決するために、筆者は相場のチャートにトレーリングストップラインというのを引いている。これでとりあえず相場から撤退するポイントは把握できる。

ドル/円(日足)

(売買シグナルとトレーリングストップライン)
出所:石原順

ポンド/ドル(日足)

(売買シグナルとトレーリングストップライン)
出所:石原順

S&P500指数(日足)

(売買シグナルとトレーリングストップライン)
出所:石原順

アークイノベーションETF(日足)

(売買シグナルとトレーリングストップライン)
出所:石原順

10月5日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 10月5日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、武田則孝さん(楽天証券FXディーリング部)をゲストにお招きして、「10月は反転の月と言われるが、大底はまだ先!?」・「市場は緩和中毒!また、パウエルのピボット(転換)に期待している」・「ポンドはなぜ上がっているのか?」・「堅調なメキシコペソ相場」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください!

出所:YouTube
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出所:YouTube
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ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

10月5日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube