前回は、インデックス・ファンドを評価する上で見ておきたいポイントとして、ファンドのリターンのベンチマーク・リターンからのブレを表す「実績トラッキングエラー」、それからそのブレの傾向性(通常はマイナス側にバイアスを持つ)を年率のリターンとして観測する「バイアス・リターン」の二点は少なくとも見ておきたい、と申し上げた。

次に、バイアス・リターンと実績トラッキングエラーを合わせて総合的な評価を行いたいが、アクティブ・ファンドの評価でよく使われるインフォメーション・レシオ(両者の比だ)は、バイアス・リターンがマイナスに傾きやすく、加えて、プラスにすることを求めていないインデックス・ファンド評価には不適当だという点を指摘した(注:実は、アクティブ・ファンドの評価にもインフォメーション・レシオでは不十分だ)。そこで、効用関数型の評価を行いたいが、リターンとリスクの評価を媒介する「リスク拒否度」をどう決めたらいいかが、今回取り上げる問題となる。

(1)リスク拒否度の推定

効用関数型の関数形は一通りではないが、最も単純でよく使われるのは、U=r-λσ2(Uは効用、rはリターン、λはリスク拒否度、σは標準偏差で測ったリスク)という形だ。

ポートフォリオの最適化計算をするオプティマイザーなども、大体この形の効用関数を持っている事が多い。

インデックス・ファンドの運用を評価する場合に、ベンチマークそのもののリターンは運用者のスキルに無関係なので、rはバイアス・リターンであっていいだろうし、σは明らかに実績トラッキングエラーであってよい。結果的に同じくらいの下ブレを持っているインデックス・ファンドであっても、ベンチマーク・リターンからのブレが小さい方が好ましいと評価することになる。

問題はλ(ラムダ)だ。これは、リスクに対して評価上のペナルティーを与える重要なパラメーターだが、これをどう決めるか。

原理的には、λは投資家の主観的な評価だから、投資家が勝手に決めていい。しかし、インデックス・ファンドの評価サービスを他人に向けて行う場合には、λの決め方に何らかの根拠と説明が必要だ。筆者の思うに、その方法は複数ある。

まず、多くの投資家のインデックス・ファンドのリターンのベンチマーク・リターンからのブレに関するリスク拒否度(λ)を直接調査できれば、平均を求めてある種の「コンセンサスλ」とすることが可能だろうが、残念ながら、この意味でのλに対して意識的な投資家は少ないだろうし、アセット・アロケーションのように間接的な形でλを推定させてくれるような意思決定をサンプル採取できるわけでもなさそうだ。方法としては分かりやすいが、今一つ現実的でない。

もう一つ考えられる方法は、投資家がマーケット・ポートフォリオに対して抱いている期待リターンと推定リスクからλを逆算するやり方だ。

例えば、投資家は最適なポートフォリオ選択にあってリスクに対してどれだけの超過リターンを取りうるか既知であるとして、r=I・σ(Iは正の定数)としよう。この場合rはリスクフリー資産のリターンに追加される超過リターンとする。この関係に基づいて、投資家はU=Iσ-λσ2を最大化するようにσの大きさを選択していると考える。最適点においては、σで微分して、一階の条件から、U'=I-2λσ=0であり、λ=I/2σとなる。ここで、左の式に、 I=r/σという関係を代入すると、λ=r/2σ2と求めることが出来る。

ここで、リスク資産の最適ポートフォリオとしての「マーケット・ポートフォリオ」に何を採用し、その期待超過リターンと推定リスクに何を持ってくるかという問題があるが、例えば、理論上のマーケット・ポートフォリオにはTOPIXやS&P500よりもMSCI-Worldのような指数の方が近いだろうから、こうしたものの、リターンとリスクを計測する方法が考えられる。

ただし、経験的に言って、過去のリスクを将来の推定リスクに代用することについてはあまり大きな反対はないが、過去の一定時期のリターンをそのまま投資家の期待超過リターンとすることには大きな問題がある。こちらは、機関投資家のアセット・アロケーションから推定するなり、何らかのコンセンサス調査を参照して、与える方がいいだろう。

λの具体的な値を確定することまで本稿で目指している訳ではないので、概略の数字のイメージを掴むとすると、例えば、超過リターンの数字が6%で、標準偏差が20%なら、λの値は6÷(20×20×2)=0.0075となる。

ただし、これはMSCIに代表されるようなリスク資産を100%持つ人の推定λということになる。計算過程は省略するが、アセット・アロケーションとしてリスク資産をa(0<a<1)だけ持つ人のλは先ほど求めた数字をaで割った大きさになるで、たとえば、典型的なアセット・アロケーションを「リスク資産=50%」と決めると、インデックス・ファンドのベンチマーク乖離リスクを評価する際のリスク拒否度は0.015ということになる。「リスク資産=25%」なら、0.03だ。

λ=0.03なら、年率リターンに換算すると、たとえばトラッキングエラーが1%のファンドは3ベイシスポイント、2%のファンドは12ベイシスポイント減点される。ファンド評価上は、信託報酬が上がるのと同じだ。リスクに対するペナルティーとして、これが大きいかどうかを考えることになる。

(2)アクティブ・リスクとシステマティック・リスク

ところで、先のリスクに関する評価では、CAPM(資本資産価格モデル)でいうところの、システマティック・リスクと単なる残差リスクであるところのアクティブ・リスクが区別されていない。

CAPM的には、完璧な分散投資を行っても消すことのできないシステマティック・リスクは追加的な期待リターンで補償されうる本来の投資リスクであり、残差のリスクは追加的なリターンが期待できない純粋に余計なリスクだ。

CAPMの結論をどれだけ尊重するかという問題はあるが(注:筆者は、ほとんど信用していない)、ベンチマークのリスクと、ベンチマークからの乖離のリスクに対する投資家の主観的評価が異なる、ということがあってもおかしくない。

例えば、クオンツ運用を行う場合に、アクティブ・リスクに対するペナルティーをどの程度に設定してポートフォリオの最適化計算を行うかというと、その効果は前提条件により変化するが、たとえばλ=0.05くらいの数字でポートフォリオを作ってバックテストを行う場合が経験的には多い。

インデックス・ファンドのトラッキングエラーを評価するに当たって、ベンチマークのリスク及びアセット・アロケーションとの関係が解釈できるように関連づけて置くことが望ましいと思うが、たとえば、トラッキングエラーに関しては、ベンチマーク・リスクの2倍(「2」という数字に特別な根拠はない)くらいで評価するという考え方もあっていいだろう。

具体的なλの数字については、「たとえば、こうしたらどうか」という個人的な考えは筆者にもあるが、今回は、考える枠組みをご説明するにとどめる。ご興味のある方は、ご自身で考えてみていただきたい。

今回は、インデックス・ファンドの総合的な評価に関する尺度の考え方のフレームワークを説明した。次回は、インデックス・ファンドの評価に関する、その他の検討ポイントをETF(上場型投資信託)の場合も含めてご説明しよう。

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