中国で5年に1度開催される共産党大会の開幕日まで残り10日となりました。この期間、党大会の見どころ、特にこれから5年間に及ぶ指導部の新体制に直結する人事に焦点を当ててきましたが、党大会の注目ポイントは人事だけではありません。議事、すなわちどのような議題が挙げられるかも重要です。それによって、党指導部が現状をどのように把握しているのか、これからの5年間どのような政策を打ち出そうとしているのかが見えてくるからです。

 今回は、この議事に焦点を当てますが、鍵を握るのが党の総書記が自ら発表する(読み上げる)報告です。前回の第19回大会の報告は「十九大報告」、今回は第20回大会なので「二十大報告」と呼ばれます。5年前、同じく習近平(シー・ジンピン)総書記が行った報告の中身を参照しつつ、今回注目すべきポイントを解説していきたいと思います。

報告書の長さと会場の緊張感

「十九大報告」で話題を呼んだのが、その長さです。中国語で68頁、約3万2千字から成ります。報告者である習総書記は、その時々の判断で飛ばし読みをすることもありますが、基本的には全てを読み上げます。習氏が報告を終えたとき、開始からなんと3時間21分が経過。海外メディアが「マラソン演説」と修飾したほどの長さでした。参考までに、2012年、胡錦涛(フー・ジンタオ)前総書記が行った「十八大報告」は約90分でした。

「十九大報告」は、以下13の小見出しで構成されていました。

  1. 過去5年間の仕事と歴史的変革
  2. 新時代における中国共産党の歴史的使命
  3. 新時代における中国の特色ある社会主義思想とその基本的方略
  4. 小康社会(筆者注:「少しゆとりのある社会」を指す)の全面的建設を達成し、社会主義現代化国家を全面的に建設するための新たな道のりを歩み始める
  5. 新たな発展理念を貫徹し、現代的経済システムを構築する
  6. 人民が当事者になる制度システムを健全化し、社会主義民主政治を発展させる
  7. 文化的自信を断固持ち、社会主義文化の繁栄を推進する
  8. 国民生活を巡る水準の保障を向上させ、社会ガバナンスを強化、創新する
  9. 生態文明体制改革を加速させ、美しい中国を建設する
  10. 中国の特色ある強軍の道を断固歩み、国防と軍隊の現代化を全面的に推進する
  11. 「一国二制度」を堅持し、祖国統一を推進する
  12. 平和的発展の道を堅持し、人類運命共同体の構築を推進する
  13. 厳格で全面的な党内管理を徹底し、党の執政力と指導力を不断に向上させる

 習近平政権を象徴するキーワードである「新時代」を前面に出した上で、思想や文化、経済、環境、国防、外交、香港、台湾、統治などあらゆる分野を網羅していることが分かります。新時代を切り開くにはありとあらゆるテーマを詳細に語らないわけにはいかないということだったのかもしれませんが、「盛り過ぎ」感は否めません。俗に「Everything is Nothing」要するに「全てを語ることは何も語っていないに等しい」という言い方がありますが、テーマが多岐にわたり、しかも内容が盛りだくさんであるが故に、優先順位や焦点がぼやけてしまうという副作用はあるでしょう。

 実際に、習氏が報告をしている最中、トイレに立つ者、注意力が散漫になる者、居眠りをする者などがいました。会場の緊張感が緩んでいると感じる場面もありました。3時間21分にも及ぶ報告の全過程を、集中力を研ぎ澄まして聞いていられる人間などそうはいないはずですから。

「二十大報告」はどうなるか。今回も「マラソン演説」が解き放たれるのか。それを聞いている人間たちの視線や緊張感はどうなのか。それによって、党としての締まり、言い換えれば、習近平総書記が持つ権力基盤や求心力がどうなのかが見えてくるかもしれません。

国情や時代に対する認識

 党大会の報告で私が重要だと考えるのが、党指導部として中国を取り巻く時代や情勢に対してどういう認識を抱いているかという点です。文化大革命や改革開放、ソ連崩壊、金融危機、新型コロナウイルスの感染拡大など、時代の節目を形作るあらゆる事態が起こってきましたが、その前後で時代的背景は変化します。

 5年前、中国共産党は次のような現状認識を披露しています。

「現在、国内外の情勢は深刻かつ複雑に変化しているが、我が国の発展は依然として重要な戦略的契機期にある。前途は明るいが、課題も顕著である」

「党と国家の発展にとって普通ではない5年間だった。世界経済の復興は乏しく、局地的な衝突や動乱は頻繁に発生し、グローバルな問題が深刻化する外部環境に見舞われた」

「我が国が直面する主な問題は、発展が不均衡、不十分であり、一部の突出した問題がいまだ解決されていないことである。発展の質や効果が乏しく、イノベーション能力も足りない。実体経済の水準は改善が望まれる。生態環境を保護する責任は重く、国民生活の分野にも多くの欠点がある。都市部と農村部間の収入格差は依然大きく、就業、教育、医療、住居、養老といった分野で国民は多くの難題を抱えている…」

「マラソン演説」だっただけに、挙げればきりがないですが、(1)中国を取り巻く国内外の情勢は深刻かつ複雑に変化している、(2)中国自身の成長を巡っても多くの課題を抱えている、(3)とはいうものの、時間や形勢は中国に有利であり、戦略的契機期にある、といった認識を抱いている現状を理解することができました。

 あれから5年がたちました。おそらく、2012年から2017年の5年間に比べて、2017年から2022年の5年間、世界情勢はより深刻で複雑な変化に見舞われたと言えるでしょう。その典型は、感染拡大から3年がたとうとしている新型コロナウイルスでしょうが、それ以外にも、冷戦終了後最大とされるロシア・ウクライナ戦争、米中対立、香港問題、台湾問題など、中国を取り巻く国内外の情勢や環境は「世紀の変化」を見せているといっても過言ではありません。

 これらの変化を受けて、「二十大報告」は過去の5年をどう総括し、現状認識をどう整理した上で、これからの5年に向けた目標を描いていくか。要注目です。

注目すべき三つの分野:指導思想、経済、台湾

 最後に、私が特に注目している三つの分野について取り上げたいと思います。

1.指導思想

 前回の党大会を通じて、「習近平新時代中国特色社化主義思想」が、新たな指導思想として確立され、中国共産党の憲法である党規約に書き入れられました。キーワードは「習近平」と「新時代」です。これまでも連載で検証してきたように、今回の党大会において、習氏の続投・3期目入りは焦点ではなく既定路線であり、指導思想を巡って抜本的な変化は見られないと思いますが、新たな注釈が加わるかどうかには注目すべきです。

 また、習近平総書記の地位や権力に関する新たな肩書きが見られるかにも注目です。それによって、習氏にどれだけ権力が集中しているかが理解できるからです。中国において、時の為政者にどれだけ権力が集中しているかは、国家運営を占う上で極めて重要なのです。

2.経済

「十九大報告」では、次のような指摘が見られました。

・供給側構造改革を深化させる
・経済成長の重点を実体経済に集中させる
・先進的製造業を発展させる
・インターネット、ビッグデータ、人工知能と実体経済との融合を深化させる
・経済体制改革の一環として、知的財産制度の改善と市場による分配を重点的に進める
・金融管理監督システムを健全化させ、システミックリスクの発生を防ぐ
・国を全面的に開放する新たな局面を推進する
・サービス業の対外開放を拡大し、外国企業による投資の合法的権益を保護する

 あれから5年がたち、中国経済を巡る環境や評価も変化しています。2022年に入り、成長の伸び率鈍化も気になります。景気低迷だけでなく、改革の鈍化、閉鎖的な市場、強化される規制などに懸念を抱く市場関係者も少なくありません。そんな中、「二十大報告」がどのような経済政策を掲げるのか。今後の中国経済・市場の在り方を模索する上でも重要です。

3.台湾

 ロシア・ウクライナ戦争、ナンシー・ペロシ訪台、米中対立などを受けて、台湾海峡を巡る情勢は劇的に変化しています。日本が位置するこの地域において最大の地政学リスクが台湾問題という局面に変化は見られません。

「十九大報告」は台湾問題を次のように表現していました。

「『平和的統一、一国二制度』の方針を引き続き堅持し、両岸関係の平和的発展、祖国の平和的統一プロセスを推進しなければならない」

 台湾問題の解決はあくまでも平和的に進められるべきである、という立場と見解が前面に押し出されていましたが、激動の5年を経て、「二十大報告」ではどう書き換えられるのか。平和的トーンが薄らぎ、武力による統一を強調する論調が台頭してくるのか。要注目です。