「通貨大乱の月」となった9月
9月はまさに「通貨大乱の月」でした。各国の利上げウイークの中で逆行するように、日本銀行(日銀)は政策変更をせず、黒田東彦総裁は「金融緩和を当面続けることはまったく変わらず、金利を引き上げることはない」と金融緩和継続に強い姿勢を示したことから、1ドル=145.90円近辺まで円安が進みました。
しかし、その直後の円買い・ドル売り介入によってドル/円は140円台前半まで急落しました。まさに37年前のプラザ合意(*)と同じ日の円買い介入でした。
*1985年9月22日のプラザ合意
ニューヨークのプラザホテルでG5(米国、英国、西ドイツ、フランス、日本)の5カ国がドル高是正に合意。合意発表後、当初は何が起こっているのか市場はすぐには理解できなかった。
協調介入のドル売りによって1ドル=200円を割れてから初めて、これはもう二度と200円には戻らないのではないか、どこまで円高に行くかわからない、という恐怖心が市場に漂った。
その後数年かけてドルは大幅に減価。ドル/円は260円から120円に。ドル/円が2011年の1ドル=75円台まで行き着く円高時代の始まりとなった。
このプラザ合意記念日前後や145円超えは警戒していましたが、介入は予想外でした。円買い・ドル売り介入は米国の政策(インフレ抑制最優先)に反する行動であるため、米国の物価高をもたらすドル売り介入に米国は同意せず、実施は困難と思っていましたが、米国は介入を認めたようであり、承知しているとのコメントが政府高官からありました。ただ、協調介入は否定していることから、やはり、単独介入ではその効果は一時的であると思われます。
しかし、マーケットに警戒心は残るため、すぐに145円を超えて円安が進むという環境でもなさそうです。再び145円を超えたときに2回目、3回目の介入が実施されるのかどうかを見極めながら円安が進みそうです。
週明け26日、閣議後の記者会見で鈴木俊一財務大臣は、「(介入について)一定の効果は認められる」との見方を示し、過度な円安に対して「必要に応じて対応を取る。その考えに変更はない」と追加の為替介入に踏み切る可能性を示唆(しさ)しました。
この発言からも1回きりの介入とは思わない方がよさそうです。口先介入だけかと思いきや、実際に介入を実施したことを思うと、この発言には重みがあります。
推計によると、今回の介入金額は約3兆円で過去最大の金額だそうです。「必要に応じて対応を取る」との決意を示しているようです。また、口先介入も実際に介入を実施したことによって今後はその効果も高まりそうです。
円買い・ドル売り介入は外貨準備が原資となることから、実弾には限度があるため、その限界をマーケットにすぐに見透かされるとの見方がありますが、しばらくは介入(日本政府)との駆け引き相場になりそうです。
ぐらつくポンド相場
最も「通貨大乱」となったのはポンドでした。英国のエリザベス・トラス新政権が打ち出した1972年以来の大規模な減税策と国債増発計画をきっかけに財政悪化懸念が強まり、23日のポンド/ドルは1ポンド=1.12ドル台から1.08ドル台に、ポンド/円は1ポンド=160円台から155円台に急落しました。
週明けも売りが止まらず、26日には1985年に付けた1ポンド=1.05ドル台を抜けると底が抜けたように急落し、1ポンド=1.03ドル台半ばにポンド最安値を更新しました。ポンド/円は1ポンド=155円台から148円台まで急落しました。2日間で900ポイントの下落、あるいは約12円の円高となった反応は、新政権にとってかなり痛い船出となりました。
その後、利食いや、イングランド銀行の緊急利上げへの警戒感から買い戻されていますが、高水準のインフレ下での財政大盤ぶるまいは、インフレを加速させる可能性があるため、ポンドは再び売り圧力に晒される可能性が高そうです。
1985年のポンド安の時は、賭け事好きの英国では、ポンドが1ポンド=1.0ドルを割るかどうかが賭けの対象となりましたが、1ポンド=1.05ドル台に入ってからは、1.0ドルを割れるかどうかから、「いつ」1.0ドルを割れるかということが賭けの対象に変わった記憶があります。今回もロンドン市場でどのような評価になるのか注目です。
今回はドル高環境の中で、ポンドは1ポンド=1.0ドルを割れてどこまで行くかが賭けの対象になるかもしれません。
ポンド下落は、いずれユーロにも波及してくることが予想されます。ドル/円は、ポンド安、ユーロ安のドル買いの影響を受けますが、そのドル買いの割には1ドル=143円、144円台で持ちこたえている印象です。
円のキャリー取引を狙うファンド勢にとっては介入警戒感があるものの動かないのが最善であり、動かないドル/円に資金はもっと集中するかもしれませんが、ポンド/円やユーロ/円などのクロス円の下落圧力にどこまで持ちこたえられるのか注意してみておく必要があります。
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