はじめに

今回のアンケートが行われた7月25日から7月27日の期間、市場のメインテーマとなっていたのは何と言っても「米国国債がデフォルトするのか否か」という話です。世界最大の発行量と流通量を誇る基軸通貨ドルの信認がどこまで揺らぐかということが市場の最大関心事となりました。もちろん、ギリシャ問題に端を発した欧州の信用問題もまったく片付いたわけではなく、市場からは「ソブリン・リスク」という単語が頻繁に聞えて来るようにもなりました。このアンケートの集計結果をまとめている現在では、臨時レポート「超最悪なシナリオ、米国債デフォルトは回避された」にも記しました通り、米国の法定債務上限の引き上げ法案は可決、大統領署名も完了してデフォルトは回避されました。詳細はそちらのレポートをご参照頂けたらと思いますが、当面は世界中で神経質なマーケット模様がまだ続くだろうという感じが漂っています。今回もこのアンケート結果が皆様の日々の投資活動に、少しでもお役に立てればと願っております。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「状況に変化なく、慎重なネガティブ・トーンが続く」

  • Q1:7月25日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △7.78
    (6月27日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △7.72)
  • Q2:7月25日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +12.49
    (6月27日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +16.78)

今回の基準日となった2011年7月25日の日経平均株価の終値は10,050.01円です。米国で始まった4-6月期四半期決算の発表がアップル(AAPL)IBM(IBM)、あるいはインテル(INTC)などのハイテク関連を中心に好調な状況を示したことから株価が上伸、一時NYダウで12,700ドル台を突破するなどの流れを受けて日経平均株価も10,000円台を回復するという局面で今回のアンケートは開始されました。しかし、アンケートが行われている間に市場の目線は8月2日に期日の迫った米国の法定債務引き上げ法案が可決されるか否か、すなわち米国債がデフォルト(債務不履行)に陥るか否かに移り始め、全体のトーンは大きく、緩やかながらも慎重姿勢からネガティブ・トーンに切り替わっていったという特徴があります。

結論から言えば、今回の市場見通しはほぼ前月と変わらず、強いて言えばやや「さらに弱気になったかな」という感じです。これは前回のアンケートの時に比べて株価水準が約500円程度上がっているからということなのかも知れませんが、見えてくるのは現下の状況では日経平均株価の10,000円以上の水準というのをあまり「居心地が良い」水準とは感じていない投資家の方が多いということです。

今回のアンケートを取りまとめている現時点(8月3日現在)、米国の法定債務上限引き上げ法案については可決し、米国債のデフォルトという超最悪な事態は避けられました。ただ欧州に始まったこれらソブリン・リスク問題が世界的に景気を冷却し、米国マクロ指標にも弱いものが目立ち始めたことから株価はすでに9,600円台まで調整しています。その意味では見通しは正しかったと言えますが、この水準で再度アンケートを取り直した場合に違うトーンの結果が出てくるかどうかは疑問が残るところです。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
7月25日 DI=△22.78 DI=△21.14 DI=+4.71
6月27日 DI=+7.19 DI=△3.46 DI=+17.04

調査時点の円/ドルは78.22円、円/ユーロは112.32円と当然前回よりも円高に動いた状況でのアンケートとなりましたが、対ドルでも、対ユーロでもさらに大きく円高を予想する結果となっており、対豪ドルについても円安見通しからニュートラルな見通しへと円高バイアスが掛ったことが見て取れます。このアンケートのあと、ドル円は76円台にまで突入し、戦後最高値を更新するかの勢いになりかけましたが、米国の法定債務上限法案の可決を持っていったんは急激なドル売りは一服した感じもあります。

アンケート結果とは関係ないですが、臨時レポートにも記した通り、日本の状況は決してユーロやドルを責められるほど良好な状況ではなく、むしろ真実を知った時の市場の反応の方が空恐ろしくも感じています。本当に消去法的に考えたら日本円は"買える通貨"なのでしょうか?

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 26.07% 23.83% 2.23%
EU諸国 8.76% 9.85% △ 1.09%
ブラジル 40.53% 43.41% △ 2.88%
ロシア 9.64% 10.39% △ 0.75%
インド 43.59% 45.41% △ 1.81%
中国 20.04% 22.50% △ 2.46%
中東・北アフリカ 8.11% 8.26% △ 0.15%
東南アジア 35.27% 35.69% △ 0.42%
中南米 12.05% 12.78% △ 0.73%
東欧 5.70% 5.19% 0.50%

個人投資家の視点は“鋭い”と感じたのがこのアンケート結果です。まさに法定債務問題の話題の渦中にあるアメリカが注目度を上げています。ドルが売られている、あるいは米国株が下落してきた、という点が注目点になったのだと思いますが、この辺は私の市場見通しとも一致するのでとても納得感があり、また個人投資家の皆さんの視点は鋭いなと感じたところです。一方、中国がポイントを下げています。やはり欧州景気が信用問題も手伝ってスローダウンするようだと、中国は欧州向けの輸出を増やしていることもあり、景気がブレーキを踏みかねないという見立てだろうと思います。もしくは鉄道事故の影響などもあったのかも知れません。ただブラジルやインドも下げていますので、全体にリスク許容度が低下しているという言い方になるのかも知れません。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 64.29% 64.58% △ 0.29%
外国株式 24.32% 22.64% 1.68%
投資信託 38.01% 37.82% 0.19%
ETF 18.07% 18.11% △ 0.04%
FX(外国為替証拠金取引) 21.91% 19.17% 2.73%
国内債券 7.67% 7.46% 0.21%
海外債券 14.57% 15.18% △ 0.61%
18.51% 15.58% 2.93%
原油 5.15% 7.19% △ 2.04%
商品 5.04% 4.26% 0.78%
REIT 13.25% 14.51% △ 1.26%
CFD 4.49% 2.93% 1.56%

やはりこうした局面で注目を集めるのは金ということでしょうか。ただドル建ての金の取引価格は上昇していますが、それを打ち消す円高があるので、円ベースでの投資家にはあまりメリットある投資対象には成り難いかも知れません。ただ、今回ポイントを上げたFXを上手く使って為替ヘッジをする…これは機関投資家の発想かも知れません。外国株の注目度が上がっているのは、目先は円高に振れるかも知れないけれども、この辺で外国株を買っておけば、株価のキャピタルゲインと、為替のキャピタルゲインと両方を狙えるということを意味しているのかも知れません。いずれにしても、かなり戦略的な投資方針が見えてきます。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。