はじめに

今回のアンケート結果についてコメントを書き下ろしているまさにこの時、国会では内閣不信任案の審議が行われました。震災復興に挙国一致をもって当たらないとならないこの時に「政局騒ぎとは何事だ」という世論があることも充分認識しておりますが、市場を取り巻く期待値は「解散総選挙で2005年を再び」というものであったことも確かです。少なくとも把握している外国人投資家や機関投資家の意識はそうあったと思われます。そんな中で行われた今回のアンケートは、個人投資家の皆様が政治と資本市場の関わり方についてどのような認識であるのかということを確認するいい機会になりました。今回もこのアンケート結果が皆様の日々の投資活動に、少しでもお役に立てればと願っております。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「回復の兆しは見えず、当面は弱気継続」

  • Q1:5月30日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △21.63
    (4月25日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △29.21)
  • Q2:5月30日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +0.29
    (4月25日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △3.25)

今回の基準日となった2011年5月30日の日経平均株価の終値は9,504.97円です。冒頭触れましたが、今回のアンケートは現民主党内閣に対する不信任案が提出されることがほぼ確実になった段階で行われました。つまり政治に何か変化が起こり、長引く震災復興の立ち上がり遅れや原発事故問題の収束に何らかの進展が見られるかも知れないという期待感の中で行われたわけですが、結果だけを数値的にみると前月とほとんど変化ないものとなっています。

じつは前回のアンケートの基準日である4月25日の日経平均株価は9,671.96円です。従って今回との水準差はわずかに50円程度しかありません。ひと月掛けてほぼ同じ水準に留まっている日経平均株価を見ながらこの先を考えるというアンケートになりましたが、じつはこの5月と言う月は3月期決算発表という株式市場にとっては最大のイベントがある時でもあります。すでにこれら上場企業の決算発表内容を受けて、数多の市場関係者から今後の見通しに関するコメントが発表されていますが、それらを踏まえても、市場はほぼ同じ水準に留まって居ました。月初、ゴールデン・ウィークの狭間にあたる5月2日には幻のように10,017.47円と言う高値もありましたが、基本的には5月の動きは9,600円前後を中心とした狭い範囲の動きでボラティリティがなく、何も前向きな兆しが見られない状況に対して何らかの変化を求めて待機していたと言えます。

その結果、アンケートの数値で見る限り、市場参加者の先々の見通しに変化はなく、当面は弱気継続です。政治に今回の内閣不信任案採決と言うことで何か変化があればということを期待しておりましたが、この結果を見る限り、市場参加者の多くの方がそうした変化を端から期待されていなかったということなのかも知れません。ただ市場の流れを良くも悪くも大きく変えることができる3月期決算発表が受けても何にも変化がなかったということは、じつは大きく憂慮すべき事態だと言えます。何がこの市場に変化をもたらすきっかけとなるのか、当面は材料待ち、材料探しの展開が続くと考えざるを得ないのかも知れません。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
5月30日 DI=+11.41 DI=+7.28 DI=+17.80
4月25日 DI=+9.61 DI=+13.23 DI=+28.59

調査時点のドル/円は80.82円、ユーロ/円は115.37円と前回よりもやや円高に動いた状態でのアンケートになっていますが、結果は基本的に円が全通貨に対して安くなるという見通しが支配的な結果のままとなりました。印象としては、ドルに対しては現状よりももう少し円安であり、ユーロは、ほぼほぼ居心地が良い水準に近いながらもやや円安を予想し、豪ドルに対してもまだ引き続き円安を志向するという感じです。

これは前段の株式見通しとも整合性がとれた結果と言えます。すなわち、3月期決算発表が材料にならずに弱気継続と言うことは、市場が悪材料として問題視しているのは国政の問題かと思われます。現時点において内閣不信任案は否決されましたが、当然この結果、2次補正予算の成立、少なくとも予算執行関連法案の参院通過はかなり厳しくなったと思われます。つまり東日本大震災の前から問題視されていた日本の財政問題などに改善は見られないだろうという見通しです。もちろん、ユーロにはギリシャを始めとした南欧問題があり、ドルには米国経済の足元景況感のスローダウンというネガティブ要因がありますが、それでも円が弱くなると市場は考えているようです。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 23.30% 28.71% △ 5.41%
EU諸国 8.75% 8.49% 0.26%
ブラジル 43.66% 40.20% 3.46%
ロシア 9.54% 12.11% △ 2.57%
インド 46.80% 42.07% 4.73%
中国 25.27% 29.46% △ 4.19%
中東・北アフリカ 7.47% 6.62% 0.86%
東南アジア 36.38% 34.33% 2.05%
中南米 9.05% 7.49% 1.56%
東欧 4.42% 2.50% 1.93%

景況感回復に黄信号が灯っているアメリカが前月に続きポイントを失い、またインフレ懸念などにより軟調な展開が続いている中国もポイントを大きく失っています。その一方で大きくポイントを伸ばしたのが、ブラジルやインドなどの新興国で、先進諸国が再び景況感で足踏みをする印象が強まる中、再び成長余力を感じさせる市場に注目が集まっているという印象を受けます。また面白いと思われるのは、最近の傾向として中国が新興国という範疇で捉えられているよりも、先進国とまでは言わずとも、少なくともBRICsなどという一括りにできない感じになってきたということです。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 63.62% 65.17% △ 1.55%
外国株式 25.57% 25.84% △ 0.28%
投資信託 36.97% 37.33% △ 0.36%
ETF 19.86% 20.22% △ 0.36%
FX(外国為替証拠金取引) 21.83% 18.98% 2.85%
国内債券 6.29% 7.37% △ 1.07%
海外債券 12.78% 15.61% △ 2.82%
19.47% 16.85% 2.62%
原油 7.28% 9.61% △ 2.34%
商品 5.90% 4.87% 1.03%
REIT 14.45% 13.11% 1.35%
CFD 4.33% 2.87% 1.46%

今回の結果を見る限り、投資家は全般的にリスク回避的になってきたという印象を受けます。ポイントを伸ばしたのはFX(外国為替証拠金取引)と金などの商品です。それ以外のコンベンショナルな金融商品はポイントを失っています。投資家は、不透明感の強い市場に関わるリスクをあまり取らない方向に志向が向いているようです。

一方でFXがポイントを高めているのは、数値上はそんなに大きな円安方向を見ていない為替の流れでも、方向感だけは解りやすいという判断が利いているのかも知れません。金と同程度のポイント推移となっているあたりに、そうした投資家のセンチメントを感じざるを得ません。多くの市場で不透明感の払しょくが早く進むことを期待して止みません。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。

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