これまで複数回にわたり、米国株式信用取引を軸に信用取引の概要や仕組みについて見てきましたが、委託保証金率や追証(追加保証金)、不足金などを話の中心テーマとして進めてきたこともあり、「やっぱり信用取引は危ない」といったイメージを持たれた方も多いかもしれません。

 これらのテーマは普通、信用取引のメリットを強調した後、注意事項として補足的に語られることが多いのですが、あえて先に持ってきたのは、信用取引を開始した時点で「信用建玉や諸経費の管理」という、現物株取引では意識する必要のなかったものに対して配慮する必要が出てくるからです。

信用建玉を持つ意味

 建玉管理への配慮が足らないと、追証や不足金が発生したときに慌ててしまうことになりますし、反対にきちんと配慮できていれば、「これ以上株価が変動したら追証になるかもしれない」、「評価損がある建玉を返済したら、受渡日に現金が足りないかもしれない」ということで、事前に対処することが可能になります。

 そのため、信用取引の建玉を保有することは、日々の株価変動とともに「建玉の評価損益や委託保証金率がどう変化するのか?」を考えることでもあり、少々面倒なところがあるのも確かです。

 その一方で、個人投資家にとって信用取引は強力な「武器」にもなり得ます。

「株式投資で勝つ」とは?

 例えば、「株式投資で勝つ」というのは、「9勝3敗で勝率75%」といったように、利益となった取引の回数で測る方法もありますが、株式投資の本来の目的は、「最終的にいくらのもうけを出したか?」になります。投資の世界では、たった1敗の損失額が大きくなって、全ての利益を台無しにしてしまうことは珍しいことではありません。

 ですので、「○年間で○円もうけた」、「年間で○%のリターン」というのが株式投資の勝ちの尺度になります。一般的には1年間での利益を基準にすることが多いです。証券会社からも毎年、「年間取引報告書」というのが投資家に発行されますし、税金についても年間でどれだけの損益が発生したかで計算されます。

 この利益ですが、1年間における「(1)取引ごとの利益」と「(2)取引の回数」で成り立っています。いわゆる機関投資家と呼ばれるプロは(1)を重視します。というのも、巨額の資金を運用するため、デイトレーダーのように短期間で何回も取引できないからです。だからこそ、機関投資家は割安に買うことに集中して高い利益を得ようとします。

信用取引のメリットを生かせるのは個人投資家だからこそ

 反対に、個人投資家としては(1)はもちろん、(2)もフル活用することができます。1回の取引のもうけは大きくなくても、回数を積み重ねることで、年間トータルでまとまったもうけを得られればOKというわけです。個人投資家は機関投資家に比べて機動的に売買できるという利点があります。

 また、取引回数で勝負できるということは、あらゆる相場の変化に迅速に対応できることも意味しています。つまり、「レバレッジを掛けられる」、「売建てによって下落局面でも利益が狙える」、「回転売買ができる」といった信用取引の特徴は、個人投資家にとって相性の良いものといえます。

 確かに、信用取引を行うことで建玉管理の面倒さやコスト意識などがもれなく付いてきますが、料理に使う包丁の扱いと同じで、けがに注意したり、凶器として使わないように気を付けたりすることで、多くのメリットを享受することができます。

 これまで解説してきた仕組みやルールはもちろん、それと同時に投資スタイルに合わせた活用法を理解し、メリットとリスクのバランスをとることが、信用取引を活用するポイントになります。