<マザーズ指数(左軸)とマザーズ売買代金(右軸)>

8月のハイライト

利上げ警戒に気が緩んだ株式市場、喝を入れたパウエル議長

 6月中旬から続いたグロース株のリバウンド基調は、「そろそろ終わるだろう」という一部投資家のドロップアウト(利益確定売り)を吸収しながら、気付けば8月中旬まで丸2カ月継続しました。

 インフレのピークアウトを示す経済指標に対し、米市場で広がった金融引き締め懸念の後退。「年内で利上げは停止」「来年は利下げ開始」など楽観ムードの広がりに、日米企業の決算発表シーズンが重なったことも株高を助長させました。

 決算リアクションも過去とは比較にならないほど良好で、その多くが「思ったほど悪くない」でした(この解釈、受け止めようによれば「良くもない」なのですが…)。

 日本の中小型グロース市場も月前半は堅調。とりわけ、お盆休みシーズンには旧マザーズ主力株や、直近IPO(新規公開株)が売買を膨らませて盛り上がる場面も。

 ただし、それも夏休みシーズンが明けた月後半にトーンダウン。FRB(米連邦準備制度理事会)高官によるタカ派発言が増え始め、26日のジャクソンホール会議におけるジェローム・パウエルFRB議長講演が警戒イベントに一変。事前に米長期金利が再び上昇し、米グロース株が再び調整しました。

 講演の場では「やり遂げるまで続けなければならない」と、インフレ退治の姿勢を強調。利上げ警戒に緩み切っていた株式市場に冷や水を浴びせたことで、イベント通過後も想定以上に米株はネガティブ反応を示しました。

 この下落に巻き込まれ、日本株も後半失速。それでも月間騰落率は日経平均株価が+1.0%、東証マザーズ指数は+3.3%と月間プラスは2カ月連続となりました。

マザーズ指数が安定化?ボラティリティはナスダック並みに!

 2カ月連続で月間プラスになったわけですが、この2カ月の「異変」は東証マザーズ指数の大幅変動が生じなかったこと。前日比で「3%高/3%安」が2カ月間1度も発生しておらず、これは今年に入って7月と8月だけ。

 とくに、8月はハイボラ化しやすい決算発表集中月です。ここでも値動きがマイルド化していたのは、暴れん坊イメージのあったマザーズ指数の評価を変えるべき現象だったように思われます。

 過去20日の変動率で計算したヒストリカル・ボラティリティ(以下HV)を見ると、その変貌ぶりがよく分かります。

 今年3月ごろのマザーズ指数はHV50%台で、日経平均の20%台や同じグロース指数の米ナスダック総合指数の30%台よりはるかにハイボラ指数でした。それが、8月に入ってマザーズ指数のHVが一時20%を下回るなど明らかに「大人しい指数」に変化しています。

 この理由で考えられるのは、マザーズ指数という指数の構造変化です。

 7月末で長く指数ウエートトップだったメルカリが指数から除外されました。結果、8月末時点の指数ウエートトップはそーせいの4.0%と、突出して指数影響の大きい銘柄が無くなりました。

 加えて、昨今のIPO増加で、東証マザーズ指数構成銘柄は470を超える過去最多に。S&P500種指数並みの構成銘柄数となり、指数の内部で気づけば分散効果が働くようになっています。よほどのショック安でも発生しない限り、急落で7%安!なんて現象は起きないのかもしれません。

ジャクソンホール前に広がった嵐の前の静けさ、その裏で…

 ジャクソンホール会議のパウエルFRB議長講演に向け、市場で広がったのが「ジャクソンホール待ち」ムードでした。米株市場でも総売買高が今年最低水準に落ち込み、東証プライム市場の売買代金も直前25日の2.02兆円は今年2番目の低水準に。東証グロース市場の売買代金も25日は1,000億円を割り込みました。

 この辺りから、一部の個人投資家の間で盛り上がっていたのが超小型株物色。時価総額で20億円前後、普段は見向きもされないようなマイナー銘柄ばかりが値上がり率ランキング上位に並び始めます。

 ジャクソンホール通過後には米株が急落し、日本株も全面安に。ここでも、物色難と相まってか、超小型の低知名度、低流動性銘柄祭りがさらにヒートアップ。8月の月間上昇率上位10のうち、スタンダード市場から8銘柄がランクインしています。光陽社、フジックスなど特段の材料も無く急騰する銘柄を多く輩出しました。

8月の月間騰落率上位10(※スタンダード、グロース銘柄対象)

市場 コード 銘柄名 8月月間
騰落率
月末時価総額
(億円)
スタンダード 5380 新 東 121% 20
スタンダード 7878 光・彩 118% 36
スタンダード 9867 ソレキア 117% 84
グロース 9552 M&A総合 117% 985
スタンダード 7946 光陽社 114% 41
スタンダード 3600 フジックス 95% 42
スタンダード 7849 スターツ出版 85% 113
スタンダード 7859 アルメディオ 81% 55
スタンダード 1382 ホーブ 76% 25
グロース 2195 アミタHD 72% 187

9月の中小型!今月のキーワードは…「ミニマム級」の秋

「来年は利下げ」なる勝手な期待で先走り過ぎていた株式市場。その楽観ムードを玉砕したのが、パウエルFRB議長であり、ニューヨーク連邦準備銀行ジョン・ウイリアムズ総裁やミネアポリス連銀ニール・カシュカリ総裁などFRB高官でした。

 相次いだタカ派発言からは、インフレ退治が優先で、「株式市場の犠牲(下落)は仕方ない」といった考えまでにじんでいたほどです。「金利を上げることは正義」、そんな空気も広がってきているように感じます。

 冷や水を浴びせられた株の参加者は、慌てて「株のウエート落とさないと!」にかじを切っている印象があります。景気悪化でいえば、米国以上に欧州への警戒が高まっています。

 欧州へのガス供給懸念が強まっている上、足元のハイパーインフレを抑制すべくECB (欧州中央銀行)の大幅利上げ観測も高まっています。そこに中国で再びコロナ感染が懸念され、一部都市でのロックダウンも始まりました。

 景気悪化に備えた「株のウエート落とさないと!」な動き。そして再び気をもみ始めたのがFRBの利上げ加速への警戒。

 市場が最も注目するインフレ指標の米CPI(消費者物価指数)は13日発表が予定されています。これを通過すると、今度は21日のFOMC(米連邦公開市場委員会)、そしてこの場でのパウエル議長発言を見極めたい、となります。

 一連の重要イベントをこなした先の米長期金利はどうなっているのか? 現時点では「分からない」に溢れているため、積極的に株を買おうなんて雰囲気は無くなっています。

 この雰囲気は、9月の中小型グロース株にとって今のところは逆風としか言えません。7月以降は「米金利はピークアウト」を合言葉に買い直された経緯があり、米金利の上昇懸念が再び強まっていること自体が逆風だからです。

 バリュエーション調整の動きに巻き込まれやすいグロース株。日本国内では7日から訪日外国人の入国者数の上限引き上げなど水際対策緩和がポジティブ材料ですが、恩恵に期待されるリオープン銘柄が少ないのもグロース株。9月末は中間期末のため高配当利回りなどに関心も向かいそうですが、高配当利回り銘柄が少ないのもグロース株。

 6月中旬まで、主力級のグロース株が強烈に調整しました。その逆流で7、8月に主力級のグロース株が強くリバウンド。そして9月、再び6月中旬まで続いたグロース株のバリュエーション調整が警戒されています。逆流の逆流で、ヘッジファンドが空売りしそうな主力級のグロース株(JTOWER、フリー、メドレー、弁護士ドットコムなど)は下値不安が高まりそうです。

 また、9月後半から1カ月半ぶりにIPOが再開(全9銘柄、東証グロース市場には8銘柄上場)します。直近IPO株として人気化したM&A総合研究所、サンウェルズ、イーディーピーなどから新しい銘柄へ短期資金が流れる影響も気になります。中途半端な値頃感での押し目買いは控えよう…そうしたムードが広がる中、何が物色されるでしょうか?

 そのヒントは、8月の謎の超小型株祭りにあるかもしれません。ジャクソンホール待ちで東証全体の売買が減ったタイミングから始まり、ジャクソンホール通過で日本株も大幅安のタイミングで一層盛り上がった。ということは、CPIやFOMC待ちで様子見ムードになりがちな9月相場でも、味をしめた投資家がこの手の小型株に触手を伸ばす可能性はありそうです。

 そもそも、急騰した超小型株の共通点(株価材料が明確に存在したものは除く)は、(1)時価総額が極めて小さい(少額の資金でも初動では急騰できる)、(2)知名度が極めて低い(何をやっている会社か分からない投資家が多数と思われる)、(3)流動性が極めて低い(板がスカスカで値が飛びやすい)、(4)信用買い残が極めて少ない(従来は人気が無かったため信用買い残が少なく、短期的な戻り売り圧力が小さい)、(5)業績が良いわけではない(業績が良ければ、(1)~(4)の状況に陥っていない)辺りです。

 欧米の金融政策がどうなろうが、それで為替がどうなろうが、景気悪化がテーマになろうが、それで外国人投資家の日本株売りが加速しようが、関係無くない?と言えるのが(1)~(5)の条件に当てはまるような超小型株といえます。

 長期保有を考えてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で買うにはナシだけど、短期で割り切るならアリ…年々大きくなるそんな個人短期マネーの物色意欲はあなどれません。

 何が急に盛り上がりはじめ、日本版ミーム株(はやり株)になるかは分かりませんが、(1)~(5)に当てはまる銘柄、どんなのがあるか?のヒントとしてスタンダード市場、グロース市場から「ミニマム級」銘柄をピックアップしてみました!

超小型&マイナーな「ミニマム級」20銘柄
スクリーニング条件(1)時価総額が20億円未満、(2)売買代金25日MA1,000万円未満
(3)信用買い残1億円未満 ※売買代金25日MA上位順に列挙

市場 コード 銘柄名 時価総額
(億円)
売買代金
25日MA
(百万円)
信用買い残
(百万円)
スタンダード 2666 オートウェーブ 16.0 9.9 96.1
グロース 9271 和 心 11.1 9.4 3.8
スタンダード 2901 石垣食 19.7 9.0 28.9
スタンダード 7578 ニチリョク 17.3 8.7 34.4
スタンダード 1439 安江工務 12.6 7.1 59.8
スタンダード 7273 イクヨ 17.3 6.2 30.3
スタンダード 7131 のむら産 14.5 6.2 85.9
スタンダード 2926 篠崎屋 13.7 5.8 91.3
スタンダード 2673 夢 隊 12.3 5.5 73.0
スタンダード 7422 東邦レマック 14.1 5.5 15.1
スタンダード 1788 三東工業 18.3 5.4 15.4
スタンダード 3490 アズ企画 12.0 5.2 27.8
スタンダード 2687 シーヴイエス 19.8 5.2 18.5
スタンダード 3779 J・エスコムHD 10.8 5.1 60.8
スタンダード 3787 テクノマセマティ 17.8 4.7 44.6
スタンダード 7719 東京衡機 17.6 4.7 84.0
グロース 1400 ルーデン 16.8 4.5 28.2
スタンダード 3945 スパバッグ 14.4 4.5 12.3
スタンダード 8166 タカキュー 18.6 4.4 15.1
グロース 7062 フレアス 18.1 4.2 28.3