はじめに
7月の株式市場を振り返ると、日経平均が2カ月ぶりに9,100円台を回復するなど、前月からの戻り基調を引き継ぐ格好でスタートしたものの、その後は米国・欧州・中国で冴えない経済指標が相次ぎ、世界的な景気減速懸念が重石となって下落基調に転じました。さらに、欧州不安の高まりとともに下値を模索する展開となり、8,300円台まで下落する場面も見られました。月末にかけては、ドラギECB総裁の「ユーロを護るためにあらゆる手段を講じる」という発言をきっかけに、政策当局による対応期待の台頭で値を戻し、結局8,695円で終了しました。
さて、今回のアンケート結果ですが、こうした相場の軟調地合いや、先行きの不透明感が反映されたと思われ、日経平均の見通し、為替の見通しともにDIが前回より悪化傾向を示しています。また、アンケートの実施期間が、企業決算シーズンの最中であることや、米FOMCやECB理事会などの金融政策当局のイベントを控えたタイミングだったことで、見極めムードも強く、中立の見方も目立っています。
次回も是非、本アンケートにご協力頂ければ幸いです。
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト
土信田 雅之
1.日経平均の見通し
個人投資家の見方「慎重な見方が増加し、日経平均のDIは再び悪化」
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Q1:7月30日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △11.78
(6月25日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △9.01) -
Q2:7月30日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △0.60
(6月25日と1カ月後の日経平均の見通し DI= 1.94)
日経平均の1カ月先の見通しDIは△11.78で、前回(△9.01)から悪化しました。3カ月先の見通しDIも△0.60と悪化しており、前回(+1.94)のプラスからマイナスに転じる結果となりました。この1カ月間の軟調な相場展開を受けて、弱気な見通しが強まったと思われがちですが、アンケートの結果を細かく見ていくと、実際はそうでもなさそうです。
確かに、1カ月先、3カ月先の見通しの両方で、「強気」の回答比率が減少しましたが、「弱気」の回答比率も減少しており、結局、「中立」の見方が増える結果となっています。前回の結果(3カ月先の見通し)でも、最も回答比率が多かったのは「中立」でしたが、その回答数は「強気」、「弱気」、「中立」で拮抗しており、どちらかというと見方が割れたという印象でした。今回は「中立」の多さだけが目立ち、とりわけ1カ月先の見通しでは、半数以上の回答が「中立」となっています。
あらためて最近までの相場環境を確認すると、欧州情勢や世界的な景況感の悪化が懸念される中、政策当局による対応期待が相場を支えるという状況が長く続いています。そして、事態が長期化したことで、その影響が景気や企業業績にも出始めており、相場の手詰まり感が強まってきています。
また、「状況の悪化⇒株価下落⇒当局の対応⇒株価持ち直し」のサイクルが繰り返されるうちに、金融緩和はあくまでも時間稼ぎの対処療法であることや、根本的な問題の解決には時間がかかること、プラスαの対策が必要なことなどが認識されはじめており、単純な金融緩和策だけでは、株価の買い戻し材料になっても買い進む材料にはなりにくくなっています。
今回のアンケートによる「中立」の増加は、方向感に乏しい展開が続く見込みとともに、相場の手詰まりが意識される中で、株価の先高感・先安感が持ちづらい状況が反映され、「正直、見通しきれない」という迷いも窺える結果だったと思われます。
2.為替相場の見通し
ドル/円 | ユーロ/円 | 豪ドル/円 | |
---|---|---|---|
7月30日 | DI=△13.57 | DI=△26.15 | DI=3.59 |
6月25日 | DI=△2.30 | DI=△21.02 | DI=4.24 |
為替の見通しについては、米ドルのDIが△13.57、ユーロのDIが△26.15、豪ドルのDIが+3.59となりました。前回の結果が、米ドル(△2.30)、ユーロ(△21.02)、豪ドル(+4.24)でしたので、3通貨ともに円高見通しが強くなった格好です。この1カ月間でドル、ユーロともに円高が進行していたことが背景になったと思われます。
とりわけ、ユーロについては大きく円高が進行しました。スペインの情勢が不良債権による銀行救済問題だけでなく、地方政府の財政問題にまで拡大したことで、欧州への警戒感が強まり、リスク回避の円買いが進行したことが主な要因です。
また、7月の日銀金融政策決定会合では追加の金融緩和が見送られましたが、その一方で、イングランド銀行(英国の中央銀行)は資産購入枠を拡大、欧州ECBや中国、ブラジル、韓国なども相次いで利下げを実施するなど、国内と海外の金融緩和スタンスに差が出たことも円高につながりました。
今後も引き続き、米国をはじめとする各国の金融緩和の動きが予想され、円高要因が意識される場面が出てくると思われます。ただ、ユーロについては少し状況が異なり、欧州の金融緩和策などの対応は、景気対策とは別に、財政・債務問題の拡大を抑制するねらいもあるため、欧州不安が後退することによるユーロ買い戻しのシナリオも考えられ、円安要因になる場合があります。
3.今後注目する投資先
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
アメリカ | 34.33% | 32.51% | ↑ 1.82% |
EU諸国 | 7.58% | 9.01% | ↓△ 1.43% |
ブラジル | 21.76% | 27.74% | ↓△ 5.98% |
ロシア | 5.99% | 11.48% | ↓△ 5.50% |
インド | 27.54% | 31.98% | ↓△ 4.43% |
中国 | 10.78% | 12.54% | ↓△ 1.77% |
中東・北アフリカ | 7.19% | 9.19% | ↓△ 2.00% |
東南アジア | 46.51% | 47.00% | ↓△ 0.49% |
中南米 | 9.18% | 9.72% | ↓△ 0.54% |
東欧 | 2.40% | 4.42% | ↓△ 2.02% |
今回のアンケート結果を見ると、アメリカ以外は回答比率が軒並み前回より低下しています。また、注目度の高い投資先上位(東南アジア、アメリカ、インド)は、前回調査と変わらない顔ぶれとなりました。1位の東南アジアですが、世界の主要株価指数が低迷し続ける中、インドネシア株市場が堅調だったほか、マレーシア株市場は過去最高値を更新、シンガポール株市場も1年ぶりの高値をつけるなど、7月の東南アジア株市場は全般的に活況を維持しました。2位のアメリカもFOMCを控え、FRBによる追加措置への期待で注目が集まったと思われます。
反対に回答比率を大きく落としたのはブラジルです。7月半ばにブラジル中銀が利下げを実施したものの、中銀と政府が相次いで2012年のGDP成長率見通しを下方修正しました。修正幅も、中銀が3.5%から2.5%、政府が4.5%から3.0%とそれぞれ大きくなっており、景気急減速への警戒が高まっています。
4.今後注目する投資商品
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
国内株式 | 72.46% | 72.08% | ↑ 0.37% |
外国株式 | 27.94% | 25.27% | ↑ 2.68% |
投資信託 | 29.86% | 27.94% | ↓△ 1.91% |
ETF | 14.97% | 16.25% | ↓△ 1.28% |
FX(外国為替証拠金取引) | 16.17% | 17.14% | ↓△ 0.97% |
国内債券 | 6.59% | 7.77% | ↓△ 1.19% |
海外債券 | 9.38% | 10.95% | ↓△ 1.57% |
金 | 19.56% | 18.02% | ↑ 1.54% |
原油 | 6.59% | 4.77% | ↑ 1.82% |
商品 | 5.79% | 4.24% | ↑ 1.55% |
REIT | 11.98% | 12.54% | ↓△ 0.57% |
CFD | 2.79% | 3.00% | ↓△ 0.21% |
今回の結果は、国内外の株式に注目する回答が増加しました。ちょうど、アンケートの実施時期が日米の企業決算発表シーズンであったことも影響したと思われます。決算に対する市場の反応ですが、これまでのところ、良いもの(思ったほど悪くない)ものは買われ、そうでないものは売られるといった具合に、比較的素直なものとなっています。「全体的な景況感では買いづらくても、業績を伸ばしている企業の株は買える」という個別物色の動きはミクロの視点であり、反対にマクロ(全体的な相場環境の動き)の視点の要素が強い投資商品である、債券や投資信託、FXなどは回答比率を下げています。また、金融緩和期待を背景に、金や原油などのコモディティ関連は回答比率が上昇しました。
「DI(Diffusion Index)」とは
景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替 DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。
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