毎週金曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄エヌビディア(NVDA、NASDAQ)アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD、NASDAQ)グローバルファウンドリーズ(GFS、NASDAQ)

1.世界の半導体デバイス市場は分野によって跛行色がでてきた

1)2022年4-6月期、5-7月期の半導体決算が出揃った

 半導体セクターの2022年4-6月期、5-7月期の決算が8月中に出揃いました。

 その結果を見る限り、半導体デバイス需要は全体としては順調に伸びているものの、消費者向け(スマートフォン、パソコンなど)の伸びが低下し、あるいは1-3月期比で減少に転じた模様です。一方で、データセンター向け、自動車向け、産業機器向けなどの産業向けは好調であり、向け先の業種によってはある程度緩和はされてきましたが、半導体不足も続いています。

 また、半導体デバイス会社によっても、成長率の格差が目立つようになりました。2022年4-6月期はインテルの売上高が前年比22.0%減となり、最終損益が赤字となりました。世界市場全体の出荷台数がすでに減少に転じているパソコン向けだけでなく、サーバー向けも減少しました。会社側によれば、大手のサーバーメーカーの中で半導体デバイスの在庫調整を行った会社があった模様です。

 一方で、AMDもエヌビディアもパソコン向けは減速ないし悪化していますが(エヌビディアのパソコン向けGPUの悪化の要因には、暗号資産のマイニング向けの需要が暗号資産の相場下落によって大きく減少したという事情があると思われます)、サーバー向けは成長が続いています。

2)インテルからAMDへ客離れが起きている?

 これをどう解釈すればいいのか、私は、パソコン向け、サーバー向けともにCPU市場で、インテルからAMDへの顧客のシフトが起こり始めたのではないかと考えています。インテルは現在最新鋭の7ナノラインを構築中ですが、稼働開始して量産が軌道に乗るのが2023年後半と思われます。それまでは増強はしていますが、10ナノから以前のラインを使わなければなりません。そして、インテルの売上高の伸びを見る限り、旧ラインの増強の程度は大きくないと思われます。

 一方で、AMDは同社にとって今の最先端の7ナノ、今年後半に出荷開始となる5ナノについては全量をTSMCに生産委託しています。TSMCは極めて積極的に設備投資を行っており、そのため、7ナノ、5ナノの生産能力は今後も増強されると思われます。AMDのサーバー用CPU「EPYC」を採用しているのは大手クラウドサービス会社など有力な半導体ユーザーが多くなっていますが、もし彼らが生産能力の問題からインテルから離れAMDにCPU調達の軸足を移しつつあるとすれば、インテルにとってはこの減収は一時的なものでは済まなくなる可能性があります。

 これは、エヌビディアの高成長の起点になったのは、AIの高速駆動と高速、高効率の推論はCPUで行うよりもGPUで行ったほうがよいという学術系の論文が2010年代前半に数多く出されたことによって、それまではゲーミング用が大半だったGPUがデータセンターで使われるようになったためであり、その意味で、エヌビディアが開拓したのはデータセンターにおけるAI駆動と推論という新しい市場です。ようするにインテルは新しい市場をエヌビディアに取られたということです。これに対して、AMDの伸びはインテルの本丸であるCPUのシェアを直接侵蝕するものであり、このままAMDのシェア上昇が続けば、インテルにとって大きな問題になると思われます。

 インテル、AMD、エヌビディア、そしてTSMCのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング、パソコン、サーバー、ゲーム機向けなど)向け売上高のトレンドは、CPU、GPU市場の力関係をよく表しているため、次の7-9月期が注目されます。

表1 インテル、AMD、エヌビディアの四半期売上高

単位:百万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成
注:AMDの2022年1-3月期からはザイリンクスを含む。

グラフ1 x86系CPUの市場シェア(全体)

単位:%、出所:Mercury Researchプレスリリースより楽天証券作成

グラフ2 サーバー用CPUの市場シェア

単位:%、出所:Mercury Researchプレスリリースより楽天証券作成

2.半導体設備投資の伸び率は2022年から2023年にかけて鈍化か

1)半導体設備投資にも各社によって違いが出てきた

 半導体設備投資は今後、大手デバイスメーカーごとにトレンドに変化が現れる可能性があります。

 表2は、TSMC、インテル、サムスンの半導体製造大手3社の半導体設備投資額の推移を見たものです。各社とも2021年までは順調に設備投資を増やしてきました。しかし、2022年に入ってからは会社ごとに動きの違いが出ています。

 まず、TSMC。TSMCは2Q決算時に当初400億~440億ドルとしていた年間設備投資額を約400億ドルと修正しました。半導体製造装置の納期が延びているためです。TSMCは各業界の優良顧客を数多く持っているため、景気変動には強いと思われます。そのため、2023年も2022年と同水準か多めの設備投資が予想されます。

 インテルは、当初270億ドルとしていた2022年設備投資計画を230億ドルに下方修正しました。予定した生産能力を230億ドルで実現できるためとしています。ただし、インテルは業績が悪化しているため、2023年の設備投資計画は不透明です。今の業績悪化が続くようなら、インテルは大手デバイスメーカー間の設備投資競争から脱落する可能性がないとは言えないと思われます。

 また、サムスンはメモリ、ロジック両方で設備投資を進めてきましたが、スマートフォン市場の減速やDRAM市況の下落よるものと思われますが、2022年後半の設備投資は柔軟に検討するとしています。つまりは2022年の設備投資が大きく増えることはないということと思われます。

表2 大手半導体メーカーの設備投資

出所:各社会社資料、報道より楽天証券作成
注:1ウォン=0.1016円、1ウォン=0.000722ドル。

表3 半導体大手3社の半導体設備投資額合計

単位:億ドル
出所:楽天証券作成

2)2023年の半導体設備投資の伸びはさらに鈍化か

 2023年の半導体設備投資がどうなるのか、まだ半導体製造装置メーカー各社は方向性を示していませんが、半導体設備投資は過去2年間にわたって高い伸びを続けてきたため、ここから先は毎年一定の設備投資があれば一定の生産能力増強が可能になると思われます。また、アメリカの金利上昇、DRAM市況の下落、パソコン向け、スマートフォン向けなど消費者向け半導体市場の減速など半導体設備投資にとってマイナス材料もあります。後述するアメリカのCHIPS法によるアメリカ半導体メーカーに対する生産能力増強に対する補助金は設備投資のプラス材料ですが、マイナス要因も考慮する必要があると思われます。

 また、半導体設備投資は個々の半導体デバイスメーカーの業績にも左右されます。特に注意しなければならないのはインテルです。インテルにとって2023年は同社にとって最新鋭の7ナノラインが稼働開始する年です。しかし一方で、足元の業績悪化が続くようであれば、設備投資を延期する可能性がないわけではないと思われます。要するに(前述したように)、業績悪化に見舞われているインテルが設備投資競争から脱落する可能性があるということです。

 これらのことを考えると、2023年の半導体設備投資は増加したとしても、一桁の小さい伸びにとどまると予想されます。

 一方で、その先の2024年、2025年を展望すると、2024年、2025年とアメリカで建設が進んでいるTSMC、インテル、サムスンの大型工場(概ね5ナノ)が相次いで稼働開始する計画です。さらに2025年年末にはTSMC2ナノの量産がスタートする予定です。また、CHIPS法の恩恵もあると思われます。

 従って、今のところは、2023年に半導体設備投資がいったん踊り場になっても、2024年には再び増加する可能性が高いと思われます。

3.2022年7月からアメリカの対中国半導体輸出規制が強化された

1)アメリカが7月から半導体製造装置の対中国輸出規制を強化した

 アメリカの半導体製造装置・検査装置メーカー2社、ラム・リサーチとKLAコーポレーションは7月下旬に各々開催された2022年4-6月期決算電話会議において(ラム・リサーチは7月27日、KLAは7月28日)、アメリカ政府から中国最大のファウンドリ(半導体受託製造業者)であるSMICに対して14ナノ以下の微細化世代に対応する半導体製造装置を輸出する場合、アメリカ政府(アメリカ商務省)の許可が必要になると通告されたことを明らかにしました。

 アプライド・マテリアルズも8月18日の2022年5-7月期決算電話会議において、アメリカ政府から同様の通告を受けたと表明しました。

 アメリカ政府は2020年12月、アメリカ商務省産業安全保障局(BIS)が発行する貿易上の取引制限リスト(エンティティ・リスト)に、SMICとその関連会社10社を追加しました。この結果、10ナノ以下の半導体を製造するのに必要なアメリカ製半導体製造装置のSMICへの輸出は事実上できなくなりました。アメリカ政府によれば、SMICが中国の軍民融合戦略(中国共産党が人民解放軍を世界クラスに発展させるため、民間企業を通じて外国技術を含む重要技術を取得・転用する戦略)に加担しているためです。今年7月のアメリカ政府によるアメリカ半導体製造装置メーカーに対する通告は、SMICに対する規制(事実上の禁輸措置)を14ナノ以下に拡大したものです。

 報道によれば、今回の制限はSMIC以外のTSMCやサムスンが中国で稼働している半導体工場向けの製造装置にも波及する可能性があります。

 また、後述のように、SMICが7ナノ半導体の量産にすでに成功しているというニュースがあります。この場合、ASMLとニコンが製造販売しているArF液浸露光装置の中国向け販売ができなくなる可能性があります。

2)アメリカ政府は高性能AIチップの対中国輸出も規制下においた

 また、2022年8月31日にエヌビディアがSEC(アメリカ証券取引委員会)に提出した開示資料によれば、アメリカ政府は8月26日、エヌビディアに対して中国(香港を含む)、ロシア向けのA100、H100(いずれもエヌビディアのデータセンター向け高性能GPU。大規模データセンターでAIを高速駆動するときに使う)を輸出する場合は、アメリカ政府の許可が必要になると通告しました。A100以上の性能を持つ半導体とその周辺回路が規制対象となります。最終需要が軍事用途の場合は中国、ロシアに輸出できなくなります。エヌビディアでは、この規制が、H100の開発やA100のサポート能力に影響を与える可能性を指摘しています。

 なお、エヌビディアの2022年9月1日付けの開示資料によると、アメリカ政府はA100を利用する米顧客へのサポートに必要な輸出を2023年3月1日まで行うことと、H100製品の開発に必要な技術を中国に移すことについて許可しました。エヌビディアは同社の香港施設を通じて23年9月1日までこれらの輸出を行うことができます。これらの輸出はあくまでもアメリカの顧客企業に対するサポートのためと思われます。

 エヌビディアではこの通告の前に2023年1月期3Qの中国向け売上高を4億ドル(2023年1月期2Qは16.02億ドル)と見込んでいましたが、この数字は達成できなくなる可能性があります。

 またAMDでは、AIチップの「MI200」から「MI250」の対中輸出が停止になる模様です。ただし、実績はほとんどないと思われます。

 半導体デバイス会社で今回の規制強化を最も強く受けるのは、エヌビディアになると思われます。中国の軍事利用に関係なさそうな分野への販売を継続しようとしても、最終需要が少しでも軍事に関係があると疑われる場合は販売できなくなります。その意味ではエヌビディアの中国向け事業は大幅に縮小することになると思われます。

グラフ3 エヌビディアの地域別売上高:四半期

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

3)SMICは2021年にEUV露光装置を使わずに7ナノ半導体の量産に成功した模様

 今回のアメリカ政府の対中国半導体規制の強化には伏線があります。

 報道によれば、昨年7月からSMICはEUV露光装置を使わずに7ナノ半導体の量産に成功したということです。出荷しているのは暗号資産のマイニング用半導体ということです。7ナノ半導体はEUV露光装置を使わなくともEUV露光装置の1世代前のArF液浸露光装置を大量に並べてマルチパターニング(何回も繰り返しシリコンウェハの上に微細な回路を描き込む)を行えば生産することはできます。しかし、このやり方はコストが高いものになると思われます。EUV露光装置による7ナノ半導体の量産にTSMC、サムスンが成功しているため、そのような7ナノ半導体は一般的な民生用機器や産業機器では競争力はありません。

 ただし、中国国内で金に糸目をつけずに大量の7ナノ半導体を調達したいという存在があるのであれば、話は別です。要するにSMICのバックには軍事予算があると考えるのが妥当かもしれません。おそらく、アメリカ政府はSMICにおいて軍事用高性能半導体の開発が進んでいることに対処するため、今回の規制強化に踏み切った可能性があります。

4)アメリカの対中国半導体規制の強化で中国の半導体産業は打撃を受けるだろう

 アメリカ政府によるアメリカ半導体メーカーに対する高性能AIチップの輸出制限と14ナノから先の微細化世代に対応する半導体製造装置の輸出規制は、中国の半導体産業とそのユーザー業界、特にデータセンター産業に対して大きな打撃を与えると思われます。アメリカの最先端AIチップをデータセンターに装着できなくなるため、中国のデータセンター産業の国際競争力が急速に失われていくと思われます。

 データセンターを多用する消費者向けサービス、ネット通販、ゲーム、動画配信サービス、そして軍や政府関連のデータセンターは、中国国内向けの事業に使うためなら中国の同業他社と一緒に国際競争力を失っていくため、古いAIチップを使い続けていても差し支えないかもしれません。しかし、これらの業種の中国企業が他国のユーザー向けにサービスを展開しようとする際には、古いデータセンターでは競争には勝てないでしょう。そのため、世界市場を志向する中国企業は、中国以外のデータセンターを使わざるを得なくなると思われます。

 要するに、今回の規制強化は、中国以外の地域での高性能AIチップを使ったデータセンター投資を拡大することにつながる可能性があります。

 そして、軍事関連では、中国の軍事用AIがアメリカのそれを凌駕することは当面ないと思われます。

4.8月9日、アメリカでCHIPS法が成立した

1)アメリカのCHIPS法

 今回のアメリカ政府の対中国半導体規制の強化は、中国のハイテク技術の力を削ぐために行うものですが、アメリカの半導体関連企業にとっても一定の痛みを伴うものです。しかしアメリカ政府はこの痛み以上の「アメ」を用意しています。

 2022年8月9日、アメリカでバイデン大統領が署名しCHIPS法(CHIPS and Science Act)が成立しました。この法律は、半導体の開発・生産支援のほか、量子コンピューティング、AI、ロボティクスなどの先端技術への投資も含まれており、今後10年間の投資総額は約2,800億ドル(約40兆円)に達するものになります(CHIPSは「Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors」の略)。

 CHIPS法には、アメリカの半導体産業を強化するための様々な支援策が盛り込まれています。まず、アメリカの半導体製造や研究開発へ今後5年間で527億ドルの資金投入を行います。この527億ドルの内訳は、アメリカ国内へ半導体工場を誘致するときの補助金として390億ドル(自動車、防衛で使われる古いチップ(レガシーチップ)向けも含まれる)、研究開発と人材開発に132億ドル、国際的な情報通信技術セキュリティと半導体サプライチェーンへの投資に5億ドルとなっています。半導体の研究開発、生産への支援だけでなく、アメリカが圧倒的優位性を持つ設計(EDA、ロジック半導体設計システム)の研究開発への支援も行います。

 また、半導体工場向け投資を促進するため、推定240億ドル相当の税額控除が盛り込まれました。

 アメリカ商務省によれば、補助金の具体的な申請手順を2023年2月までに公表する予定です。2023年2月までに企業から申請の受付を開始し、2023年春には補助金の交付を始めたいとしています。

 補助金枠390億ドルの内訳は、今のところ、最先端ロジック・メモリー半導体の製造への大規模投資約280億ドル、成熟した半導体チップの製造能力、新しい専門技術などに約100億ドル、研究開発に約110億ドルとしています。

 補助金を申請する場合、補助金の受給日から10年間は中国や軍事利用の懸念のある外国で、半導体工場の拡張を伴う取引を行わないことが義務付けられます。ただし、28ナノ以上のロジック半導体などを製造する既存の施設・設備などには適用されません。

 また、TSMCやサムスンのようにアメリカ、中国の両国で先端半導体の生産や工場建設を行っている会社が補助金を受け取る場合の基準については、アメリカ商務省が今後発表する見通しです。

2)様々な半導体関連企業がCHIPS法の恩恵を受けるだろう

 CHIPS法の恩恵を受けるのは、まずアメリカの半導体メーカー(自社生産しているメーカー)です。このCHIPS法の成立を見越して、アメリカ国内に半導体工場を持っている半導体メーカー、インテル、マイクロン・テクノロジー、グローバルファウンドリーズなどがすでに設備投資を加速させているか、新たな設備投資を表明しています。例えばインテルは、CHIPS法によって最先端半導体工場の建設費用100億ドル(約1.4兆円)のうち約30億ドル(約4,300億円)分が軽減されると指摘しています。

 ファブレス半導体メーカーも恩恵を受けます。今はいい半導体チップを開発しても、生産はTSMCのラインが空くのを待たなければなりません。それが、アメリカ国内に複数の先端、汎用、両方の大規模半導体工場ができれば、使える生産能力が増え、製品出荷のタイミングが増えることになります。

 EDA(エレクトロニック・デザイン・オートメーション)の中でも高度なロジック半導体を設計するのに不可欠なシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、シーメンスEDAは3社ともアメリカの会社です。この3社の能力は他を圧倒していますが、中国にも新興EDA会社があります。アメリカのEDA3社の競争力をさらに向上するために、シノプシスなどの3社に対してCHIPS法による研究開発面での支援があると思われます。

 最後に、アメリカ国内で先端、汎用を問わず半導体を大量に使う製品を生産、あるいは使用している会社も恩恵を受けると思われます。アメリカで事業展開しているクラウドサービス(アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、アルファベットなど)、データセンター業者、EVメーカー(テスラなど)、コンピューターメーカー(サーバーメーカーのデル・テクノロジーズ、スーパー・マイクロ・コンピューターなど)などです。

 一方で、CHIPS法にはマイナス面もあります。半導体工場への投資が積極的に進みすぎる懸念があるため、近い将来、先端半導体の供給過剰を招きやすくなる可能性があるのです。ただしこれは、先端半導体の大口ユーザーから見ると、重要な新製品を大量供給できる可能性があるということでもあります。先端半導体の大量生産能力をアメリカが持つということは、アメリカのハイテクノロジーにとって決定的に大きな意味を持つことになると思われます。

5.半導体セクターに対する投資判断

 CHIPS法の影響を織り込んで、半導体関連企業の投資判断を改めて考えてみます。

 まずアメリカと日本の半導体製造装置メーカーについては、今の株価に予想PER(株価収益率)での割安感があるため、長期的には株価上昇の余地があると思われます。ただし、今後6カ月程度の短期では、2023年の半導体設備投資に伸び率鈍化の懸念があること、アメリカの対中国半導体規制の強化の影響が今後6カ月程度で顕在化すると思われることから、株価が上昇しにくくなると思われます。

 そのため、CHIPS法の恩恵を受け、対中国規制の影響が小さい半導体デバイスメーカーに半導体株、ハイテクグロース株投資の重点を移しておいたほうがよいと思われます。半導体製造装置メーカー各社の目標株価は変更しません。

 半導体デバイス会社に対する投資評価は、これも長期的な評価は変更しません。ただし、エヌビディアに対しては、長期で投資妙味があるという評価は変更しませんが、目標株価は引き下げます(詳細は後述)。今後アメリカの半導体メーカーが中国で事業活動を行う際のリスクは大きくなると思われます。特にエヌビディアの最先端のデータセンター向けGPUは中国に軍事利用されるリスクが常にあると思われます。にもかかわらず、エヌビディアの開示資料を読むと、中国事業への関心を持ち続けているように見えます。この姿勢はリスクの大きいものに見えます。

 一方でAMDには中国リスクはほとんどないと思われます。エヌビディアのA100相当の能力を持つAIチップ、MI200、MI250を販売していますが、シェアは大きくありません。一方、AMDがデータセンター向け事業において中国に対して関心がなかったり、リスクを避ける考え方を持っているのならば、ユーザーによっては中国リスクのあるエヌビディアのA100よりもAMDのMI200、MI250を選ぶユーザーが出てくるかもしれません。このような観点から、半導体デバイスに対する投資では、短期的にはエヌビディアへの比重を下げ、AMDの比重を上げたほうが良いと思われます。

 また、グローバルファウンドリーズのような重要な半導体工場をアメリカ国内に持つ会社は、CHIPS法による補助金を受けることで生産能力を拡大しやすくなります。これは事業拡大に直結するため、グローバルファウンドリーズについては中長期で投資妙味があると思われます。

 EDA会社(シノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ)については、研究開発についての支援が期待できるため、引き続き中長期での投資妙味があると思われます。

6.銘柄レポート

エヌビディア

 アメリカ政府の今回の対中国半導体規制の強化の伴い、エヌビディアの2024年1月期の楽天証券業績予想を下方修正します。前回予想の売上高375億ドル、営業利益115億ドルを、今回は売上高330億ドル(前年比20.4%増)、営業利益100億ドル(同2.1倍)へ下方修正します。

 なお、アメリカでのA100、H100の売れ行き好調が期待でき、今3Qの会社側ガイダンスに中国向けの減少が相当織り込まれていることを考えると、2023年1月期については、前回予想を維持します。

 エヌビディアについての懸念材料は、アメリカ政府が中国に対する安全保障上の懸念をはっきりと表明しているにもかかわらず、開示資料を見る限り中国に対する関心を持ち続けているように見えることです。アメリカ政府が安全保障上の問題を抱える企業の行動を容認するとは思えないため、エヌビディアが中国への関心を持ち続ける限り、エヌビディアへの投資にはリスクが伴うと思われます。

 ただし、一方で、エヌビディアのデータセンター用GPUの開発能力が超大国の軍事政策を左右するほど高水準なものであることも今回理解できました。この点も投資する際の評価に織り込む必要があります。

 エヌビディアの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の260ドルから今回は200ドルに引き下げます。2024年1月期の営業増益率2.1倍に対して、中国ビジネスに伴う安全保障リスクを織り込んで、PEG=0.5として想定PERを50~60倍としました。

 投資妙味は感じますが、当面は株価が上がりにくい状態が続くと思われます。

表4 エヌビディアの業績

株価 139.90ドル(2022年9月8日)
時価総額 349,051百万ドル(2022年9月8日)
発行済株数 2,516百万株(完全希薄化後)
発行済株数 2,495百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:会社予想は予想レンジの中心値。

表5 エヌビディアの市場別売上高(年度)

単位:百万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

表6 エヌビディアの地域別売上高(四半期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

グローバルファウンドリーズ

 グローバルファウンドリーズの2022年12月期2Q(2022年4-6月期、以下今2Q)は、売上高19.93億ドル(前年比23.0%増)、営業利益2.97億ドル(前2Qは1.03億ドルの赤字)となりました。1年前と比べて黒字転換しました。営業利益率は今1Q11.6%から今2Q14.9%へ改善しました。

 分野別売上高を見ると、スマート・モバイル・デバイス向け(主にスマートフォン向けRFフロントエンド(アンテナ周りの回路チップ)など)の伸びが低下する一方で、通信設備・データセンター向け(データセンター内の接続、IoT系チップなど)、家庭用・産業用IoT(WiFiチップなど)が好調でした。

 特にスマート・モバイル・デバイス向けにおいて、高級スマホ向けが増加したため平均単価が増加しました。そのため、ウェハ出荷1枚当たり売上高が増加しました。

 今3Qの会社側ガイダンスも良好で、会社側は引き続き事業の拡大を予想しています。最終需要家の中でスマホ向けのような消費者向け市場が軟化していますが、通信設備・データセンター向けや家庭用・産業用IoT向けのような産業向けの好調が予想されます。

 楽天証券では、今2Qの実績、今3Qの会社側ガイダンスをもとに2022年12月期、2023年12月期の業績予想を上方修正します。売上高予想は修正しませんが、営業利益率の上昇を織り込み、営業利益予想を上方修正します。

 なお、2022年12月期設備投資については、前回予想の42.5億ドル(前回レポートでは決算電話会議内での表現で40億ドルとした)から35億ドル近くに下方修正されました。製造装置の納期が延びているためです。納期が延びた分は来期に納入になる見込みです。

 今後6~12カ月の目標株価を、前回の100ドルを90ドルに修正します。2023年12月期の楽天証券予想EPS(1株当たり利益)2.67ドルに、2023年12月期予想営業増益率35.6%よりPEG=1として想定PER30~40倍を当てはめました。

 CHIPS法の恩恵を受ける1社であり、引き続き中長期で投資妙味を感じます。

表7 グローバルファウンドリーズの業績

株価(NASDAQ) 60.22米ドル(2022年9月8日)
時価総額 32,218百万ドル(2022年9月8日)
発行済株数 550.0百万株(完全希薄化後)
発行済株数 535.0百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後発行済み株式数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前発行済み株式数で計算。
注3:会社予想は予想レンジの中心値。

表8 グローバルファウンドリーズの分野別売上高(四半期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ4 グローバルファウンドリーズのウェハ出荷枚数(300ミリ換算)

単位:1,000枚、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 グローバルファウンドリーズ:ウェハ当たり売上高

単位:ドル/枚(300mm換算)、出所:会社資料より楽天証券計算

グラフ6 グローバルファウンドリーズの設備投資額

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

本レポートに掲載した銘柄:エヌビディア(NVDA、NASDAQ)アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD、NASDAQ)グローバルファウンドリーズ(GFS、NASDAQ)