過去3カ月の推移と今回の予想値 

※矢印は、前月からの変化

9月雇用統計の予想 

 BLS(米労働省労働統計局)が10月7日に発表する9月の雇用統計は、市場予想によると、NFP(非農業部門雇用者数)は25.0万人の増加となっています。雇用者増加数が30万人を下回るならば、昨年11月以来となります。

 業種別に見ると、特に上昇率が目立っているのが、雇用を積極的に増やしているレジャー・サービス業で、5.8%から6.4%に増加。

 失業率は、前月比横ばいで3.7%の予想。平均労働賃金は、前月比+0.3%。前年比+は5.1%で、4月の5.6%をピークに横ばいながらも、高止まり状態が続いています。

 アトランタ連邦準備銀行の賃金追跡調査によると、労働賃金の上昇率は前年比で6.7%と、BLS公表値よりもさらに大きな伸びを示しています。正社員の賃金上昇率は6.2%から6.8%に加速し、そのうちプライムエイジと呼ばれる25歳から54歳の賃金上昇率は6.8%から7.2%に大きく伸びています。

 ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が最も懸念していた「インフレの波及効果(2次効果)」が発生していることになります。

8月雇用統計のレビュー 

 8月雇用統計は、まちまちの結果となりました。NFPは、事前予想(30.0万人増)をやや超える31.5万人増でしたが、過去2カ月分は合わせて10.7万人減に下方修正されました。失業率は3.5%から3.7%に上昇した一方で、労働力参加率は62.1%から62.4%に改善しています。

 全体を通してみると、マーケットをどちらかの方向へ動かすような決定打には欠けましたが、利上げ幅0.75%を超えるような攻めの利上げは必要ないだろうという点では、少なくともFRBにとっては、良い内容だったといえます。

労働者は何処に消えたのか?

「労働者は何処に消えたのか?」その問いに対する最初の解答は、「人材在庫」の積み上げです。1973年(昭和48年)のオイルショックの時に日本全国の店先からトイレットペーパーが消えたように、新型コロナ明けの経済再開に際していちはやく労働者を手に入れることができた企業が、社内に労働者を「ため込んで」いるのです。

 しかしこの状況にも変化が現れています。パウエルFRB議長が、インフレを引き下げるために不退転の覚悟で利上げを続ける中、企業は景気回復の期待を大幅に下方修正する必要がでてきたからです。

 米グーグルは、景気悪化に備えて採用を減速する予定であると発表しました。同社は、これまで積極的な採用活動を行ってきましたが、今後は新規採用よりも人的資本の配分をより重視する必要があることを認めています。

 Facebookを運営するメタのマーク・ザッカーバーグCEOは今月、雇用の凍結と従業員のリストラを予告しました。米自動車大手のフォードのCEO(最高経営責任者)は「従業員が多すぎる!」として、大幅人員の削減に踏み切っています。

「労働者はどこに消えたのか?」に対するもう一つの解答は、大退職時代(グレート・レジグネーション)です。米国の労働参加率が急速に下がり、その後回復していない原因でもあります。

 ベビーブーマー世代と、リーマンショックで年金を失って働き続けるしかなかったシニア層が、新型コロナの株高のおかげで、引退するのに十分な資金を手にして一斉に労働市場からオサラバしたのです。

 米セントルイス連銀によると、2009年から2020年までの約10年間の米国の雇用増加の理由の大部分は、55歳以上の就業増で説明できるそうです。その労働力を支えた人たちがそのままいなくなったのです。

 ところが面白いことに、退職した人の4分の1以上が、その判断が正しかったかどうか迷っているらしいという最新の調査があります。高インフレのせいで、想定をはるかに超えるスピードで貯蓄が目減りし、再び労働市場に戻る人が増えているのです。55歳以上の労働者ばかりではなく、一時のFIREブームで早期退職した人も含まれます。

 高金利に耐えきれなくなった米株式市場が本格的なダウントレンドに突入する時代になれば、再就職する人はさらに多くなるでしょう。

 FRBが米景気後退を予測しながらも、失業率に関しては楽観的見通しを持っているのはこの状況を予測しているからでしょう。