はじめに

今回のアンケートが行われたのは5月28日(月)から5月30日(水)です。毎週お届けしているメルマガでは何度もご紹介してきたイベントリスク、すなわちギリシャが総選挙の結果、「緊縮政策反対派」が票を伸ばして政局が混迷するというリスクが顕在化しました。ギリシャの政局は6月17日(火)の再総選挙までどちらに転ぶかわからない状態が続き、その波紋はスペインやイタリアにまで広がってきています。こうした流れの中で、再び投資家はリスクオフの姿勢を強めたため、日経平均株価は、月初時点の9,350円から8,556円にまで下げ幅を拡大し、ユーロは対ドルで1.25ドル、対円では98円台をつけるほどに売られました。しかしそれでもまだ下げ止まるとは安易に言い切れない状況です。ギリシャのユーロ離脱という話から、ユーロ崩壊という説まで聞こえる中、個人投資家の皆さんは、いかに今の市場をご覧になっているのでしょうか。今回のアンケート結果も是非今後の投資活動のご参考にして頂ければ幸いと思います。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「そろそろ下げ止まっても良いでしょう」

  • Q1:5月28日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △22.69
    (5月7日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △33.01)
  • Q2:5月28日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +8.15
    (5月7日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △5.18)

今回の基準日となった2012年5月28日の日経平均株価の終値は8,593.15円です。PBR(株価純資産倍率)1倍の水準(9,300円程度)が下値目途などとも言われていましたが、株価は一向に下げ止まる気配を示さずにズルズルと値を消し、ついには8,500円台維持もままならない状況です。背景にあるのは欧州債務問題であり、通貨ユーロの信用不安です。きっかけはギリシャ問題です。ギリシャの総選挙結果は、結局緊縮財政に対する考え方で与野党が合意できず、過半数を握る連立政権の樹立が不可能となったため、前首相パパデモス暫定政権時代にEUから約束された支援を受けることが不確定なものとなりました。これによりギリシャの財政破綻からEU離脱という見通しが市場に広がっています。その先にあるのは欧州統一通貨ユーロの信用失墜で、これらの飛び火がスペインにまで広がるにつれて、世界の金融市場でリスク・アセットの多くが値を下げていきました。スペインの10年債利回りは6%台半ばとなって資金調達に支障が生じそうな展開となったからです。日経平均株価で言うと、12年3月期の決算発表が出揃ったということも背景にありますが、4月下旬には21倍から22倍程度の水準にあった予想PER(株価収益率)が、約半分の11倍台にまで低下し、バリュエーション的にはそれなりな割安感になっています。テクニカルにも過熱感は消え去りました。

さすがにこの水準にまで株価も下がると、やや弱気見通しのトーンが落ちるのか、今回のアンケート結果によるDIは、1カ月先についてはまだ△22.69とそれなりな水準ですが、3カ月先に見通しについては+8.15とポジティブ見通しへと転換しています。つまりまだ目先については下値もあると考えるが、3カ月先にはこの水準よりも株価は上にあってしかるべきという結果です。間違いなくひと月以内にギリシャの再総選挙は行われ、緊縮財政が履行されてギリシャ支援策が続くのか、あるいは緊縮財政が否定され、何か新しい枠組みの中でのギリシャの行く末が示されるのかはっきりします。それまではまだ下押しはあるでしょうが、その後は何らかの賢明な判断が下されて事態は改善するだろうというのが投資家の読みように思われます。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
5月28日 DI=△5.95 DI=△34.80 DI=△1.10
5月7日 DI=△20.84 DI=△43.01 DI=△11.57

調査時点のドル/円は79.35円、ユーロ/円は99.94円です。前回のアンケート時に比べると、ドル円はわずか50銭しか円高にはなりませんでしたが、ユーロは104円前後から100円割れへと4%も円高が進行しました。今回も全通貨に対して円高見通しが徹底されていますが、対ドルと対豪ドルについては、もうそろそろ良いところという印象の方が多いようです。

ギリシャ政局が混迷を極めるほどに、ユーロは対ドルでも対円でも厳しく売り込まれました。ギリシャやスペインの銀行から預金が流出し続けているという報道に接する機会は多く、欧州の投資家にしてみれば、信用を失いつつあるユーロで資産管理をするよりも、ドルや円で持っていた方が資産保全できると考えるのは理に適ったことです。まさに国単位の取り付け騒ぎです。まずギリシャの銀行からユーロで預金を引き出し、それを売ってドルを買う。これは間違いなくユーロ安要因です。ただその一方で、欧州の投資資金が流れこんでいた新興国から、今度は逆に資金が引き上げられて還流している話もあります。ただそれは欧州に滞留することなく、再びドルや円に向かってしまうため、これも円高・ドル高要因になります。その証左が「米国10年債利回りが1.6%割れ近くまで買い上げられた」ということかと思われます。いずれにしても、現在為替市場の真中にある通貨はユーロで、それなりな実需に裏付けられているようでもあります。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 33.92% 31.57% 2.35%
EU諸国 7.27% 7.59% △ 0.32%
ブラジル 26.43% 24.82% 1.61%
ロシア 7.05% 8.07% △ 1.02%
インド 38.99% 39.40% △ 0.41%
中国 17.84% 16.51% 1.34%
中東・北アフリカ 7.93% 5.30% 2.63%
東南アジア 39.21% 46.51% △ 7.30%
中南米 7.27% 9.40% △ 2.13%
東欧 2.42% 3.25% △ 0.83%

投資家の目線は信用度合いに高い相関性を持っているかのようです。マクロの回復度合いについて、4月初めの雇用統計発表以降はやや黄信号が灯っているかのアメリカですが、とはいえ、やはり基軸通貨の国であり注目度合いが伸びるのは当然かと思います。一方、成長著しいということから多くの投資家の注目を集めていた東南アジアが一気にポイントを落としています。欧州景気のスローダウンは、そのまま新興国経済の伸長に影を落とすという見立てから、ポイントが低下したようです。ただ逆にブラジルや中国など、新興国とは言いながらも相当程度大きな経済規模をもつ新興国については、売られたところは買いとばかりに、注目度合いを高めているようにも思われます。やや混乱しているという印象を拭えません。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 75.55% 69.88% 5.67%
外国株式 24.67% 24.34% 0.33%
投資信託 21.59% 27.35% △ 5.76%
ETF 13.66% 17.23% △ 3.57%
FX(外国為替証拠金取引) 17.40% 16.87% 0.53%
国内債券 6.61% 6.02% 0.58%
海外債券 9.25% 11.93% △ 2.68%
14.54% 16.75% △ 2.21%
原油 5.95% 6.14% △ 0.20%
商品 6.39% 5.30% 1.09%
REIT 8.59% 12.89% △ 4.30%
CFD 3.08% 2.77% 0.31%

先月急低下した国内株式の注目度合いが再び高まり75%を超えてきました。今月のDIの結果と総合して考えると、やはりそろそろこの水準が買い場であり、割安なものを拾ってみようという感じが出ているように思われます。しかし、投資信託のそれは大きく今月もポイントを落としていますので、自分自身で投資判断をされて銘柄選びをされるというような傾向が出てきているのかも知れません。これは指数取引が多いETF(上場投信)がポイントを落としていることとも整合しており、まずは市場全体ではなく、個別銘柄の割安なところをピックアップするという感じだと思われます。

またREITが大きくポイントを落としたことが気になります。投資信託がポイントを落としていることとあわせて考えると、REITを利用した毎月分配型ファンドなどの相対的な魅力低下ということなのかも知れません。海外債券がポイントを落としているのは、為替動向がやはり不透明と思われているのか、あるいはクレジット・リスクを計りにくいという視点なのか、もうしばらくは動向を注視してみる必要がありそうです。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。

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