はじめに

今回のアンケートが行われたのは5月7日から5月9日です。ゴールデンウィークの最終日にフランス大統領選挙とギリシャの総選挙があり、再び欧州債務危機が市場のメインテーマになった直後に行われました。またグローバルなマクロ環境という意味では、回復が期待されている米国経済にも雇用統計の発表でやや黄信号が灯ったという局面でもありました。結果、今回のDIの結果はドラスティックに前回までと方向感を変えています。国内情勢についても、ちょうど決算発表の最中であり、そうした要素も今回のDIの結果には含まれていると思います。今回のアンケート結果も是非今後の投資活動のご参考にして頂ければ幸いと思います。次回も是非、本アンケートにご協力頂ければ幸いです。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「センチメントは一気にドテン、かなり弱気に!」

  • Q1:5月7日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △33.01
    (3月26日と1カ月後の日経平均の見通し DI= +30.61)
  • Q2:5月7日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △5.18
    (3月26日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +27.27)

今回の基準日となった2012年5月7日の日経平均株価の終値は9,119.14円です。前回のアンケート実施時に比べるとおおよそ1,000円程度の株価下落となっていますが、DIは前回まで続いたギネス更新の強気勢いからまさに正負が逆になる「ドテン弱気」に入れ替わりました。日本時間7日の未明に飛び込んできた欧州からのニュースは、現職のフランス大統領であり、欧州債務危機の解決に向けてドイツとともに「メルコジ・ライン」とまで呼ばれるほど揃った足並みで緊縮財政による欧州経済の立て直しを画策してきたサルコジ大統領の落選の報と、あわせてその緊縮財政を最も必要とし、それを受け入れることによってEU(欧州連合)や国際通貨基金(IMF)からの支援を取り付けたギリシャ政府の転覆の報でした。逼迫した財政を破綻から救い、何とか正常化させていくためには社会保障などの歳出カットや、公務員の給与カットや人員削減などによる緊縮財政を徹底するより術が無く、その政策を担保として支援を取り付けるしかないとしてきた政権へギリシャ国民世論は「NO」を突き付けました。この通告は、この先の欧州債務危機克服に向けた舵取りの難しさを改めて浮き彫りにさせたと言えます。

もし、フランス大統領選挙とギリシャの総選挙が同タイミングで行われなければ、もう少し市場もショックを吸収するのに時間を稼げたかも知れませんが、不運にも同時に悪い結果を突き付けられたことにより、欧州債務危機が相当程度振り出しに戻ってしまった感を否定できなくなりました。またその後のアンケート期間においても、ギリシャの総選挙がもう一度行われる可能性などが言及されるに至り、市場のセンチメントは一気にネガティブな方向に傾いたという感じです。

DIの変化としては前回の+30.61から今回△33.01まで絶対値としては63.62もの大きな幅での変動となり、内訳としては強気が「42.11→15.90」、中立が「46.39→35.18」、弱気が「11.50→48.92」となり、弱気のウェイトが一気に高まったことが分かります。また過去これほどまでドラスティックに見通しが変わったことはありません。

3カ月先の見通しに関しても+27.27から△5.18へと強気から弱気に大きく変動しており、当面は株価の回復には期待が持てないと個人投資家の方々が考えられていることが分かります。ちなみに日経平均株価はこの間9,119円から9,045円へと下落していますが、この水準においてもまだ弱気がここまで増えているということは特筆に値するかと思います。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
5月7日 DI=△20.84 DI=△43.01 DI=△11.57
3月26日 DI=+44.25 DI=+28.88 DI=+29.68

調査時点のドル/円は79.85円、ユーロ/円は103.92円です。為替見通しについても一気に円高見通しが全通貨で徹底されたという感じです。最もその見通しが強く出ているのが対ユーロです。61.93%の人が現状レベルより円高に振れることを予想され、19.16%の人が現状レベルを肯定されました。背景にあるのは急速に高まった欧州不安だと思いますが、これに引き摺られるように全通貨で円高見通しが進んだ様子です。すなわちリスクオフということですが、豪ドルの流れについてはファンダメンタルズに対する見通しの変化も考慮しないとなりません。すなわち、欧州景気がスローダウンすれば、欧州を主たる輸出先としている中国経済も鈍化し、それに合わせて中国向けの資源輸出で潤っていた豪州経済もスローダウンするという玉突き現象です。資源国は強いというストーリーも、やはり消費国の需要があってこその話であり、需要が衰退すれば宝の持ち腐れになります。

通貨見通しは本来金利見通しとセットで考えるべきものなので、極端に2国間の通貨の交換レート見通しが変化した場合は、それもあわせて考えるべきものですが、今回の場合はそうした金利差などの議論とは別で、通貨の信用問題ということが根幹にあることは言うまでもありません。故に、ギリシャの組閣話などの今後の展開いかんでは急激に状況が変わる可能性があることも指摘しておきたいと思います。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 31.57% 35.03% △ 3.46%
EU諸国 7.59% 6.95% 0.64%
ブラジル 24.82% 29.01% △ 4.19%
ロシア 8.07% 7.49% 0.59%
インド 39.40% 41.18% △ 1.78%
中国 16.51% 18.32% △ 1.81%
中東・北アフリカ 5.30% 6.28% △ 0.98%
東南アジア 46.51% 45.99% 0.52%
中南米 9.40% 8.02% 1.38%
東欧 3.25% 3.61% △ 0.36%

複数回答でお願いしている本アンケートのような場合、今月の結果のように多くの投資先について前回比マイナスになるということは、それだけ「注目する投資先」の候補自体の絶対数が減ったことを意味します。すなわちこれを見ても投資家が今はいったん様子見を決め込み、まずは引き籠った感じになったことが分かります。ブラジルが最もポイントを落としていますが、相次ぐ利下げによりブラジルレアル安が進んだ結果、現状は魅力的に映り難くなった結果だと思われます。米国については、このところ順調に注目度を上げて来ておりましたが、やはりアンケート直前に発表された雇用統計などの結果が疑問符をつけさせる結果になったものと思われます。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 69.88% 75.00% △ 5.12%
外国株式 24.34% 24.60% △ 0.26%
投資信託 27.35% 30.35% △ 3.00%
ETF 17.23% 16.58% 0.65%
FX(外国為替証拠金取引) 16.87% 17.51% △ 0.65%
国内債券 6.02% 6.28% △ 0.26%
海外債券 11.93% 9.63% 2.30%
16.75% 18.32% △ 1.57%
原油 6.14% 7.22% △ 1.07%
商品 5.30% 4.01% 1.29%
REIT 12.89% 12.17% 0.73%
CFD 2.77% 2.01% 0.77%

アセット・クラス別に見た注目度合いも、前問同様全体にポイントを落としており、投資は控えがちな展開になっていることが伺えます。3月や4月は国内株式投信の設定が相次ぎ、「個人投資家の国内回帰」などという報道が度々なされていましたが、今回の結果を見る限りにおいては、それは完全に裏目に出ているように見受けられます。そして現状は株も投信もポイントを下げて、むしろ逆に海外債券が注目度合いを上げています。DIの結果からすると、株が注目されないのは理に適っているのですが、円高見通しが強まった中で為替リスクが高い海外債券が注目されているというのは、やや違和感があります。穿った見方をすれば、国内株式投信が相次いで設定されたことへのアンチテーゼかも知れません。今後の展開はもちろん解りませんが、目先のところでは日経平均株価の10,000円前後の水準で設定された国内株式投信のパフォーマンスは、現状厳しいだろうと思われますので仕方がないと言えば仕方ない結果なのですが、今後の展開が気になるところです。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。