インフレ対策への姿勢をマーケットが試す10月

 10月はインフレ対策への姿勢とその副作用である景気後退への警戒が交錯する月となりそうです。そして、副作用の影響がより大きくなり、中央銀行や政府のインフレ対策への姿勢をマーケットが試す月となりそうです。

 9月は、英ポンドがその集中砲火を受けました。英国のエリザベス・トラス新政権が打ち出した大規模な減税策と国債増発計画をきっかけに財政悪化懸念が強まり、ポンドは1ポンド=1.03台半ばに急落して最安値を更新し、あわや1.0ドルを割り込むかと思われました。

 しかし、主要国で先陣を切って利上げしてきたBOE(英国中央銀行)が、財政悪化懸念から急騰した長期金利を一時的に抑える政策を発表しました。9月28日から10月14日まで無制限に国債購入を行い、また、金融引き締めの一環として10月初めから開始予定だった保有国債の削減については10月31日まで延期するとの発表を受け、金利は低下し、ポンドは急反発しました。

 ところが、金利と株が急落前の水準に戻らなかったことから、英財務相は3日、高所得者向けの減税撤回を表明しました。この表明を受けてポンドは急落前以上の水準に戻りましたが、株や金利は急落前の水準には戻っておらず、新政権の経済対策に対する懸念は払拭(ふっしょく)されていません。

 高所得者向けの減税は減税策全体450億ポンドのうち20億ポンドほどにしかすぎず、今月中に発表が前倒しになった新政権の「中期財政計画」を確認するまでは不安定な相場が続きそうです。無制限国債購入の期限である10月14日までに英政府は市場からの信頼を取り戻せるのかどうか注目です。

 それにしても急落前以上の水準に戻ったポンドの反発は驚異的でした。月末・四半期末要因による実需買いもあったかもしれませんが、異常な買い戻しでした。相場格言に「谷深ければ、山高し」「山高ければ、谷深し」とあるように、「中期財政計画」の内容いかんによっては再びジェットコースターのように乱高下するかもしれないため、注意する必要がありそうです。

 このようにインフレ抑制のための利上げ、利上げによる副作用(景気悪化)の対策(財政支援)が矛盾を露呈し始めており、為替、金利、株式市場に乱高下をもたらした構図は今後も英国だけでなく各国に波及していくことが予想されます。

 9月は英国の金融市場を襲い、ユーロも1ユーロ=1.0ドル割れという形で露呈し始めており、いずれ金利、株式市場に波及することが予想されます。欧州銀行の債務不安がくすぶり始めている点にも注視する必要があります。

 米国も利上げ加速の影響と、コロナ対策の財政支援一巡によって2四半期連続でマイナス成長をもたらしましたが、10月27日の米国7-9月期GDP(国内総生産)速報値で景気回復となるのかさらなる景気後退となるのか注目です。米南部を襲ったハリケーンの影響で7-9月期GDPを0.3%押し下げるという試算もあります。

 そして景気が悪化してもインフレ抑制が優先事項とするFRB(米連邦準備制度理事会)の姿勢が維持されるのかどうか、あるいは今年の後2回、11月と12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で大幅利上げのペースが鈍るのかどうか注目です。10月はFOMCが開催されないため、経済指標によってFRBの利上げペースに影響を与えるかどうか一喜一憂する相場となりそうです。

 ドル/円は、介入警戒感は残るものの、FRBが利上げペース鈍化という隙を見せない限り、円安地合いが続くことが予想されます。

 しかし、少しでも隙を見せれば、円安が止まり、場合によっては円売りの巻き戻し(円高)が起こるかもしれません。FRBの利上げペースは、物価のピークアウトと景気後退によって年末にかけて鈍化することも予想され、1ドル=145円を超えても伸びが鈍く頭打ちのような動きとなる可能性があります。

先行するカナダドルと豪ドルの動き

 原油価格は世界的な景気下振れで需要が減速するとの懸念から下落傾向となっています。そしてカナダドルは原油価格下落を背景に売られ始めていますが、カナダドル売りはインフレがピークアウトしつつあることも要因としてあるようです。

 9月20日発表のカナダの8月CPI(消費者物価指数)は+7.0%と7月の+7.6%から縮小し、2カ月連続(6月+8.1%)で伸びが減速しました。ガソリン価格と家賃上昇率が鈍化したのが全体を押し下げたということですが、前月比では0.3%低下し、下げ幅は2020年4月の新型コロナ禍以降で最大の下落幅となりました。

 また、RBA(オーストラリア準備銀行)は、10月4日、0.25%の利上げを決定しましたが、0.5%の利上げ予想が大勢だったためサプライズとなりました。豪ドルは一時1%安となり、豪国債利回りは低下しました。

 フィリップ・ロウ総裁は世界経済の見通し悪化と家計の借り入れコストの急上昇が大きな不安要素としていますが、今後の追加利上げも表明しています。

 しかし、アナリストの中には、今回の利上げペースのギアダウンは将来の利上げペースについて非常に重要なシグナルを送るものだと分析するアナリストもいます。

 このカナダドルや豪ドルを取巻く環境が米ドルに先行した動きかもしれないため、カナダドルや豪ドルの動きに注目しています。