はじめに

今回のアンケートが行われたのは11月28日から11月30日です。引き続き、世界の資本市場には欧州債務危機に対する大きな不安が横たわっています。すでに事態はギリシャ一国の問題に留まらず、広く欧州諸国全般にまで波及しています。これに対し、各国首脳レベルでの問題解決に向けたコンセプト的合意は多く得られても、国民レベルの末端世論となるとその意気込みレベルで話が違い、また各国首脳間でコンセプトはまとまっても、具体論になるとやはり各国の事情が異なるため、話がスタックする状況が続いています。その一方で、米国マクロ経済データには好転の兆しがいくつも現れており、またクリスマス商戦の口火を切って、「ブラック・フライデー」も、「サイバー・マンデー」もとても好調だったと伝えられています。そんな米国マクロにややホッとしている段階で今回のアンケートは行われました。ただもう少しブル(強気)・トーンに染まるかと思いきや、結果はさにあらず、案外まだ慎重論が根強い印象を受けます。それだけ欧州債務危機の今後に対する見通しが引き続きまだ厳しいということなのかも知れません。少なくとも予断を許さない状況が当面続いていることだけは確かなようです。今回もこのアンケート結果が皆様の日々の投資活動に、少しでもお役に立てればと願っております。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「再びセンチメント悪化、3カ月先は震災以来の水準に」

  • Q1:11月28日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △21.77
    (10月31日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △16.82)
  • Q2:11月28日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △9.98
    (10月31日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △1.17)

今回の基準日となった2011年11月28日の日経平均株価の終値は8,287.49円です。その前営業日にあたる11月25日が年初来安値となる8,160.01円となったことから、市場では多くの弱気見通しが語られる一方で、このところ改善傾向にある米国マクロを裏付けるように個人消費関連回復の兆しが伝えられたことから株価は28日29日と連騰し、日経平均株価は8,500円目前まで回復しました。その翌日は欧州財務相会談で具体的な進捗が特に確認されなかったこともあり利益確定の売りに押される場面がありました。今回のアンケートはそんな期間に行われています。つまり市場の動き方から見ると、多少は楽観的な見通しが出ても良いかも知れないと思われる局面だったのですが、DI数値は1カ月後についても、3カ月後についてもともに前回よりも弱気の方に傾き、先月のセンチメント回復分を失ったばかりか、3カ月後の見通しについては東日本大震災直後の水準にまで悪化しました。

1カ月見通しの方については、前回に比べ中立見通しが49.53%から39.28%に低下する一方で、弱気見通しが33.64%から41.24%に増加しています。同様に3カ月見通しについても、中立が39.49%から34.70%に低下する一方で、弱気が30.84%から37.64%へと増加しています。ともに強気見通しの比率は大きな変動なく、2カ月前との比較も考慮すると、弱気派がいったんは「もうそろそろ大丈夫かな」と中立見通しに前回戻しながらも、やはり今回「まだ慎重にみよう」と見通しを変更した感じが伺えます。

そう考えると、米国マクロの改善傾向は足元で急に始まったわけではなく、むしろこの数カ月間続いているトレンドでもあることから、欧州債務問題に対する見方の変化のほうがDIの状況を左右しているように思われます。つまり米国マクロはある程度改善傾向にあることが織り込み済みで、変化は欧州債務問題の動向如何ということだと思います。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
11月28日 DI=△6.22 DI=△35.84 DI=+1.47
10月31日 DI=△36.92 DI=△28.74 DI=△3.04

調査時点の円/ドルは77.71円、円/ユーロは103.32円です。結果的には11月も継続的に為替介入が行われていたようですが、あまりに動かないドル円相場に、前回アンケート時には55.14%もあった円高予想が今回は35.52%に大きく減りました。それとは対照的にほとんど変化がない感じなのがユーロです。内容的には「円高見通し」が52.34%から54.50%へ、「変わらず」が24.07%から26.84%へ、そして最後に「円安見通し」が23.60%から18.66%へと、やや「円安見通し」の減り方が大きいような気もしますが、全体的なバランスを見るとほとんど変っていないという印象です。やはりまだ欧州債務危機の問題でユーロ離れを考える人が多いということだと思います。

豪ドルに関してはDIがマイナスからプラスへ変わり、円高見通しが円安に変わったという印象ですが、個別に数値を追うとこれもそう大きく変わったという感じではありません。「円高見通し」が30.61%から26.19%へ減少する一方で、「中立」が41.82%から46.15%へと増加しました。極端なリスク回避姿勢がやや緩和され、高金利通貨には多少は目が向いてきたということかも知れません。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 27.82% 25.23% 2.59%
EU諸国 8.35% 8.41% △ 0.06%
ブラジル 27.99% 32.24% △ 4.26%
ロシア 9.82% 10.51% △ 0.69%
インド 37.48% 48.36% △10.88%
中国 20.29% 18.69% 1.60%
中東・北アフリカ 8.67% 9.58% △ 0.91%
東南アジア 40.75% 42.76% △ 2.00%
中南米 10.80% 10.28% 0.52%
東欧 3.44% 6.54% △ 3.11%

まず一番目を引くのがインドの注目度合いが△10.88%も急低下したことですが、じつは前回は+7.63.%も急増しており、この間にインドを取り巻く投資家の印象に何があったのかという感じです。正直わかりません。一方で、米国市場が注目度を上げてきているのは極めてリーズナブルな答えだと思います。サンクス・ギビング(木曜日)の休暇明け(金曜日)、消費者が一斉にショッピングに行くので必ず小売店が黒字になるという意味で「ブラック・フライデー」と呼ばれる日も、このサンクス・ギビングの長期休暇から仕事に戻り、会社のパソコンで最初にするのはネットショッピングということから「サイバー・マンデー」と名付けられている月曜日も、どちらも米国での消費動向は好調であったようです。こうした報道を背景に、米国が注目度合いを上げるのはごく当然かもしれません。東欧のマイナスはやはり欧州債務危機でしょうし、東南アジアのそれはタイの大洪水が原因ではないでしょうか。ブラジルの人気凋落にブレーキが掛らないのは気になるところですが、それについては、資源国通貨であることからも投資家のリスク許容度が戻れば回復するだろうと考えています。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 67.92% 62.15% 5.77%
外国株式 23.08% 24.53% △ 1.46%
投資信託 30.61% 36.68% △ 6.08%
ETF 17.68% 21.03% △ 3.35%
FX(外国為替証拠金取引) 18.49% 20.79% △ 2.30%
国内債券 7.04% 9.58% △ 2.54%
海外債券 9.33% 15.89% △ 6.56%
16.53% 20.09% △ 3.56%
原油 4.91% 7.94% △ 3.03%
商品 4.75% 7.01% △ 2.26%
REIT 9.17% 11.21% △ 2.05%
CFD 4.26% 4.67% △ 0.42%

DIの結果とは裏腹に、「今後注目する投資分野」として日本株だけが前月比プラスとなったのは意外感があります。「先々も含めて、決して楽観はしていないけれども、それでもそろそろ割安感があり、押し目を拾う形で仕込み始めても良いかも知れない」といったような見通しを持つ人達が増えているのだとしたら、これは日本株式市場にとっては極めて朗報だと思います。

11月は1日当たりの売買代金の平均が1兆円に届きませんでした。これだけ市場に閑古鳥が鳴くようになるほどに日本株、つまりは日本企業の魅力が薄れたとは思われませんので、投資家の虎視眈々と安値を狙う目が光っても当然かと思われます。

ところで、投資信託や海外債券がどちらも△6%台のマイナスとなったのは、ともに為替見通しが原因ではないでしょうか。現在、投資信託といえば単純な日本株運用タイプのものよりも、海外資産に投資するタイプ、すなわち為替リスクがついてくるものが人気を博しています。ある意味では、そのリスク特性は外国債券と同じな訳ですから、為替動向を意識して同様に注目度合いが下がったというのは理に適っている気がします。ただ前回、すべての投資分野がプラスになって「リスク・オン」と思われたものが、今月は日本株を除いてすべて「リスク・オフ」になってしまった点は、現在は投資家のリスク回避姿勢がまだ根強いことの証左だと思われ、強いてはこれが市場低迷の理由だと思われます。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。