今回のテーマは「不足金」についてです。

 言葉の通り、「現金が不足する状態」のことを指すのですが、いわゆる追証(追加保証金)と混同されてしまったり、さまざまな理由で発生することもあって、実際に信用取引の経験者でさえも、「発生して初めてその仕組みを理解する」ということも珍しくありません。

 ここでは、不足金が発生する最も基本的なケースについて紹介し、不足金がどのようなものなのかについて、ざっくりとしたイメージを描いていただければと思います。

損失が発生している建玉を返済する際に注意が必要

 まず、信用取引における不足金について、気をつけるべき最大のポイントは、「損失の出ている建玉を返済するとき」になります。

 信用取引の建玉を保有している期間中、株価の値動きに応じて利益や損失が発生します。正確には、それぞれ「評価益」・「評価損」、もしくは二つをまとめて「評価損益」と呼んでいます。

 前回(追証の説明)も紹介しましたが、この信用建玉の評価損益は下の計算式にもあるように、委託保証金率の計算において重要な要素となっています。

 例えば上の図のように、委託保証金12,000米ドルで20,000米ドルの信用新規建てを行った場合の委託保証金率は60%です。

 その後、建玉に2,000米ドルの評価損が発生し、委託保証金率を再計算する際には、委託保証金12,000米ドルからこの2,000米ドルを差し引いて行います。これにより委託保証金率は50%へと低下します。

 まだ追証ラインの30%まで余裕がありますが、「いったん損切りして手じまおう」ということで、この建玉を返済すると、その時点で2,000米ドルの損失額が確定し、受渡日にその金額を委託保証金から賄うことになります。

 ただし、上の図の委託保証金の内訳をみると、現金が1,000米ドルと、株券(代用委託証券)が11,000米ドルとなっています。この場合、受渡日にやり取りする損失額2,000米ドルに対して現金が足りず、1,000米ドルが不足金になります。

 このように、委託保証金率に余裕があり、追証が発生していなくても、不足金の入金が求められるケースもあるわけです。いずれにしても、評価損が出ている建玉を返済する際には、その分の現金保証金があるかを確認する必要があります。

不足金発生のケースはさまざまだが、基本は一つ

 このほか、不足金が発生するケースはさまざまあり、楽天証券の該当ページには以下のように書かれています。

  1. 決済損による不足金発生
  2. 代用有価証券でのお取引による不足金発生
  3. 保証金率50%以下の状態での決済損による不足金発生
  4. 新規建約定時に保証金が不足する場合について
  5. 売建配当金の徴収による不足金発生

 先ほど紹介したケースは1~2に該当します。繰り返しになりますが、評価損の出ている建玉を返済し、確定した損失額を充当できる現金がないときに不足金が発生します。

 また、4については売買タイミングで発生する可能性があるケースです。米国株では値幅制限がなく、新規建て注文を「成行」で発注した場合、想定以上の価格で約定することがあります。その結果として委託保証金が足りなくなって不足金が発生するというものです。

 ただし、このケースでは、足りないのは現金ではなく、委託保証金ですので、こちらは現金の入金以外に、保護預かりの米国株を委託保証金へと振り替える対応も可能です。

 最後の5については、売り建玉を配当金の権利確定日を越えて保有する場合に発生します。信用取引における配当金の扱いについては、買い建ての場合は配当金に相当する額を受け取り、売り建ての場合は同額を支払うことになるのですが、その際に支払う現金が足りないと不足金が発生します。

 以上、不足金について簡単に説明してきましたが、自他を含めた各証券会社のWEBサイトなどをチェックすると、その説明内容や定義に差異もあり、混乱してしまいがちですが、「何らかの取引を行い、受渡日に用意する現金が足りなくなるときに発生する」というのが基本的なイメージになります。

 また、不足金が発生した際には、証券会社から「いくら足りないのか」などの連絡が届きますし、追証と同様に、預り金や委託保証金などに余裕を持たせてあれば、余程の相場急変がない限り、十分に対応できます。なめてかかるのはもちろんダメですが、基本さえ押さえておけば、過度に心配する必要もないと言えます。