ユーロ売りが強まり、ドル/円140円台前半で終了

 2日の米8月雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)は前月比+31.5万人と予想(30万人)を上回ったものの、失業率は前月の3.5%から3.7%に上昇、平均時給は+0.3%と前月(0.5%)から鈍化する結果となりました。

 しかし、労働参加率が2020年3月以来の高水準となる62.4%まで上昇したことで失業率が上昇し、賃金が鈍化したとの見方から米労働市場はおおむね良好な状態を維持している一方で、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げペースを加速するほどの過熱状態ではないと受け止められ、ドル/円は140円割れとなった後、140.80円近辺まで急伸する乱高下となりました。

 その後、やや弱含んだものの、米雇用統計後の米金利低下を受けたドル売りから1.0030近辺まで上昇したユーロが、「ノルドストリームが修理のため稼働停止」との報道が伝わると欧州エネルギー不足問題への懸念再燃でユーロ売りが強まり、0.99台半ばまで急落しました。このドル買いの動きもあり、ドル/円は140円台前半で週を終えました。

13日の米CPIの影響は?!

 ジェローム・パウエル議長は7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見や8月26日のジャクソンホール会合での講演で、「今後の利上げについてはデータ次第」と述べています。

 来週13日の米国8月CPI(消費者物価指数)を見極め、9月20~21日のFOMCが決定され、金利見通しが修正されることになりますが、FOMC決定に影響するここ1カ月の物価指標は以下のようになっています。

  • 7月米雇用統計(8/5発表)
    NFP52.8万人の増加、失業率3.5%と予想外の強い結果となり、9月のFOMCでの0.75%利上げ期待が急速に高まって円安
  • 7月米CPI(8/10発表)
    前年比+8.5%と6月の9.1%から鈍化、ピークアウト感から円高
  • 7月米PCE(個人消費支出)物価指数コア指数(除食品・エネルギー)(8/26発表)
    前年比+4.6%と前月+4.8%から鈍化し、9カ月ぶりの低水準
  • ジャクソンホール会合(8/26)
    パウエル議長はインフレ抑制について「やり遂げるまでやり続けなければならない」と利上げ継続について強い決意を表明
  • 8月米雇用統計(9/2発表)
    失業率は上昇し平均時給は鈍化、労働参加率は上昇
  • 8月米CPI(9/13発表)

 7月以降、堅調な米企業業績や消費者の期待インフレ率の低下などを受け、市場には楽観的なムードが漂いましたが、8月5日の7月米雇用統計によってその期待は一気に吹き飛ばされました。

 8月10日の米7月CPI以降の物価指標はやや鈍化傾向となっていますが、その後も米長期金利は上昇し、ドル/円の円安も進行しています。ジャクソンホール会合でパウエル議長が、「1カ月の改善ではインフレ率が低下していると確信するにはほど遠い」と市場の安易な楽観をけん制したからかもしれません。

 週明けも円安が進み143円台に上昇しています。8日のパウエル議長の講演や13日の米8月CPIの結果を受けて、節目の145円や1998年8月の147円台、あるいは10円刻みの節目の150円へと一段と円安が進むのか、それとも鈍化傾向が確認され、材料出尽くしからいったんポジションが調整されるのかどうか注目です。

 相場の波という観点からドル/円相場をみてみますと、8月2日の130円台前半からの円安進行は、値幅で約13円、高値更新も10回以上となっており、節目の140円も突破したことからプライス達成感はあります。13日のCPIをきっかけに130円台からの上昇相場の波はいったん終了となるのか、あるいは上昇第二波となるのか注目されます。

1998年の140円超は乱高下

 24年ぶりの140円超えとなりましたが、参考までに24年前、1998年の6月から8月にかけての値動きを見てみますと、6月上旬に140円を突破したドル/円は、その1週間後に146円台を付けましたが、その4日後には133円台まで急落しています。

 しかし、その後再び140円台に上昇し、7月から8月前半にかけて140~145円で推移。そして8月11日に147円台半ばに上昇してからは伸び悩み、9月に入って大暴落しています。1998年の終値は115円台となっています。

 相場環境が異なるため、そのまま参考になるとは思えませんが、ポジションがかなり膨らんでいたことから乱高下が激しかったことは参考になるかもしれません。

 今回も日米の金融政策の違いが鮮明となっていることから、ドルを買って円を売るという取引に資金が集中しやすい環境になっているのは間違いありません。何がきっかけになるかはわかりませんが、乱高下が激しくなってきたら要注意ということかもしれません。

パウエル議長と比較されるラガルド総裁発言

 今週の最大の注目は8日のECB(欧州中央銀行)理事会です。ユーロは米雇用統計後、1.0030近辺まで上昇しましたが、「ノルドストリーム」の再開延期を受けて0.99台半ばまで下落し、週明けもじり安となり0.98台へと下落しています。エネルギー供給不安を抱える中、景気悪化を懸念しながら、ECBは大幅利上げを継続できるのかどうかが注目されます。

 ユーロ圏の8月CPIは9.1%と過去最高を更新し、1997年以降で最大の上げ幅となったため、0.75%の利上げ観測が急浮上しています。また、ロシアからの天然ガス供給不安から天然ガス価格が高騰しており、今秋にかけて一段とインフレが加速する見通しから、ECB高官たちも景気よりもインフレ退治が優先事項との姿勢に傾いています。

 しかし、エネルギー価格の高騰に加え、過去500年で最悪の状況といわれている干ばつが農作物や酪農、発電、運輸、水利に大きく影響してきているため、欧州の景気が急減速する可能性があります。

 欧州の賃金の上昇率や景況感は米国とかなり様相が異なっているため、ECB理事会後の記者会見で先行きの利上げ方針についてどの程度のタカ派姿勢を貫けるのかクリスティーヌ・ラガルド総裁の発言が注目されます。

 パウエル議長と比較され、手緩いと市場が判断すれば、利上げによってユーロが上昇しても狙い撃ちされる可能性もあるため、ユーロの乱高下に注意が必要となりそうです。