TKO木本氏の投資トラブルはなぜ起きた?

 先月、芸能界で大きな話題となったのが、お笑い芸人TKOの木本武宏氏による投資トラブルです。本人のインタビューなどをベースにまとめると、

  • 仮想通貨取引などに手を出すも失敗する
  • FXの達人らしいA氏に知り合いお金を渡す
  • さらに友人にもお金を渡すようすすめる
  • A氏はどうやら投資の実態がなくお金を回収できなくなる
  • 不動産取引の玄人を称するB氏と出会い、またお金を渡す
  • こちらも投資の実態がなかったようでお金を回収できなくなる

 という話のようです。

「友人に安易にお金を預けて投資を任せる」ことがよろしくないのはもちろん、「自分の友人を紹介して、投資を任せるようすすめる」こともよくないことでした。

 別のところでは投資知識の普及・啓発の取り組みをしたいというようなことも述べていますが、本人の見識はあまりにも浅かったと言わざるを得ません。

友人に投資を任せてはいけない五つの理由

 さて、友人に投資を任せることが「その友人の法律違反(金融商品取引法)」という問題をひとまず置いて、任せた当人にとってよくないことを整理してみましょう。

  1. 入出金の管理がグダグダになる
  2. 運用成績の報告は曖昧になる
  3. お金の所在を確認することができない
  4. 報酬の定義、税負担はいい加減になる
  5. かくして人間関係はこじれる

 と、あらゆる面でろくなことがありません。全部、友人だからと緩い気持ちでお金を預けたが故に起きる現象で、投資においてはまったくいいことがありません。

 見方を変えれば、この五つの問題点を解消するのがきちんと証券口座を開設することだというわけです。入出金管理を厳格に行い、運用成績がしっかり開示され、資産は信託銀行などを介して分別管理される。もちろん売買手数料や運用にかかる手数料は明確です。

 本コラムの読者は、知人に運用を任せるタイプの人は少ないと思いますが、絶対に任せてはいけません。

投資に慣れてきたあなたも、人のお金は預かって投資しないこと!

 ところで、こうしたコラムを書くとき、基本的には「他人に預けないこと!」で終わりなのですが、本サイトの読者にはもう一つ注意したいことがあります。

 逆の立場、つまり「あなたが友人のお金を預かって投資をする」ということを戒めることです。

 投資経験を少しずつ重ねていくうちに、自分の投資スタイルに少しずつ自信が持てるようになる人がいます。そうすると「もうちょっと資金が多ければ、収益額を増やすことができるのに」という誘惑にさらされます。

 最初は友人のお金を丸取りするような詐欺を働こうとするわけではなかったとしても、友人にお金を出してもらって、大きなスケールで投資をしてみたくなるわけです。

 そこでついつい「投資に興味がある?なんなら自分に少しお金貸してみない?」のようなことを友人との雑談で話題としてしまったりします。

 繰り返しますが、人のお金を預かって運用を行い、そこから報酬を得ればこれは法律違反になります。さらに、その収益に対する課税関係を整理することは困難です。

 1年後の所得に反映させるときは自分のものとして申告するしかありませんが、所得税や住民税にも反映されたとき、それを友人と分担することはまず不可能でしょう。このあたりも、人のお金を預かり代わって運用をするデメリットです。

 先ほどの五つの問題点のうち1~4を明確にしつつ、5の人間関係をこじれさせないようにするのはなかなか大変です。

 友人からの入出金を銀行振込経由で履歴を残し、運用状況は定期的にレポートを作って報告、もちろん自己資金と友人の資金は別口座として運用、収益の分け前もきちんと計算し1円単位で行う……なんてことをするのはまず不可能でしょう。

 まじめに考えるほど、友人のお金で投資をするというのは大変です。そしてその手間に見合うものではありません。

運用がうまくいかないときほど、人のお金を預かった投資は大変なことになる

 さらに、いいことがないのは「運用がうまくいかなかった場合」です。

 預ける人は当然、あなたにプラスリターンを期待してお金を預けます。運用方針や投資対象についてはとやかくいいません。そもそも細かいところには理解も興味もないので、「増やせるか、増やせないか」だけしか見ていません。

 運用のリスクを実際に取ったことがある人なら分かりますが、投資の失敗(含み損が生じることも含めて)は避けられないことです。リスクテイクをした上で、お金を増やせるか増やせないかの挑戦に挑んでいるわけです。

 しかし、預けた人はそんなことは知らず「投資が上手なのだから増やしてくれる」「稼ぎの半分くらい払うんだからちゃんと増やしてもらわないと困る」とくらいにしか思っていません。

 こういう環境で投資をすると、短期的にでも損失を出せないので従来の投資能力を発揮することはできなくなります。また、損失が膨らむとそれを隠したくなってきます。自分は投資巧者だと鼻を高くした以上、損失を話せなくなるのです。

 資産管理が不透明なことも、損失隠しを助長してしまいます。そしてさらに、「損をした分を取り戻すためのトレード」のような投資スタイルに移行してしまいます。リスクを極度に高めたりレバレッジをかけるわけです。

 かつてAIJ投資顧問が企業年金運用の資金を数千億なくしてしまう事件がありましたが、途中からは「ただ純粋にトレードで負け続ける」という状態にあったとみられています。リーマンショックも売り抜けてプラスを確保したなどと虚偽の報告をした以降、実際の損失を取り戻すべく無理な売買を繰り返して、「溶かして」しまったというわけです。

 こんなことを個人がやる必要などありません。

人のお金を預かって運用するのは、友人関係を壊すだけと思っておこう

 ここまでうまくお金を増やすことができた個人投資家であれば、自分の投資能力にそれなりの自信があるかもしれません。しかし、

「運用資金のスケールを多くして売買してみたいから友人からもお金を集めたい」
「友達のお金を増やして喜んでもらいたい」
「友達の資金についてはリターンの半分をもらえればかなりおいしい条件だ」

 のようなことは絶対に考えてはいけません。

 友人のお金を預かるくらいなら、自分でクレジットカードや消費者金融でお金をかき集めるほうがまだマシです。高い金利のつくお金でトレードをするほど愚かなことはありませんが、友人のお金に手を出すよりはいいでしょう。

 預かったお金で投資に失敗したら、待っているのは信頼の喪失と、友情関係の崩壊です。そんなリスクに手を出す必要などないのです。